象舎の前の坂道で
 

象舎の前の坂道を

登り切って振り向くと

象より優しい目をした父と母が

手を振りながら登ってくる

春の動物園は

桜色の道に風
 

象舎の前の坂道で

少し遅れる君の目を見ずに手を出す

黙ってそれに応える君も

おそらく恥ずかしげに、僕を見ていない

夏の動物園は

坂道に灼きつける

歩き始めた二人の影
 

象舎の前の坂道の

少し先で娘がころぶ

かけ出そうとする君の腕をつかんで止めた

立ち上がりにっこり笑った娘に

胸をなでおろした僕は

見た目ほど冷静ではない

秋の動物園は

娘も僕も救う

落ち葉のじゅうたん
 

動物園に行ったのに

人ばかりを見ていた
 

象舎の前の坂道に

孫が生まれてせがまれるまで

行く理由は見つからない

冬の動物園は

陽だまりを少し まわり道
 

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