彼は最期に何と言ったのだろう?
“許してください”・・・そう聞こえはしなかっただろうか。
・・・何に対して謝るというのだろう。彼が謝る必要など全くないはずなのに。許されざるべきは、むしろ、この自分。彼をこの輪廻の地獄に引きずり込んだ。それでも彼は、男を責めはしないのか。
もうずっと昔に、そんなことは分かっていた。彼が、誰も恨みはしないことを。たとえ、自らを悪魔に差し出すことになろうとも。



3〜輪廻(アクセル)



瞬間、目の前に紅い花びらが散ったように見えた。
まるでスローモーションのように、ゆっくりと、紅い血が中を舞っていた。
寒風に舞い踊る、風花を見ているようだ。そんなことを考えながら、彼は全身から力が抜けてゆくのを感じていた。
揺れる世界の中で瞳を瞬かせたその刹那、視界に急激に床が迫ってきて・・・もう、何も見えなくなった。男が、どんな表情で自分を見ているのかも。
ただ・・・あたり一面、真紅に染まっていて。とてもキレイだと思った。大嫌いだった、だけど忘れることなど出来ない紅い色。


自分は死ぬのだな。
そう、漠然と考える。頬を濡らすものが、血だけではなく・・・涙であることにも、彼は気がついていた。
死ぬことが恐ろしいわけでも、哀しいわけでもない。
・・・いや、それは正しくはない。実際には哀しいのだ。その理由が、自らが迎えようとしている“死”によるものではなく・・・それによってひとりの男と、目の前にいる、彼に“死”を与える張本人の男、このふたりの人間を苦しめ、追いつめてしまうことになるのを知っているから。
「・・・・・・ル・・・、許して」
やっとの思いで口にした言葉は、赦しを乞うものであった。
「許して、下さい・・・。そして、ごめんなさい」
誰も救えなかった。
それは平和に暮らしてゆくべき人々であり、自分自身でもあった。
目の前にいる“あの男”。この者こそを、自分が救わなければならなかったのに。
結局、自分は彼のことを何も理解してはいなかったのだ。・・・側にいただけで、すべてを分かったつもりでいただけで。
再会するたび、自分が歩んだ年月よりずっと永いときを刻んでやってくるアクセル。
辛くないはずはなかっただろう。・・・いつも明るく笑っていて、そんな彼を見ていて・・・そんな当り前のことにすら気がつけなかったなんて。
自分は非力で、愚かだ。
自分がもっとしっかりしていて、彼の孤独を癒してやることが出来たなら・・・“あの男”も存在しなかったかも知れないのだ。
きっとこれは、自分に与えられた“罰”。
自分が成すべき事を、何も出来なかった自分を戒めるための。
・・・きっと自分は、二度とこの足で大地を踏むことはない。
次に大地に降り立つときには、“私”は“私”でなくなっているだろうから。
悟ったのだ。自分がかつて倒そうとしていた人類の脅威が、自分自身であったことを。
そして過去の自分が、すべてをひとりで背負い込もうとするあの不器用な男とともに自らを裁くのだ。
・・・ああ、そうだったのだな。
ギアが人々を苦しめるから自分は戦っていたんじゃない。
人々を苦しめているのが自分自身だったから、だから、許せなかったんだ。ギアという怪物が。
自分に出来ることは、もう何もない。
だけど、必ず救ってみせるから。
「・・・アクセル。ソルに会ったら、どうか伝えてください。済まなかった・・・と。そして、私は“ここ”にいるのだと」
金の髪を、その色が分からないほどに赤く染める血が、どんどん流れ出て、自分の体温を奪ってゆく。
冷たかったはずの大理石の床が、やけに暖かい。自分の流す血も、冷えた身体をほんの少しだけど、暖めてくれるようで。
彼は、少しだけ微笑んだ。
寒さで唇が震え、笑ったようには見えなかったかもしれないが。
「・・・そんなに哀しい顔をしないで下さい」
もはや、何も見えないはずの彼の瞳に、はっきりと男の姿が映る。
彼のその碧い瞳に、世界が映し出されたのは、これが最後だった。



「カイちゃんは・・・優しすぎるね」
男もまた、泣いていた。
自らが手を下した青年が、自分を恨むどころか、その未来を案じて逝ったのだ。そして、このあと魂の抜けた骸がどうなるのかも知りながら。なぜ、そこまで優しくなれるのか。
彼なら、きっとやってくれるだろう。
あらためて、確信を持つ。
もうすぐ終わる。
・・・自分にとっては、決して短い時間ではないだろう。
それでも、きっともうじき終焉は訪れる。
それまで、更なる罪を重ねてゆくだろう。自分を追う者たちの心の重みに比例する痛みを引きずりながら。
「・・・はやく、追ってこい」
男の顔に、不敵な笑みが戻る。
この輪廻の鎖を、断ち切るために。




*   *   *




ようやく終わりました〜、永かった・・・(どこが・笑)。
この話は、Xの設定でアクセルが「20世紀に戻るため、自分と同じ体質の「あの男」を追う」というのを見て、なんとなく、その「あの男」が実は自分(アクセル)だった・・・とかだったら面白いかも!?なんて思って考えたんですけど・・・。
・・・ごめんなさい!夢見過ぎです!!!(爆)
それよりむしろ、カイちゃん殺しちゃったことの方が・・・あうぅ(滝汗)。
にしても、1日1作ってカンジで3日で完結させるあたり、なんつーか、その・・・。早スギというか、もっと内容練れ、というか・・・。
ともかく、おかしなところも多々あるとは思いますが(パラドックス起こらないの?とか・・・)、長い目で見てくださると嬉しいなぁ(無理?)。




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