「や。久しぶりだねぇ〜」 そんなのんきな、気の抜けるような声を背に受けて、青年はゆっくりと振り返った。 再びこの男とあい見えることは知っていた。約束をかわしていたわけではない、だが、その魂が再会を確信していた、と言い切ってしまってもいい。 「そろそろ来る頃ではないかと・・・思ってました」 静かに。 青年は目の前の男を見つめていた。 あれから何年経ったか? 青年にとっては、決して短いとは言えない時間。 ・・・6年だ。 青年にとって、色々なことを考えることができる、充分な時間。全てを赦し、受け入れることは出来ているつもりだ。それは少年が青年へと変わる過程でもあった。 けれど、青年自身にとってはその期間はあっというまで・・・永い、という実感はあまりなかった。 それでも、その男が自分の許を訪れるであろう、という覚悟ができるほど、今の自分は余裕を持つことができるようになった。 「お久しぶりです・・・アクセルさん」 彼が姿を消して、どのくらいの時が流れただろうか。 焼け付くような暑さを感じながら、青年はゆっくりと砂漠を歩く。 照りつける太陽と、琥珀色の砂だけが、青年の視界に映っていた。 つい先ほどまで、青年の他にもう一人、砂漠を歩く者がいた。しかし、ふと気が付くと、その者はいつのまにか姿を消していた。 ・・・ああ、行ってしまったのか。 青年はそう思っただけだった。 別にその男がどうなろうと知ったことではない、という意味ではない。 その男は時間を旅する宿命を背負わされていた。そばにいても気が付けばまたどこかへ行ってしまう。そうして、再び会うときは、ずいぶん印象が変わって自分の前に姿を現す。 そのたびに、青年は不安をかきたてられる。 けれども男は、その身を纏う雰囲気こそ変わっていても、昔と変わらぬ笑顔で自分を出迎えてくれる。 それだけが救いであり、また、支えでもあった。 『あなたは・・・私がこの先どうなるか、知っていますか?』 いつだったか・・・またいつものように自分の許をふらりと訪れた男にそう聞いてみたことがある。 結果は自分でももう分かっていた。 現在・過去・未来を自分の意志と関係なく彷徨うこの男なら、きっとこの先のことを知っているかもしれない・・・そう思ったのだ。 案の定複雑そうな顔をした男に、冗談です、と笑ってその背を押したのは、そんなに前のことではなかったはずだ。 らしくない、と思う。 彼が姿をくらまして気がふれかけていたのかも知れない。 彼の生死など確認するまでもないはずなのに。 けれどもこうして警察機構の長期休暇が取れるたびに、彼の影を追って走るのは、何故だろう。 『ダンナはね、大丈夫だよ。あのヒトがそう簡単にくたばるワケないじゃん。それはカイちゃんが一番良く知ってるハズでしょ?』 分かってる。 分かっているつもりだ。 ・・・分かっているはずなのに。 『それでも・・・自分の目で確かめたいのです』 我ながら、強情だと思う。 ただ、急がなければならないと・・・根拠のない焦りが青年を駆り立てていた。 「・・・・・・」 視界を、何かがよぎったような気がしたのは、そのときだった。 顔を上げると、砂塵が巻き上げられてあたりを舞っていた。たまらず目を覆う。耳元でごうごうと騒ぎ立てる風がおさまるのを待ってから再び空を見上げると、何かが飛び去ったあとのようだった。 それが何であるのか、青年はうすうす感じ取っていたが、それでもやはり、自分の目で確かめたかった。 自分がどちらからきたのか・・・分からなくなっていたけれども。 青年は、砂漠を一歩、踏み出した。 「・・・ソル・・・・・・」 かみ締めるように、ゆっくりと。 青年は顔を上げた。 あのとき見たものが、幻でないのなら。 きっと自分は歩いて行けるだろうと思った。 「・・・どうだい、気は変わったかな?」 男の問いかけに対し、彼は静かに目を伏せ、首を振る。 「いいえ」 穏やかな声音、だけど、はっきりと否定した。 「いいえ、出来ません。もう・・・私にとって彼はかけがえのない存在なのです。たとえ、あなたからこのことを聞いていなかったとしても」 顔を上げた彼の瞳には、6年前に出会ったときと変わらぬ男がいた。 思った通りだ。彼が全てを終わらせてくれる。 ・・・これは、ひとつの結末にすぎないけれど、きっとそれでも、自分はほんの少しだけ救われたのだ。 ―――――彼こそが、自分にとっての救世主なのだと。 |
・・・END・・・
あとがきついに・・・! やっと、完結です!あああ・・・ながかった・・・というか、半年以上ほったらかしになってたような気がしないでもないですが(滝汗)。 本当にこれでよかったのかなぁ?と未だに疑問が残ります・・・(おい)。 結局彼らは救われたの?とか色々・・・。 もっともラストに書いたように、この話は最初の3部作の結末のひとつであって、ハッピーエンドもあれば、3部作よりも更に悲惨な結末も存在すると思ってます。 やろうと思えばいくらでも続きは出てくるのでしょうが、これ以上やるとキリがないので、この話は本当にこれで最後です。 読んでくださったみなさん、本当にありがとうございました。 次にSS書くときは、みんなが幸せでいられるような話が書きたいですね。 (・・・とか言いつつ同人誌でもひどい話書いてるあたりイマイチ信憑性ないですな・汗) |