音響、それは響く沼。減速してシフトするも、ヘアピン・カーブで聞こえるのは悲鳴か。
デジタル・オーディオとのつきあいは、CD プレーヤの改造から始まりました。外付けの D/A コンバータを製作するきっかけになったのが、「ラジオ技術」誌 1989 年 2 月号から掲載された「アナログ派がこだわる デジタル・プロセッサの製作」です。それ以来、さまざまなディバイスを購入しては試聴をくり返し、「自分好みの音はコレだ!」と結論付けたのが 2003 年のこと。図らずも、「アナログ派がこだわる デジタル・プロセッサの製作」に使われたディバイスが含まれていました。それが、デジタル・フィルタのヤマハ YM34xx シリーズです。
ヤマハの IC はアマチュアには入手が難しかったので、秋葉原の「秋月電子通商」に YM3434 が流れたときには歓喜したものです。もう 15 年以上も前のことですが、本機にはその当時に購入した YM3434 を使用します。とはいえ、現在では入手できないディバイスを使うのは「絵に描いたモチ」になってしまうため、現行品のデジタル・フィルタ内蔵 DAC バー・ブラウン(テキサス・インスツルメンツ)PCM1794A を使った応用例にも言及します。
<第 1 図> DIR9001 の接続 [クリックで拡大]
本機はデジタル・フィルタの制約により、サンプリング周波数 48kHz までの対応となります。CD プレーヤなどの同軸デジタル出力を RS422 レシーバの AM26LV32 で受信し、テキサス・インスツルメンツの DAI レシーバ DIR9001 で復調します。DIR9001 は内蔵 VCO のジッターが非常に少ない特長をもち、ヒアリングでも好印象でした。DIR9001 自体はサンプリング周波数 96kHz の DVD Audio にも対応しているので、PCM1794A と組み合わせれば再生できるようになります。
データシートはテキサス・インスツルメンツのウェブサイトから入手できます。復調したオーディオ・データの出力フォーマットは、YM3434 では「Right Justified(MSB First, 16-bit)」つまり「右詰め(MSB ファースト,16 ビット)」を選択します。25 番 FMT0 と 26 番 FMT1 ともに L としますが、このピンはプルダウンされているので無接続でもかまいません。
一般的なデジタル・フィルタでは、DIR9001 の内蔵 VCO で生成されたクロックをシステム・クロックとして使用します。その周波数を設定するのが 13 番 PSCK0 と 14 番 PSCK1 です。PCM1794A への応用も考えて 256fs に設定してありますが、YM3434 は非同期のクロックで動作するのでこのクロックは使用しません。設定ピンはプルダウンされているので無接続でもかまわず、そのときの周波数は 128fs になります。
パッケージは AM26LV32 が 16 ピン SOIC(SOP)で、DIR9001 が 28 ピン SSOP です。ダイセン電子工業の変換基板 D016 と D028 を使うと、ピンの左右幅は 15.24mm と 17.78 mm になります。
| 番号 | 記号 | I/O | 説 明 |
|---|---|---|---|
| 1 | SHL | O | ST=H のとき L/Rch のデグリッチャ信号出力 |
| 2 | XO | O | XI - XO で水晶発振可能 |
| 3 | XI | I | 外部クロックのときの入力 |
| 4 | VDD2 | - | 発振回路用電源(+5V) |
| 5 | BCI | I | ビット・クロック入力 |
| 6 | SDSY | I | L/R クロック入力 |
| 7 | SDI | I | シリアル・オーディオ・データ入力 |
| 8 | VDD1 | - | 電源(+5V) |
| 9 | DLO | O | Lch のオーディオ・データ出力 |
| 10 | DRO | O | Rch のオーディオ・データ出力 |
| 11 | WCO | O | ワード・クロック出力 |
| 12 | BCO | O | ビット・クロック出力 |
| 13 | VSS | - | GND |
| 14 | ST | I | L: 左右交互, H: 左右同時出力 |
| 15 | 16/18 | I | L: 16 ビット, H: 18 ビット出力 |
| 16 | SHR | O | ST=H のときは未使用 |
<第 2 図> YM3434 の接続 [クリックで拡大]
<第 3 図> 部品配置図 [クリックで拡大]
<第 4 図> 部品配置図 [クリックで拡大]
DAC にはアナログ・デバイセズの AD1860N を、片チャンネルあたり 8 個パラレルにして使います。4 個ずつ積み上げて、左右合計 4 つのブロックに分けています。YM3434 の出力信号のうちデータ出力は 8 個のピンに、ビット・クロック出力は 16 個のピンに接続されますが、負荷として重過ぎるため 4 個ずつになるようバッファで小分けします。前述したようにワード・クロックは 74HC107 で 2 分周し、Q と Q のそれぞれに 1 ブロック(4 個)を接続します。
AD1860N は PCM56P とピン・コンパチブルな電流出力型の 18 ビット DAC で、パラレルにするときには出力端子を単純に結線します。1 個あたりの出力電流は ±1mA ですから、8 パラなら ±8mA になります。アナログ・デバイセズのウェブサイトにはデータシートがないので、端子説明などは PCM56 のデータシートを参照してください。AD1860N のほうが消費電流が少なく、±5V のとき +5V 側が 10.0mA で -5V 側が 12.0mA(いずれも代表値)です。タイミング図は AD1861 のデータシートを参照してください。
<第 5 図> 分流回路
電流出力型の DAC には、出力電流を電圧に変換する I/V 変換アンプが必要です。一般的には反転型オペアンプが使われ、DAC の出力電流が ±1mA のとき帰還抵抗を 3kΩ とするのが標準です。8 パラの ±8mA では 375Ω と計算されますが、オペアンプ IC ではドライブ能力が不足します。IC ならバッファを追加するか、全体をディスクリートで組む必要が生じます。その常識をくつがえしたのが、「ラジオ技術」誌 1993 年 9 月号に掲載された「PCM56P×32 シフト・パラの実験」に記されている「分流回路」です。つまり、「余分な電流は捨ててしまう」という考えかたです。
本機に使う MUSES 02 のドライブ能力はあまり高くないようなので、帰還抵抗は 1kΩ 程度にとどめたいところです。逆算すると、DAC の出力電流を ±3mA に制限すれば標準的な音量になります。これは「DAC 5 個分の電流を捨てて 3 パラ相当にする」ということです。分流回路の抵抗は図のように 3:5 の比率になり、手持ちのつごうから 18Ω と 30Ω を使っています。最初から 3 パラでいいじゃないか、なぜこんな面倒臭いことをするのかというと、「自分好みの音はコレだ!」からです。
帰還抵抗にはコンデンサを並列に接続して 1 次ローパス・フィルタを構成します。1kΩ と 3900pF でカットオフ周波数は約 41kHz になります。
<第 6 図> PCM1794A の部品配置図
次に、DAC の現行品である PCM1794A への応用を考察します。PCM1794A はデジタル・フィルタを内蔵しているので、YM3434 などを追加する必要はありません。DIR9001 のデータ出力フォーマットを I²S に設定すれば直結できます。
PCM1794A はモノラル・モードで動作させることができ、出力端子をパラレルにすると出力電流は 15.6mA(ピーク・トゥ・ピーク)になります。これを 3:5 の比率で分流すると 5.85mApp になり、帰還抵抗 1kΩ で I/V 変換すれば 5.85Vpp になります。5.85Vpp は ÷2√2 で 2.07Vrms になります。この値は PCM1794A のデータシートに載っている第 24 図と同じです。つまり、バランス変換アンプはデータシートのようにゲインを 0.5 で設計すればよいということです。ただし、モノラル・モードのときに得られるはずの S/N 比(理論値)は得られません。
このように、「余分な電流は捨ててしまう」という割り切りによって、アナログ部の設計の自由度が大きく広がります。十分な音質をもつオペアンプ IC が登場したことと合わせれば、D/A コンバータの設計の自由度が大きく広がったともいえます。
本機のように、かつてパラレル DAC ブームが起きたときに衝動買いしたまま死蔵していた DAC を使いたいときには、単品のデジタル・フィルタが必要です。しかし、近年はデジタル・フィルタを内蔵した DAC が主流となり、単品のデジタル・フィルタは生産されなくなりました。電子パーツ通販大手の「Digi-Key」や「チップワンストップ」を検索しても、バー・ブラウンの DF1704/DF1706 がときどき出てくるだけです。「秋月電子通商」にはパイオニアの PD00601 が少量残っているようです(2010-12-04 現在 153 個)。素直な音がするデジタル・フィルタなので、あるうちに買っておいてもよいでしょう。
DF1704/DF1706 を使うときの注意点として、BCKO(出力ビット・クロック)の周波数が挙げられます。システム・クロックが 256fs と 512fs のとき BCKO は 256fs 固定に、384fs と 768fs では 192fs 固定になります。サンプリング周波数が 48kHz のとき 256fs は 12.288MHz ですから、PCM56P などの古い DAC が動作を保証する 10MHz を超えてしまいます。DIR9001 が出力するシステム・クロックを 384fs に設定してください。
データシートの入手元:
DIR9001 - テキサス・インスツルメンツ社の製品情報ページ
http://focus.tij.co.jp/jp/docs/prod/folders/print/dir9001.html
AM26LV32 - テキサス・インスツルメンツ社の製品情報ページ
http://focus.tij.co.jp/jp/docs/prod/folders/print/am26lv32.html
PCM56 - テキサス・インスツルメンツ社の製品情報ページ
http://focus.tij.co.jp/jp/docs/prod/folders/print/pcm56.html
PCM1794A - テキサス・インスツルメンツ社の製品情報ページ
http://focus.tij.co.jp/jp/docs/prod/folders/print/pcm1794a.html
YM3434 - 非正規の英語版
http://www.datasheets.org.uk/YM3434*-datasheet.html
AD1860N - 非正規の英語版
http://www.datasheets.org.uk/AD1860*-datasheet.html
MUSES 02 - 新日本無線株式会社の製品情報ページ
http://semicon.njr.co.jp/jpn/MUSES/MUSES02.html