響の沼

音響、それは響く沼。ハイレゾ音源に対応すべく、沼の中で五里霧中。

レガシー DAC で 96kHz 18-bit ハイレゾ

PC オーディオのいま

 King Crimson が 1969 年にデビューしてから 40 周年になるのを記念して、録音当時のマルチトラック・テープからリミックスし直すプロジェクトが進行しています。このパッケージには通常の CD のほかに、DVD-Audio プレーヤで再生する 96kHz 24-bit 5.1 Surround Sound バージョンなど複数のフォーマットが収録されています。また、George Harrison の "All Things Must Pass" もリリースから 40 周年となり、特設サイトで 96kHz 24-bit Hi-res バージョンがダウンロード販売されています。
 次世代音楽メディアとしてデビューした SACD と DVD-Audio は、SACD が生き残ったかに見えましたが、インターネットのダウンロード販売では DVD-Audio と同じ 96kHz 24-bit リニア PCM のほうが優勢です。そもそも SACD の DSD(Direct Stream Digital)データは、USB 端子から取り出せないなど制約が多すぎます。いずれ CD や DVD などのディスクに音楽を収録した販売形態は先細りになっていき、インターネットからのダウンロード販売が主流になるとすれば、96kHz 24-bit リニア PCM がハイレゾ(High Resolution)音源として定着するのではないかと思われます(短命に終わるかもしれませんが)。

 96kHz 24-bit の音源を格納するメディアとしては DVD-Audio ディスクと、パソコンの HDD やシリコン・メモリなどがあります。これらのメディアから音源を取り出して、外付けの D/A コンバータでアナログに変換するのが今回のミッションです。DVD-Audio ディスクは、対応したプレーヤで再生すればデジタル出力端子からバイフェーズ・マーク変調された S/PDIF(Sony Philips Digital InterFace)形式の信号が出力されます。これを DAI(Digital Audio Interface)レシーバ IC で復調して、音声データや必要なクロックを得ます。
 データの伝送速度は、「サブフレーム(片チャンネルの音声データと制御信号)のビット・レート 32-bit」× 2ch ×「サンプリング周波数」ですから、96kHz では 6.144Mbps になります。それをバイフェーズ・マーク変調すると 2 倍の 12.288Mbps になりますが、ライン・レシーバやトスリンクは NRZ 符号の 10Mbps 以上に対応していれば問題は生じません。

 パソコン内の音源は USB 端子から取り出すのが現在の主流ですが、外付け D/A コンバータの入力端子は S/PDIF 形式が一般的なので USB → S/PDIF アダプタが必要になります。例えば、ラトックシステムRAL-24192UT1 などがジッター対策を施したアダプタとして知られています。USB 1.1 の Full-speed(12Mbps)は 96kHz 24-bit が上限になるため、RAL-24192UT1 では USB 2.0 の Hi-speed(480Mbps)を採用して 192kHz 24-bit に対応しています。
 パソコンから直接 S/PDIF 形式で取り出すには、光または同軸デジタル出力を備えたサウンド・カードを使用します。姉妹ページの[我流 PC オーディオ専用 PC を組む]に、オンキヨーの SE-200PCI を使った例を記してあります。

 

マルチビット DAC へのこだわり

 D/A コンバータの自作歴が 20 年にもなりますと、好きな DAC IC が固定化されてきます。フィリップスの TDA1541A とアナログ・デバイセズの AD1860N が、わたしにとっての双璧です。デジタル・フィルタ IC も重要で、フィリップスの SAA7220P/B がベスト、ヤマハの YM34xx シリーズが次点です。DAI レシーバは、富士通の圧電 VCO(通称「バリメガ・モジュール」)によるジッター対策を施せばどれでも使えますが、バリメガが入手できない現在ではテキサス・インスツルメンツの DIR9001 がベストです。
 サンプリング周波数が 48kHz までの対応でよければ、DIR9001 - SAA7220P/B - TDA1541A(すっぴん美人)あるいは DIR9001 - YM3434 - AD1860N(ナチュラルメーク美人)といった組み合わせが考えられます。しかし、96kHz に対応するにはデジタル・フィルタを交換しなければなりません。音質を大きく左右するパーツなので慎重に選びたいところですが、なんと現行品は皆無で、在庫があったのはテキサス・インスツルメンツの DF1704 と DF1706 だけでした。DF1704 は 96kHz 24-bit まで、DF1706 は 192kHz 24-bit までの対応なので今回の用途にはどちらも使えそうに思えましたが、データシートをよく読むと DF1706 でなければダメなことが分かりました。
 DF1704 は 8 倍オーバーサンプリング固定で、入力のサンプリング周波数が 96kHz のとき出力ビット・クロックは 256fs の 24.576MHz か 192fs の 18.432MHz になります。古典的な DAC が対応できる周波数ではありません。DF1706 には 4 倍オーバーサンプリングを選択できるピンがあり、かつシステム・クロックを 128fs に落としても動作します。この 12.288MHz がそのままビット・クロックとして出力されます。AD1860N はビット・クロックが 12.5MHz までサポートしていますから、「AD1860N で 96kHz 18-bit! のハイレゾ音源が聞ける!」というワクワク感たっぷりな D/A コンバータが設計できます。

 

DF1706 の変則的な使い方

変換基板
 <写真 1> 変換基板
 DF1706 に用意されている 4 倍オーバーサンプリング 128fs モードは、もともとサンプリング周波数が 176.4kHz と 192kHz のときに選択すべきものです。データシート 6 ページの「TABLE I. Typical System Clock Frequencies」には 96kHz のときの 128fs は「N/A(選択不可)」になっています。その一方で、すぐ上の「SYSTEM CLOCK REQUIREMENTS」の説明には「Both 128fs and 192fs system clock can be used when fs is larger than 96kHz.」との記述がありますから、要するに「32 - 96kHz は 8 倍オーバーサンプリングで、それより上は 4 倍オーバーサンプリングで使うのが標準」ということです。一般的な 8 倍オーバーサンプリング・デジタル・フィルタは 4 倍してから 2 倍する構成になっているので、終段をバイパスしているだけだと思われます。
 88.2/96kHz のとき 4 倍に減速する以外には、変則的な使い方をしている部分はありません。パッケージはピン間隔が 0.65mm の 28 ピン SSOP なので、ダイセン電子工業サンハヤトのピッチ変換基板を使います。本機では写真のような変換基板を作成してみました。RICOH のレーザー・プリンタ SP 4000 で富士フイルムのインクジェットペーパー「画彩(ブドウの写真)」に印刷し、ニトリの 990 円のアイロンで生基板に転写したものです。感光基板ほどキレイではありませんが、実用には十分ですし安価です。
 ハンダ・レジストは塗布してありませんが、ブリッジができたときに周囲のパターンにハンダを流して解消できる効能があります。

 

DIR9001 と DF1706 の接続

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 <第 1 図> DIR9001 の接続 [クリックで拡大]
 DVD-Audio に対応したプレーヤのデジタル出力は同軸端子を用いていることが多いので、RS422/485 レシーバの AM26LV32, SN65HVD30, MAX3077E などで受信して DIR9001 に送ります。
 データの出力フォーマットを「I²S(Inter-IC Sound)」にするため、25 番 FMT0 と 26 番 FMT1 をともに H とします。システム・クロックの出力周波数は 256fs と 128fs に切り替える必要があります。14 番 PSCK1 は L 固定とし、13 番 PSCK0 を L か H に切り替えるようにします。このピンはプルダウンされているので、256fs のときに H とします。
 古い CD にはエンファシスがかけられたものがありますが、その情報が 17 番 EMPH から出力されるので DF1706 の 16 番 DEM と接続しておきます。

 DF1706 は設定個所が多いので、箇条書きにします。どの設定ピンもプルアップ/ダウンされていないため、未使用でも L か H に接続しておく必要があります。

 3 番 I²S = H で入力フォーマットに I²S を選択.
 4 番 IW0 = H と 5 番 IW1 = L で入力ビット長に 24-bit を選択.
10 番 MODE = L でハードウェア・モードを選択.
11 番 MD/CKO = L 本機では未使用.
12 番 MC/LRIP = L で入力 L/R クロックの位相に I²S を選択.
13 番 ML/RSV = L 本機では未使用.
16 番 DEM = H でディエンファシスがオン,L でオフ.
17 番 SF0 = L と 18 番 SF1 = L でディエンファシスの周波数に 44.1kHz を選択.
19 番 OW0 = H と 20 番 OW1 = L で出力ビット長に 18-bit を選択.
21 番 x4 = H で 4 倍,L で 8 倍オーバーサンプリング・モード.
27 番 SRO = H でスロー・ロールオフ,L でシャープ・ロールオフ.

 出力ビット長の切り替えは、OW0:OW1 が L:L = 16-bit, H:L = 18-bit, L:H = 20-bit, H:H = 24-bit です。
 入力のサンプリング周波数による手動の切り替えは、次の 2 点です。

32/44.1/48kHz のとき
  DIR9001: 13 番 PSCK0 = H(プルダウンあり)
  DF1706:  21 番 x4 = L(プルアップ/ダウンなし)
88.2/96kHz のとき
  DIR9001: 13 番 PSCK0 = L(プルダウンあり)
  DF1706:  21 番 x4 = H(プルアップ/ダウンなし)

 

AD1860N のパラレル接続

 とりあえず 3 パラでテスト。なぜ 3 パラなのかは[YM3434 + AD1860N 減速シフト・ドライブ]に。

 

I/V 変換アンプ

 オペアンプに新日本無線の MUSES を使用。帰還抵抗 1kΩ で ±3mA → 2.1VRMS に。

 

PC の再生環境

 パソコンに蓄積した音声データは、何らかのプレーヤ・ソフトウェアで再生し、Windows サウンド・ミキサーを経由して USB 端子に送られます。Windows Vista や 7 では、プレーヤ・ソフトウェアの [設定] で [WASAPI] を選択すればミキサーをバイパスすることができます。Windows XP では、ASIO4ALL などの ASIO ドライバを使ってバイパスできます。
 プレーヤ・ソフトウェアによっても音が変わります。無償のソフトウェアでは foobar2000 などに人気があるようですが、歴史のある Winamp も WASAPI や ASIO に切り替えれば音質が向上します。D/A コンバータの音質を評価する前に、PC の再生環境を整えておくことが重要です。

 

データシートの入手元:
DIR9001 - テキサス・インスツルメンツ社の製品情報ページ
http://focus.tij.co.jp/jp/docs/prod/folders/print/dir9001.html
DF1706 - テキサス・インスツルメンツ社の製品情報ページ
http://focus.tij.co.jp/jp/docs/prod/folders/print/df1706.html
AD1860N - 非正規のアーカイブ
http://www.datasheets.org.uk/AD1860*-datasheet.html


姉妹ページ [我流 PC オーディオ専用 PC を組む] [YM3434 + AD1860N 減速シフト・ドライブ

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