音響、それは響く沼。市販品を改造したらよくなるってもんでもないですが...
1997 年に Windows 95 のパソコンを組み立てて以来、自作パソコン一筋です。また、1990 年に PCM56P の D/A コンバータを組み立てて以来、自作コンバータ一筋です。パソコンの製作ノウハウと D/A コンバータの製作ノウハウを活かせそうだと挑戦したのが、PC オーディオ専用 PC の組み立てです。
PC オーディオの構成はさまざまで、すべての機能をなるべく 1 台の PC に盛り込もうとする方向性と、家庭内 LAN を構築して PC からネットワーク・オーディオ・プレーヤを操作し NAS(Network Attached Storage)に蓄えた音源を再生する、いわばすべての機能を分散させようとする方向性があります。通常は予算や設置スペースに限りがあるので、PC に外付け D/A コンバータを追加する程度にとどまることが多いと思います。
PC 内蔵の HDD や外付け HDD に蓄えた音源を読み出すには、S/PDIF または USB 端子が使われます。S/PDIF(Sony Philips Digital InterFace)はいわゆる「デジタル出力」のことで、光または同軸端子を備えたサウンド・カードが必要になりますが、自作機を含むほとんどの D/A コンバータが直結できます。市販の D/A コンバータには USB 端子(USB ポート)を備えたものも増えていますが、自作機に使えるような手軽で高性能な USB インターフェース IC がないため、「USB → S/PDIF 変換器」を使って S/PDIF に変換する必要があります。今回は、サウンド・カードのデジタル出力を選択しました。
サウンド・カードにしろ USB → S/PDIF 変換器にしろ、ジッター対策が施されたものを選ぶのが肝要で、その目安はコントローラ IC の近くに 44.1kHz 系と 48kHz 系の 2 つの水晶発振子が載っていることです。今回使用したオンキヨーの SE-200PCI は、選別された ±10PPM の高精度発振子を使っていて、「Audio Precision」というジッター測定機では 88.2kHz の S/PDIF 出力で 2.247mUI(Uunit Interval)の実測値が得られたそうです。ヒアリングの印象は、『DVD プレーヤのデジタル出力とは互角だが CD 専用プレーヤにはかなわない』といったところでした。
弟分の SE-90PCI は 4.840mUI だそうで、これも持っていますが、両者のデジタル出力には耳で聞いて分かる差があります。
AV Watch - 藤本健の Digital Audio Laboratory
第262回:PCIオーディオボード「SE-200PCI」開発者に聞く
~ S/N比115dBを実現した設計のこだわりとは? ~
第184回:最廉価モデルで最高音質を実現?
~ 2ch出力に特化した「オンキヨー SE-90PCI」~
今回はデジタル出力を得ることが目的ですが、SE-200PCI は DAC チップに Wolfson WM8740 を使っているので、これはこれで使えるようにしておきたいと考えました。SE-200PCI は 2006 年 12 月に発売されたロングセラーなので、ネット上の情報も多く、OP アンプやコンデンサの換装などの改造記も読むことができます。
問題なのは、オンキヨーの特許技術「VLSC(Vector Linear Shaping Circuitry)」回路をどうするのか、だと思いました。SE-200PCI の現物から起こした回路図を載せますが、WM8740 の電圧差動出力をシングル・エンドに変換したあと 1 段 RC フィルタを通すだけでバッファに入れるよう、パターンのカットとジャンパの追加を行っています。片チャンネルあたり 3 個のデュアル OP アンプ(Texas Instruments NE5532AP)のうち、中央の 1 個が「トル」と書いたものです。ほかの OP アンプの換装までは行っていません。
パターン面のカットは赤丸の 6 か所、ジャンパは 4 か所です。部品面は OP アンプ 2 個の取りはずしと、パターンのカット 2 か所です。
回路図で追加している 1kΩ は、「トル」の上のほうにある 1kΩ を流用しています。じっさいの部品配置は回路図の流れとは異なるので注意しましょう。
予備実験は Micro-ATX のマザーボード ASUS E35M1-M PRO で行いました。AMD のデュアルコア・プロセッサ E-350 を搭載した、ファンレス・タイプです。PC オーディオ専用にするので、Windows 7 でもこの程度のマシン・パワーで十分です。今回はさらなる小型化に挑戦して、Mini-ITX のマザーボードを使います。とはいっても、SE-200PCI が PCI 用なので選択肢は限られて Intel Desktop Board D510MO ぐらいしかありません。
メモリは DDR2-800 1GB x 2 です。起動ドライブを SSD にしたので、HDD のようなアクセス音はありません。PC ケースは Lian-Li のオール・アルミ製 PC-Q11B を選択しました。通常の ATX 電源が使えるので、なるべく静かな電源を選びましょう。DVD マルチ・ドライブには、動作がエレガントなパイオニア製がお勧めです。
Windows 7 の Media Player にも CD から音楽ファイルを取り込む機能が備わっていますが、ビット・パーフェクトなのかどうかが確認できる Exact Audio Copy (V1.0 beta 3) をお勧めします。パイオニア製ドライブが備えている機能と連携して、高精度な取り込みを高速で行うことができます。公式日本語版はありませんので、独自に日本語ファイルを作成しました。 [ダウンロード]
Windows 7 のデフォルト設定では、音楽を再生しているときにも警告音などが鳴ります。これは Windows サウンド・ミキサーを経由しているからで、ミキサーが音質を劣化させています。Windows Vista や 7 では、音楽再生ソフトウェアの [設定] から [WASAPI] の排他モードを選択してミキサーをバイパスすることができます。また、SE-200PCI は ASIO(Audio Stream Input Output)には対応していませんが、ASIO4ALL を使ってミキサーをバイパスすることもできます。
WASAPI や ASIO4ALL を使うためには音楽再生ソフトウェアが対応している必要があり、無償のソフトウェアでは foobar2000 などが人気です。WASAPI と ASIO4ALL とではかなり音質が異なるので、音楽との相性で切り替えるのも面白いかと思います。
試作機はいかにも PC といった外観と使い勝手でしたが、本番機はオーディオ機器としての高級感を備えたと自画自賛しています。PC 内蔵の HDD や外付け HDD に蓄えた音源だけでなく、DVD マルチ・ドライブを使って CD(44.1kHz 16-bit)や DVD-Audio(96kHz 24-bit)を直接再生することもできます。DVD の映画もよりよい音で楽しめるようになりました。ピュア・オーディオのクオリティではないのかもしれませんが、ハイレゾを含むさまざまな音源が再生できるようになり、世界が開けたような気がします。
(ハイレゾはハイ・レゾリューションの略ですが、英語でも Hi-res と表記されます。)
オンキヨーのサウンド・カードには、旗艦モデルの SE-300PCIE があります。今回は、デジタル出力を自作 D/A コンバータに入力する構成なので SE-200PCI を選択しましたが、アナログ出力にこだわった SE-300PCIE も購入して聞いてみました。
こ、これはスゴイです。自作 D/A コンバータでも負けそうなくらい... SE-200PCI ではグランド・ピアノがアップライトにしか聞こえませんが、SE-300PCIE はピアノのサイズやメーカーまで分かるような鳴りかたです。SE-200PCI とは次元が異なるため、比較試聴では評価を誤るかもしれません。というか、上質の D/A コンバータを聞いたことがなければ、正しく評価するのが難しいくらい“渋い”音です。
自作 D/A コンバータに肉薄するレベルなのですが、唯一残念なのはシンバルのリアリティが薄いことでしょうか。どのシンバルも似たような音でしか鳴りません。原因は、PCM1798 のデジタル・フィルタ部にあるような気もしますし、アドバンスト・セグメント方式の限界なのかもしれません。
姉妹ページ [レガシー DAC で 96kHz 18-bit ハイレゾ] [YM3434 + AD1860N 減速シフト・ドライブ]