つげ 義春

 1937年,東京生まれ.小学校卒業後いくつもの職を経ながらマンガを描きはじめる.1955年,単行本『白面夜叉』でデビュー.その後,貸本マンガ誌で,ミステリーから時代物まで幅広い作品を手がける.1965年から雑誌「ガロ」に執筆を開始,『沼』『紅い花』『ねじ式』などを次々と発表し読者に衝撃を与える.以後,寡作ながら多くのファンの注目を集めている.最近では『無能の人』につづき『ゲンセンカン主人』が映画化されて話題となっている.

(『つげ義春全集』予約注文書より転載)


 あの第2次「つげブーム」(1976年頃,つげ氏のマンガの文庫ブーム.ちなみに第1次は1970年頃らしいです)の時期,私は静岡市で高校生やってましたが,私が通っていた学校でもやたらと流行っていて,自分で持っていたのは小学館漫画文庫の『ねじ式』と『紅い花』だけでしたが,その頃出ていた文庫本はほとんど読みました.その後90年代に入って『つげ義春全集』が刊行され,残念ながら入手しそびれておりましたが,後に無事全巻入手することができました.


つげ義春全集・筑摩書房 1993〜94年 発行



1 四つの犯罪・七つの墓場

オススメ度:★★★

 収録作品:「四つの犯罪」・「生きていた幽霊」・「罪と罰」・「奇人」・「七つの墓場」・「おばけ煙突」・「ある一夜」・「うぐいすの鳴く夜」・「クロ」・「鉄路」・「四人の素人」.解説『“雨の作家”のスタート』(佐野 眞一 氏).
 1956〜60年頃の貸本時代の作品で,ミステリー・タッチの作品が多いですが,当然のことながら,今読んでそんなに面白いもんじゃないです.この中の何作かは例のブームのとき読んでいるはずなのですが,はっきり覚えていたのは「四つの犯罪」と「おばけ煙突」の2編だけでした.

2 腹話術師・ねずみ

オススメ度:★★

 収録作品:「腹話術師」・「老人の背中」・「親分」・「一発」・「なぜ殺らなかった」・「見知らぬ人々」・「目には目を...」・「下町の唄」・「兄貴は芸術家」・「ねずみ」・「右舷の窓」・「行ったり来たり」.解説『Nさんの恋人』(出久根 達郎 氏).
 第1巻に続く1959〜65年頃の作品で,ミステリーやハードボイルド以外に少女マンガやSFなんかにも挑戦していますが,暗中模索というか試行錯誤に終わってしまったみたいです.『ガロ』時代直前の作品集ですが,はっきり言ってあんまりオススメしません.

3 鬼面石・一刀両断

オススメ度:★★★

 収録作品:「盲刀」・「鬼面石」・「落武者」・「忍びの城」・「一刀両断」.解説『「起原」としてのつげ義春』(山崎 哲 氏).
 1960〜65年頃の時代劇マンガ集.はっきり言って私時代劇マンガって興味なくてあんまり読んだことないのでよくわかりませんが,これは結構面白く読めました.

4 李さん一家・海辺の情景

オススメ度:★★★★

 収録作品:「古本と少女」・「不思議な手紙」・「手錠」・「蟻地獄」・「女忍」・「噂の武士」・「西瓜酒」・「運命」・「不思議な絵」・「沼」・「チーコ」・「初茸がり」・「通夜」・「山椒魚」・「李さん一家」・「蟹」・「峠の犬」・「海辺の情景」.解説『風景にたたづむ「つげ義春」』(夏目 房之介 氏).
 全18作中「不思議な手紙」・「蟻地獄」・「女忍」・「蟹」を除く14作が1965〜67年の『ガロ』で発表された作品(リメイクを含む)らしいです.画風・作風ともに変わっていく過渡期の作品ですが,今回の全集入手で,それぞれの作品を年代別にじっくり読み比べることができたところ,かなり興味深いものがありました(何が言いたいんだ?この文章は?).個人的に好きで,とにかく傑作だと思うのは,作者の青春賛歌に対するアンチテーゼと思われる(と解説に書いてあった)「海辺の情景」で,この作品と吉田拓郎氏の名曲『冷たい雨が降っている』と以前から頭の中で結びついているのは何ででしょう? あと完全私小説の「チーコ」とか,小学館漫画文庫の解説の中で作者自身が愛着を感じていると書いてあった「古本と少女」なんかも好きな作品ですが,何と言っても凄いのは「李さん一家」のラスト,マンガ史に残る傑作だと思います.あと,時計の中にこそ入って眠りませんでしたが,「初茸がり」と似たような経験をしたことあります.

5 紅い花・やなぎ屋主人

オススメ度:★★★★

 収録作品:「紅い花」・「西部田村事件」・「長八の宿」・「二岐渓谷」・「オンドル小屋」・「ほんやら洞のべんさん」・「もっきり屋の少女」・「やなぎ屋主人」・「リアリズムの宿」・「枯野の宿」・「庶民御宿」・「会津の釣り宿」.解説『村の記憶』(早坂 暁 氏).
 1967年以降に『ガロ』にて発表された作品を中心に,つげ作品の代表的なジャンルのひとつである『旅もの』を収録した作品集.「やがて『旅もの』に酔いしれたつげ義春ファンは,作品を小脇にかかえ,山深い村落や湯治場を訪ねるようになった」(解題:高野 慎三 氏)そ〜ですが,私は以前の経験で民宿とか商人宿って大っ嫌いになってしまったもんで,そんな気にはならないのでした(ツーリングのときはもっぱらビジネスホテルを利用することにしています).個人的に好きな作品は「紅い花」・「ほんやら洞のべんさん」 ・「やなぎ屋主人」の3作品です.

6 ねじ式・夜が掴む

オススメ度:★★★★★

 収録作品:「ねじ式」・「ゲンセンカン主人」・「夢の散歩」・「アルバイト」・「雨の中の欲情」・「夜が掴む」・「コマツ岬の生活」・「外のふくらみ」・「必殺するめ固め」・「ヨシボーの犯罪」・「窓の手」・「夏の思いで」・「懐かしいひと」・「事件」 ・「退屈な部屋」・「日の戯れ」.解説『つげ義春の場末趣味』(川本 三郎 氏).
 1968年以降の『夢』と『日常』をモチーフにした作品群です.何といっても作者の代名詞ともいうべき,ラーメン屋の屋根の上で見た夢を元にしたという「ねじ式」.この作品のすばらしさは誰もが認めるところで,この作品のパロディはその後のマンガの至るところに見られますよね.あと,高校生の頃,1人がいきなり相手方に襲い掛かりXXXサインを示すと,相手方は壁に指で「へやで」と書いて逃げ出すという『ゲンセンカンごっこ』というのを友達と流行らせようとしたんですが,全く流行りませんでした(哀).この人の夢を題材にとった作品は凄いモノが揃っていると思います.不条理の破壊力とゆ〜か何とゆ〜か... あと『夢モノ』と並行して描き始められた『日常モノ』ですが,こちらも結構好きで,この人多分マンガで私小説的ジャンルを確立した作家じゃないかと思っております.『夢』と『日常』をモチーフとしたマンガ家としては,後にねこぢるという天才が登場しましたが...

7 大場電気鍍金工業所・やもり

オススメ度:★★★★★

 収録作品:「大場電気j鍍金工業所」・「少年」・「海へ」・「やもり」・「下宿の頃」 ・「義男の青春」・「池袋百点会」・「隣りの女」・「別離」.解説『悲惨な町の安全運転』(赤瀬川 原平 氏).
 1973〜87年の自伝的色彩の強い作品群.完全に『私小説』から『自伝』に進化してしまった作品の数々は言いようもなく暗く痛々しいわけですが,思わず作品の世界に引き込まれてしまう魅力を持っているのです.少なくとも私にとっては... しかし私には自分の経験を何らかの形で作品として表現しようなんて勇気はとてもじゃないがありません.これだけの嘔吐ってやはり凄いと思います.

8 近所の景色・無能の人

オススメ度:★★★★

 収録作品:「魚石」・「近所の景色」・「散歩の日々」・「ある無名作家」・「石を売る」 ・「無能の人」・「鳥師」・「探石考」・「カメラを売る」・「蒸発」.解説『食べさせてあげたい人』(一条 さゆり 氏).
 作者が1978年に転居した調布市内の団地周辺を舞台とした作品群.この第8巻の作品は全集を入手してはじめて目にした作品ばかりでした.第7巻と同じく自伝的な作品が収められていますが,全体としてのトーンはそれより以前の私小説的な色合いに近くなっているような気がしました.作品のもつ破壊力という点では,第7巻に収められた作品群より若干おとなしめですが,それでも時々ハッとさせられるような表現に出会ったりするのでした.

別巻 苦節十年記・旅篭の思い出 

オススメ度: -

収録作品:エッセイ-「旅篭の思い出」・「上州湯宿温泉の旅」・「颯爽旅日記」・「東北の湯治場にて」・「夢日記」 ・「断片的回想記」・「密航」・「自殺未遂」・「四倉の生」・「万引き」・「クロという喫茶店」・「妻のアルバイト」・「カメラ商開業未遂」 ・「最初のひとつ」 ・「いつも変わらぬ貧乏話」・「つげ忠男の暗さ」・「つげ忠男の不運」・「苦節十年記」・「つげ義春自分史」,イラスト-「旅の絵本」・「桃源行」・「つげ義春流れ雲旅」.解説『名人伝』(池内 紀 氏).
 『巨匠,もう一つの仕事』と題されたエッセイ・イラスト集.