有栖川 有栖

学生アリス・シリーズ



月光ゲーム―Yの悲劇 '88

1989

創元推理文庫

★★★★★

 学生アリス・シリーズ第1弾にして,作者の処女作長篇.クローズド・サークルにおける連続殺人,そしてダイイング・メッセージとくれば,本格好きの読者にとってはたまらない設定.作者は,このデビュー作において早々と『新本格派の旗手』としての地位を確立したのも当然といえば当然.学生たちのキャンプ場というシチュエーションも大学生活経験者であれば,親しみやすい作品であるといえます(作中に出てくる『怪奇大作戦』テーマ・ソングの替え歌は同世代のものにとっては涙モノ).ちなみに,この作品の原形は作者が高校2年のときに執筆した『Yの悲劇 '76』で,その後同志社大学ミステリ研時代に『Yの悲劇 '78』となり,さらに加筆修正されて,このデビュー作が完成したとのこと.この作者,私と同年生まれで,12歳の時に初めて創元推理文庫を読んだというのも共通しているのですが,彼が同志社大学ミステリ研で執筆に励んでいた頃,私は成蹊大学アニメ研周辺で遊びほうけておりました.恥ずかしい私の人生はその後も続いています(涙).解説は,山前譲氏.

孤島パズル

1989

創元推理文庫

★★★★

 学生アリス・シリーズ第2弾.2回生となったアリスと,相変わらず4回生(7年目!)の江神二郎部長と,新たに加わった紅一点のマリアが直面するのは,またしてもクローズド・サークルにおける連続殺人,そしてダイイング・メッセージ.実はこれ,今回は逆ダイイング・メッセージであるところがミソ.問題編を読み終わったところで,本格ミステリの愛読者には,『最も強い動機を持つ人間が犯人である』という見当がついてしまうものの,読みごたえがあるのが完結編.自らの推理を否定してくれとアリスに懇願しているかのような江神部長のキャラクター描写,そして真犯人の登場.ストーリー展開・トリック等,やや前作よりも凝りすぎたきらいはあるものの,探偵役・江神部長の人物設定に重きがとられている佳作.作者の20代最後の作品でもあるそ〜です。解説は,光原百合氏.

双頭の悪魔

1992

創元推理文庫

★★★★★

 学生アリス・シリーズ第3弾.またしてもクローズド・サークル,しかも今回はダブル・クローズド・サークルとも呼ぶべきシチュエーションにおいて発生する3つの殺人事件.そして3回にわたって読者に叩き付けられる挑戦状,とくれば,本格マニアだったら涙して喜ばずにはいられない超大作です.夏森村と木更村という2つのむらでそれぞれの事件が同時進行しているため,今回は語り手も2人,アリスとマリアという構成の中,唯一人夏森村から木更村への潜入に成功する江神部長.そして,それぞれ別個に行われたかのような3つの殺人事件が1人のプロデューサーによるものであり,それを突き詰めていく江神の論理構築には全くのスキがなく,この時点における作者の最高傑作といえる大長編.解説は,巽昌幸氏.

女王国の城

2007

創元推理文庫

★★★★★

 学生アリス・シリーズ第4弾.文庫本上下巻850ページにわたる大長篇ですが,そのすべてにわたって全く無駄な記載がなく,一気に読ませてしまう力を持った傑作だと思います.宗教団体内における連続殺人事件と全く関係のないと思われる11年前の殺人と悲恋物語,そしてさらに…これ以上はネタばれになってしまうので書けませんが,一見何の関係もない個々の事象の記述が,後になって見事にリンクする構成美は流石です.またこのシリーズになると,普段も元気な作者が,ますます元気に筆を進ませているような感じを受けます.解説は,松浦正人氏.