有栖川 有栖


作家アリス・シリーズ (1992 - 2005)



1 46番目の密室 1992 講談社文庫 ★★★★
 作家アリス・シリーズ第1弾長編.物語の伏線となる『フラッシュ・バック』に続き,臨床犯罪学者・火村英生助教授の講議場面から始まる,タイトル通り『密室殺人事件』をテーマ(作者自身は『メタ密室モノ』と称している)とした作品.それにしても,タイトルの『46番目の密室』の内容が紹介されないのが残念といえば残念.この作者の好きなところのひとつに,要所要所に ROCK おたくっぽい記述があるところがあげられるのですが,ここでもしっかり出てきます.解説は,綾辻行人氏(講談社文庫).
2 ダリの繭 1993 角川文庫 ★★★★★
 作家アリス・シリーズ第2弾長編.実はこれが私が『有栖川有栖』という作家を知った作品で,『新本格派』なるものの存在を知ったきっっかけとなった記念すべき1册なのです.で,この後,有栖川氏の一連の作品を経て綾辻行人氏へとはまっていったのでした.それまでは,日本の作家では佐野洋氏,笹沢左保氏,小池真理子氏,黒岩重吾氏,阿刀田高氏,勝目梓氏,筒井康隆氏くらいしか読んでいませんでした.というのは,松本清張氏や森村誠一氏のような『社会派推理小説』とか赤川次郎氏のような『ユーモア推理小説』みたいなモノに関心が持てなかったもので.... ど〜もすみません.ところで,この作品 '93年12月から '94年2月にかけて行われた『角川ミステリーコンペティション』参加作品だったのですが,その結果はどうだったのでしょうか?
3 ロシア紅茶の謎 1994 講談社文庫 ★★★
 作家アリス・シリーズ短編集.エラリー・クイーンのまねっこ『国名シリーズ』第1弾の表題作を含む,『動物園の暗号』・『屋根裏の散歩者』・『赤い稲妻』・『ルーンの導き』・『ロシア紅茶の謎』・『八角形の罠』の6篇を収録.
 個人的に良く出来ていると思ったのは,やはり表題作と『赤い稲妻』.笑えたのが『屋根裏の散歩者』(江戸川乱歩のパロディ?)の「犬」と「太」の違い.ところで,表題作に出てくる『御殿場パーキング・エリア』って何処の事ダ? 解説は,近藤史恵氏(講談社文庫).
4
5
海のある奈良に死す 1995 角川文庫
双葉文庫
★★★★
 作家アリス・シリーズ第3弾長編.タイトルがちょっとこの作者の他の作品と趣を異にしているので,何となく手を出し辛かった記憶があります.ストーリーは少し長め? トリックはビデオテープに関しては凡庸の感は否めませんが,日出・日没に関しては秀逸だと思います.登場する2人の女性キャラ(穴吹奈美子・朝井小夜子)が魅力的(タイプは全く違うんだけどね)だと思います.解説は,我孫子武丸氏(角川文庫).
6 スウェーデン館の謎 1995 講談社文庫 ★★★★
 作家アリス・シリーズ.『国名シリーズ』第2弾は長編.『あとがき』によると,作者はこの長編を2カ月足らずで書いたとか.... しかも,一気に読ませてしまうストーリー展開と,実のところ後味の悪さの残る結末.この人の作風,とくに作家アリスと火村のシリーズは軽妙なタッチですご〜く読み易いんですが,時々モノすごい『毒』があるところが,言い様のない魅力になっていることも否定できません.解説は,宮部みゆき氏.
7 ブラジル蝶の謎 1996 講談社文庫 ★★★
 作家アリス・シリーズ短編集.『国名シリーズ』第3弾の表題作を含む,『ブラジル蝶の謎』・『妄想日記』・『彼女か彼か』・『鍵』・『人喰いの滝』・『蝶々がはばたく』の6篇を収録.
 作家アリス・シリーズ初の短編『人喰いの滝』が収録されています.個人的に良く出来ていると思ったのは,やはり表題作と『人喰いの滝』.面白かったのは『彼女か彼か』(すぐにわかっちゃったけどね―ヒゲ)と『鍵』.また,『あとがき』における作者の携帯電話に対するコメントには,とても共感できたのです.解説は,椎谷健吾氏.
8 英国庭園の謎 1997 講談社文庫 ★★★★
 作家アリス・シリーズ短編集.『国名シリーズ』第4弾の表題作を含む,『雨天決行』・『竜胆紅一の疑惑』・『三つの日付』・『完璧な遺書』・『ジャバウォッキー』・『英国庭園の謎』の6篇を収録.
 内容的には,本格的暗号モノ(でも単行本の際に誤りがあって,文庫化の際に訂正していることを作者が自白しています)の表題作をはじめ,緊迫感あふれる『ジャバウォッキー』,長編『海のある奈良に死す』に出てきた作家・赤星楽も登場する『三つの日付』等,粒ぞろいの短編集です.解説は,喜国雅彦氏.



9 朱色の研究 1997 角川文庫 ★★★★★
 作家アリス・シリーズ.タイトルはもちろんコナン・ドイルの『緋色の研究』をもじったモノ.『新本格派』の名に恥じないトリックの構築もさることながら,よく『新本格派』作家の諸作品に対する「人間が描かれていない」という批判を真っ向から否定する傑作.犯罪臨床学者・火村とコンビを組む作家・アリスに関して,これまでになくその『人間性』が描かれ,また,犯人やヒロイン・貴島朱美のトラウマ等,『人間』を描ききったこの作品は,解説の飛鳥部勝則氏が書いている通り,「あまりに悲しい」です.
10 ペルシャ猫の謎 1999 講談社文庫 ★★★★
 作家アリス・シリーズ短編集.『国名シリーズ』第5弾で,ミステリとしては禁じ手というか,ルール違反すれすれの問題作である表題作『ペルシャ猫の謎』をはじめ,シリーズでありながら火村もアリスも登場しない中編『赤い帽子』,ミステリではなく臨床犯罪学者・火村の人物描写ともいえる掌編『悲劇的』・『猫と雨と助教授と』,長編『海のある奈良に死す』に登場した作家・朝井小夜子が登場する『暗号を撒く男』の他,『切り裂きジャックを待ちながら』・『笑う月』の計7篇を収録した異色の短編集.
 個人的に好きなのは表題作と『笑う月』(コミックスも良かったです).笑えたのは『悲劇的』.解説は,千街晶之氏
11 暗い宿 2001 角川文庫 ★★★★
 作家アリス・シリーズ.1999〜2001にかけて,『KADOKAWA ミステリ』に収録され,作者と編集部の間で『宿シリーズ』と称された『暗い宿』・『ホテル・ラフレシア』・『異形の客』・『201号室の災厄』の4篇を収録.
 個人的にはやはりThe Eagles の名曲 "Hotel Carifolnia" にインスパイアされたと思われる『ホテル・ラフレシア』と,ロック・スター(モデルは不在だそ〜です)のフラッシュ・バックをテーマにした『201号室の災厄』(コミックス版も良い)の2編が好きです.解説は,川出正樹氏.
12 絶叫域殺人事件 2001 新潮文庫 ★★★★
 作家アリス・シリーズ.作者がこれまで意図して避けてきた『〜殺人事件』というタイトルの作品からなる連作短編集.『黒鳥亭殺人事件』・『壺中庵殺人事件』・『月宮殿殺人事件』・『雪華楼殺人事件』・『紅雨荘殺人事件』・『絶叫域殺人事件』の6篇を収録.
 最初の5編はそれぞれ建築物,最後の表題作はTVゲームに題材を取っていますが,ある意味これも建築物かも? 個人的には,トップの『黒鳥亭殺人事件』とラストの表題作『絶叫域殺人事件』,読後の後味がモノすご〜く悪いんだけど,良く出来ていると思います.
13 マレー鉄道の謎 2002 講談社文庫 ★★★★
 作家アリス・シリーズ.『国名シリーズ』第6弾(長編としては『スウェーデン館の謎』に続く2作目).第56回日本推理作家協会賞受賞作.マレー半島を舞台に繰り広げられる『殺人の連鎖』.密室トリックや意外な犯人という『新本格派』ならではの斬れ味は認めますが,舞台が海外のせいか少々冗長な印象を受けるのと,動機の後付けが気になるので,★1つマイナスしました.でも英会話の「XXXXX(意味不明)」というのは,この作家ならではの眼のつけどころだと思います.確かに外国語の会話の内容が全てわかるという他の小説の方が不自然ですもん.解説は,鷹城宏氏.
14 スイス時計の謎 2003 講談社文庫 ★★★★★
 作家アリス・シリーズ.『国名シリーズ』第7弾で,元祖クィーンを凌駕する感のあるくらい論理構成が見事な表題作『スイス時計の謎』をはじめ,4人の作家による競作集『「Y」の悲劇』に収録された『あるYの悲劇』,やはりアンソロジー『不透明な殺人』に収録されていた『女彫刻家の首』,倒叙形式の『シャイロックの密室』の計4篇を収録.
 個人的に好きなのはぜんぶ〜(笑).解説は,太田忠司氏
15 白い兎が逃げる 2003 光文社文庫 ★★★★
 作家アリス・シリーズ.作者の好きな双児トリックの『不在の証明』,犯行の「意外な動機」をテーマにした『地下室の処刑』,作者によると「賞味期限のあるアイディア」がもととなっている『比類のない神々しいような瞬間』,ストーカーをからめた「見えにくい動機」と鉄道利用トリックの表題作『白い兎が逃げる』の中編4篇を収録.
 個人的には,鉄道トリックってあんまり好きじゃない(時刻表とか〜見るのめんどいんだもん)ので.表題作も良くできていて面白いとは思うのですが,それよりも,以前『暗い宿』の中の『異形の客』に登場したシャングリラ十字軍がらみで,サブ・キャラの森下刑事が活躍(?)する『地下室の処刑』が最高に面白かったりしました.解説は,辻真先氏
16 モロッコ水晶の謎 2005 講談社文庫 ★★★★
 作家アリス・シリーズ.『国名シリーズ』第8弾で,表題作『モロッコ水晶の謎』,5人の作家による競作集『「ABC」殺人事件』に収録されていた『ABCキラー』,異色の誘拐殺人事件もの『助教授の身代金』の中編3編と,サブ・キャラ朝井小夜子が登場する掌編『推理合戦』の計4篇を収録.
 ある意味フーダニットの傑作といえる『助教授の身代金』の最後の火村のセリフにとどめをさされました.現在『助教授』って称号はないそ〜ですが….解説は,佳多山大地氏