綾辻 行人


長編小説1 (1987 - 1992)



1 十角館の殺人 1987 講談社文庫 ★★★★
 綾辻氏のデビュー作にして,『館』シリーズ第1作.クローズド・サークルにおける連続殺人,そして登場するのが大学の推理小説研究会の面々....ということで,有栖川有栖氏の『学生アリス』シリーズをほ〜ふつとさせます(作家デビューは有栖川氏より綾辻氏の方が先ですが,私は有栖川作品の方を先に体験していたもんで....)が,綾辻氏の作品の方が暗い....です.作品のポイントは,第1日目から第4日目までが『島』と『本土』に分かれて描かれているのに対して,第5日目から第8日目までは分かれていない.... 未読の方のため,これ以上は書けません.第1章の冒頭における本格推理にまつわる理論には,綾辻氏の『ミステリ観』みたいなものが伺われます.また,『新本格派』の作家に対してよくある批判「人間が描かれていない」な〜んてことはありませんので,ご安心を.あと,第2章に「ワープロを使って手紙を書くって行為自体は,まだそれほど一般的ではない」な〜んて記述がありますが,考えてみるとこの作品,もう20年近くも前のものなんですよね? 時の流れの速さを感じさせられます.解説は,鮎川哲也氏.
2 水車館の殺人 1988 講談社文庫 ★★★
 前作同様,外界から弧絶した館における連続殺人をモチーフとした『館』シリーズ第2作.ですが,作者自身『あとがき』で書いている通り,前作執筆の時点ではシリーズ化する予定はなく,2作目を執筆しなければならない状況下において,「ふとしたきっかけ」でシリーズ化を思いついたとか.... おかげで全10作を予定している『館』シリーズを楽しめるようになった訳です.今回も『新本格派』らしく,『不可解な連続殺人と意外な犯人』というテーマに挑んでいますが,残念ながら少し弱い.... また,問題編におけるデータの開示という点で少々アンフェアな感じがしてしまいましたが如何(隠し部屋の存在)? 解説は,有栖川有栖氏.
3 迷路館の殺人 1988 講談社文庫 ★★★★
 建築家・中村青児の作った『館』を舞台に,島田潔が活躍する『館』シリーズ第3作.今回は,作家・鹿谷門実による『作中作』の形をとっていますが,やはりこれが1番のトリックでしょう.『作中作』を読む途中で,犯人が「わ〜かった♪」な〜んて喜んでいると足下をすくわれます.これ以上は書けませんが.... 一番のキー・ポイントは『血液』です.また,物理的トリックとしての『アリアドネの糸玉』については秀逸だと思います.解説は,相澤哲三氏.
4
5
緋色の囁き 1988 祥伝社ノン・ポシェット
講談社文庫
★★★★★
 『館』シリーズで『新本格派』の旗手としての地位を確立した綾辻氏が,サイコ・サスペンスに挑む『囁き』シリーズ第1弾.本人も『あとがき』で述べている通り,ダリオ・アルジェント監督の名作ホラー映画『サスペリア』にインスパイアされた本作ですが,サイコ・サスペンスとして出色の出来だと思います.女性の生理に関して醒めきった眼で捕えているこの作品は,逆に男性作家じゃないと描けないかも.... 物語全体を通じてのオドロオドロしさも,まさに私好みなのです.そしてラストは....驚かされました(意外な犯人....読んだの今回3回目なのに忘れてた〜....恥).解説は,菊地秀行氏(祥伝社ノン・ポシェット),津原泰水氏(講談社文庫).
6
7
殺人方程式
―切断された死体の問題―

1989

光文社文庫
講談社文庫
★★★★
 副題―何故,死体が切断されなくてはならなかったか? という疑問に見事に答えてくれる物理的トリックは凄い! また,犯人や被害者ではなく,刑事に一卵性双生児の兄がいて,勝手な捜査を行うといった設定も,これまであまりなかった趣向かも.... さらに,冒頭で描かれる第1の殺人についても.... これについてはあまり書かない方がいいか? でも,細かい部分ですが,刃物で斬りつけてきた人間をピストルで撃っちゃ過剰防衛です.「正当防衛」なんて現職の警部補に言わせてはいけません.解説は,由良三郎氏(光文社文庫),乾くるみ氏(講談社文庫).
8 人形館の殺人 1989 講談社文庫 ★★★★★
 『館』シリーズの持つ本格指向と『囁き』シリーズの持つサイコ・サスペンスの傾向を併せ持ったシリーズ中の異色作.作者本人が『館』シリーズの中でも愛着を持った作品であるとし,また当初はシリーズはこれで最後にして四部作にしようと思った旨が『あとがき』に記されていますが,結局,シリーズはまだまだ続くのでした.個人的にはこれまでの『館』シリーズの中では,作者の持つ個性が最も活かされた傑作だと思います.解説は,太田忠司氏.



9
10
暗闇の囁き 1989 祥伝社ノン・ポシェット
講談社文庫
★★★★
 序章からすぷらった!の『囁き』シリーズ第2弾.この手の話って,やはり『コドモの恐さ』ですよね? いつまでもコドモの私ですら,「コドモは恐いっっっっ!」て感じますもん.ただ惜しむらくは,これ,どっかで似たような話を見たか読んだか聞いたかしたよ〜な気がするのです.作者はR・マリガンの『悪を呼ぶ少年』にインスパイアされたらしいですが.... そ〜いえば,昔のイタリア(多分)映画『ザ・ショック』なんかもストーリーは全然違うけど,似たよ〜な系列の話だったと思います.解説は,宮部みゆき氏(祥伝社ノン・ポシェット),巽昌章氏(講談社文庫).
11
12
殺人鬼
殺人鬼 ― 覚醒篇
1990 新潮文庫
角川文庫
★★★★
 発表と同時に賛否両論をまきおこした,綾辻氏ならではの本格スプラッタ・ホラー.これ,映像化したら凄いだろ〜ね? 見たい見たい.『新本格派』の旗手・綾辻氏が,あえてこの時期にこの作品を発表したのは,本人の趣味もさることながら,『あとがき』にもあるように,当時のホラー・バッシングへのアンチテーゼという意味も大きかったと思います.でも,単なるスプラッタ・ホラーにとどまらず,ラストには見事な趣向(作者本人によると『茶目っけ』だそ〜です)が用意されています.解説は,大森望氏(新潮文庫),杉江松恋氏(角川文庫).
13 霧越邸殺人事件 1990 新潮文庫 ★★★★
 冒頭に,「もう1人の中村青児氏に捧ぐ」とある,『館』シリーズの番外編とも言うべき大長編.『吹雪の中の山荘』というクローズド・サークルにおける連続殺人という,まさに本格推理の世界なのですが,そう思って読んでいくと,解決篇で綾辻氏ならではのサイコ・サスペンスの世界に引き込まれてしまうという力作.解説は,笠井潔氏.
14 時計館の殺人 1991 講談社文庫 ★★★
 第45回日本推理作家協会賞を史上最年少で獲得した作者の代表作ですが,私自身の好みからすると,前の4作品と比較して凡作のような気がしてしまうのです.理由としては,『殺しすぎ』と『動機の後付け』,それでありながら,真犯人が何とはなくではありますが,最初にわかってしまう(最も怪しい人物がやはり...)という点があげられます.但し,この作品に使われている物理的トリックについては,やはり凄いとしか言いようがありません.受賞の理由もそこらへんにあったのでしょう.解説は,皆川博子氏.
15 黒猫館の殺人 1992 講談社文庫 ★★★★★
 『館』シリーズ第6弾(第2期第1弾).記憶喪失の老人と,その手記に記載された『犯罪』をめぐって,『手記』と『現在』が交互に記述される構成の中,明らかにされる驚くべき真実.『館』に関するトリックのスケールの大きさは,シリーズ中でも群を抜いていると思いますし,また,『人形館』と並んで,綾辻氏らしさが際立つ傑作だと思います.未読の方のため,多くは書けませんが,「?」と思う記述があったら,それらは全て物語の伏線だと思って間違いないです.作者自身も『あとがき』の中で,「伏線だらけの小説」と書いてますし.... 解説は,法月輪太郎氏.