井上 夢人

作品1(1992 - 2001)


ダレカガナカニイル…

1992

新潮文庫
講談社文庫

★★★★
 ミステリー作家『井上夢人』のデビュー作(実質的な単独デビュー作は,『おかしな二人 - 岡嶋二人盛衰記』によれば,岡嶋名義の『クラインの壺』ということになりますが....).岡嶋二人時代に,『七日間の身代金』や『殺人! ザ・東京ドーム』等の作品にサイコ・サスペンス的要素を取り入れようとしていたものの,あまり成功したとは言えなかった(『岡嶋二人』の項参照)作者ですが,この作品では見事な多重人格ミステリーを構築しています.かなり SF 的ではありますが.... 解説は,大森望氏.
あくむ

1993

集英社文庫

★★★★
 「悪夢」をモチーフにしたホラー・ストーリー短篇集.『ホワイトノイズ』・『ブラックライト』・『ブルーブラッド』・『ゴールデンケージ』・『インビジブルドリーム』の5篇を収録.ここでもかなり良質のホラー・ストーリーを読ませてくれています.この作品集では,異常心理・性格といったサイコ的なものではなく, SF 的なものや日常に潜む恐怖のようなものにアプローチを行い,それがこの作者の持ち味を活かすのにプラスになっているような気がいたしました.5篇の中では特に,『ゴールデンケージ』が好きです.解説は,我孫子武丸氏.
おかしな二人 - 岡嶋二人盛衰記

1993

講談社文庫

-
 推理作家『岡嶋二人』が誕生してから,解散するまでを描いたドキュメント.これによると,解散の原因は徳山氏にあるような感じですが,徳山氏にも言い分があるのでは....と感じさせられました.ま,井上氏にとってはこれが真実なのでしょうが.... 解説は,大沢在昌氏.
プラスティック

1994

双葉文庫
講談社文庫

★★★★★
 井上氏がついにモノにしたサイコ・サスペンスの傑作.内容については,さしさわりがあるので何もコメントできませんが,途中までは予測がつくものの,さらにおどかされる展開が待っています.精神病院に関する記述もせまってくるものがありますし,ラストも鮮やか.読者もいつの間にか作品に参加させられています.解説は,千街晶之氏(双葉文庫)・田中博氏(講談社文庫).
パワー・オフ

1996

集英社文庫

★★★★
 作者が最も得意とする,コンピュータ犯罪をモチーフにしたミステリー.岡嶋時代の『コンピュータの熱い罠』・『99%の誘拐』・『クラインの壺』,そしてこの作品と時代を追うごとに内容も濃くなっていきますが,実際のところ,このコンピュータの世界って2・3カ月単位で時代が変わってしまうようなところあるので,リアルタイムで作品を創っていくというのは,非常に難しい気がするのですが,どの作品もそれぞれの時代時代で古さを感じさせないモノになっているのは,コンピュータ・ミステリーの第一人者たる作者の面目躍如といったところか.この作品に関して言えば,作者自身ノリにのって書いている感じで,コンピュータ・ネットワークに関する記述も正確だし,ストーリーの展開もスリリングではあるのですが,その反面いささかの冗長さを感じてしまうような気もいたします.個人的には,私自身,コンピュータ関連の仕事をしていたこともあって,この手の小説すご〜く好きなので,一気に読んでしまいましたが,一般の読者,特にコンピュータにアレルギー持ってる人なんかは,途中でイヤになってしまうかもしれません.も少し短くなんなかったのかしらね? 解説は,遠藤諭氏(月刊アスキー編集長).

もつれっぱなし

1996

文春文庫
講談社文庫

★★★★
 ひと組の男女の会話のみから構成された作品のみを収録した短篇集.こんなの昔,笹沢左保さんがやってましたよね? 『宇宙人の証明』・『四十四年後の証明』・『呪いの証明』・『狼男の証明』・『幽霊の証明』・『嘘の証明』の6篇を収録. SF 的な話が多く,謎めいた話が多い(ミステリーだたら当たり前ダ)のですが,中でも最も SF 的で笑えないけど個人的に好きなのが『四十四年後の証明』(この作品だけ,他の作品とちょっと雰囲気が違いますが,確か TV の『世にも奇妙な物語』で映像化されていたと思います),逆に現実的で騙されて笑えたのが『嘘の証明』,ラスト5行が好きなのが『宇宙人の証明』.その他の作品も,かなり笑える秀作揃いです.解説は,小森健太朗氏(文春文庫),村上貴史氏(講談社文庫).
風が吹いたら桶屋がもうかる

1997

集英社文庫

★★★
 主人公・シュンペイのところに美女から事件の依頼が持ち込まれ,同居人にしてミステリー・ファンのイッカクが推理を展開し,もう1人の同居人で開発途上の超能力者であるヨーノスケが真相を導き出す,というパターンの連作集.『風が吹いたらほこりが舞って』・『目の見えぬ人ばかりふえたなら』・『あんま志願が数千人』・『品切れ三味線増産体制』・『哀れな猫の大虐殺』・『ふえたネズミは風呂桶かじり』・『とどのつまりは桶屋がもうかる』の8話を収録.どの話も意表をつく展開で,青春ユーモア小説として読んでいる分には楽しい作品集なのですが,ミステリーとしてはどう評価されるべきなのか? ご都合主義が見え隠れするストーリー展開に,そこはかとなく疑問が残ります.解説は,横井司氏.
メドゥサ,鏡をごらん

1997

講談社文庫

★★★
 「『夢オチ』以外にどうやって辻褄を合わせるのだろう?」と,一気にラストまで読み切ってしまいましたが,井上氏ならではのもっと『合理的な解決』を期待していただけに,何とはなく納得できない結末でした.作中の『いじめ』の描写には,慄然とさせられますが,いじめられたこともいじめたこともある身としては,これはこれで納得がいったりするのです.ホント,『いじめ』の心理って不可解だよね? 「ムゴい」とか言って,それを楽しんでいるんだから.... 解説は,池波志乃氏.
クリスマスの4人

2001

光文社文庫

★★★
 すごく出来のいいSF小説で,たいへん面白く一気に読んでしまいました.でも,これって,やっぱりSFであって,ミステリとして評価すると.... 解説は,吉野仁氏.
オルファクトグラム(上)・(下)

2001

講談社文庫

★★★★
 クィーン『Yの悲劇』とか有栖川有栖『双頭の悪魔』等,『匂い』・『嗅覚』が重要なファクターとなった作品は他にもあると思うのですが,この作品ほど『嗅覚』を真正面から重要なモチーフとしてとらえた作品って珍しいのでは... 本当に『嗅覚』に関する意識って,視覚・聴覚・味覚・触覚ほどにはないものね... 特に私の場合小さい頃アレルギー性鼻炎だったもので... 関係ないか? ラヴ・ストーリーとしても秀逸な大長篇です.解説は,小中和哉氏.