57 |
ストロベリー・フィールズ |
2009 |
中公文庫 |
★★★★ |
文庫本で650ページ近くに及ぶ大長編.もともとミステリー作家時代に『短編の名手』として評されていたこの作家の恋愛小説時代に入ってからの長篇は,ひとつのパターンとして(もちろん別のパターンも存在します)静かに始まり最初は穏やかな描写が続く内に,急遽突然の嵐のように物語が急変直下し,穏やかに集結するというものがあるのですが,この作品はその代表的なもので,後半に入ってからの物語の展開は読者に一気に読み切ってしまわせる魅力に満ちています.解説は,稲葉真弓氏. |
58 |
熱い風 |
2009 |
集英社文庫 |
★★★ |
『私』という一人称にyって語られる,恋人の死の真相を求めて異国をさすらう女性の物語.恋愛小説でありながらミステリー,という作者の本領を発揮した作品だと思います.解説は,温水ゆかり氏. |
59 |
存在の美しい哀しみ |
2010 |
文春文庫 |
★★★★ |
『家族』をモチーフに,後藤家と芹沢家それぞれの『家族』の一員からの視点で描かれた7編の連作による長篇小説.家族ってもともと,男女間の恋愛が形成するユニットでありながら,家族を形成する男女はその時から有る意味で恋愛を捨てなければならないという矛盾をはらんだものだと思うのですが,そういう意味で家族の中に流れる痛々しい感情を適格に表現しているのがこのタイトルだと思います.解説は,大矢博子氏. |
60 |
無花果の森 |
2011 |
新潮文庫 |
★★★★★ |
映画化された,2011年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞作.失踪者と逃亡者のラブ・ストーリですが, DV と薬物依存というでらちゃんにとってはすご〜く身近で関心の深いモノをモチーフとしているので,登場人物への感情移入がとてもしやすかったです.また,老齢の女流画家と還暦まぎわのおかまといった脇を固めるキャラクターも魅力的に描かれていて,一気に読めてしまいました.最近小説離れしているでらちゃんにとって,読書意欲をそそられる数少ない作家のおひとりです.解説は,青木千恵氏. |
61 |
沈黙のひと |
2012 |
文春文庫 |
★★★★★ |
2013年度吉川英治文学賞受賞作.エッセイからスタートして推理小説・恋愛小説の大家となった作者が,新しいテーマに取り組んだ意欲作ですが,それにしても重くなりがちなテーマをサラッと読みやすく料理してしまっている作者の筆力には今さらながら感心させられます.でも,身内に作家がいなくてよかった(笑).解説は,持田叙子氏. |
62 |
二重生活 |
2012 |
角川文庫 |
★★★★★ |
作者久々のミステリーですが,殺人事件も警察も出てきません.でも,ごく平凡な普通の女性である主人公の行動を通して,あたりまえの人間の嫉妬妄想や心の闇を見事に描いたこの作品は超一級のミステリーだと思います.解説は野崎歓氏. |
63 |
モンローが死んだ日 |
2015 |
新潮文庫 |
★★★★★ |
精神科医療にまつわるミステリー.私にとってはすごく身近なテーマなので,本当に興味深く読ませていただきました(笑).ネタばれになってしまうので詳しくは書けませんが,日本の精神医療の実態を知るものにとっては,この作品の最後の方に書かれていることはとても納得できることなのです.解説は最相葉月氏. |
64 |
死の島 |
2018 |
文春文庫 |
★★★★★ |
でらちゃんは以前『本の虫』で,毎日お出かけしていた時は電車の中でもず〜っと本を読んでいたのですが,今回のコロナ騒ぎで家に引きこもるようになって,ネコと一緒に夜寝て朝寝て昼寝する生活に慣れてしまうと全く本が読めなくなって.コミックでさえ1ページで眠くなってしまうようになってしまいました.それで,このサイトののコーナーが消滅してしまい,のコーナーも全く追加更新していなかったのですが,久しぶりの小池さんのこの新作を手にしたところ,450ページをほとんど一気に読み終えてしましました.この人の作品の魅力はそのプロットもさることながら,何といっても女性ならではの優しく読みやすく理解しやすい文体にあると思います.さて『尊厳死』をテーマした内容ですが,でらちゃんは以前から『自殺』というものに対しては懐疑的で,『自殺』と呼ばれる死に方のほとんどは『病死』か『事故死』であって,真の意味での『自殺』というものはその存在を認めることが難しいのではないかと思っておりました.また,いわゆる『自殺』に対する考え方としては,一応クリスチャンなので否定的な見方をすべきなのでしょうが,個人的には自分の意志で生まれることができなかった人間に与えられた最後の自由であるような気がするので,一概に否定はできません.それどころか,芥川龍之介,太宰治,沖雅也,日高富明,加藤和彦(敬称略)といった自害した有名人にはそこはかとはなくですがシンパシーを感じているのです.また,周囲にも自ら生命を断った知人がわりと多く存在していたので,一概に否定する気にはなれないのです.人の一生を考えたとき,要らなくなったものを一つ一つ手放していくのは非常に楽な生き方だと感じていて,最後に要らなくなるものが生命であって,それを捨てて一生を終わるというのはある意味『自殺』ということになるのかもしれませんが,それはそれでよろしいのでは? 解説は白石一文さん.謹んで藤田宜永さんのご冥福をお祈りいたします. |