小池 真理子

長編小説4(2003 - 2012)



レモン・インセスト

2003

光文社文庫

★★★

 「禁断の恋をテーマに,純粋な愛の行方を描く,美しい物語」だそ〜ですが,前半のストーリーの展開は,流石ミステリ作家としての面目を躍如するサスペンス・タッチで,読者をぐいぐい物語に引き込む力強さに溢れています.しかし,残念ながらこういった話の場合こ〜いったラストは,いわゆるひとつの『お約束』なのですが,他に何とか持っていくことができなかったのか? この作者の力量からすれば,それも可能だったと思えるのですが....

瑠璃の海

2003

集英社文庫

★★★★★

 Della ひねくれているもんで,だいたいハッピーエンドで終わるお話には,続編作って主人公の幸福滅茶苦茶にしてやりたくなるのですが,こういう手があったのね? 失意のどん底に堕ちた主人公が最高の幸福を掴むまでを描いた,究極のハッピーエンド小説.おそれいりました.解説は,鵜飼哲夫氏.

エリカ

2005

中公文庫

★★★★

 『現代の愛の不毛に迫る長篇』だそうですが,単なる恋愛小説で終わらせないあたり,やはりこの人本質的にはミステリ作家なんだな〜って思います.

愛するということ

2005

幻冬舎文庫

★★★★

 『エリカ』の湯浅竹彦と宮本洸一もそうでしたが,この作品でも野呂貴明と柿村陽三という主人公をめぐるキャラの対比が作品を生々しく魅力的なものにしている(?)と思います.さて性欲と性愛の違いとは?

虹の彼方

2006

集英社文庫

★★★★★

 第19回柴田錬三郎賞受賞作品.670ページを一気に読ませてしまう究極の恋愛小説.こういうの読むと,恋愛はやはり一種の狂気であり,ミステリーであると納得させられてしまいます.解説は,伊集院静氏.

美しい時間

2006

文春文庫

★★★★

 村上龍氏との共著.『ネスカフェプレジデント25周年記念・美しい時間キャンペーン』のために書き下ろされた小池氏の『時の銀河』と村上氏の『冬の花火』の2篇の中編小説が収録され,『まえがき』を小池氏,『あとがき』を村上氏がそれぞれ書いています.『時の銀河』について,やはり人間の持つ感情の中で一番冷酷なのが恋愛感情なんでしょうね? 村上氏が小池氏を競作のパートナーに選んだ理由として,「あ.こういうのは男であるおれには思いつくのは無理だな」と思わせるものが彼女の作品には必ずあったとしてますが,まさにその通りだったんだろうと思います.

青山娼館

2006

角川文庫

★★★★★

 性と生,性と愛,性と恋,そして性と死を真正面から見つめて書かれた作品だと思います.ここまで書いちゃえるのはやはり女性だから? 後半のたたみかけるような展開はやはりミステリーだと思います.描かれているキャラクターもそれぞれ魅力的に描かれていて,読者の共感を誘います.



望みは何と訊かれたら

2007

新潮文庫

★★★★★

 作者30代の時に書かれた『無伴奏』,40代の『恋』,そして50代のこの作品と,1970年代前半,渾沌の時代を背景にした一連の作品には,やはり Della ちゃんにとっても一番懐かしい時代なので,すごく思い入れ感じてしまうのです.ただ, GID MtF(性同一性障害者)の Della ちゃんとしては,この作品の主人公に対して,女性としてはすご〜く共感できるのですが,男性としては全く共感できません.やはり女と男って全く別の生き物なんだろね? 解説は,重松清氏.

午後の音楽

2008

集英社文庫

★★★

 全編メールの会話による斬新な恋愛小説.感情表現の手段として,メールは現代生活において書かせないものとなっていますが,日常生活でこんな長文のメールのやり取りって,ビジネスレターでもない限りあまりする人っていないと思う... シチュエーションにおいて PC と携帯を使い分けているあたりは相変わらず芸の細かいところ.でも流石に絵文字は使っておりません.恋愛感情を音楽に例えたり, The Beatles の音楽に死の香を感じてしまうという感性は,やはりこの世代ならではだと思います.

ストロベリー・フィールズ

2009

中公文庫

★★★★

 文庫本で650ページ近くに及ぶ大長編.もともとミステリー作家時代に『短編の名手』として評されていたこの作家の恋愛小説時代に入ってからの長篇は,ひとつのパターンとして(もちろん別のパターンも存在します)静かに始まり最初は穏やかな描写が続く内に,急遽突然の嵐のように物語が急変直下し,穏やかに集結するというものがあるのですが,この作品はその代表的なもので,後半に入ってからの物語の展開は読者に一気に読み切ってしまわせる魅力に満ちています.解説は,稲葉真弓氏.

熱い風

2009

集英社文庫

★★★

 『私』という一人称にyって語られる,恋人の死の真相を求めて異国をさすらう女性の物語.恋愛小説でありながらミステリー,という作者の本領を発揮した作品だと思います.解説は,温水ゆかり氏.

存在の美しい哀しみ

2010

文春文庫

★★★★

 『家族』をモチーフに,後藤家と芹沢家それぞれの『家族』の一員からの視点で描かれた7編の連作による長篇小説.家族ってもともと,男女間の恋愛が形成するユニットでありながら,家族を形成する男女はその時から有る意味で恋愛を捨てなければならないという矛盾をはらんだものだと思うのですが,そういう意味で家族の中に流れる痛々しい感情を適格に表現しているのがこのタイトルだと思います.解説は,大矢博子氏.

無花果の森

2011

新潮文庫

★★★★★

 この作者の作品としては珍しく映画化された,2011年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞作.失踪者と逃亡者のラブ・ストーリですが, DV と薬物依存というでらちゃんにとってはすご〜く身近で関心の深いモノをモチーフとしているので,登場人物への感情移入がとてもしやすかったです.また,老齢の女流画家と還暦まぎわのおかまといった脇を固めるキャラクターも魅力的に描かれていて,一気に読めてしまいました.最近小説離れしているでらちゃんにとって,読書意欲をそそられる数少ない作家のおひとりです.解説は,青木千恵氏.

沈黙のひと

2012

文春文庫

★★★★★

 2013年度吉川英治文学賞受賞作.エッセイからスタートして推理小説・恋愛小説の大家となった作者が,新しいテーマに取り組んだ意欲作ですが,それにしても重くなりがちなテーマをサラッと読みやすく料理してしまっている作者の筆力には今さらながら感心させられます.でも,身内に作家がいなくてよかった(笑).解説は,持田叙子氏.