岡嶋 二人


作品1 (1982 - 1985)



1 焦茶色のパステル 1982 講談社文庫 ★★★★
 第28回江戸川乱歩賞受賞作.馬の売買をめぐる3人の殺人事件に,狩猟会の存在とか汚職とかってモノがからみあって来て,その裏には競馬界を揺るがす恐るべき秘密と意外な真犯人が....って,結構ありそうなパターンではありますが,それなりに面白い作品でした.後半,かなりスリリングな場面もあるし.... 馬の血統に関する説明の部分は,少々難しいというか,読んでてめんどくさい部分あったけどね.この頃,競馬ミステリーって,ミステリーにおけるジャンルとして確立されつつある時期だったということですが,興味のない人間にとっては「ああ,そうか?」って感じ? そういえば,佐野洋さんなんかも何作か書いてますが,やはり他の作品に比べて優れているとは思えませんでした.というのは,私が競馬に関心がないだけの事なのですが.... この作者の特徴である,わかりやすい文体,及び,現代的で親近感のもてるキャラ描写は,この時期すでに確立されていて,以後安心して読んでいけるのでした.解説は,中島河太郎氏.
2 七年目の脅迫状 1983 講談社文庫 ★★★
 競馬ミステリー第2弾.発端は中央競馬会への脅迫ですが,その内容が,伝染病を馬に感染させるってところが奇抜といえば奇抜? 事件を調査していくうちに,7年前の殺人事件だとか,保険金詐欺だとかって,いろいろ出てくるわけですが,その辺の物語の進行過程が少々退屈かも....? 新たな殺人が起こると同時に犯人がわかってしまうのも,何か拍子抜けって感じだったし,ラストのハッピー・エンド的な雰囲気も,「これでいいのか?」(笑)なんて.... この作者にしては,なんとなく中途半端で欲求不満に陥りそうな作品でしたが,ま,初期の作品だし,本格推理として平均点以上の水準は保っていると思うし,いいでしょ.解説は,武市好古氏.
3 あした天気にしておくれ 1983 講談社文庫 ★★★
 第27回江戸川乱歩賞最終選考まで残った,作者の事実上の処女作に手を加えたもの.今回は前2作のような本格推理ではなく,半倒叙物ということになるのでしょうか? 事故によって骨折してしまった馬の故障を,馬主たちから隠すため狂言誘拐を企んだところ,真相を知る脅迫者が現れ, ....といった話ですが,十分にトリッキーな作風になっています.ただ,2億円の馬券購入のトリックなど,競馬に興味のない者にとっては,「ふ〜ん,そんなものか?」という程度のモノ(笑).大体が,人命より重い馬の命だとか,競馬ミステリーってわけわかんないとこあって苦手かも.... 解説は,佐野洋氏.
4
5
タイトルマッチ 1984 徳間文庫
講談社文庫
★★★★★
 今度はボクシングです.しかも誘拐事件です.というわけで,いよいよ『人さらいの岡嶋』の本領発揮という感じ.第一章『二日前』 - 特に気に入ったのが,ボクシング・ジムの会長・重松留次がモノすごく論理的な人物として描かれている点で,事件の発端からその事件がどういった意味を持つのか解説させることにより,事件の特異性を読者に認識させるのに,大きな役割を持たせている点,感心しました.第二章『前日』 - タイム・リミットを目前にいらだつ被害者側と捜査陣の描写,静かでありながらサスペンスに満ちあふれています.そして第三章『当日』 - 殺されていた容疑者,同時進行するタイトルマッチと捜査,そして試合の終了と真犯人の逮捕劇まで,息をもつかせぬくらいスリリングで,一気に読了させてしまう魅力を持った作品だと思います.解説は,新保博久氏(徳間文庫)・茶木則雄氏(講談社文庫・ミステリー専門書店『深夜プラス1』店長).
6 開けっぱなしの密室 1984 講談社文庫 ★★★★
 短篇集.『罠の中の七面鳥』・『サイドシートに赤いリボン』・『危険がレモンパイ』・『がんじがらめ』・『火をつけて,気をつけて』・『開けっ放しの密室』の6編を収録.ユニークなキャラ設定と読み易い文体,現代的な風俗描写によって,『都会派ミステリー』の旗手としての作者の地位を決定づけた作品集だと思います.個人的には,登場人物の独白と会話でストーリーが進行する『罠の中の七面鳥』,謎とき(ホワイダニット)の本格派で表題作の『開けっぱなしの密室』,そして後の『チョコレートゲーム』につながる現代社会の病理的現象みたいなものを主題とした『危険がレモンパイ』の3編がオススメです.解説は,新保博久氏.
7
8
どんなに上手に隠れても 1984 徳間文庫
講談社文庫
★★★★
 『人さらいの岡嶋』お得意の誘拐物.しかも,場所が大勢の人間が出入りするテレビ局,被害者が売り出し中の新人歌手,という事であれば,もうこれは興味津々というわけなのですが,期待を裏切らず,芸能プロダクションや CM のスポンサーの対応や駆け引き等,様々な登場人物の思惑が描かれ,単なる事件描写に終わっていないところは流石です.本格推理の旗手として語られることの多い作者ですが,この作品や『チョコレートゲーム』などを読むと,優れた社会派推理小説のストーリー・テラーでもあったと思えるのです.但し,この作品については,読んでいるうちに何となく結末が見えてきたような気がしたのは,少々残念でした.解説は,北上次郎氏(徳間文庫)・東野圭吾氏(講談社文庫).



9
10
三度目ならばABC 1984
(2010)
講談社文庫
講談社文庫(増補版)
★★★
 TV 番組『奥様お昼です』通称『奥昼』を担当する下請けウロダクション社員,織田貞夫(おださだお)と土佐美郷(とさみさと)の,通称『山本山コンビ』が活躍するユーモアたっぷりの連作短篇集.何とあのアガサ・クリスティをおかずにしてしまっている『三度目ならばABC』を始め,『電話だけが知っている』・『三人の夫を持つ亜矢子』・『七人の容疑者』・『十番館の殺人』・『プールの底に花一輪』の6編を収録(増補版には未発表作品『はい,チーズ!』を追加収録.ユニークなキャラ設定をその作品の特色の一つとする作者ですが,この連作集ではそれが少し裏目に出てるかも.それぞれのストーリーやそこに使われているトリックは面白いのですが,何せ主人公のキャラのアクが強くて,そちらの方に目を奪われてしまうような感じがして,「あれっ?」って言ってる間にストーリーが終ってたりして(笑).解説は,新保博久氏,薬丸岳氏(増補版).
11 チョコレートゲーム 1985 講談社文庫 ★★★★★
 日本推理作家協会賞受賞作.私,この作者の作品の中で最初に読んだのがこの作品だったんですけど,やはり最高傑作だと思います.ストーリーも息つかせぬくらい面白いし,肝心の謎解きの部分も説得力あるし.... また,パソコン世代の中学生の生活の描写等,書かれた年を考えると,まさに時代を先取りした作品だったと思います.作者が大好きな競馬も,事件の重要なファクターになっているし,カセット・テープを利用した犯人のトリックも(あまりにも簡単すぎて)意表をついているし.... 本格推理小説としても,社会派推理小説としても,また,父親の心理を描いた現代風俗小説としても,超一級の作品だと思います.解説は,権田萬治氏.
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なんでも屋大蔵でございます 1985 新潮文庫
講談社文庫
★★★★
 便利屋『なんでも屋の大蔵』こと,釘丸大蔵を主人公とする短篇連作集.『浮気の合い間に殺人を』・『白雪姫がさらわれた』・『パンク・ロックで阿波踊り』・『尾行されて,殺されて』・『そんなに急いでどこへ行く』の5話収録.何と言ってもおススメは猫ババアが出てくる『白雪姫がさらわれた』ですが,その他の話もかなり笑えて,しかもミステリーとしての基本に忠実.ユーモア小説というだけではなく,主人公・大蔵が鋭い勘と名推理で難事件・珍事件を解決していく,本格的な推理短篇集でもあります.解説は,宮部みゆき氏.
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解決まではあと6人
5W1H殺人事件
1985 双葉文庫
講談社文庫
★★★★
 謎の女・平林貴子から依頼を受けた興信所の探偵達がそれぞれ各章の主人公として,調査を進めるという形の,珍しい実験的な作品.それぞれの段階を経て,1つの事件の輪郭がだんだん明確になっていくと共に殺人事件が次々に発生,最終章で意外な犯人が明らかになり,事件は結末を迎えるという,ミステリー・おたくならずとも興味をひかれる構成で,一気に読み進めさせられてしまう力を持った作品だと思います.個人的には,各章でのそれぞれの探偵たちの捜査の描写が気にいっていて,特に第2章での『マッチ箱に二つの "V" の表記がある喫茶店』について登場人物・新藤雅男が披露する蘊蓄,第4章におけるコンピュータに関する理論等,読者の関心をひかずにはいられない論理性が見事です. 解説は,二上洋一氏(双葉文庫)・山崎洋子氏(講談社文庫).
16 とってもカルディア 1985 講談社文庫 ★★★
 連作短篇集『三度目ならばABC』でおなじみ,織田貞夫と土佐美郷の『山本山コンビ』が活躍する,今度は長篇です.『三度目ならばABC』の欄でも書きましたが,作者自身が気にいっていると思われる,このコンビの活躍する作品,どうも私苦手みたいで,確かにユーモアたっぷりで,文章も読み易く,ストーリー展開も面白いんですが,読後感がいまいちって感じなのです.これはやはりあまりに強烈な個性のキャラである土佐美郷に,読者である私が振り回されてしまうため,肝腎のストーリーの印象が弱く感じられてしまうところに原因があるような気がします.というわけで,このシリーズ,この作者の作品としてはあまり出来がいいとは思いかねるのですが,作者自身は気にいっているようです.もちろん,ミステリーとしての出来は,平均点以上だとは思いますが.... 解説は,結城信孝氏.