臨時教職員問題って何 ?

臨時教員の人間宣言

臨時教職員の任用〜それは教育費削減のための反則技

もの言わぬ青年教師づくり

教師の人権が守られない学校で子どもの人権が守られるか?

臨時教職員問題解決のために


臨時教員の人間宣言     山口八重子

 

嫁入り前の娘のように

しおらしく、愛らしく

返事は、素直にはっきりと

仕事は、まじめにきちんとします

 

私は、臨時教員ですもの

正式採用教員になれるように

次の任用が決まるように

 

仕事も修行のうち

毎日が売り込みの日々

どんな仕事でも

にっこり笑顔で引き受けます

嫁入り前の娘のように

 

ある日、「私、結婚します。」と言ったら

校長の目が、眼鏡の底から言った

「今年は、子どもを作らないだろうね。」

 

ある日、妊娠していることを知った私

任期が終わるまで、お腹の子が無事でいることを

ひたすら願っていた

「産休の先生が産休を取るなんて、できないもの。」

 

ある日、病気になり、入院することになった

「私、今入院するわけにはいかないんです。」

病院の先生に、半年延ばして下さいと泣きついた私

まだ、任期が半年残っていた

 

私は、こうして臨時教員生活を十数年続けてきた

いつも、自分の要求を笑顔の奥に押し込めて

 

ある年、一年間の期限付きの講師に任用された

たんぽぽの花咲く田園の中の学校で

ぴかぴかの一年生の担任だった

「先生、はなちゃんが泣いてるよ。」

「まさるくん、どうしたの。あらあ、のりがべたべた。」

「みっちゃんがまだ来ない。どうしたのかしら。」

子どもたちといっしょでうれしかった

そしていそがしかった

日中は子どもたちと真剣勝負

子どもたちが帰った後も

会議、授業研究、学級事務に職員作業

経験年数も多く、給料も高い私に容赦はない

雨あられと降ってくる仕事をこなし

家にたどり着くと、食事もそこそこに

畳の上に転がって眠ってしまう

夜中に目を覚まし、灯りの下で仕事に向かう

やがて睡眠時間が四時間型になり

仕事しか見えなくなってしまった私

 

別れの三月

「先生は、教員の鑑です。よくやって下さった。」

といって、校長は私を送りだした

そして四月

約束された仕事はなかった

「予定された学級増がなくて、申し訳ありません。」

教育委員会からの電話の一言で、私は、失業した

 

身をすり減らして働いても

教育委員会の都合で、首を切られる

どんなに教育成果を上げても

次の任用は確約されない

 

失業し、家で待機していても

四時間型の睡眠が体に残り

夜中に目が覚める

 

暗闇の中で、私の人生を考える

妊娠を心から喜べなかった私

自分の命よりも、仕事を心配していた私

家庭よりも、仕事に夢中だった私

そんな私に、教育委員会は

丈夫な体で、元気に仕事をこなす

私のいいところだけを欲しがった

 

生身の体で

病気にもなれば、疲れもする

子どもも産めば、家庭もある

年も取れば、老後もある

そんな私には、目をつぶり

私の人生のいいところだけを吸い取ってきた

 

でも、私は、生きている人間なんです

そして、人間を育てている教員なんです

私の体をぶち切りにして

いいところだけを食べないで下さい

私に、失業の代わりに、仕事を下さい

産休の代わりの先生をしてきた私に、産休を下さい

そして何よりも、自分の要求を言える権利を下さい

私は、今日、ここに、臨時教員は、人間であることを宣言します

 

一九九一年三月二四日

 

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臨時教職員の任用〜それは教育費削減のための反則技

 静岡県の公立学校では「講師」と呼ばれる多くの臨時教職員が働いています。その中でも1年の期限付きで任用される「定数内講師」、出産や長期研修などで職場を離れる教諭の代わりをつとめる「代替講師」、高等学校で授業だけを受け持つ「非常勤講師」などの種類があります。

 私たちが問題としているのは、特に「定数内講師」の任用です。

 教員の数は、いわゆる「定数法」によって最低基準が決められており、その基準に基づいて各自治体が決定することになっています。そして、その人数分の約半分に対し、給与の国庫補助が行われています。ところが実際には、静岡県では「定数法」の基準以下の教員数しか正式採用されておらず、不足分を「定数内講師」でまかなっているのです。たとえば平成10年度、小中学校の正式採用者数は290人でしたが、同じ年に任用された「定数内講師」は329人もいます。つまり、最低基準の半分以下しか正式採用していないのです。

 なぜそのようなことを行うのか。次の表を見れば答えは明らかです。

講師と教諭の給与比較
号俸 1級(講師) 2級(教諭)   差額
  1    ー    ー  
  2 150400円 166400円 16000円
  3 156900円 174800円 17900円
  4 164200円 184000円 19800円
  5 172300円 195100円 22800円
  6 181500円 202100円 20600円
  7 191600円 209500円 17900円
  8 198400円 217100円 18700円
  9 205300円 225100円 19800円
 10 212000円 236400円 24400円
 11 218900円 248300円 29400円
 12 226000円 260400円 34400円
 13 233700円 273300円 39600円
 14 241200円 286400円 45200円
 15 248400円 299800円 51400円
 16 255500円 313800円 58300円
 17 262300円 327700円 65400円

 講師の場合も教諭と同じように、勤続年数に応じて号俸があがっていきます。しかし、任用が必ずしも継続するとは限らない上、もしも続けて任用があったとしても、17号俸では教諭との間に65400円もの差がつけられてしまいます。これがボーナスとなるといくらの差になるのでしょう。しかも、講師の号俸は17号俸が上限とされ、これ以上の昇級はありませんから、これ以後はどんどん差が開くばかりです。

 講師には退職金もないことなどを考えれば、人件費を削減するためにこれほど都合のいいやり方はないでしょう。

 

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もの言わぬ青年教師づくり

 臨時教職員を任用することのもう一つのメリットは、教員統制に役立つということです。

 「求める会」が行ったアンケート調査では、20歳代の臨時教職員61人のうち、39人が、「職員会議で発言しづらい。」「校長や委員会の目が気になる。」などと答えています。採用数が年々減っている今日、一番子どもたちに近い感覚を持っているはずの若い教員は、たいていの場合臨時教職員です。この人たちが校長や委員会の目を気にして、職員会議で反対意見も言えず、思い切った実践もできないでいるとしたら、日本の教育にとって大きな損失ではないでしょうか?

 多くの若い臨時教職員は、正式採用をめざして毎年教員採用審査を受けていますから、「にらまれたり失敗をしたら採用審査の結果に影響するかもしれない。」と考えるのは仕方のないことです。実際、「校長から『一次さえ通れば後はなんとかしてやる。』と言われた。」という話は少なくありません。暗に「校長や委員会にはたてつくなよ。」と言っているようなものです。

 また、臨時教職員はいったん任用期間が切れたら、次の任用があるかどうかの保障はありません。校長に呼ばれて「来年は臨時教職員の任用が減るので、今いる2人のうち、どちらかにやめてもらうことになります。」と言われた、というような話も実際にあるのです。このような不安定な状態で、来年の自分の仕事を心配しながら、それでも目の前の子どもたちのために一生懸命働いているのが臨時教職員なのです。

 

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教師の人権が守られない学校で子どもの人権が守られるか?

 臨時教職員には、給与のほかにも様々な差別があります。

 たとえば、年次有給休暇が教諭には年間20日認められ、20日を超えない範囲で繰り越しもされるのに、臨時教職員には任用期間に応じて3週間に1日(つまり1年勤めても17日)しか認められず、繰り越しもありません。また夏休みには、教諭にはリフレッシュ休暇と夏季休暇という特別の休暇があるのに、臨時教職員にはそれがありません。そのため任用期間の短い人の中には、夏休みの誰もいない職員室で一人で勤務していた、という人もいます。

 さらに、教諭であれば結婚したら特別休暇が、身内に不幸があれば忌引きが認められます。しかし、臨時教職員には特別休暇が認められず、忌引きも教諭より少ない日数しか認められません。これなどは人間として一人前に扱われていないと言っても過言ではありません。

 県教委は、「定数内講師」を任用する理由について、「児童・生徒の急減期に教諭の生首をとばさないための措置。」であると言っています。つまり、今は働かせるだけ働かせておいて、子どもの数が減り、学級数が減ったらそのまま使い捨てにしようというのです。県教委がこのような態度ですから、学校現場においても臨時教職員に対する扱いが差別的になる場合が少なくありません。

 たとえば、非常勤講師には机やロッカーなどを配布しない、というのもそれです。教諭には机が配布され個人のファイルや資料などが山積みされているのに、非常勤職員には自由に使えるスペースが与えられていないのです。そのため、非常勤講師は毎日大きな鞄に必要な資料や教材を詰め込んで出勤するということになります。また、学校の都合で時間割が変わったのに、非常勤講師への連絡がなかったためにせっかく出勤しても授業がなかった、などということもあります。先のアンケートでも、非常勤講師のほぼ全員が「学校の中で疎外感を感じる。」と答えています。

 学校では一人一人の子どもがみんな平等に大切にされなければならないのは当然です。どの子もかけがえのない存在なのですから。

 しかし、その子どもたちを育てる教師の中に差別があり、一部の教師が疎外感を感じ、心ない扱いに傷つけられているのです。そのような学校で、本当にどの子どもも平等に大切にされるでしょうか?

 

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臨時教職員問題解決のために

 「求める会」は、臨時教職員問題を解決するために、つまり、すべての教職員が安心して生き生きと働くことができ、一人一人の子どもを大切にする教育を実現するために、次のような総合政策を発表し、要求書として県教委にも提出しています。

 

臨時教職員問題を解決し、すべての子どもたちに行き届いた教育を保障するための総合プラン

1,必要な教職員はすべて正規採用し、ゆとりある学校を作る。

(1)できるだけ早い時期に30人学級を実施する。当面は小学校1年生と中学校3年生での30人学級を実施する。

(2)学級減を予測して教員を少なめに配置する姿勢を改め、40人未満の学級が生まれた場合には県の財政負担で学級数を維持する。

(3)採用候補者名簿登載者の人数を増やし、年度途中で予想外の学級増や退職者が出た場合には教諭の中途採用で補充できるようにする。

(4)産休に入る教員がいると年度始めからわかっている場合には、正規教員を加配し、年度途中で学級担任が替わらなくてすむようにする。

(5)僻地加配を行い、複式学級を解消する。

(6)小規模校であっても必ず各学年1名以上の級外教員を教諭で配置する。

(7)当面の措置として、一人の教員の持ち時間数を小学校は20時間、中学校教員は18時間、高等学校は15時間を上限とし、最低でも1日2時間以上の空き時間をつくるようにする。

(8)免許外教科を担当する教員を解消する。

(9)すべての学校に養護教諭の複数配置を実施する。

(10)すべての学校に専任の図書館司書を配置する。

(11)聾・盲・養護学校とその他の学校との強制的な交流人事をやめ、専門知識を持った教員の確保を積極的にはかる。

(12)普通学級に障害児を受け入れる場合には必ず副担任をつける。

 

2,県民の目に見える開かれた教員採用を。

(1)教員採用選考審査の審査内容、選考基準、筆記試験の問題などを県民に公開する。

(2)受審者に対し、審査項目ごとの結果をできるだけ詳しく通知する。

(3)選考結果を県民に公開する。

(4)一次審査と二次審査のねらいをはっきりと区別し、一次審査合格者は次年度の一次審査を免除する。

(5)採用選考に置いて臨時教職員を含む教職経験を考慮する。

(6)選考審査の審査官、筆記問題作成者の中に、父母や教育学者など、教育委員会外の人を加える。

(7)性別、妊娠の有無、出身大学、所属団体などによる差別をなくす。

(8)願書の記載項目から、家族構成、卒業研究テーマなど、差別につながるおそれのある欄を削除する。

(9)教育実践力や教育にかける熱意を重視した審査を行う。

(10)教育委員会と教職員や父母の代表との間で教員採用制度に関する意見交換の場を設ける。

 

3,臨時教職員の待遇を抜本的に改善する。

(1)臨時教職員の任用方法を改善する。

 @労働条件を文書で明示し、着任する前に十分な説明をする。

 A臨時教職員の任用にあたっては、経験を十分考慮した選考を行う。

 B臨時教職員の着任状況や各学校の欠員についての情報を公開する。

 C妊娠、病気、長期休業などを理由とした任期途中の退職や、辞令の切りつめをなくす。

 D条件があれば、同じ学校にできるだけ長く勤務できるようにする。

(2)臨時教職員の労働条件を改善する。

 @臨時教職員の給料表を教諭と同じ2級とし、頭打ちをなくす。

 A臨時教職員が教諭に採用され、臨時教職員を退職してから教諭の辞令発行までに日にちがあく場合には、その日数を見なし採用期間として経歴に含める。

 Bボーナスの基準日を廃止し、勤務日数に応じてきちんとボーナスを支給する。

 C有給休暇に関する規定を教諭と同じものにする。

 D年次有給休暇の繰り越しを認める。

 E退職の際には勤務日数に応じて退職金を支給する。

 F臨時教職員も職員健康診断の対象とする。

 G非常勤職員の報酬を月決めとする。

 H非常勤職員の勤務時間に、職員会議や打ち合わせ、成績処理の時間を含める。

 I非常勤職員の時間あたりの報酬を引き上げる。

(3)現場での臨時教職員差別を解消するよう校長を指導する。

 @生徒や保護者の目につく場での「教諭」「講師」の職名の使用をさける。

 A臨時教職員にも校務分掌や部活動顧問などの希望を確認したうえで校内人事を決定する。

 B非常勤職員にも専用の机やロッカーなどを配分する。

 C行事による時間割変更など、非常勤職員への連絡を徹底する。

 


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