シーケンサー

ミュージック・シーケンサー:音楽専用
(シーケンサーって、音楽用以外にもあるんですヨ)

 

シーケンサーは音そのものを録音するのではなく、デジタル信号の読み出し方を記録&出力します。

カセットテープを再生する時、目的の録音にたどり着くまでは「途中通過」しなければなりません。これに対し、レコードやMD、CDなどは「曲順」さえわかっていれば一発でたどり着けるので「頭だし」というニュアンスがありません。これを「ランダム・アクセス」と呼び、対してカセットなど順を追って探す方式を「シーケンシャル・アクセス」と言います。(本と巻物の関係も同じですね)
また、初期の全自動洗濯機のように「順番通りに作業をこなす機器」を「シーケンス制御されている」と定義し、途中経過や結果を反映する制御「フィードバック」とは区別されています。ランダムアクセスができて、入力信号で順番に沿ってシーケンシャルに演奏をするこの装置は「ミュージック・シーケンサー」と呼ばれるのが本来です。音ではなく楽器の操作手順を処理するのですから楽譜に「限りなく似ている」と言えます。

  • 「楽譜は単なる音の記録・再生データではない」という論拠は、このシーケンスデータとの比較にあります。

音源一体型シーケンサーの古典的代表格は「オルゴール」です。
シーケンスソフトの表示によくある「ピアノロール」とは、自動演奏ピアノのデータを「紙に穴をあけて」記録したロールペーパーを模したもので、ピアノのオルゴール化と考えるとわかりやすいでしょう。このロールを挟み込んでいる楽器が電子ピアノだとすれば音色も自由に選べ、これがシーケンサーにとっての「音源」と呼ばれる部分です。また、シーケンサーのデータを一覧表にしたものは「イベントリスト」などと呼ばれています。

ミュージックシーケンサーは「どの高さの音を」「どんな強さで」「どれくらいの長さで」「いつ」「どんな音色で」演奏したかを電子処理し、音源や電子楽器に渡します。また、曲順に応じてミキサーや照明器機など舞台装置をコントロールする事も出来るので、パソコンによる一括管理にも利用されています。

一般によく使われているのはMIDI規格に基づいたMIDI(ミディ)信号です。

オーディオ信号とMIDI信号の比較イメージ
オーディオ信号は重量が多く、ノイズの混入や取りこぼしが起こりやすい。

音源(つまり楽器)に届ける、一定の様式で書かれた仕様書のような感じですので、音そのものを記録するオーディオ信号と比べて格段に少ない情報量で済む上、原理上複写や転送が簡単で壊れにくいのです。


MIDIの原理を料理に例えれば

誰かに得意料理を教えるとき、伝え方として次の2通りの方法が考えられます。

  1. 材料をすべて用意して目の前で作って見せる。
    または、冷凍やフリーズドライの技術を駆使して「現物」を届ける。

  2. 材料、器材、火加減、時間管理、盛り付けまで事細かに「紙に書いて」見せる。

 

  1. は「そのもの」ですから、ほぼ本物が出来ます。ただ素材を運ぶのは手間ですし、途中で痛んだりゴミが混じることも考えられます。それにいつもうまくゆくとは限りませんし、劣化も無視できません。これは極端な例ですがいろいろな意味でオーディオ信号の記録に似ています。

  2. この方法は紙一枚とか二枚とかの問題ですので簡単に運べます。少々紙が汚れたり文字そのものが下手でも「読めさえすればよい」訳ですから、多くの場合作成者の表現がそのまま伝わります。又、消しゴムで特定の部分だけ訂正したり「切り貼り」や「コピー」を使って自由にレイアウトを作り出せます。(ワープロみたいなもんですね。)これがMIDI信号に例えられます。

    でも大問題があります。
    こちらの言う事を相手が「理解してくれるかどうか」です。まず文字や記号が読めなかったら話になりませんし、同じ名称でもぜんぜん違うものを意味していたら台無しです。そこで共通の言語と、「冷蔵庫の三段目の左端にある物がなにか」など格納場所の細かな様式を決めておけば、あとは簡単な「情報」だけで済みます。この取り決めをMIDI(Musical Insturment Digital Interface)規格といい、MIDI端子とケーブルなどを通じてメーカーを超えた演奏が可能になったのです。

この「世界共通規格」こそが、デジタル楽器の飛躍的な発展を呼び、安価で統一性の保たれた音楽作成環境を形作ったと言って過言ではないと思います。MIDIによる楽器間の通信統一無しには「ネットとパソコンによる音楽の双方向性」も、「通信カラオケの高速レスポンス」も、「携帯の着メロ」も実現しなかったことでしょう。

また、2007年に発売されネット上に演奏が多数公開されている 初音ミク などのボーカロイドは、「音源限定」「ノート毎の多様なパラメータ」「リアリティ追求」といった機能を持った「サンプラー音源一体型のシーケンスソフト」と言えます。

電子楽器の背面にある MIDI 端子 (5pin)
INは受信、OUTは送信用。通過端子のTHRUが付いた機種もある。

 

当初はメーカーによって楽器の定義や発音の過程がまちまちでしたが、今日では雛型を定めたGM(General MIDI)が一般的になりました。これにより、楽器やデータにGMマークさえ付いていれば作成された時と同類の楽器が鳴り、編成上の矛盾は起こらなくなります。ただし、一部の音が出なかったり楽器のニュアンスが違ったりで「音楽」としての表情は上手く伝わらないことが多いようですので、作り手としては「動作確認」がとても大切になります。

GMより綿密な再現の為のGSXGなど上位規格もありますが、ここまでくるとそれぞれ開発元の戦略的な意図が表面化していて、結局製作側は細かい規定を無視して下位規格のGMに絞った音作りをする事が多くなります。(それぞれ更に上位規格があるようです。私は興味なし。)

音源マークが同じであっても、音が全く再生されない事があります。それは「楽器の並び方」が正しくても、「楽譜の読み方」が異なる場合があるからです。MIDIデータの読み書きでは SMF(Standard MIDI fail)という統一規格が一般的です。今日ほとんどのMIDI対応機はこれに準拠しているので、意識しなくてもめったに問題は起こりません。

しかし異なる器機で伴奏データのやり取りをする(メール添付などを含む)時など、この形式の呼び名がいろいろあるので混乱を招いている事がしばしばあります。古い電子楽器ではデータ保存の際に「 MIDIファイルとして・・・」 「標準MIDI形式で・・・」 など様々な表現がされています。近年SMFの概念が普及した為「SMFで保存」という表記が多く見られるようになりましたが、古い楽器でもそれ固有の保存形式以外のものはおおよそSMFの事を指しているようです。SMFが普及し始めた1990年頃を境に考えるとよいでしょう。また、2000年以降のシーケンサー内蔵型の電子ピアノなどにはSMFではないファイル形式が標準になっている場合が多く、これらからデータ(フロッピーやフラッシュメモリなどを介したもの)を取り出して編集などする場合は、SMFにしないとパソコン編集などが出来ません。

GM SMF GS XG
音源配置など、標準的なMIDI演奏定義。ジェネラル・ミディ。 標準のMIDIフォーマット。スタンダード・ミディ・ファイル。 R社型音源の排他的演奏定義。 Y社型音源の排他的演奏定義。

SMFにもフォーマット0や1など種類がありますが、単純演奏データは通常「フォーマット0」です。演奏以外(楽譜作成など)で使用する時は必ずフォーマットの確認しましょう。たとえば「パートを別々に認識させる」機能があるフォーマット1は多段楽譜(フルスコア)としてMIDIデータを使う場合に必須です。これを無視して楽譜作成ソフトにフォーマット0でフルバンドを読み込ませると、全パートが1段の楽譜になってしまいます。(その様は笑えないほどスゴイものですヨ)


 

手動入力(リアルタイムレコーディング)の手順

  1. シーケンサーと楽器を接続します。
    楽器の「MIDI OUT」からシーケンサーの「MIDI IN」へとMIDIケーブルをつなぎます。

    →内蔵型(電子ピアノやオールインワンシンセ)では、この手間はいりません。
    (接続)

  2. 入力(事実上の録音)をするトラック(tr)を決め、楽器を選びます。
    トラックとは、競技場の走るラインであるトラックと同じ意味で、一斉に走り始める時の横並びを表現しています。トラックごとの楽器指定は、多くの汎用GM機において次のように標準化されています。

    2tr=ベース、3tr=左手演奏、4tr=右手演奏、10tr=リズム
    1trはソロパート(事実上任意)、11trはリズム補助(非対応多し)、他任意

    ですので、ピアノ練習などでMIDIデータを作成する時はこれに従うと管理しやすいでしょう。
    実際は10&11以外を自由に設定する事ができます。


    →シーケンサー内部の「演奏者」が楽器を決めることになります。
    発音する優先順位が決められているので、同時に鳴らして音切れ(同時発音数の制限)するパートは2tr1trに持ってくると良い結果が得られるでしょう。鳴ってすぐ消えるパートを5〜16へ移し、伸びる必要のあるストリングやペダル使用のピアノなどを1or2トラックにすれば優先して鳴ってくれます。(トラック変更は管理が複雑になる弊害もあり)この事は一概には言えないので、明細は必ず使用器機やデータの説明書などを参考にして下さい。
    (プログラムナンバーの設定、パート設定、トラック・アサインなどといいます。)

1 2 3 4 5 6 7 8
ソロ(任意) ベース 左手 右手 任意 任意 任意 任意
9 10 11 12 13 14 15 16
任意 リズム 準リズム 任意 任意 任意 任意 任意

各トラックに推奨されているパート設定(16トラックの場合)

 

ボタン
実際のトラック 10、11 1 2、
5〜9、
12〜16
3 4
役割 リズム&効果音 ソロなど 伴奏一括 左手 右手

学習用シーケンサー(MT300等)のボタン対応一覧
16トラックで作成したデータが自動的に割り振られます。

 
  1. 初期テンポを決定します。たいていは初めに入力したテンポが記録されます。

    →編集で曲中テンポ変化も操作出来ます。
    →再生テンポは自由に変更できます。
    (テンポの設定)

  2. メトロノーム又はリズムに合わせて録音します。

    →この段階ではシーケンサー内部のバッファメモリーに一時的に保存されているだけですので、電源を切れば消えてしまいます。
    (レコーディング:内部メモリ書き込み)

  3. 演奏を聞いて「音量バランス」「ステレオの定位」「効果のかかり具合」などを調整します。エフェクターの設定や、外部機器との連絡もここでコントロールします。
    (コントロール操作、コントロールチェンジ:重複に注意)

  4. フロッピー、メモリースティックなど外部メディアへ記録します。
    (セーブ、外部メモリへの書き出し、保存作業)

保存作業は途中でも出来るだけマメに行います。手順では6番目になっていますが、上記4の直後などに一度保存し、後で加工したデータをその都度「上書き保存」すれば、不注意やトラブルでデータが全滅する恐れは減ります。また、うっかり操作で全滅するのを防ぐ為、「下書き」に相当する初期データを別にとって置くことを強くお勧めします。
(半年に及んだ作業が真っ白に上書きされる悪夢は、とても言葉には出来ない・・・@経験者!)

 

 

 

シーケンサーの長所

「速度、キーが自由に変えられる」
これは音楽を扱う人間にとって画期的なことです。テープなどのアナログオーディオ信号は「速度を下げたら音も下がる」のが普通だからです。最近進んでいるデジタルオーディオ信号処理技術でもスピード変更は出来ますが、どうしても音質や発音タイミングが不自然に劣化します。元の「音」がアナログである以上、避けられない障害です。
シーケンサーのテンポ変化では、音質は全く劣化しません。キー(音の高さ)だけ変えることも出来ますので移調(トランスポーズ)は簡単ですし、クラリネットやホルンなどの移調楽器の楽譜からも比較的容易に入力できます。ピアノで調性を上げたり下げたりして演奏する手間や技術を考えると信じられないくらい便利な事です。

「演奏を後から細かく編集できる」
せっかく良いノリで演奏できたのに、ミスタッチ一つのためにとり直すのはもったいないものです。また、いい感じで演奏したつもりでも「ちょっと揃っていない、僅かに!」なんて聞けば聞くほど悔やまれます。シーケンサーでは音情報を個別に編集できるので、音量やタイミングの変更など簡単にできます。「シンバル入れすぎでうるさい。少しカット」とか「この一音だけ妙に音が大きい、音量変更」など、後から聴いて気になる部分を修正できるのです。文章における「ワープロ」や、写真にとっての「レタッチ」のようなものと考えるとよいでしょう。手を加えすぎてワケわからなくなる事もあるので、元のデータは必ず別に保管しておきましょう。

楽器型ではないPCソフトシーケンサーなど、「一定時間ごとに自動保存」が設定されている事もあるので、いつの間にか元のデータがなくなっている場合があります。オプションで自動保存を無効にし、区切りごとに手動で保存する習慣を持ったほうが無難です。

「多重録音が出来る」
録音トラックが多いものはMTR(マルチトラックレコーダー)と似た使い方が出来、擬似デジタルMTRとして機能します。ピアノ曲なら片手ずつ録音しアンサンブルとして出力することや、パート譜やバンド譜からも演奏が可能です。また、思い付いたメロディーに自分で逐一別々の伴奏をかぶせるなど何通りもの演奏が記録でき、最終的にバランスやミス修正などを施してコントロールした音楽を鳴らすことが出来ます。
ただ、鳴る音は接続(又は内蔵)された音源によるものです。シーケンサーは録音機器ではなく、「音源に演奏させる器械」である事を忘れてはいけません。

「情報量が少ない」
始めに書いたように、MIDIデータはあらゆるオーディオデータに比較して「圧倒的に軽量」で動作し、その環境(インフラ)はかなり整っています。オーディオ信号を通常のフロッピー(1.44MB)に録音すると、音質などにもよりますが一枚でせいぜい一分間程度です。これに対しシーケンス情報はフロッピー1枚に交響曲一曲収めることも不可能ではありません。私が使い潰した「KORG 01W」の内蔵シーケンサーは、一曲あたり48,000の音符信号を一枚のフロッピーに複数記録できます。2〜3分のピアノ小品なら5〜30KB程度でしょうから何百曲も記録できるわけです。もっとも、管理が煩雑になるので満杯にすることはなく、アイウエオ順にライブラリを作って格納しています。
使用メモリは演奏時間ではなく音数などで決まります。(一音を10分伸ばしても1秒で終わっても「1音のデータ」でサイズは同じ。また、連打の多い曲は演奏時間が短くてもデータが大きくなります。下記「実例」参照)

「信号劣化がない」
これはデジタルに共通の利点です。理論的にシーケンサーのデータは何万回再生&コピーしても同じ品質を保ちます。著作権情報が盛り込まれているデータは、コピーを拒否される場合があります。

「クオンタイズが使える」
これはある意味で禁断の果実です。
「八分音符にそろえよ!」と命令を出すと、少しぐらいずれた演奏でもビシッと八分音符にそろいます。原稿用紙に文字を書き込むようなもので、タイミングのほか強さ・長さなどもそろえることが出来ます。味を占めて乱用すると「人が演奏する意味がなくなる恐れ」があります。ガイド用のリズム打ち込みや器械的な反復、次に書く「楽譜作成」の際に絶大な威力を発揮します。

「弾いた情報を元に楽譜を作る」
これの実現には楽譜作成ソフト(ノーテイションソフト)が別に必要です。
弾いたままに楽譜が出来るのですから、夢のような話ではありませんか。私はそもそもこのために業務へのパソコン導入を決めたのです。(1998年の事。ワープロも表計算も専用機を使っていたにも関わらず!)
しかし、どんなにメトロノームにあわせて弾いても、人間の演奏には揺らぎがありますから、そのままで意図した譜面が出来る事はまずありません。譜面化する演奏はきっちりメトロノームに合わせて(不自然なまでに機械的に)弾き、必ず上記クオンタイズで整理する必要があります。オールインワンシンセや一部の電子ピアノシーケンサーには、あらかじめ「ずれやミスタッチを自動修正する」プレ・クオンタイズを設定できるものがあり、慣れるとかなり便利です。

「選曲が素早い」
機種にもよりますが、MDプレーヤーやレコードと同じくランダムアクセスが出来ます。カセットテープのように頭出しをする必要がなく、番号を控えておいたり順番を並べ替えたりすることで、希望の曲をすぐ呼び出すことが出来るのです。コピーに制約がなければ、好きな順番でフロッピーなどにライブラリを作り、音楽会や催し物に活用できます。

「アシスタントプレーヤーになる」
私たちの教室で行っているリトミックや演奏会でシーケンサーは大活躍です。
テープレコーダーと違って選曲はすばやいし、テンポは自由だし、じっくり作り上げてゆくことが出来るので、納得のゆくアシスタントを常備しているようなものです。連弾やアンサンブルでもとても重宝しています。また、合唱団などの伴奏を必要とする場では、当座の伴奏音源やパート練習などに、伴奏者の負担を減らす使い方がいろいろと考えられます。同じ事を百回繰り返しても文句を言わない器械は、時として人間以上に頼もしい働きをします。(学習はしてくれませんが)

 

実 例

渡辺総生のMIDIハウス+実録(別窓)から
いずれも電子ピアノ一体型シーケンサーで手動入力したものです。


MIDIファイル( .mid)

 「ボエルマン:ノートルダムへの祈り(ゴシック組曲より)」 
4分35秒
6KB
ストリング3パートの多重録音。
メトロノーム代わりにピアノ独奏を初期入力、最後に削除。
メトロノームよりも細かい揺らぎがシンクロ出来ます。

 「ショパン:エチュード10−4」 
2分15秒
15KB
ピアノを片手ずつ慎重に(高速を意識して)ゆっくり入力。
シーケンスソフトに取り込んで楽譜に照合、ミスタッチ等を修正。
聴き映えのするテンポに設定して完成。

 

シーケンサーの短所

「生楽器からの入力は難しい」
実際の楽器、いわゆるアコースティック楽器で演奏したものをMIDI信号化するには少々面倒な手続きが必要です。ピアノならば鍵盤に細工をしてMIDI信号を発信できるようにしたり、いったんマイクで録音したものをAD変換という技術でデジタル化してMIDIにフォーマットしなおすなど、いくつかの方法はあります。でも出てくる音は「デジタル音源」の音だけで、元の楽器の資質には無関係になります。

「どうがんばってもMIDIは本物にかなわない」わけですから、シーケンサー入力は「シーケンサーのための演奏=データ作成」と割り切るべきです。

「互換性の差」
録音と再生が同じ基準で設定されていなければ、作成意図は反映されません。また、どんなにMIDI規格で共通認識(フォーマットのSMF、楽器規定のGMなど)を深めても、やはりメーカーや機種が異なれば出てくる音の表情・性格は変わるものです。多くの場合、聞き映えや再現性の高さ、精神性などが求められるシーンにMIDIは不向きです。高度な技術で録音された名演奏家のレコードより、目の前の知人がたどたどしく演奏する姿に心打たれる状況がしばしばあるのは、「音の記録」より「空間支配」の方が人の感性に直接訴えかけるからで、これこそが音楽の本質です。

そういう意味で、MIDIと対応電子楽器の普及は、決して旧来の楽器やライヴシーンにとって変わるものではない、と言えるのです。

「器械が合わせてくれない」
旋律を歌わせながら弾いているのに、伴奏が器械だから合わせてくれない。当然の事ですが、独奏の世界しか知らない人にとってこれは結構ツライようです。たとえ自分の録音であっても、入力してしまえばそれは「器械の演奏」です。自分から積極的に合わせたり、「合わせ方の分かる奏法」を身につけないとアンサンブルとして成立しません。

 

他にもシーケンサーの長所短所はあると思います。私も新しい機種と向き合うたびに頭を悩ませていました。でもこれだけは言えます。

シーケンサーの長所は、短所を補って余りある!

実際にアンサンブルを演奏し、聞いた結果を反映して音楽を組み上げる。この過程で「どんな神経と技術を使い」「どんな思いを込めて」音楽が作られてゆくかを疑似体験する事が出来ます。表面的なサウンドに左右されず、演奏者全員の苦労を(わずかですが)知る事も出来ます。
もしこの器械に出会わなかったらどうなっていたかと考えると、身の縮む思いです。「シーケンサーは便利な器械」なんていう安易な表現では、私の気持ちは納まりません。

シーケンサーは不可能を可能にする「忠実な道具」と言えます。

多重録音の目次に戻る

トップへ戻る