北城恪太郎著  丸善株式会社刊
202ページ    本体1,500円+税

経営者が書いた中学生に読ませる本

仕事の喜び、人生の価値

 日本の企業を代表する経済同友会の代表幹事で、日本IBM会長の北城恪太郎さんが、中学生に読んでもらうために、人生の価値、仕事の面白さを説き、いまの企業経営者がどういう人材を求めているかをわかりやすく書いた本を出しました(敬語略)。
 IBMといえば、世界最大のコンピュータ・メーカーで、80年以前に創業以来、常にコンピュータ産業をリードし、コンピュータの歴史そのものをつくってきた企業です。企業は、生きものです。IBMだってかつて1990年代の初めに日進月歩の小ぶりなコンピュータの登場の前に売上げが伸びず、当時で70年にも及ぶ同社社史上最大の危機に見舞われましたが、90年代の終わりには、単にコンピュータを造って売るのではなく、それをお客である企業がどのようにうまく使うかを提案するIT(情報技術)提案企業に生まれ変ることによって、見事に危機を克服しました。つまり、いまやIBMは、世界最大のIT企業に生まれ変わったのです。
 北城さんは、その間、日本のIBM子会社に就職し、システム・エンジニア(お客である企業がうまくコンピュータを経営に役立てる方法(システム)を提案し設計し、その運用を見守る技術者)として、日本の代表的電力会社、ガス会社、銀行の草分け的なシステムの開発を担いました。 第1章「仕事とはどういうことなのか」、第2章「経営とは何をすることなのか」、第3章「これからの会社はどうあるべきか」、第4章「これからの教育はどうあるべきか」、第5章「これからの君たちはどういきるべきか」からなっていて、北城さんは自分の経験の上に立って、噛み砕いて書いています。  1章、2章では、自分のつくったもの(システム)がお客である会社で役立つのを見とどけたときのさわやかな喜び、自分が経営のトップになろうと思わなくても、「お客である企業に価値を引き渡す」という信念にもとづいて仕事をしていれば、ちゃんと道は自然に開けるものだ、国籍など気にしない米国IBM本社に出向し、会長補佐として鍛えられ、経営というものに大きく目を開いた経験、帰国後はまわりが日本人ばかりという日本の特殊な環境を奇異に感じたこと、経営者の仕事とは社員にビジョンを示し、その実現に向かって日夜努力すること、社長の任務は後継者を見つけ出し、自分のあとをつがせること、などが述べられています。

地球規模の目を持て、学校の先生がたは、企業が求める人材が何かをわかっていない

3章では、いま世界の諸国は例外なくグローバルな(国内だけではなく海外諸国を含む世界全体を相手にする)経営環境に組み込まれつつあるのだから、それに即応した経営のやり方が必要になる、それにはいい大学を出たサラブレッドではなく、男性も女性も能力をもった人材が登用できる組織でなくてはならない、新しい事業に挑戦するベンチャー心(冒険心)をもった人材が必要、といったこれからの企業の条件が述べられています。  そして4章では、以上のような経営環境の変革に応じて、企業の採用試験ではもう学歴や成績は重要とは考えられなくなっているのに、そのことが学校へ伝わっていない、また、そのことが父兄、とくに 母親に伝わっていない、先生がたも企業に採用され企業で働いたことがないので、経営者の考えが変わっていることと、企業が市場主義、競争社会という環境で経営されていることを理解していない、といったことが強調されています。偏差値を重視するのではなく、学生時代に自分のやりたいことをみつけて、その専門を伸ばすことが大事だ(自分のやりたいことがわかっていれば、フリーターなどいなくなるはず)など、などが説かれています。北城さんは、経済同友会の教育委員会委員長として、自ら全国の中学校を訪問し、噛み砕いた講演をしてきました。  終章の5章で北城さんは、自分の経験に照らして中学生諸君に「人との出会いで「きっかけ」を掴む」、「学ぶ「きっかけ」を掴んで手段はいろいろと試す」、「自分の直感を信じて将来の道を決める」、「自分のやることと、世の中の関わりを知る」、「全教科優秀よりも誰にも負けない教科をもつ」、「自分のスタンスを決めて主体的に動く」といった助言をし、世界的な目をもつこと、日本人は英語を勉強し、会議などで堂々と自説を述べることを奨めています。  こういう本は、中学生だけでなく、その両親はいうに及ばず、できるだけ多くの大人が読む価値のある本だと思います。私にも中学2年の孫がいるので、ぜひ彼に読ませ、かつ両親にも読ませるつもりです。(評者・栗田昭平)

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