EXTRA

- Sea Summer Stryle -

That's a tiny, surplus and addition.

However,it's a something special

and precious for me, even for you.

―――――― We call, this is "EXTRA".

過去ログ - 10月 -

2007/10/09

『ロスト・ハイウェイ』視聴・雑感

以前、確か『ひぐらしのなく頃に』の考察サイトか何かでこのタイトルを見かけまして、気になっていたのを今回借りてきて見ました。以下その雑感。無駄に長いです。ネタバレを気にする方は気をつけてくだされ。

1周目(そう、珍しく複数回見たのですよ)の印象は「あれ、いろいろ辻褄合ってないっぽいけど、なんか噛み合ってね? ていうかループしてね?」というものでした。この時点では自分の中での情報整理も出来てないので話の構造がさっぱりわかりませんでした。わかったことといえばラブシーンがとてもエロティックだということぐらいで(笑)

そんなわけで2周目に入ったわけです。厳密には通しで見たわけではなく、気になる部分をちょくちょく拾いつつだったわけですが。んで、ここでようやくどうやら主人公ことフレッドの妄想が含まれているみたいだぞ、ということに気が付き始めまして。後半部で体験することを前半部で想起する部分などから、時系列も実はバラバラなのではないかとも考えました。それで、この時点での僕の見解は、牢獄にいるフレッドが最新で、他のシーンは過去の出来事なのではないかと予想。そして即座に破綻(笑) よくよく考えたらこれではピートとの入れ替わりに関する説明ができません。ていうか、説明さえしてないよこれじゃ。早くも手詰まりと感じたため、困ったときのgoogleさんに訊いてみました。以下参考にしたページ一覧です。


『映画の部屋』内解説ページ
『あの映画のココがわからない まとめサイト』内まとめページ
『電信柱』内解説ページ
『A46』内解説ページ
『Viva!Cinema』内解説ページ
『おとぼけ映画批評』内解説ページ
『e-NOVELS』内解説ページ

これらのページを眺めながら改めて検証してみた結果、ある程度自分の中での現実と妄想の区切りが付けられました。上記のページでは多くが現実と妄想が織り交ぜられていると言われていますが、敢えて僕はすべてが妄想であったとします。『A46』内解説ページにおいて、警察が観客に対してフレッド(ピート)の妄想世界を客観的(これは主観に対するそれであって、決して作品内における真実を指すのではない)に見やる視線を提供していることが言及されています。それは牢獄の中での入れ替わりへの気づきや写真に本来写っているものを見ることができたことからも伺えます。つまり、妄想世界において警察は唯一観客に説明をしてくれる存在であり、またその警察という組織の性質上、この世界における秩序を体現していると考えられるのです。故に彼らはどんなに不条理な展開の中にあっても、そこにおける事実を正しく認識できる。ここから、どうやら警察から見た(フレッド、ピートの視点が絡まない)内容は事実として信じることはできそうです。でも注意しなければならないのは、ここでいう事実は妄想世界のそれだということです。現実の事実とイコールになるかはまだわかりません。そこでもうひとつ、警察は秩序を体現する故にそれを自身に押し付けてくるという側面を考えます。これは妻殺しを追及される場面やラストのどこまでも追ってくるシーンなどから伺えます。だとすると、少なくとも妻殺しは現実における事実として考えることができるのではないでしょうか。つまり、フレッドは妻の浮気に対する猜疑心から殺人を犯し、裁判中もしくは獄中で妄想世界に入り込んでしまった、という形にとりあえずは落ち着けることができます。

そしてこういった映画内の人物がフレッド自身の側面を象徴しているというのは他の人物にも言えます。上記のページにも一部で触れられていますが、エディは妻を脅かす存在であると同時にフレッド自身の妻に対する破滅的な衝動を代弁し、妻への猜疑心はアリスという形で実際に男を誘惑し堕落させるという行為をもって表現されています。これはフレッドの妄想世界が彼の心的世界とも呼べるものであることを示しているのではないでしょうか。僕はなんだか自分とか妻の二面性が露出してたり現実と妄想がごっちゃになるあたりに『サイレント・ヒル2』のような印象を感じ始めましたよ。まあ全員を細かく分析していくと長くなるのでこのくらいで。

そして最大の謎は2つ。なぜループする(もしくはそう見える)のかとミステリー・マンは誰だったのか。この2つはひとつずつ説明できないと思います。何故ならミステリー・マンは世界の構造を知っているからです(アリス=レネエと告げること、お前は何者だと問うこと、など)。ならミステリー・マンとは誰なのか。彼は以前フレッドと自宅で会っており、複数個所に同時に存在し、世界の構造を知っている人物です。もし彼もまたフレッドの一側面であるとすると世界の構造を知っている理由がわからなくなります。フレッド以外の人物は彼が知りえない(正しくは忘却しているor捏造した)事実を知っていることはあれ、妄想世界をフレッドの妄想だと理解することはできないはずです(彼らにとって妄想世界=現実であるため)。つまりミステリー・マンは(妄想世界を含めた)フレッド自身を客観視できる立場にある人間です。しかしあの世界がフレッドの妄想である以上、そこに登場する人物は彼の中から生まれたものでしかありえないはずです。でなければあれはファンタジーになってしまいます。ならば彼は一体誰なのか。確か心理学だか何かで、自身と相対的な位置を占めるだとか、客観視できる心的存在を無意識と定義していたような気がします。もしそれを適用するならば、ミステリー・マンはフレッドの無意識ということになります。もちろん、この定義ならば上記の問題は解決します。そして、この仮定を用いればループの説明もできるように思えるのです。

エディはラスト直前でミステリー・マンによって殺されます。しかし、なぜフレッドによってではなかったのでしょうか。先にも言ったように、エディが象徴するのは妻を脅かす存在であり、妻への破滅的な衝動です。そしてフレッドは事実として妻を殺しています。つまり、エディが象徴する側面により殺害しているのです。フレッド自身がこのことを理解しているかはわかりませんが、少なくとも妻を奪い去る存在であることはわかっているはずです。だから彼はエディを殺そうとします。ですがどんなにエディが憎かったとしても、それは彼の一側面なのです。エディも彼であることには変わりません。だから殺せない。そこで出てくるのが自己と相対的な位置にいるミステリー・マンです。彼ならばエディを他者として殺害することができます。そして、ここにおけるフレッドとミステリー・マンの一致が、おそらくミステリー・マンの消失する結果になったと考えられます。なぜならばエディを殺害するという点で二人は意志が一致したためです。ミステリー・マンが消えた後に彼が持っていた銃をフレッドが握っていることからもそれが伺えます。ここでフレッドが妄想から覚めることができればこの作品にも救いはあったのでしょうが、実際にはループします。フレッドの何がいけなかったのか。それは自身の犯した妻殺しという事実をエディに託して一緒に否定してしまったことです。妻殺しは現実の事実として依然として存在し、それを(本来の)フレッドは知っています。だからこそ彼はこんなしち面倒くさい妄想世界を作って逃げているのです。つまり、どんなにエディと殺害の事実を否定したとしても、現実にその事実が待っている以上解決にはならないのです。破綻した妄想世界はフレッドの逃げる道を冒頭の道に繋げることでループさせ、存続を図ります。しかしフレッドが自分の間違いに気づかない限り、彼は巻き戻った自分に何度でも「ディック・ロラントは死んだ」と告げなければいけないでしょう。

最後にタイトル考察。"ハイウェイ"は高速道路。長距離の移動などに用いるものです。転じて、現状から抜け出すという意味合いが持たされているのではないかと思えます。それを失ってしまっているので、現状から抜け出せないということを比喩的に示したのではないかと。だらだらと書いてきましたがなんだかまとまっているようないないような(汗) まあ興味があったらレンタルででも見てみてください。ちなみにこの文章に書いたような考えがまとまってきた辺りから、この映画の怖さがようやく感じられるようになってきました。間違いなくもう一人じゃ見られない。

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