「出会えてよかったね。」
人の少ない喫茶店のテーブルの向こう側、由佳は言った。静かに、密やかに、つぶやくように。
その言葉は二人の空間を波となり伝わって来た。そして俺の頭脳の奥の奥に入る。
入り込む。考えさせられる。
俺は由佳と出会ってまだ3ヶ月。だけど、いつもこうして二人で同じ空気の波に打たれていると、
由佳は不思議なのが、神秘的なのが、魔術的なのが−−−分かる。
「どうしてなんだろう。何故なんだろう。」二人は考えた。
よく考えていた。考えるのが好きだった。そして今由佳が考えたのは「出会えてよかった。」事。
人はどれくらい居るのだろう。1億2千万なんて、たやすい数じゃないはずだ。生きて死んで。
死んでいった者達にも、意識は少しずつ違って存在していたのだから。
出会うのには沢山の条件が必要なのだ。時代と場所と運命と・・・諸々の世界を飛び越えて出会える。
見れる。すれ違える・・・触れる。
昨日挨拶を交わした少年。明日すれ違う大人。よくテレビで見るアイドル。
その人達に出会うのは、運命だけではないはず・・・ないはず。出会いたい気持ち。
もっと近づきたい・・・もっと知りたい・・・もっと見ていたい。
そういう気持ちで出会ったのなら・・・出会うことが出来たなら、大切なものにしたい。
出会いたくて出会えたのだから。よかった。出会えてよかった。
俺は答えた。「うん。」とだけ。そして、やさしく湯気の残るアップルティーを飲み干した。
外に出た二人は同時に視線を大空へと・・・空の雲の隙間へと投げる。