ある秋晴れの高い空の日だった。私はいつも歩いて帰る距離を、土曜日だけはバスで帰る。
これは気分的問題で、私の中の決まりだった。そして、そう、その秋晴れの土曜日、
いつもの様に山へ向かうバスに乗ったところ、クラスでは真面目で通っている藤村君が乗ってきた。
彼は反対に街へ降りていくバスに乗るはずだ。
バスの中は、団地で降りるいつもの少人数しか居ないが、私の他は誰も彼を気に留めなかった。
「バス間違ってるんじゃない?」と声を掛けようかとも思ったが、二人掛けの窓側に陣取り、
窓からボーっと外を眺める彼を見ていると、それは何故か出来なかった。
私は彼と反対側の一つ後ろの席に座り、少しワクワクしながら彼を見ていた。
何故こちらのバスに乗ったのだろう・・・。
少しするといつも降りる団地のバス停に着いた。同じ団地の人々はそれぞれの棟へ向かっていく。
私は降りなかった。私を留まらせたのは勿論藤村君の存在だった。
ガリ勉と言われ、いつでも教科書や本を手にしている彼。今日は少し違う様だ。
私はとても興味が沸いてきた。
バスの中は団地の学生が居なくなった為、ガランとしている。外の景色はどんどん緑を増して行く。
そんな時、とうとう待っていた瞬間が来た!藤村君がブザーを鳴らしたのだ。
降りたのは、まったくの山の途中であった。家もまばらだ。藤村君は降りる時私に気が付いた。
どうしてここに?という表情に私が自分から、
「御免なさい、勝手に付いてきて。だって藤村君はいつも・・・。」
と言うとそれを遮って、
「面白い人だね。大したことは無いけど、付いて来たいなら来れば?」
とつっけんどんだが優しい語感で言われたので、付いていく事にした。
暫く歩くと、左側に開けた場所があるのが分かった。段々と見えてくると、三方向が森に囲まれた
かなり広い原っぱだ。藤村君は歌を歌いながらずかずかと入っていく。
私は釣られる様にして足を入れると、草の丈はかなり高いのだった。
藤村君の歌声が風と同化して聞こえて来る。今日は本当に良く晴れ渡っている。
大分先に行ってしまった藤村君をふと見ると、彼は両手を広げ、風を受けていた。
その光景は何とも形容し難く、妙な感覚で私の脳裏に焼き付いた。
また空を見上げると、藤村君がどうしてここに来たのか、分かる気がした。
理由など、理屈など抜きなのだ。
はっと我に返ると、彼の姿は消えていた。唐突に、何の前触れもなく、私は置き去りに会ったのだ。
それでも彼が元いた場所を凝視していると、何か黒い物が空中に浮かんで草に沈んだ。
カバンだ!私は何故だかワクワクして走り出していた。彼の名前を呼ぼうとしたとき、
足下に段差があり、見事に滑り落ちた。そこにあったのは、藤村君の笑顔。
彼は寝転がると、又歌を歌う。
それは秋空と原っぱに響いた。綺麗な曲だ・・・と思った。
「今度その曲のCD貸してね。」
彼は小指を私に差し出す。
−−−ゲンマン−−−