読んだ作品
パーフェクトブルー/心とろかすような/龍は眠る/魔術はささやく/レベル7/火車/我らが隣人の殺人/
返事はいらない/ステップファザー・ステップ/今夜は眠れない/夢にも思わない/淋しい狩人/
東京下町殺人暮色/蒲生邸事件/とり残されて/長い長い殺人/理由/クロスファイア

★悲しくて優しい作品だと思っています。どの作品も人と人の触れ合いが大切に書かれていて、
罪を犯してしまった動機などがよく頷けます。どういうことをされた時に人間が怒りを覚えるのかとか、
そういう部分が凄く上手く伝わってくるんです。あと反対に、辛いときや厳しさに立ち向かうときに
どれだけ自分が愛されているかを思い知ったり、誰かが負けそうなとき、人の些細な言葉や優しさが
最大の助けになったり、そんな事が上手く表現されていて、たまに痛かったり、たまに泣けたり
たまに暖かい気分になったりしてしまうんです。読み終わった後はスッキリしてたりするから凄い。


★最初に「サボテンの花」ではまりました。「我らが隣人の殺人」のなかの1つの短編なのですが、
涙がボロボロ零れました。嬉しい涙なんですけど、ちょっと灰谷健次郎作品などに通ずるものを感じます。
トリックとか殺人とか無くて、ほのぼのしたような作品なんですけど、そこが宮部みゆきの最大の持ち味だと私は思っています。


★一番好きなのは「魔術はささやく」です。トリックも一番好きで印象に残っているし、
主人公とそれをとりまく人達の絆とか大切な物が沢山詰まっていて、
何度読んでも同じ感動を体験できる。途中鍵開けの知識とか、催眠術の知識とかが披露されているのですが、
他の作品にも速記術の知識なんかも出て来るので、その知識の幅の広さにとにかく感心してしまいます。
一体何処から仕入れてきたのかと思う。読んでいると雑学が身について行く様な、得した気分にもなれます。


★コメディタッチも楽しい。「ステップファザー・ステップ」なんかは、もぅ絶対に現実ではあり得ない
ハチャメチャな設定なんだけど、ほのぼのと、テンポのよい会話が総てを上手くくるんで、
どんどん読めてしまう。続編も書くとの事なので私はワクワクして待っているのですが。
しかしこれに出てくる双子のお茶目な事といったら!全員を巻き込んでほのぼのな世界に連れていって仕舞うという凄さ。
本当に天使のような双子。しかし実体は悪魔の様な双子(笑)。


★少年が主人公の話が多いのも特徴ですね。少年という存在はそれだけで独特の世界を作り上げる効果がある。
好奇心も有れば、冒険心もある。優しさも有れば、反対に惨さもある。そういう少し混沌としたカオスな存在
物語に立体感を持たせるのでしょうね。一番感情を同調させやすい。きっと誰しも少年の自分という面を
持ち合わせているのだから。その少年は不良ぶってみたり、したり顔でとつとつと哲学してみたり、
純粋に誰かを愛したり。宮部みゆきイコール少年主人公という特徴は歓迎すべき点だと思います。


★時代物でも注目されていますね。私は生憎1冊も時代物には手を出していないのですが、
(実は名前が時代物は弱くて読み進められない)私の母が全作読んでいて、とても面白いとはまっているのでした。


★SF的要素も取り入れている。「蒲生邸事件」タイムスリップ物なのですが、
そういう中にも規則が有れば解決もあり得ると教えてくれます。
私は226事件が個人的に好きだったりするので、そういう意味でもこの作品は好きなのです。
桜舞い散るラストシーンは切ないのにどうしてかほんわかと暖かくて
自然と涙が出ました。宮部みゆきの凄さを見せつけられた作品でした。