あなたは、今、好きな人いますか?
その人のこと、本当に好きですか?
なぜ、その人が好きなんですか?
こんな愚問を、胸一杯に抱えていた高校時代がこの物語の舞台です。
部活が終わり、薄暗くなった帰り道。
見たいTVドラマがあった僕は、
いつも通らない、高速の測道へ自転車を走らせた。
この道を行けば、いつもより5分は、はやく家に着くはずである。
猛スピードで走る僕の耳に、女の子の叫び声が飛び込んできた。
聞き覚えのある声。
近づいていくと、見慣れたブレザーの制服。
(うちの学校の子だ!)
「やめて!」
その声にハッとした。
(みほ?)
その声は、みほの声にそっくりだった。
僕のクラスメート。そして、僕の好きな子。
4人の男達に絡まれている。
助けないわけにはいかないよな...
と思いつつ、足がすくんでいた。
まわりは畑ばかりで、ひとけはない。
僕は決して、ケンカが強いわけじゃない。
しかも、あんな不良、4人も相手なんて、
結果は見えている。
でも、男達に引っ張られたシャツから、
みほの白い肌が見えたとき。
僕を締め付けていた優柔不断を振り払い、
僕はつっこんでいた。
「なんだ!このガキ。正義のヒーロー気取ってんじゃねぇぞ」
「おい、みんな。こいつもやっちまえ!」
早速、ふくろにされた。
僕はとっさに叫んだ。
「みんな動くな!あと5分で、警察が来る」
叫んだ後で思った。
(失敗した。ホントに連絡すれば良かった)
でも、僕のはったりは正解だった。
僕を畑に引きずり込み、
再び殴りかかってきた奴らだけど
一人が、”やばいよ、このくらいで引き上げようぜ”と言い出したのをきっかけに、
4人は去っていった。
奴らが去ってから、気が付いた。
女の子は、みほではなかった。
髪の長い子。
みほと、双子の妹、しほだった。
でも、そんなことどうでも良かった。
ぺしゃんこのブレザーを広げ、しほの肩にそっとかけた。
何も声をかけることが出来ず、僕は、すっと横を向いた。
なんだか、見ていてはいけないような気がして。
あたりはもう、まっくら。
警察に連絡しなくちゃなのかな?
家に電話した方がいいのかな?
・・・・どうしよう。
僕が固まってあれこれ考えている間に
しほが先に口を開いた。
「ごめんね」
なんで、しほが謝るの?
しほのかほそい声に、あの4人への怒りがこみあげてきた。
とりあえず何か言わなきゃ。
「大丈夫か?」
ぼくは横を向いたまま聞いた。
答えはなかった。
「一人で帰れるか?」
それは、まぬけな質問だった。
しほは立ち上がり、僕の腕をギュッとつかんだ...
「おくってくよ。」
そう言って振り向くと、しほはうつむいたまま、こくっと首を動かした。
行き交う人はだれもいない道
ふたり、自転車を引いて
僕は急におしゃべりになっていた
「お前の家、西益津だっけ?」
「その服、ダボダボだな」
「明日14日だろ?英語の時間、俺あたるよ」
「あ〜あ。ドラマもう終わっちゃったな」
・・・・・・。
その間、しほはずっと無口だった。
しほの家に着くと、さらに最悪の事態となった。
しほのお母さんであろう人の視線が僕に突き刺さった。
ブカブカの服を着て、ボロボロに崩れている我が娘。
その隣には、ドロだらけ、傷だらけの男。
何があったんだか、あんたには想像できないだろうけど、
とりあえずそのリアクションは正しいんだろう...。
何か言いかけたけど、おばさんは、僕の言い訳を待っているようだった。
でも、何から説明したらいいものか。
しほは、なにかを強くにらみつけるような、そしてなにかにおびえているような、
とにかく堅く口をつぐんでいる。
そりゃ、何も言いたくないだろうな。
僕がもう少し頭が良くて、なにかいいごまかし方で、
彼女をかばうことが出来ればいいんだけど
とっさにそんな言葉は出てこない。
何も答えるこの出来ない僕に、おばさんは、
「ふーっ」と、ひとつ深いため息をつき。
しほを家の奥へまねいていった。
その間、何も言わず...
今ここで帰るべきか?
タイミングを失い、ぼくは立ちつくしていた。
優柔不断がまたも僕を締め付ける。
すぐに戻ってきたおばさんは、
さぁ、説明してもらいましょうか?とでも言いたげな目で僕をさげすんだ。
ますます僕は何を言うべきかわからなくなる。
とうとうその人は口を開いた。
「何をしたの?」
おいおい。せめて、”何があったの?”と聞いてくれよ。
僕は急に自分が悪人のように思えてきた。
・・・このままじゃまずいぞ!
ぼくは、事実をそのまま話すことにした。
・・・・・・。
急に態度を変えたおばさんは、
僕にシャワーを浴びるよう、しつこく促した。
さっさと、家に帰りたかった僕だけど、
僕のブレザーを洗濯し始めているおばさんを見て、
断りきれなかった。
おばさんには、今日の出来事を、僕の親に知られたくないという気持ちもあったのかもしれない。
とりあえず、気が進まないまま、
説明された浴室のドアを開けた。
oh!god...
そこには、(...)な姿のみほが。
そりゃ、しほとみほは双子だもん。
しほの家にみほがいたって、なんら不思議はない。
だからって、こんな場所で、こんな再会。
ひどすぎる(ちょっぴり嬉しくもあったけど)
「きゃ〜〜!」
その叫び声は、まさにしほの物とそっくりだと思った。
次の日の学校、みほは当然のように僕を避けるようになった。
そして、しほは...
顔色一つ変えず、学校に来ていた。
えらいと思った。
ただ...
しばらくしほを見ていて、気が付いたことだが、
なにげなく、クラスの男どもを避けていた。
そして、僕だけには、前以上にすり寄ってきた。
後でわかったことだが、
以前から、しほは僕のことが好きだったらしい。
そして、あの事件がしほの気持ちの決定打になった。
みほのことしか見てなかった僕は、まるでそんなこと知らなかった。
そして、僕とみほにとっても、あの事件は決定的な出来事となってしまった。
一部の事情を耳にした友達は、しほと付き合えばいいじゃない!っていう。
確かに、しほとみほは瓜二つ。
一卵性双生児の二人は、姿形も、声も、もしかしたら性格も、似ているかもしれない。
違うことと言ったら、しほの髪は長くて、みほは短いって事くらい。
でも、僕はみほが好きなんだ。
どうしてかって言われても、僕にはわからない。
もし、あなたに
あなたの好きな人とそっくりの人が現れたら
どうしますか?
好きな気持ち
変わりませんか?
その人のことも
好きになってしまいますか?
僕にはわからないよ。
僕は、姿形、ましてや心なんて物に恋したんじゃなくて、
みほというひとりの人間を好きになったんだ。
しほは、みほの代わりじゃない。
ただ。ただ。
みほが僕を嫌っているという、
しほが僕を好きだという、
現実が僕には重たかった。
しほが、もう少しみほと似てなかったら良かったのに。
そしたら、
しほを愛すること
出来たかも知れないのに。
しほのストレートな気持ちと、まわりの圧力に押されて、
ある日、とうとう僕は彼女とデートの約束をした。
気持ち
はっきりさせようと出掛けた待ち合わせ場所に現れたのは、
髪の短い女の子だった。
そう。それはみほそのものだった。
でも、僕にはわかった。
親をもだませた しほには、自信あったみたいだけど
僕には、すぐに彼女がみほではなく、しほなんだとわかった。
ただ、なんとなく...。
僕は、そこまでするしほに、
自分を捨て、みほになろうとするしほに、
心を突き刺された思いだった。
「ごめん!」
とチケットを返し、背を向けた僕に、
彼女は泣きながら言った。
「どうして、私じゃダメなの?
わたしとみほとどこが違うの?
わたし、俊君のためなら、何でもするよ!
みほみたいに髪切ったし、
俊君髪短い子が好きなんでしょ?
みほみたいにバスケもするよ、
言葉使いもかえる、
わたし、みほになるよ!
わたし、俊君じゃなきゃダメなの。
俊君、しほを助けてよ!」
しほは、どんなにしても、しほだよ。
しほは、しほのままでいいんだよ。
僕にも、どうしたらいいか、わからないんだ。
しほがどんなにみほになろうとしても、
ぼくはみほが好きなんだ。
・・・。
しほの一途な涙に、
心のバランスが崩れ始めた。
振り返り、しほの涙にそっとふれた。
そして、髪をなでた。
あの、サラサラの髪、どんな思いで切ったんだろう。
ぼくは、もっとしほを好きになる努力をするべきなのかも知れない。
しほの気持ち、
わかってあげられる男になりたい。
そう思い始めてから、
しほに夢中になるまで、さほど時間はかからなかった。
あれから、5年の歳月が流れ、しほは僕の隣にいる。
ただ、おかしなことに、
籍を入れた僕らの家に、みほも転がり込んでいる。
なんでも、こっちで仕事見つけるから、それまで泊めてほしいとのこと。
今になって、冗談っぽく みほは言う。
「ホントは、あたしも俊君のこと好きだったんだよ。
好きだから避けてたのに、俊君ぜんぜんわかってくれないんだもの。」
そんなみほに、胸を張って言う。
「僕はしほが好きなんだよ!」
こんな僕ら、3人の
その後のお話は、また時間のあるときに...。
それでは、また。
みなさまに、良い出会いが訪れますように。