パックの忙しい日曜日

丸っこい葉っぱと とんがった木が いっぱいいっぱい重なった
深い深い緑の奥深く
誰も知らない森の そのむこう
たくさんの動物達が住む「リタ・ランド」はありました。

この村、リタ・ランドに住む ウサギの「パック」は
ちょっと茶色い毛に、クリッとした黒い目。
ピョコンとたった耳に、ちっちゃな手。
いつもみんなを楽しませる、村の人気者でした。
好奇心旺盛で、冒険好き。
でもパックは、ちょっと。。。いえいえ、とってもあわてんぼうで、
そそっかしく、いつも事件を起こしているのでした。

この前なんか、
お星様を採ってくるんだ!と、大きなはしごを作って、
村一番のシンボルツリーに登り始めたのはいいのですが・・・
足がすくんで降りられなくなったり。。。
村の運動会を一日間違えて、一晩中とんがり山を走っていたり。。。
そうそう、クリスマスツリーの飾りを木の実と間違えて飲み込んでしまい、大騒ぎになったこともあったっけ。。。

そんなパックですが、いつもは真面目にお家のお手伝いをしています。
くわを抱えて畑を耕したり、大好物のにんじんを植えたり、お皿を洗ったり。。。
いつものように毎日働いて、ほっと一息つく日曜日の朝。
でも、パックは退屈な毎日に飽き飽きしていました。
「今日はお休みだ♪何か楽しいことはないかなぁ〜」
リタ・ランドはいつも平和。だけどパックは冒険したくてウズウズしています。

「そうだ!村長さんのところへ行こう」
リタ・ランドの村長さんは、フクロウのおじいさん。
村一番の長生きで、物知り。何でも知っています。
村長さんなら、なにかおもしろい話しをしてくれるかもしれない。
パックはそう思ったのです。

村の真ん中にある 広場。
その広場の真ん中にある 一番大きな木。
両手をいっぱいに拡げても、届かないくらい大きな幹に、
緑の葉っぱが天まで突き刺すようにのびています。
風が吹くたびに、サワサワ。。 サワサワ。。 と葉が唄います。

村長さんはいつもその木の枝にいます。
パックがかけていくと、村長さんはいつものように眠っていました。
「村長さん、起きて!起きて!」
zzz。。。 zzz。。。 村長さんは眠ったまま。
「ねぇ、起きてってば!ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!」
「フォー フォー フォー。。。なんじゃ。。。パックか。。。」
村長さんは、やっと起きてくれました。
でも村長さんの話はとてもゆっくり。
パックはちょっと イライラしてきます。
「ねぇねぇ、村長さん、何かおもしろい話を聞かせてよ!ね。お願い!お願い!」
「フォォーー。。。お も し ろ い 話しぃぃ。。。?」
「うん。そうそう!ね。何か聞かせて!」
「フォー。。。そうじゃなぁ〜。。。  フォー。。。」
。。。なかなか話してくれない村長さん。パックは村長さんがまた眠ってしまったのかと心配になります。
「フォー。。。あっ、そうじゃ、そうじゃ。実は昨日な、きつねのフォルテどんが、珍しい木の実を見つけたそうな。。。」
「珍しい木の実?」
「フォー。。。そうじゃ。小さくてまん丸い木の実なんじゃが、とてもきれいな色をしていて、とってもいい匂いがしたそうな。。。」
「きれいな色で、いい匂い?」
「フォー。。。そうそう。。。それはそれは、とってもおいしそうな木の実でなぁ〜。。。」
「へぇ〜すごいや!そんな木の実なら僕もぜひ見てみたい!どんな味がするのかなぁ〜?食べてみたいなぁ〜。
 そうだ!今からフォルテ君の所へ行って来よう!それじゃぁ、ありがとう!村長さん。またねぇ〜!」
そう言うと、パックは急いで行ってしまいました。
「フォー。。。これこれ待ちなさいパック。話しはまだ終わっておらんぞ。。。」
村長さんの声はもう届きません。
なにしろパックは村で一番かけっこが早いのですから。

きつねのフォルテ君の家は、村の東、こだかい丘のすぐ近くにひっそりとたっていました。
あたりには何もなく、冬になれば一面、雪に埋もれてしまうところです。
パックがそこへ着くと、フォルテ君は家の中、小さなベッドに横になっていました。
「ねぇ、ねぇ、フォルテ君、どうしたの?」
「やぁ、パックか。実は昨日ね、薪を拾いに行ったら、珍しい木の実を見つけてね。
 とっても高いところにあったんだけど、一生懸命手を伸ばして、ひとつ採ったんだけど、
 その時に足をケガしてしまったんだ。」
「そっか。それは大変だったね。」
「うん。冬じたくも十分に出来なくて困ってたんだ。」
「それじゃぁ、僕が代わりに、薪を採ってきてあげるよ。そのかわり、木の実を僕にくれないか?」
そう言うとパックは、返事も聞かず、出ていってしまいました。

1時間ほどしたでしょうか。
両手にいっぱい薪を抱え、あちこちに土や草を付けたパックが帰ってきました。
「フォルテ君。これだけあれば、この冬は大丈夫だろ?」
「ありがとうパック。とても助かったよ。でもね、木の実なんだけど。。。」
「うん。」
期待にパックの目がキラリと輝きます。
「実は、ねずみの兄弟、チックとタックがほしいって言うから、あげちゃったんだ」
「え?あげちゃったの?」
パックはどっと疲れてしまいました。

でも、やっぱり木の実が見たいパック。
今度はねずみのチックとタックのところへ行くことにしました。
チックとタックは、とっても小さい。
頭の先から足の先まで、パックの手の平くらいの大きさしかありません。
すばしっこくて、チョロチョロ動き回って、すぐにどこか隠れてしまいます。
チックとタックは双子の兄弟。
とってもそっくり。
実はパックにも、どっちがチックでどっちがタックだか見分けがつかないことがあります。
悪戯好きで、村の騒がせ者。
でもちっちゃくて、憎めない兄弟です。
チックとタックのお家は小さな川を渡ったところにありました。
チックとタックのお家に着いたパックは、小さなお家の小さな窓をのぞきこみました。
「おーい、チック!タック!いるかい?」
「やーやー!何だいパック?」
「何だいパック?」
いっつも同じ言葉が返ってくるチックとタック。
なんだかちょっとややこしくなってきました(^^;)
「きのうフォルテ君からもらった木の実のことなんだけど。。。」
「木の実?」
「木の実?」
「そうそう。そってもきれいな色で、いい匂いの木の実。」
「ああ、あの木の実か。」
「あの木の実か。」
「うん。見せてくれないかい?」
「あれは、なくしちゃったよ。」
「あれは、なくしちゃったよ。」
。。。またまた木の実は見られそうもありません。
「帰る途中、橋の上でタックとケンカになって。」
「帰る途中、橋の上でチックとケンカになって。」
「落としちゃったの?」
「そう、川に落ちちゃった。」
「そう、川に落ちちゃった。」
木の実は川に落ちてしまったみたい。
「そっか。ありがとう。じゃぁ、川へ探しに行ってみるよ。」
「じゃあね。」
「じゃあね。」
2匹は、同じように手を振りました。

あきらめきれないパックは、チックとタックにさよならを言って、
今度は橋の所へ探しに来ました。
でも、川の中に入らなければ、見つかりそうもありません。
もうすぐ冬をむかえる川は、とっても冷たそう。。。
パックは、ゆっくりとつま先を水につけてみると・・・
ピョコン!!
あまりの冷たさに、驚いて飛び上がってしまいました。
背中はブルブル。歯はガチガチ。まん丸な目は、さらにまん丸になってしまいます。
それでも木の実が欲しいパック。
もう一度、凍りそうな川につかり、あたりを探してみました。
自慢のしっぽも茶色い毛もびしょびしょ。
ブルッとふるえてしまいます。
もう見つからないかな?と思い始めたころ、
ものかげからドジョウのピエールが現れました。
ヒョロリと伸びたひげが自慢のピエールは、とってもおしゃれ。
黒いシルクハットに、黒いめがね。黒い蝶ネクタイ。
眠る時もはずしません。
いつもピシッときめています。
「バシャバシャとうるさいでございます。いったいどうされたのですか?パック殿」
「あっ、ピエールさん。探しものがあるんだ。」
「そうでございますか。でも気を付けて下さいね。この川はこの時間になると、上流から大量の水が流れてくるでございます。」
「みず?」
「そう、大洪水。あっという間に流されてしまうでございますよ」
「そりゃ、大変だ!」
「で、いったい何を探していたでございますか?」
「昨日、チックとタックが落としたという木の実。」
「木の実。。。あ〜あ〜!それなら。。。」
「知ってるの?」
「突然私のベッドに落ちてきたので迷惑していたら、いつもの洪水で海の方まで流されていったでございますよ。」
「え?流されちゃったの?」

ちょっと話しは長くなってきてるけど、ここまで来てあきらめるのもどうでしょう?
でも、もうすぐ日も暮れてしまう。。。
もうかなりクタクタのパック。
どうしたものかと、川の真ん中で立ちつくしていると。。。
突然!川の上流の方から
ドドドーーー!!!
と、大きな音が。。。
まるで何十頭もの牛が押し寄せて来るかのように水が流れてきたのです。
「パック!危ない!逃げるでございますよ〜〜〜!」
ピエールさんの声もむなしく、パックは水に流されてしまいました。

ワァァァ〜〜〜〜。。。
ぐるぐる ぐるぐる川の中でかき回されるパック
どっちが上でどっちが下やら。。。
洗濯機の中の靴下の気分って、こんな感じなのでしょうか?
ブクブク。。。ブクブク。。。たくさんの水を飲み込んで、
ようやく流れが穏やかになった頃、
パックはやっと息をすることが出来ました。
どうやら海まで流れてきてしまったようです。

海ではくじらのボルドーおじさんに会いました。
ボルドーおじさんは、とっても大きな体で、頭のてっぺんに立ってしっぽの方を眺めても見渡せないほどでした。
普段はとっても優しいのですが、とっても強くて、海賊の船を100隻も沈めたと言う伝説の持ち主です。
海賊王と戦ったときの傷が閉じられた左目にくっきりと残っています。
「どうしたんだい?チビちゃん。こんな遠くの海まで」
「おじさん、じつは、木の実を探していて、こんなことまで来ちゃったんだ」
「木の実?あ〜、それなら。。。」
「え?おじさん知ってるの?」
「ああ。」
と、突然くじらのボルドーおじさんは大きな口を開きました。
がぁ〜〜〜!!
ひぇ〜〜。。。おじさん、助けてぇ〜!喰われる〜。。。
大きく開かれたおじさんの口に、日の光はさえぎられ、あたりは真っ暗。
リタ・ランドの一番大きな村長さんの木もすっぽり入りそうな大きさ。
パックも吸い込まれそうになります。
「ほら、パック。見てごらん」
ボルドーおじさんが大きな口を開けたまま話しかけてきます。
どうやらパックを食べる気ではないみたいです。
ちょっと安心したパックは落ち着いておじさんの口の中を覗いてみました。
「奥歯に一本虫歯があるだろ?」
「ホントだ。一本だけ大きく穴の空いた歯がある。」
「昨日ね。あくびをしていたら、この虫歯に木の実が流れてきて、つまってしまったんだ。」
「へぇ〜。。。でも、もう木の実はないよ。」
「そう。お散歩に通りかかった村長さんがとってくれたんだ。」
「村長さんがとってくれたの?」
「そうだよ。」
「で、木の実はどうしたの?」
「わしは、木の実は嫌いだから、そのまま村長さんにあげたよ。」
「え?村長さんにあげたの?」
こんなに遠くまで探してやってきたというのに、結局木の実は見つけられませんでした。
しかも、肝心の木の実は、今日の朝1番に話しをした村長さんが持っているというのです。

パックはトボトボとリタ・ランドへ帰ることにしました。
もう一度、村長さんに会いに行くためです。
もう、すっかりお日様が傾いたころ、ようやく村一番の村長さんの木に辿り着きました。
「村長さん!村長さん!」
zzz。。。 zzz。。。 村長さんはまた眠っています。
「村長さん、起きてよ!」
「。。。フォー。。。なんだ、パックか。どうしたんじゃ?」
「朝聞いた木の実のことだよ」
「フォー。。。おう、おう。。。その話か。。。」
「うん。あの木の実、村長さんがもらったそうじゃないか!」
「フォー。。。そうじゃよ。おまえさん、最後まで話しを聞かんから。。。フォー。。。」
「ぅぅ。。。。」
あんなに苦労したのに。。。 何にも言い返せないパック。
「で、その木の実を僕にも見せてくれよ!」
「フォー。。。あれはな。。。」
「あれは?」
「フォー。。。 食べた」
「食べた?」
「フォー。。。 そう。おいしかったぞい」
「食べちゃったの?!」
「フォー。。。 フォー。。。 フォー。。。」
。。。

いつも平和なリタ・ランド。
あわてんぼうパックの忙しい日曜日は、こうして終わるのでした。