Jクラブのユースチーム出身選手が増えてきた現在も、小野選手をはじめとして、優れた選手が高校サッカー界から生まれている。彼らが生まれてくる環境を私立校/公立校の違いという側面から見直してみたい。
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高校サッカーは なぜ公立校が強いのか?
「なぜ、高校サッカーは高校野球と違って、私立校より公立校のほうが優勢なのでしょうか。」 yamamotoさんより
Jリーグが始まる前は、日本のサッカー界で最も人気のある大会といえば、冬の高校選手権大会だった。最近は、以前ほど注目を浴びることはなく、選手たち自身の目標も“選手権優勝”から“Jリーガーになること”や“代表選手になること”に変わった(表1)。また、Jクラブのユース選手が、17,18歳でトップチームの試合に出場することも珍しいことではなくなった。
しかし、Jクラブのない地方を中心に、トップ選手育成機関としての高校チームの役割は、決して小さくなったわけではない。小野選手や柳沢選手など、優れた選手が高校サッカーから生まれている。
単純に考えるならば、選手育成機関としても、勝利を目指すチームづくりという面にしても、公立校よりも私立校の方が有利なのではないか?という推理が頭に浮かぶ。実際に高校野球では、私立校の方が強い。(表2,3) 私立校が強いと思われる理由を挙げてみると
などがある。
- 施設が整備されている
- 外国人を含めて、教員以外からも指導者を雇える
- 外国人を含めて、市外・県外からも選手を入学させることができる
しかし、すべての私立高校にこれらすべてが当てはまるわけではない。東京にある暁星高校は、インターハイ出場10回を誇る伝統校だが、都心にあるため半面しかないグラウンドで練習していると聞く。
公立高校でも、外国人コーチを招くことがある。私のいた清水東高校でも、夏季の1ヶ月ほどの間だったがブラジル人コーチを招いた。おかげで、当時、日本リーグのチームでも、ほとんど採用していなかったゾーンディフェンスを学ぶことができた。また、教員には異動がつきものといわれているが、我が恩師の勝沢要先生は、清水東高校で10年以上にわたって指導していた。
10年ほど前、清水市の東海第一高校は、アデミール・サントスというブラジル人(現在は帰化して日本人になっている)を擁して高校選手権を制した。外国人は少ないが、名門と呼ばれる私立高校は、全国から選手を集めている。しかし、選手を集めているのは、私立高校だけではない。清水商業の小野選手は沼津出身である。また、清水東高校でさえ、浜松出身の武田選手(現市原)など1学年に1人は、核となり得る選手を通常の学区外から連れてきている。 つまり、私立/公立の違いが、強豪チームとそうでないチームを分ける要因にはならないのだ。
もう一度、表2,3を見て欲しい。甲子園とインターハイの出場校には、明らかな違いがある。
まず第一に、前述のように甲子園出場校には私立が多く、インターハイには公立が多い。第二に、インターハイ出場校は甲子園に比べて延べ出場回数が多く、同様に連続出場回数が多い。
延べ出場回数が多いということは、各地域において、特定の強豪校が予選大会を勝ち進む確率が高いということである。つまり、強豪校に優れた監督がいて、優れた選手が集められているということだ。
出場回数の多いチームが、必ずしも全国大会でも強豪であるわけではない。このことを合わせて考えるならば、出場回数の多い強豪校は、地域内に有力なライバル校が他にはなく、地域内の有力選手を集めることができる私立高校がもっともふさわしい、ということになる。
しかし、現実は、公立高校が優勢なのである。なぜ、そうなるのか、ということは、サッカーという競技の性格にあるのではないか?と考える。
野球は、ピッチャーの能力に頼る割合が高い。つまり、いくら良い選手を集めようとしても、地域内にずば抜けたピッチャーがいなければ、スカウトのしようもないから、圧倒的な強さを誇ることはできない。そこに偶然性の入る余地が生まれる。
しかし、サッカーはあくまでも総合力の勝負だ。サッカーに向かう態度(しばしば伝統や校風に左右される)が、チームとしてどれだけ統一されているか?ということが、技術・戦術・体力などすべての面で、試合でのパフォーマンスに大きな影響を及ぼす。
したがって、有望な選手を集める下地のない公立校でも、指導者やそのときの選手たちの団結などによって、勝ち抜いていくチャンスがある。
結論としては、公立校が有利なのではなく、私立校がそのメリットを発揮できない、ということではないだろうか?
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