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   今の清水エスパルスの魅力は強さにあるのではない。“強さ”“美しさ”“フェアプレー”“人間的成熟”などの総体的な価値にある。日本のサッカーは、そのことに気付くべきだ。



プロとは何か? もう一度考えてみよう


   99年の2ndステージは、清水エスパルスがトップを走っている。清水にはスター選手はいないが、基礎的な技術がしっかりしており、平均的に選手の能力が高い。日本&五輪代表組を中心としたフラット3による安定した守備を土台として、攻守のバランスがよく、戦術的にも完成度が高い。FWにはズバ抜けた選手がいないが、各選手の個性やコンディション、競争心をうまく使う選手交替が効を奏している。昨年までのオリバの個人技とひらめきへの依存体質は解消し、以前は逃すことの多かった決めるべき時間帯や場面での決定力が増し、FW陣全体としての結果を出せるようになった。以上のようなことが、今の清水に与えられている評価ではないだろうか?

   しかし、このような評価は、各時代の最強チームに与えられる評価と同列に語られるだけのものに過ぎない。私は清水のサッカーは、昨年の磐田がJリーグの歴代最強チームと喩えられるのとは違う次元で語られるだけの価値があると考える。ただし、今年の清水が、昨年の磐田やJリーグ当初の川崎と比べて優れているということを言いたい訳ではない。むしろ、強さという点だけで言えば、今の清水が昨年の磐田よりも強い、とは思えない。いい勝負はするだろうが、10回戦って、勝ち越すことができる可能性は低いのではないかと思う。

   今の清水のサッカーの価値は、その強さにあるのではない。サッカーのあり方に関する考え方の転換を促すだけの優れた価値観に基づいているという点にある。かつて、読売クラブが"クラブ"という概念を日本にもたらしたときや、Jリーグというプロリーグが始まったときのように、日本のサッカーを変えるほどのものである。

   Jリーグの発足をきっかけに、選手がプロ化した。これまで、プロとは何かという命題が多くの人によって語られてきたが、ほとんどすべての人が経済的価値、つまり"金"だと答え、選手自身もそう思っている。"金"という経済的価値を図る尺度は結果であり、個々の選手にとっては、より多くの試合に出場し、より多くの得点を入れるということである。それらの目標は、最終的にチームの勝利につながっている。言い換えれば、チームが勝つという目標に対して、どれだけ貢献できるかということが結果なのであり、それが経済的価値として選手に与えられることになるのだ。ここに「プロ=金=勝利」の公式が完成する。

   しかし、今年の清水が目指していることは、この公式を否定するものではないが、必ずしも一致はしない。清水のサッカーの根底にあるものは、アルディレス−ペリマンと受け継がれた精神である。アルディレスは、フェアプレーをチームに徹底させ、戦術的にも美しいサッカーを目指した。「優勝するよりもフェアプレーの精神を優先する」というような意味のコメントを常に残している。ペリマンもほぼ同じ意見である。大木ヘッドコーチによれば、アレックスのダイビングには非常に厳しく注意するという。他の日本人コーチ陣にも、そのような考え方が浸透している。

   結局のところ、清水にとって、チームの最大の目標は勝利だが、その目標のために犠牲にしてはいけないものがある、ということなのだ。犠牲にしてはいけないものとは、フェアプレーや美しいサッカー、模範的な態度、地域への貢献などである。このような価値観は、勝利と相反するものではない。あくまでも両立することに意義がある。公式化すると「プロ=選手自身の総合的な人間的な価値」となる。チームとして見た場合は「選手自身」を「チーム」と置き換えればよい。

   もちろん、プロの別の一面である経済的価値は、そのような場合でも当然必要だ。ただし、単純化・数値化された結果だけで決まるわけではないということは強調したい。選手にとっても、金銭的報酬だけが報酬なのではない。それは精神論を強調して、金銭的報酬を値切ろうということではない。金を稼ぐことは、必要最小限の生活費だけでなく、より豊かな生活を営むことが目的でも、決して悪いことではないだろう。ただし、より豊かな人生を送ろうとするとき、金銭的報酬以外の要素が非常に大きなウエイトを占めることに異論のある人は少ないと思う。金銭的価値だけではいけないし、精神論だけでも成り立たない。大事なのは、総体的なバランスである。

   今の清水は、そのような価値観の転換を促す役割を果たすことができると思う。1stステージでイエローカードをかなりもらったので該当するかどうか分からないが、ステージと年間優勝を果たすとともに、ぜひ、フェアプレー賞も獲得してほしい。そして、Jリーグや日本サッカー協会には、もっと清水のような考え方について、広めるように努めて欲しい。それが、日本のサッカーの発展につながっていくと思う。


  • この文章は、サッカーダイジェスト誌「背番号12」コーナーに投稿したものです(ボツかな?)。
  • 無断転載を禁止する。
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