サイン

 ロシア代表チームは「鉄のカーテン」と呼ばれていた。新聞情報では、まるで、KGBのようだ。でも、実際は、とってもフレンドリーだったと思う。チュニジアに勝った後、息抜きでジャスコに出かけたロシア代表の面々だが、そこではたいへんなサイン攻勢にあった。ほとんどの選手はサインを拒まず、気持ち良く対応してくれたのでお客さんは大喜び。サインをもらうために、色紙とサッカーボールが飛ぶように売れていた。(...でも、ロシア対日本のときにはみんな日本を応援したんだよね。きっと。)

ジャスコ

 チュニジア戦の後、唯一の気分転換で出かけたのが、なぜか、有東坂の‘ジャスコ’ だった。その原因は、実は僕だ。話せば(書けば)長くなるので、ここで改行。
 5月の初め頃、ヴォルコフさんという英語のできるスタッフが最終チェックにやってきた。彼は、2日ほどトレセン内と周辺ホテルをチェックした後、1次リーグ第1戦が行なわれる神戸ウイングスタジアムを視察した。そのときは日帰りで、僕は夜の9時過ぎに静岡駅に到着した彼を車で迎えに行った。夕食はまだかときくと、「食事はいらないのでワインとフルーツを買いたい」と言う。そんな遅くに開いていて、ワインとフルーツを置いている店といえば大型スーパーしかない。それで帰り道にあるジャスコに寄ったのだが、それがすべての始まり。よほど気に入ったらしく、買い物と言えばジャスコ!ということになってしまった。
 ちなみに選手たちがジャスコに行くことが決まったのも、当日の朝だった。電撃的に決まるので手の打ちようがない。清水市の人間としては、ドリプラの前のウッドデッキで「市民と触れ合うロシア選手」なんて写真を新聞に載せたかったなあ。

スメルチン選手

 MFのスメルチン選手は、若手の注目株だったが、チームの中では最もサービス精神旺盛な‘いい奴’だったように思う。エスパルス戦のときには、観客席まで行ってサインしてたし、ロシアに帰るとき、傷心のチームの中でトレセンの前に集まった市民にサインしていたのは彼だけだった。ジャスコでも、とりわけサインの数が多かったように思う。そのジャスコで彼は日本茶を買った。せっかくだからと良いお茶を進めたが、彼が買ったのは‘お徳用’の大衆茶。質より量で勝負するナイスガイでした。

世界共通?「声を出せ!」

 今回のロシア代表チームには、ペトロシャンツさんという少年サッカーの有名な指導者(日本でいうとセルジオ越後さんのようなもの?)が帯同していて、清水の少年たちを相手にサッカー教室を開いてくれた。ハッジさんとか、ジンチェンコさんとか、普段、飲んだくれている印象しかない(失礼!)スタッフも一緒に指導してくれたが、このときばかりは目を輝かせて一生懸命教えてくれた。
 ミニゲームでは、日本でも、ワンタッチ以内でパスすること、とか、条件をつける場合があるが、ペトロシャンツさんの条件は意外なものだった。それは‘声を出さないこと’だ。日本ではパスを受けたいときには「パス!」、背後から敵が迫っている味方に対しては「後ろから来ているぞ!」と、ボールを持っている選手の周囲の選手が声を出せと指導する。ところが、ペトロシャンツさんは逆のことを言った。初めは変なことを言う人だなあと思ったが、しばらくするとその意味がよくわかった。
 そのとき参加したチームには、必ず、味方選手を仕切っている選手がいた。キャプテン翼に出てくる日向くんみたいなやつだ。彼が「パス!」というとみんなパスを出す。すべてを仕切る。最後はずば抜けた能力を持った彼が突破し、ゴールするのだ。ペトロシャンツさん曰く、「それではパスを出しても、自分の考えでプレーしていることにはならない。声に頼らず、顔を上げ、自分の目で見て、自分の頭で判断することが大切だ」。そのミニゲームの中で、子どもたちが変わって行くのがよくわかった。日向くんのところにボールが集まらなくなり、彼はイライラしている様子だったが、他の選手は、最良の選択を自分で考えてプレーするようになった。確かに「ゴールにめがけて一直線」的なプレーは減ったが、局所的には、面白い展開が増えたのだ。私は、指導者資格もないし、実際に指導もしていないが、いろいろな指導方法があるんだなと感心した。

ソニーのサイバーショット

 ロシアの選手たちが清水で買った数少な〜い商品の一つがデジカメ。若い選手を中心に「ソニーのデジカメが欲し〜い!」ということで、ノジマ岡町店がトレセンに出張してきてデジカメを売った。モストボイ選手は、そこら中で撮りまくり、トレセン・センターハウスの前で警備員さんとツーショット。