鉢植の木らうんじ13エッセイ

フリー・サイエンティスト

 オシロイバナの開花


組織に属さず仕事をしているフリー・カメラマンやフリー・ジャーナリストという人たちがいます。それにならい、私はフリー・サイエンティストと自称したいと思っています。

研究者になりたかったのですが、大学4年のころ諸事情を考えて悩んだ末、大学院受験をあきらめました。しかし、研究の現場にいた時期はありました。大学卒業後すぐの研究室勤務の時代と、41歳で入学した大学院の時です。そのとき、研究の進め方というものをを学ぶことができました。
大学院の頃は家庭をもち、高校の非常勤講師をしながらの忙しい日々でしたが、研究というものを行える喜びは大きなものでした。一度はあきらめた大学院をやはりあきらめきれず、息苦しさに酸素を求めるような切実な気持ちから大学卒業後20年近く経って受験したものでしたから。修士過程終了後も、学校に勤務しながら自分なりにいろいろな実験や観察を行ってきました。

研究のために必要な施設や機械、実験器具、薬品類は、学校勤務の間は、理科実験室のものが使えました。退職に際して、光学顕微鏡、試験管、ビーカー、シャーレの類は私物を揃えましたが、できることはそれまでより非常に限られてきます。しかし、そうしたした制約の中でも工夫次第で行えることはいろいろあります。

書物やウェッブ上にある実験を単に追試するだけではなく、そのようなところに記されていない現象を発見したり、また多少とも自分自身のオリジナリティーのあることをしたいと思います。これまでに行ったそのような例を記します。(文中、→の次にあるのは、そのことに関係したこのサイト内のページです)

オシロイバナの開花時刻
オシロイバナは午後4時ごろに開花するので英語では”four o'clock”と呼ばれます。しかしいつでも4時頃に開くわけではありません。調べてみると、、気温が高い日より低い日の方が、また晴れた日より曇りや雨の日の方が早い時刻に開花しました。例えば、上の写真の撮影日は最高気温33℃という暑い日でしたが、4時にはまだ写真3の状態でした。しかし、冷夏の年には2時台ですでに、写真6の状態になる日が多かったのです。
アサガオの開花時刻についての研究は知られています。アサガオもやはり、気温が低い方が早い時刻に開花するそうです。何か化学変化が関係して開花に至るのであれば、化学反応を促進する酵素は高温の方が活性が高いので、高温の日の方が早い時刻に咲くはずで、話が逆です。
オシロイバナは咲いたその日に閉じる一日花です。咲くときは2時間くらいの間に、閉じた傘がだんだんにほぐれるように開きます(上の写真)。この短時間の間に花びらの各細胞が急速に吸水し、そのため花びら全体の面積が徐々に拡がって開くのではないかと思います。その過程にはおそらく植物ホルモンも関係しているでしょう。

ワタの花の色の変化について次のようなことを見つけました(→ワタの花-その色の変化の異変)。
ワタの花もまた一日花です。咲いたときには薄いクリーム色ですが、閉じたあと翌日にはピンク色になります。ところがあるとき、台風が来るというので、ワタの鉢植えを室内に移しました。そして翌日花が咲き、その次の日も室内に置いておきました。すると閉じた花はクリーム色のままだったのです。
おそらく、ピンクの色素が合成されるには紫外線が必要で、ガラスを通して室内に差し込む光だけではそれが不足していたのではないかと思います。室内で花に人工的に紫外線を照射する、野外で花に紫外線カットフィルムを被せて結果を見る、などの方法で調べてみようと思います。

自分で発見したつもりでも、すでに以前にほかの誰かが見つけて発表されていたということもあります。発見の追体験をしたにすぎないわけですが、それでも独力で発見したという手ごたえがあります。そのような例がツクシの胞子の弾糸の動きの発見でした(→スギナとツクシの1年)。
ツクシの頭から出てくる緑色の粉が胞子です。この胞子を顕微鏡で見ると、4本の細い糸のようなもの-弾糸(だんし)をもっています。
あるとき、カバーガラスをかけずにツクシの胞子を顕微鏡で観察していました。見ながら思わず息をはきました。すると視野の中で突然、弾糸が動いてくるっと胞子に巻きついたのです。そして何秒かかけてゆっくりと巻きを戻し、もとのようになりました。何度でも繰り返すことができる運動で、そのおもしろい動きは見ていてあきませんでした。後で書物にその写真と説明を見つけました。

研究のための高価な設備や機械器具を持たないがための限界はもちろんあります。
セイロンベンケイソウの葉を切っておくと、その縁から小さな芽-不定芽が出てきます(→セイロンベンケイソウの不定芽形成に対する諸条件の影響)。これを切り取って植木鉢に植えるとやがて1人前の株に育ちます。葉が切りとられると、なぜその縁に不定芽ができるのか?縁の部分の細胞において、それまで休止していたある遺伝子(遺伝子群?)が、葉が切り取られることによって活動を始め、芽を形成していくと思われます。しかし、その遺伝子を特定したり、それが活動を始め形態形成が行われるメカニズムを調べるにはそのための設備や機械が必要で、研究機関でないとできません。

インターネットの恩恵はありがたいものです。現在はインターネットにより、私のような立場の者でも、研究のための情報の取り込みや成果の発信がある程度可能になりました。

人生をやり直せるものなら、と思うこともあります。でも、これでよかったのかもしれません。大学や研究所の研究者であれば、チームの一員となり自由ではいられないでしょうから。しかし独立独歩でいると、
ひとりよがりにもなりやすいものです。できるだけそうならないためには、多くの情報に接すること、また絶えず勉強することだと思っています。


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