鉢植の木らうんじ2 短歌

岩洞
(りゅうがしどう−静岡県引佐郡引佐町にある鍾乳洞)

・神聖なる闇というべし鍾乳石成りつつありし太古の洞窟
・母の胎の内にも聞きしか洞窟に眼(まなこ)閉ずれば水音聞こゆ
・人工の弱き光に現わるる石筍の群れ聖像のごとく
・人未だ現われざりし遠き世を思えば石筍伝う雫か
・つらら石に雫は光る幾億年光無かりし洞窟の内
・洞の奥に滝の音する幾億年神よりほかは聞かざりし音
(1992年作)


カイコを飼う

・ひとすじの情念というべし夜昼(よるひる)を分かたずクワ食(は)むカイコという虫
・人の手ににぎられしまま終わるべき命のかぎりをクワ食(は)むカイコか
・白々とかがやく糸を吐き初(そ)めしカイコに優し朝(あした)の光
・未だ薄き繭に射し入る朝光(あさかげ)にカイコの動き透きて見えつつ
・ひたすらにクワを食(は)みいし情念はここにこもれり動かざる繭
・いちずなる命の化身 象牙色の蛾が羽化したり雨を聞く朝
・朝明けをカイコは羽化せり象牙色の羽に涼しき大気は震う
・この朝の穏(おだ)しき大気もろともに羽化せしばかりの蛾を手に移す
(1992年作)



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