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               kanon 哀の激情

                    



 ……ごめんね。ごめんね、舞……


「……………………」


 舞の目はあたしを見つめたまま、動かそうとしない。怖いよぉ、悲しいよぉ、苦しいよぉ。けど、けど……


「……っ!」


 ……やだよぉ、こないでよぉっ!

 あたしのふった手が舞の持っている剣に当たる。舞は床にゴロンと転がったけど、すぐに向かってくる。
 こわい顔をして、あたしを殺そうと……

 ……嫌だぁ!

  舞の剣が私の肩に当たった。痛い、痛い、痛いよぉ!だけど……あたし、知ってるよ。

  あたしが痛がると舞も痛いんでしょ。今だって肩を押さえてるじゃない。

  ……ねぇ、なんで。なんで舞はあたしを殺そうとするの?舞だってつらいんでしょ、苦しいんでしょ。

  もうやめようよ。あたし、舞を傷つけたくないよ。けどね、傷つけちゃうんだよ! だってあたしは、あたしは……
〜〜 ワタシハ、カナシイノ? 〜〜


  ……ねぇ、もうどのくらいになるのかなぁ。こうして舞と会うのも?

  あたし、分かんないや。だってあたしずうっとここにいるから。ここ以外行けないから。だからね、もう忘れちゃったよ。

  でもね、やらなきゃいけないことは分かるんだ。ちゃんと覚えてるよ。えらいでしょ、舞。


「…………」


 ……けどね、もう辛いの、やりたくないの。
 だってあたしが舞のおねがいをかなえようとするたび、舞はつらそうな顔をするんだもん。

  舞のお友達、さゆりちゃんって言うんだっけ? あのこがけがした時の舞……すごく、悲しそうだったよ。


「……うるさい」


 ……舞は、それでもあたしを殺そうとするんだよね? ねぇ、あたしは死んじゃうの? 

 けどね、死ねないの。死にたくないの。だってあたし約束したもん。舞としたんだもん。

 だから、だからあたし、それまでは……


「うるさいっ、うるさいっ、うるさいっ!」


 ……やだよぉ、怒らないでよぉ。舞が怒ると、あたしもつらいんだよぉ。


「……私はお前を……討たなきゃいけないんだっ!」


  だって舞の心、いつも叫んでるもん『つらいよ、つらいよ、助けてよぉ』って言ってるのが聞こえてくるんだもん。
  だからあたし……
〜〜 ワタシハ、サビシイノ? 〜〜


  ……ねえ舞、今日は教えてほしいの。

 あたしを殺して、どうするの?だってあたしは舞に殺されるわけにはいかないんだよ。
 あたしが死んじゃったら舞も死んじゃうんだよ。


「…………」


 ……そんなのやだよ。

 だってあたしは舞のために生まれたんだよ。あたしは舞の思いをかなえるために、生きてるんだよ。

 だって、だって、あたしは……


「……………」


 ……だってあたしは悪いことをするために生まれたんだもん。いっぱいいっぱい悪いことをして、そして……あっ、


「よぉ」


 ……この人。あたし、わかるよ。


「なにやってるんだ、こんな時間に」


 ……だってあたし、この人に『たいじ』されるために、生まれたんでしょ。あたし、わかるよ。


「………………」


 ……よかったね、舞。あたし、いっぱい悪いことしたよね。舞をいっぱいいじめたよね。

 だから来てくれたんだよ……悪いことするあたしを、たいじするために。

 ……ねぇ、舞をよろしくね。あたしを、未来のあたしをよろしくね。



          ………だってあたし、そのために生まれた『魔物』なんだもん………





    Kanon 哀の劇場2

              「哀・憐」 完

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