戻る

Kanon哀の激情
「祐一、哀の軌跡」



「舞っ、俺は……お前の為なら死ねる」

 舞の瞳を見つめ、きっぱりと言い放つ。知って欲しかった。知ってもらいたかった。俺がお前をどう思っているか……

「…分かった、祐一」

 舞はかすかにだが頷いてくれた。思っているだけでは伝わらない。声に出して、気づいてもらいたかったのだ。

 俺は、こんなにもお前のことが好きなんだと…

「ま…」


  サクッ……


「えっ?」

 俺の胸に深々と舞の剣が刺さっている。思いもかけないことに、二の句が浮かばない。

「…さよなら」


 (……ちょ、ちょっと待ってくれよ舞。これは一体?)


 スッ、と引き抜かれる舞の剣。蓋の開いた傷口は勢いよく赤い噴水を吹き上げ、瞬く間にリノリウムの床に水たまりを作り上げる。

 俺は血の海にその身を沈めていた。


「……私は、祐一も討つ者だったのか」


 そんな舞の呟きを耳に残しながら俺は思った…

 舞……俺はお前の為には死ねるけど、お前のせいで死ぬのは嫌…だ……よ………



 後悔は先に立たないことを高い授業料で知った、冬の日の夜の出来事であった。



             Kanon哀の激情5,1

                        祐一、哀の軌跡 完

戻る