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kanon哀の激情9
『あゆという名の恋愛協奏曲』
「……ねぇ祐一君。名雪さんの結婚式、とっても素敵だったね」
「ん? まぁ、そうだな。日本語でいうところの馬子にも衣装ってヤツだ」
「そんなこと無いよぉ……名雪さんとっても美人だったし、最後のドレスなんか凄い似合ってたよ」
「まぁ確かにあいつはモトはいいからな、お前さんと違って」
「うぐぅ……そんなこと言う祐一君なんか嫌いだよ」
名雪の結婚式……あいつの家に住むようになって随分になるがそんなにも年月が経ったのかと俺は改めて思う…
そして、当時はこんなことを語りながらあゆと並木道を歩くとはそれこそ夢とも思わなかったものだと更に思う。
「まぁ俺もそろそろあの家を出なきゃいけないか…」
「……………」
今日の日のためにおろした新品のスーツ。着慣れてないせいかまだしっくりこないがなかなか悪くない。
「さすがに新婚ホヤホヤの家庭に若い男がいるってのもまずいしな」
「………………」
あゆもフォーマル用のパーティードレスに身を包み綺麗にめかし込んでいる。
いつもと違いうっすらと付けた化粧、栗色の髪に黄色のドレスがよく似合い名雪の代わりに今日の主役となってもいいくらいであった。
しかし、当のあゆといえば…
「おいあゆ〜、いい加減機嫌直せよぉ〜」
「…………………」
先程の一言がよっぽどこいつの逆鱗に触れたのか、横を歩くあゆはそっぽを向いたまま俺の方を見ようともしないのだ。
「なぁ、あゆぅ〜」
「ねぇ祐一君っ」
突然、あゆは前に立ち道を塞ぐ。前屈みになった状態で俺を見上げ、その手には純白のブーケを携えている…
ソレは先程名雪が投げた、記念の花であった。
「えへへー、いいでしょ?」
「ソレ、お前がとったのか」
「うん。激戦だったよ」
男には理解出来ない感想を述べ、あゆはクスクスと笑う。次の幸せを約束する神秘の花束……
心底嬉しいのだろう、笑みはいまだやまない。
「ねぇ、ボク達もしようか?」
「はぁ、何言って…」
「…汝、相沢祐一。あなたは悩めるときも健やかなるときも、月宮あゆに永遠の愛を誓いますか?」
俺の言葉を無視し、あゆは見よう見まねな詠唱を続ける。
差し出されたブーケ、見つめたままの瞳。真剣な思い、真剣な表情。流れ伝わってくる、あゆとの思い出……
「相沢祐一、返事は?」
「あゆ…」
「うわぁ!」
あゆの驚愕……次の瞬間、俺はあゆを抱き寄せ一つになっていた。
幾分成長したがそれでも小柄なあゆの体。そして力を込めれば壊れてしまいそうな程、愛しい少女。
「永遠に、変わらない愛なんてする気はないな。今日より明日、明日よりあさって……もっとずっと……お前を愛していきたい」
普段ならとてもじゃないがこんなことは言えなかったであろう。
けれど今なら……神に祝福された思いがあるこの時なら、言えるような気がしたのだ。
「うぐぅ、ずるいよ祐一君。そんなこと言うなんてぇ…」
「だめか?」
「…信じ、ちゃうよ?」
頬を赤らめ、心配そうな瞳で訊ねてくるあゆ。俺は笑う。
「次にすることはなんだと思う?」
「えっ…」
次の瞬間、あゆの唇は塞がれる。俺の思い……誓いという名のくちづけによって封じられたのであった。
『あゆという名の恋愛協奏曲』 完