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「朝〜、朝だよ〜 朝ご飯食べて学校行くよ〜」
「朝〜、朝だよ……」
カチャ。
「ふわ〜、朝か……」
俺は寝ぼけたまま着替え始めた。
着替え終わると名雪の部屋まで行く。
コンコン。
「名雪、朝だぞ」
部屋から返事はない。まあ、当たり前だけど……
「入るぞ」
ガチャ。
部屋に入ると名雪の姿はなかった。
ベッドの上にはケロピーと見慣れないぬいぐるみが置かれているだけだった。
「お〜い名雪〜、どこだ〜」
すると、
もぞもぞ。
「うお! ぬいぐるみが動いた!!」
ベッドに置かれた見慣れないぬいぐるみが動き出したのだ。
「うにゅう、祐一おはお〜」
  ・
  ・
  ・
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!!」
「えっ!? 何、どうしたの祐一?」
俺はちびキャラ(SD)たとえるなら『たれぱんだ』風になった名雪を抱えて急いで一階に降りた。
「秋子さん!! あきこさん!! アキコさ〜ん!!」
名前がひらがなやカタカナになるくらい慌てていた。
「どうしたんですか、祐一さん?」
ひょこっと顔を出した秋子さんもちびキャラになっていた。
「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!!」
朝から俺の悲鳴が近所に響き渡った。

<我らたれ族・舞1>

  ・
  ・
  ・
「というわけで、整理してみると……」
しばらくして落ち着いた俺は今の状況を整理してみた。
朝起きてみると名雪と秋子さんが小さくなっていた。
身長は40センチくらいのちびキャラ(SD)たとえるなら『たれぱんだ』風の姿だ。
いったい、なぜこんな格好に……
「あら、名雪かわいいわね」
「おかあさんもぬいぐるみみたい」
俺の混乱をよそに二人はなんとも思っていなかった。
まっ、今の状況をまとめると……

  かわいい♪

二人して部屋に飾っておきたいくらいかわいい!!
後でビデオに撮っておこう。
「よいしょ、よいしょ」
いつのまにかたれ秋子さんは朝食の準備をしようとしていた。
つるっ。
たれ秋子さんはテーブルの上から落ちた。
「危ない!!」
俺は見事たれ秋子さんをキャッチした。
「すいません、祐一さん」
「危ないから秋子さんはそこにいてください」
「でも、朝ご飯の準備は?」
「俺がやります!」
「ありがとうございます、祐一さん」
  ・
  ・
  ・
「うお〜遅刻だ〜!!」
ちくしょう、後片付けに手間取ってしまった。また走るはめに……
「楽ちんだお〜」
名雪は俺の肩にしがみついている。
「お! あれは……」
前方に舞と佐祐理さんを発見!
もしや……
ちょっとした考えが頭の中を横切った。
「やはり……」
「祐一さん、おはようございます」
「……おはよう、祐一」
二人もたれキャラになっていたのだ。
「ああ、おはよう佐祐理さん、舞」
この分だと他の奴も……
「佐祐理さんと舞もなったか」
「……何が?」
「じつは……」
「祐一、時間は?」
「ぐはぁ! そうだった〜!」
俺は二人を抱きかかえた。
「話は後でするから今は学校に!」
そして学校に向かってダッシュした。
「うおりゃ〜!!」
「はぇ〜、祐一さんって足が速いですね」
「……楽ちん」
  ・
  ・
  ・
やっと学校に到着した。う〜ん、今のタイムだったら大会に出れそうだな。
「祐一さん、ありがとうございました」
「……祐一、ありがとう」
「どうってことないよ」
二人を教室の前で送ってやったのだ。
自分の教室に来るとタイムリミットまで後2分だった。
「相沢君、おはよう」
「おはよう、相沢」
たれキャラになった香里が俺の足元まで歩いてきた。
「おはよう、香里」
「香里お前もか……」
「小さくなったこと?」
「ああ」
「香里もぬいぐるみみたいでかわいい〜♪」
そういう問題ではな〜い!
まあ、確かにかわいいけど……
「俺もなりたかったぜ」
「そういえば北川、お前はなってないな」
「ああ、男子とか他の女子とかはなってないぞ」

『脇役にたれキャラになる資格なんてないのだ!』
『お前達は画面のはじっこにでもいれば良いのさ』

「今、なんか聞こえたぞ!!」
「なんだか知らんがむかつく〜!!」
その時石橋が入ってきたので仕方なく席についた。
「よ〜し、出席をとるぞ」
あの声の主、後でしばいておこう。
「おや? 美坂と水瀬は欠席みたいだな」
「せんせ〜私と香里はいますけど〜」
「声はすれど姿は見えず」
「ここで〜す」
  ・
  ・
  ・
「ぬわぁぁぁぁぁぁ〜!! ぬいぐるみが〜!!」
つるっ。 がん!!

その時なぜか置いてあったバナナの皮で滑って転んだ。
「せんせ〜、大丈夫ですか?」
「だめ、完全に気を失ったみたい」
「北川、救急車呼びに行け」
「わかった」
その後、石橋は3日間気絶していたそうだ……
  ・
  ・
  ・
「……というわけだ」
「はぇ〜、だから救急車が」
「……祐一、タコさんウインナー」
「はい、はい」
俺は箸でタコさんウインナーを取った。
「ほれ、あ〜ん」
「……あ〜ん」
たれ舞は少し照れながら口を開けた。
照れたところがものすごくかわいい!!
ぱくっ。
もぐもぐ。
今はいつものように三人で弁当を食べている。
二人が取りづらそうだから俺が食べさせているのだ。
「祐一さん、卵焼きとって下さい」
「はい、あ〜ん」
「あ〜ん」
ぱくっ。
う〜ん、全国の男子がうらやましがるだろうな。
それにしても、さっきから何も食べてない。
俺は残りひとつの卵焼きを取った。
「あ〜ん」
「……祐一、それ食べたい」
「俺はさっきから何も食べてないぞ」
「……食べたい」
「だめだ」
「……食べたい」
「だめって言ってるだろ」
「……祐一、食べさせてくれないの」
たれ舞は目をうるうるさせた。
か、かわいい……この顔で見られたら……
「……祐一」
「うぅ〜」
そんなかわいい顔で俺を見るな〜!
「……食べさせて……お願い……」
たれ舞はさらに目をうるうるさせた。
しかも、美少女の泣きながら『お願い』攻撃だ。
多分この攻撃に耐えられる者はいないだろう。
「うぅぅ〜」
…………おちた。
「わかったよ」
「……ありがとう、祐一」
「ほら、あ〜ん」
「……あ〜ん」
最後の卵焼きをたれ舞の口に入れてやった。
もぐもぐ。
たれ舞はうれしそう(無表情)に食べている。
くそ〜腹減った〜。
何か食べた〜い!
すっ。
すると俺の目の前にタコさんウインナーが差し出された。
「舞?」
たれ舞が最後の1個を差し出していた。
たれ舞の好物だから食べないでおいたのだ。
「……祐一、何も食べてない」
「いいのか? お前の好きなタコさんウインナーの最後の1個だぞ」
「……祐一、食べて」
「……ありがとな、舞」
俺は口を開けた。
「あ〜ん」
たれ舞は背伸びをしてかわいい手で俺の口の中に入れてくれた。
もう、たまらない!!
たれ舞の手がかわいい&背伸びするところがプリチ〜。
みんなに見せられないのが残念。
その分俺が楽しんでやる。
ああ〜このままたれ舞に抱きつきたい!!
抱きついてほっぺすりすりした〜い。
  ・
  ・
  ・
 「ま〜い!!」
 がしっ!
 すりすり。
 「……祐一?」
 「俺はお前をはなさないぞ!」
 すりすりすりすり。
 「……祐一、やめて」
 「やめな〜い」
 すりすりすりすりすりすりすりすり。
 「……祐一、くすぐったい」
 すりすりすりすり。
  ・
  ・
  ・
あはは〜たまりまへんな〜。
「舞、それとって」
「……これ?」
俺が妄想している間に二人は片付けをしていた。
「あ、片付けは俺がやるよ」
「すいません、祐一さん」
「……祐一、ぼ〜っとしてた」
「ちょっと考え事」
ふっふっふ、いつか必ず……

気がつくと授業開始まであと5分。
「またな、舞、佐祐理さん」
「はい、またあとで」
「……またね」
二人を教室まで運んだ後自分の教室に行った。
教室へ入るとたれ名雪が机の上でたれていた。
「うにゅ、く〜く〜」
まさしくたれだな。
「ちょっと、名雪、もう起きなさい」
となりではたれ香里が必死に起こそうとしていた。
授業が始まったら起こすか。
だが授業開始から10分たっても代理の教師は来なかった。
「誰も来ないぞ」
「なんか今日は自習だけらしい」
「なんでだ?」
「一年とか三年のクラスでも教師がぶっ倒れたみたいだぜ」
「全員か!」
「そうらしい」
原因はわかっていた。
あいつらだな……
結局そのまま放課後になってしまった。
「うにゅう、放課後〜、放課後だよ〜 ちゃんと準備して部活行くよ〜」
「名雪、お前、部活行く気なのか?」
「うん、だって部長さんだもん」
「この体型で部活なんて出来るのか、今日くらい休めよ」
「なんとかやってみる、ふぁいとっ、だよ」
名雪はノロノロと部室に向かって歩いていった。
帰りは誰かに送ってもらうらしい。
その時!!  ぐにゅう!!
「だお〜!!」
なんか変な音がしたぞ!
すると名雪が戻ってきた。
「うにゅ〜、踏まれたお〜」
見ると名雪の頭には足跡がついていた。
「だから、部活は休めって言っただろ」
「うにゅう、わかった……」
「そうしろ、じゃあ俺は行くからな」
「祐一、家まで送ってくれないの?」
「俺は行く所があるからな、おっ!」
帰ろうとしているたれ香里が目に付いた。
「香里、これ家まで送ってくれ」
俺は『うにゅう人形』……もとい、たれ名雪をたれ香里に渡した。
「ちょっと、私一人でも大変なのに!!」
「いいじゃないかそれくらい、じゃあな」
「相沢君!!」
「うにゅ〜、祐一〜!!」
やはり『うにゅう人形』……
俺は教室を後にした。
  ・
  ・
  ・
「ま〜い、佐祐理さ〜ん」
校門の前でたれ舞とたれ佐祐理さんを発見した。
「あ! 祐一さん」
「……祐一」
「踏まれたら危ないから俺が送っていくよ」
「そうですか、すみません祐一さん」
「……今日の祐一優しい」
「そうか、俺はいつも優しいぞ」
俺は二人を抱えた。
「帰るついでに商店街にでも行かない?」
「いいですね」
「舞は?」
「……はちみつクマさん」
「よし、決定」
俺達は商店街へ向かって歩き出した。
実際歩いているのは俺一人だけど……
「そういえば、佐祐理さん」
「はい、何ですか?」
「佐祐理さんの教室に入ってきた先生達気絶しなかった?」
「はい、なぜかみんな気絶してしまって」
俺の考えた通りか……
「でも、なぜでしょうか?」
「それは……いや、やめた」
「ずるいです祐一さん、教えてください」
佐祐理さんを見たから、なんて言えるわけない。
「あれ? 舞がいない」
確かに抱えていたたれ舞がいなくなっていた。
「祐一さん、頭……」
「え?」
そう言えばなんか頭が重い……
「舞、なんでそんな所に……」
たれ舞は俺の頭の上でたれていた。
「……キリンさんの頭の上に乗ってみたかった」
「降りろ」
「……ぽんぽこたぬきさん」
「……しょうがない」
それにこの感触が良い!! あ〜、頭の上がぷにぷに〜。
本当は乗って欲しかった。
俺は頭をちょっと揺らしてみた。
するとたれ舞の体がぷにゅぷにゅと揺れた。
かわいい&気持ちいい!!
よし、もう一回!!
  ・
  ・
  ・
などとバカなことをしているうちに商店街についた。
「佐祐理さん、舞、何か食べたいものでもある? 俺がおごるよ」
「え、いいんですか?」
「ああ、いいよ」
「……今日の祐一優しすぎる」
普通の奴は優しくしたくなるって。
「頼む、今日はおごらせてくれ」
「わかりました。 う〜ん、舞は何か食べたい?」
「……牛丼」
「じゃあ、佐祐理たまにはイチゴサンデーが食べたいです〜」
  ・
  ・
 その頃
  ・
  ・
ぴくっ。
「イチゴサンデー……」
「名雪どうしたの?」
「イチゴサンデーって聞こえた……」
「え?」
「イチゴサンデー食べたい!!」
「名雪?」
「祐一、イチゴサンデー!!」
「あ! 名雪、そっちは!!」
ぐにゅう!!
「だお〜!!」
  ・
  ・
  ・
「今何か聞こえなかった?」
「何も聞こえませんでしたけど」
「舞は?」
「……聞こえない」
気のせいか?
「おまたせしました。 イチゴサンデーと牛丼です」
「あはは〜やっと来ました」
「……牛丼」
それにしてもなぜ牛丼が百花屋に……
「もぐもぐ、おいしいです〜」
「どうだ、舞?」
「……おいしい」
「祐一さん、何も食べてないです」
「俺はいいよ」
「ふぇ、佐祐理達のせいで祐一さんが……」
「……私達のせい……」
二人はすまなそうに顔を伏せてしまった。
「ち、違うよ。 俺は二人のうれしそうなところを見られるだけで幸せだよ」
「あ、あはは〜祐一さん恥ずかしいです」
たれ佐祐理さんは照れてしまった。
たれ舞は顔を赤くして牛丼を食べている。
この顔が見たかったんだよな〜。
その後二人は食べ終わるまで顔を赤くしていた。
「ごちそうさまです」
「……ごちそうさま」
あ〜本当に幸せ〜。
見ただけで幸せになれるキャラクターなんてそんなにいないぞ。
その代わり残金540円……また節約生活だな。
「祐一さん、お金大丈夫ですか?」
「……祐一、お金少ない」
「いや、大丈夫だ」
二人のためならお金のちょっとやそっとくらいどうってことないぜ。

「ありがとうございました」
残金120円……
増量期間中ってなんだよ。
さすがにこれはきついな。
「祐一さん、本当に大丈夫ですか?」
「……大丈夫?」
「ああ、これくらい何ともないぜ!」
実際大丈夫ではない……
とりあえず行こう。
俺は二人を抱えた。
「……祐一、頭の上がいい」
「またか」
「……キリンさん」
「わかった、わかった、もう、しょうがないでちゅね〜」
「……祐一、しゃべり方おかしい……」
いけない、いけない、あまりにもプリチーなもんで。
たれ舞を頭の上に乗せてやった。
「……キリンさん」
「うれしいか?」
「……うん」
そのまましばらく商店街を歩くことにした。
歩いていると商店街の片隅に雪うさぎが置いてあった。
雪うさぎ……
思わずそこに立ち止まってしまった。
「祐一さん、どうしたんですか?」
雪うさぎ
  ・
  ・
  ・
 うさぎ
  ・
  ・
  ・
 うさ耳
  ・
  ・
  ・
うさ耳バンド! そうだ!!

「佐祐理さん、舞、ちょっとここにいて」
「え? 祐一さん」
「すぐ戻るから」
「……どこ、行くの」
「とにかくここにいて」
俺は家に向かって走り出した。
あれが。あれが確かあったはず……
「ただいま」
誰もいないけど一応挨拶しておいた。
そして自分の部屋に行く。
がさごそ。
えっと、確かこの辺に……
がさごそ。
あった!!
見つけたそれを持ってすぐにもとの場所に戻る。

「はぇ〜あったかいですね〜舞」
「……うん、あったかい」
たれ舞とたれ佐祐理さんはおもちゃ屋のぬいぐるみ置き場の中にいた。
「お母さん、ぬいぐるみ買いたい」
「じゃあ、ひとつだけね」
「う〜んと、じゃあこれがいい」
ひょい。
「あ、舞が」
「……佐祐理」
「すいません、これ下さい」
「はい、1200円です」
「じゃあ、これで」
「ありがとうございました」
「ふぇ〜、舞〜」
「……佐祐理、助けて」
「お母さん、ありがとう」
親子が帰ろうとしたその時!
「ちょっと待った〜!!」
う〜ん、まさに姫を守るナイトだな。
俺は親子に事情を話してたれ舞を返してもらった。
「姫、おけがはありませんか?」
「……姫?」
「祐一さん、やっと来ました」
「ごめん、ごめん、これを取りにちょっとね」
持ってきたそれを二人に見せる。
「わ〜、ウサ耳バンドとウサしっぽです〜」
俺が毎晩、夜なべして作ったものだ。
「舞、ちょっとつけてくれ」
「……私?」
「うん」
「……はちみつクマさん」
たれ舞はうさ耳バンドとうさしっぽをつけた。
「……どう……かな」
……かわいい!!
いける!!
プリチー!!
萌え萌え〜!!
「かわいい!! すごくかわいい!!」
たれ舞は顔が真っ赤になった。
「……祐一、恥ずかしい」
く〜、恥ずかしいだってよ。 たまらないね〜。
「舞かわいい、佐祐理もほしいです〜」
「だったら、あとで俺が作ってあげるよ」
「本当ですか、ありがとうございます」
やはり、たれキャラ最高!!
  ・
  ・
  ・
その後、俺は二人を家まで送ってやった。
そもそもの目的はそれだったけど。
「さようなら、祐一さん、舞」
「またね、佐祐理さん」
「……佐祐理、バイバイ」
よし、次はたれ舞の家だな。
「今日は楽しかったか、舞」
「……うん、楽しかった」
「うさ耳とうさしっぽ、気に入ったみたいだな」
たれ舞はさっきからずっとつけている。
「……明日もつけてくる」
「うん、俺はつけてきて欲しいな」
「…………」
「…………」
「……祐一」
「なんだ」
「……今日はありがとう」
「ああ」
話しているうちにたれ舞の家に着いてしまった。
「じゃあな、舞」
「……バイバイ」
たれ舞はぴょこぴょこと小さい手を振った。
あ〜も〜、かわいい!!
本当は家まで持って帰りたい!!
たれ舞は家の中に入っていった。
あ〜あ、行ったか。
早く明日にならないかな。
そう考えながら俺は家に帰った。

「名雪、どうした!?」
帰ってきた俺は、まずそれに気がついた。
たれ名雪はぐったりとたれていた。
「うにゅう、イチゴサンデー」
なぜだかたれ名雪の体には足跡がたくさんついていた。
☆続く……かな

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