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<我らたれ族・第2話>


「朝〜、朝だよ〜 朝ご飯食べて学校行くよ〜」

ん? 朝……

「朝〜、朝だよ〜 朝ご飯食べて学校行くよ〜」

朝……か。
カチャ。
俺は眠くなるような声の目覚し時計を止めた。
すると、隣の部屋で目覚し時計の大合唱が始まった。
体温が下がらないうちに着替えて名雪の部屋に向かう。

コンコン。

「おい名雪、朝だぞ」

当然のごとく反応はない。

「入るからな」

ガチャ。
ジリリリリ!!


「え〜い、うるさい!」

いまだに鳴っている目覚し時計を一つ一つ止めていく。

「起きろ、名雪」

そしてたれ名雪を揺すってみる。

「うにゅう、飛行機……飛行機が落ちるお〜……く〜」

だめだな、こりゃ。
しかたなくまだ寝ているたれ名雪のパジャマの襟をつかんで一階に降りていく。

「おはようございます、祐一さん」

たれ秋子さんは朝ご飯の準備をしていた。

「おはようございます。あらあら、名雪はまだ起きないみたいですね」

そう言ってたれ秋子さんはたれ名雪を覗きこんだ。
とりあえず、椅子の上にたれ名雪を降ろす。

「うにゅ、うにゅにゅにゅ、うにゅ〜にゅうにゅ」

「もしかして今の寝言か……?」

いったいどんな夢を……

「祐一さん、トーストが焼けましたよ」

「あ、はい」

キッチンからたれ秋子さんがトーストの乗った皿を持ってきた。
俺はそれを受け取るとテーブルの上に並べる。

「後は俺がやるから、もう秋子さんは座ってください」

「すいません、祐一さん」

たれ秋子さんの体格だと火を使う料理は危ないからな。
エプロンを付けキッチンに行くと冷蔵庫から材料を取り出す。
まあ、ベーコンエッグとサラダぐらいなら作れるか。

包丁を持つとまずレタスやきゅうりなどの野菜を切る。
その後、ハムを小さく切っておく。

「名雪、もうそろそろ起きなさい」

椅子の上でたれ秋子さんがたれ名雪を起こしていた。
だが起きそうにない。
これが終わったら起こすか。

切った野菜とハムを皿に入れてドレッシングをかけて完成。
その皿をテーブルの上に並べる。

「な〜ゆ〜き、起きなさい」

「うにゅ〜、うにゅ〜……く〜」

まだ起きないのか。
包丁を一度洗ったら今度はベーコンを切る。
切ったベーコンと卵を使ってベーコンエッグを作る。
できあがったベーコンエッグをテーブルに運ぶと謎ジャムを取り出す。

「ほら名雪、イチゴジャムだぞ〜」

「うにゅ〜、いちご〜いちご〜」

そしてそれをスプーンですくってたれ名雪の口に入れる。

ぱくっ・・・もぐもぐ・・・・・・!?

食べたと同時にたれ名雪の目がカッと見開き、覚醒する。

「だお〜、祐一これ……」

「やっと起きたか、おはよう名雪」

「おはよう名雪」

「うにゅ〜、おはよう」


その後はみんなで朝ご飯を食べた。
謎ジャムの効果があったのか、たれ名雪はいつもより早く食べ終わった。

「うにゅ〜、まだジャムの味が口の中にあるお〜」

「でも、ちゃんと起きられただろ」

「起きられたけどひどいお〜」

俺は靴をはくとたれ名雪を抱えた。

「いってきます秋子さん」

「おかあさん、いってきます」

「二人ともいってらっしゃい」

そして玄関を出る。
今日は結構のんびりと学校に行けそうだな。
雪の上に足跡をつけながら学校に向かう。

    ・
    ・
    ・


「今朝の朝ご飯、祐一が作ったの?」

「ああ、そうだ」

「祐一、あんなに料理が上手だったっけ?」

「秋子さんの代わりに料理を作ってたから慣れてきたのかも」

「もう祐一の将来はコックに決まりだね」

「なんでだ!」

そこで俺は気がついた。
前方にたれ佐祐理さんとたれ舞を発見した。

たれ舞はうさ耳バンドをつけていた。
これがまた似合う!

気がつかれない様に二人に近づく。

「名雪、肩の上に乗ってくれ」

「うん」

たれ名雪はもぞもぞと俺の肩に移動する。

「よっ、お二人さん」

声をかけると同時に二人を抱えた。

「わっ、祐一さんびっくりしました」

「……祐一、びっくり」

「おはよう、佐祐理さん、舞」

「おはようございます祐一さん」

「……祐一、おはよう」

「昨日は楽しかったな」

「はい、とっても楽しかったです」

「……楽しかった」

「また今度も行こう」

「そうですね」

「……また三人で行きたい」

ふとたれ名雪の腕時計を見ると後十分だった。

「もうそろそろ行ったほうがいいな」

挨拶をしたときから立ち止まってしまっていたからだ。

「さてと、行くか」

と、そこであるものが足りない事に気がついた。

「あれ? 名雪がいない」

肩に乗っていたたれ名雪がいつのまにか消えていたのだ。

「祐一さん、あそこにいるのは?」

たれ佐祐理さんに言われて振り向くと。

「ねこ〜ねこ〜」

「って、おい!」

たれ名雪は野良猫に向かってダッシュしていた。
俺はたれ名雪の襟をガシッとつかむ。

「祐一、ねこ〜ねこ〜」

「あきらめろ、学校に遅刻するぞ」

「いいもん」

「祐一さん、時間が……」

「えっ? ぐあっ、後五分だ〜」

こんな事をしているうちに五分もたってしまった。
たれ名雪の襟をつかんだままダッシュした。

「ねこが〜、ねこねこ〜」

「うな〜」

と野良猫は鳴いてどこかに行った。

「ああ、ねこ〜、祐一のせいだよ」

「今、そんな場合か!」

「……祐一、頭の上に乗りたい」

「今は駄目だ」

「……けち」

「わかったわかった、放課後に乗っていいから」

「……やった」

たれ舞は無表情だが喜んだ。

「あはは〜、良かったね舞」

「わ〜、後三分だ〜!」

その後、俺の努力と根性でなんとか間に合った。


    ・
    ・
    ・


その日の授業中、ふと外を見ると三年生が集まっていた。
何をするのかと思ったら、

「チキチキ雪だるまコンテスト〜!!」

ガクッ。

あの教師はバカか?
う〜ん、最近の教師のやり方はわからん。

「ルールは簡単、まず二人一組でペアになる」

と言うかいったい何の授業だ?

「そして雪だるまを作って一番大きいのを作ったペアが勝ちだ」

お、たれ佐祐理さんとたれ舞がいる。
さすがにたれ舞はうさ耳バンドをはずしている。
そりゃ、授業中だからな。

「しかし、ただ作るだけだと面白くない、そこで他のチームの雪だるまを壊してよし」

なんだそれ。
俺は一瞬つっこみたくなった。

「それではペアになれ」

あっ、たれ佐祐理さんとたれ舞がペアになったみたいだな。

「よし、それではレディー……ゴー」

開始の合図とともにみんなが雪だるまを作り始めた。
しばらくするとだんだん全員の雪だるまが大きくなってきた。
今のところは全員雪だるまを作っているだけだ。

しかし、その数分後に動きがあった。
お、あっちのほうでバトルが。
他ペアの妨害が始まった。
こっちの方で壊されたペアもいる。
お〜と、そっちのほうでは数十人が一斉にバトルを始めた。
たれ舞達はと言うと、

「あはは〜楽しいね舞」

「……楽しい」

相手にされないでいた。
隅の方で小さい雪だるまを作っていた。

「舞、もっと雪をもっと集めて」

「……うん」

う〜ん平和だ。
それに比べてこっちときたら……
ほとんど戦場と化していた。
って、なんでみんなこんな事に夢中なんだ?


ピピー!!


「終了〜!!」

終わった様だ。

「結果は……」

ちゃんと雪だるまができてるペアなんていないじゃないか。

「倉田・川澄ペア」

「あはは〜、なんだか優勝してしまいました」

「……優勝?」

しかも二十センチの雪だるまで。
雪合戦と化してみんな作るのを忘れていたみたいだからな。
ほとんど雪だるまなんてそっちのけだ。

「……沢」

なぜか俺も雪だるまが作りたくなってきた。

「おい、相沢」

「ねえ祐一」

その時、たれ名雪に言われて初めて気がついた。

「はい?」

「相沢、この問題を解いてみろ」

「え〜と、2です」

「全然違う、しかも今は国語だぞ」

そんなくだらない午前中だった。


    ・
    ・
    ・


「どうぞ食べてください」

「それじゃあ遠慮なく、いただきます」

「……いただきます」

昼休みはやはりいつもの様にあの場所に来ていた。

ぱくっ
もぐもぐ

「うん、うまい!」

「あはは〜、ありがとうございます」

「……おいしい」

「ありがとね、舞」

たれ佐祐理さんの弁当はいつ食べてもうまいな。
タコさんウインナーいただき。
俺がタコさんウインナーに箸を伸ばすと、


さっ

ぱくっ


「あ〜!!」

たれ舞が横取りした。

「舞、それは俺が食べようと……」

「……しただけだから」

「あのな〜」

「あはは〜、タコさんウインナーならたくさんありますから大丈夫ですよ」

俺達はなんともない話をしながらしばらく弁当を食べた。

「舞、紅茶もっと飲む?」

「………」

「舞?」

「………」

たれ舞はきょろきょろと辺りを見ていた。

「おい、舞」

そこでやっと気づいたみたいだ。

「……飲む」

いったい、どうしたんだ?


    ・
    ・
    ・


その後、午後の授業を適当に受けているとチャイムが鳴った。
石橋が来てHRが始まったがすぐに終わった。
クラスの連中は終わると同時に帰り支度を始める。

「放課後〜、放課後だよ〜 帰りの支度して部活に行くよ〜」

「もしかして部活に行く気なのか?」

「うん、今日は早めに終わりにして帰るから」

「そっか、俺は先に帰るからな」

「うん」

昇降口に向かって歩き出した。
靴を履き替えて外に出ると校門の近くで二人を見つけた。

「佐祐理さん、舞!」

たれ舞はうさ耳バンドをつけていた。

どうやら登下校中につけるみたいだな。

「あっ、祐一さんも今お帰りですか?」

「ああ、そうだけど」

「だったら一緒に帰りませんか」

「そうするか」

俺はたれ佐祐理さんを抱えた。

「ほら、舞も」

「……朝の約束」

「朝? ……ああ、あれか」

たれ舞を俺の頭の上に乗せてやる。

「これだろ」

「……はちみつクマさん」

そのまま昨日の事などを話ながらたれ佐祐理さんの家に向かった。

「……それでね、舞」

「………」

「舞?」

またもやたれ舞は辺りを見回していた。

「……ごめん」

「なんかあったのか、舞?」

「どこかからだの具合でも悪いの、舞?」

「……大丈夫」

歩いていると佐祐理さんの家に着いた。

「舞、祐一さん、さようなら」

「じゃあな、佐祐理さん」

「……バイバイ」

たれ佐祐理さんは家の中に消えていった。

「さあ、次は舞の家だな」

「……うん」

今度はたれ舞の家に向かって歩き出した。


    ・
    ・
    ・


「今日のお前、変だぞ」

たれ舞の奇妙な行動が気になって聞いてみた。

「……そう?」

「ああ、変だ」

「……なんでもない」

「本当にそうなのか?」

「……はちみつクマさん」

「本当か?」

「はちみつクマさん」

(その後X10)

何度も聞いたがなんでもないらしい。
そのうちたれ舞の家に着いてしまった。

「じゃあな、舞」

「……じゃあね、祐一」

俺が帰ろうとすると、

「……祐一」

「ん、なんだ?」

「………」

「………」

「……なんでもない」

「?」

やはり今日のたれ舞は変だった。

その夜

俺が部屋で本を読んでいると、

コンコン

「誰?」

「わたしだよ」

ノックしたのはたれ名雪だった。

がちゃ

ドアを開けてやった。

「いったい何の用だ?」

「今日、祐一にノート貸したよね」

「ああ、そう言えば借りたような……」

「今日、宿題があるからあのノートが必要なんだけど」

「わかった、ちょっと待ってろ」

机や鞄の中をあさってみる。

「あれ?」

いくら探してもノートはなかった。

「もしかして忘れたの?」

「しまった、今日の放課後にやぎの餌として食わせた記憶がある」

「冗談言ってないで……学校に忘れたの?」

「たぶんそうだな」

「どうしよう、朝、学校でやっても間に合わないよ〜」

「わかった、今から取りに行く」

「わっ、諦めるからいいよ」

「いや、取りに行く」

ハンガーにかけてあったコートを着る。

「いってきます」

そして家のドアをくぐった。


    ・
    ・
    ・


学校に来ると開いている場所から中に入る。
それにしても、なんて管理だ。 鍵くらいかけろよ。

自分の教室を探してみるとやはりノートはあった。
俺が教室を出ようとしたその時!

ザギィッ!!

「なんだ、今の音は!?」

すると廊下の向こう側からたれ舞が出てきた。

「……祐一」

「舞、どうしてここに……」

すると廊下の向こう側から音と共に何かがやってくる気配がした。

「おい、まさか」

「……魔物が出た」

「でも、魔物は出なくなったはずじゃ……」
『作品の都合上、俺が出した』

くそ、またあいつ(作者)の仕業か!!

その間にも奴は近づいてくる。
たれ舞は再び剣を構えた。
たれ舞が持っている剣はいつもの縮小版の様だった。

「舞、いつもの剣はどうした?」

「……持ち辛そうにしてたら佐祐理が縮小版を作ってくれた」

たれ佐祐理さん、あなたっていったい……
その時、奴が攻撃してきた。

ドガ!

床に衝撃が加わった。
俺とたれ舞は間一髪でよけていた。

ザクッ!

たれ舞が奴の背中(だと思う)に剣を刺した。
だがすぐに振りほどかれる。
やはり、小さいから不利だ。

「とにかく一時退却だ」

俺はたれ舞を抱えると奴から逃げた。
とりあえずいつもの階段の踊り場まで来た。

「くそ、あのやろう魔物なんて出しやがって……」

たれ舞はおとなしく座っている。

「もしかして今日の様子が変だったのはこの事だったのか?」

コク

「だったら早く言えば、協力してやったのに」

「……祐一に迷惑がかかるから」

「バカ、そんな事気にしなくていい」

「……うん」

ミシッ

「奴か」

「……来る」

ミシッ

俺はとりあえずそばにおいてあった角材を手に取る。

ミシッ

「……来た」

たれ舞は飛び出した。
俺もその後に続く。

「せいっ!」

ザシュッ!!

たれ舞が切りつけた空間が避けた。
俺も奴の体めがけて角材を振り落とす。

バキッ!

「よし!」

致命傷ではないがダメージは与えた様だ。

「今だ舞!」

ドスッ!!

空間に穴が開いた。
奴の力が弱くなっていくのがわかる。

「やったか!?」

だが!

べキッ!

音と共に俺の持っていた角材が折れた。

「な……!?」

次にものすごい衝撃が俺を吹き飛ばした。

「ぐあっ!!」

たれ舞がもう一度奴めがけて剣を突き立てようとした。
だが、剣は空中で止まった。
奴に受け止められたのだ。

「!?」

たれ舞がよけようとしたがその時には奴の攻撃が当っていた。

そしてたれ舞は壁にたたきつけられた。

「くっ……!!」

「まい〜!!」

俺はたれ舞に駆け寄った。

するとたれ舞の体が宙に浮いた。
奴につかまれているらしい。

「おい、舞をはなせ!!」

しかし、またもやたれ舞は壁にたたきつけられた。

「くっ!! 祐一……」

たれ舞は気絶してしまった。
その時俺は、

「俺の舞に触るんじゃね〜!!」

ドガッ!!

次の瞬間、奴と作者への恨みのこもった鉄拳がヒットした。
すると奴はあえなく昇天した。

ふっ、見たか。

俺の華麗なる一撃を。
しばらくするとたれ舞は意識を取り戻した。

「……祐一が倒したの?」

「ああ」

「……すごい」

「いや、それほどでも」

「……祐一、さっき何か叫んだ?」

「い、いやそれは耳の錯覚だろ……」

「……怪しい」

その後、俺は舞を家まで送ってやった。

「じゃあ、また明日」

「……また明日」
そのころ

  ・
  ・
  ・

「祐一遅いお〜……く〜く〜」

結局たれ名雪の宿題は次の日の朝にやる羽目になった。
written by 砕

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