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川澄舞誕生日記念SS

”after kanon”
Happy Birthday!!



     1/28 

 「祐一,これから帰るんでしょう」
放課後,自分の机で微睡んでいるところを名雪に起こされる。
名雪が起こしてくれなかったら,おそらく明日の朝は学校で迎える羽目になっていただろう。
 「いや,商店街によってから帰る」
 「商店街?」
 「あぁ,ちょっと買いたいものがあって・・・」
そこまで言って俺は考えた。
名雪は女の子だ。
連れていけば何らかの役に立つかも知れない。
しかし・・・

 「ねぇ,祐一,ついていってもいい?」
う〜ん,どうしたもんだろうか?
まぁ,いいか,デメリットよりメリットの方が大きいな,どう考えても。
 「あぁ、別にいいけど」
俺はそういって鞄を持って机から立ち上がる。
寝過ぎたせいか,ほんの少しからだが重いが,そこまで気になるものでもない。
 「じゃ、いくか」
 「ちょっとまってよ〜」
そういって俺と名雪は教室から出ていった。


 「祐一,今日何買いに行くの?」
まぁ,それは当然の質問だろう。
 「アダルトビデオ」
 「えっ!」
名雪の顔が軽くひきつる。
 「・・・私,帰ろうかな?」
 「馬鹿,冗談だよ」
名雪の顔が膨らむ。
まったくこいつの変化は見ていて飽きがこない。

 「本当は何を買いに行くの?」
 「誕生日プレゼント」
すると何を勘違いしたのか,名雪が
 「私の誕生日12月23日・・・」
 「馬鹿,お前のじゃない,舞先輩のだ。それにお前にはちゃんとやったろ?」
とりあえず,普段は呼び捨てなのだが,人前では”先輩”をつけるようにしている。
 「そっかぁ,・・・祐一,彼女いたんだ」
そういった名雪はすこし寂しそうな顔をしていたような気がした。
 「そこでだ,お前についてきてもらったのは他でもない,手伝って欲しいんだ」
 「何を?」
 「プレゼント探すのを」
 「誰の?」
 「舞先輩の!」
名雪はそこまで聞いて・・・
 「イチゴサンデー・・・」
俺は,きょとんとしていた。
 「だから,イチゴサンデー」
はぁ?
どうしてここでイチゴサンデーが出て来るんだ?
 「イチゴサンデー!」
 「どうして俺がお前に奢らにゃならんのだ?」
 「手伝って欲しいんでしょう?」
上目遣いで言ってくる。
こいつ,本気だ。
ここはこっちが涙を飲むしかないのか?
ちょっと考えてみた。

 (お世辞にも俺のセンスはいいものとは言い難い)
 (名雪に手伝ってもらったほうがそれなりに良いものが見つかると思う)
 (・・・畜生!背に腹は代えられないって本当だな)

 「分かった,イチゴサンデー1つで手を打とう」
俺は,名雪の持ちかけてきた取り引きを涙をのんで”了承”したのだった。
これで妙なもんもってきたら,俺がイチゴサンデーを奢って貰おう。



ファンシーグッツ専門店には,はやり女の子連れでも居心地は余り良くない。
 「ねぇ,こういうのはどうかな?」
そういって名雪が持ってきたのは,巨大なハムスターのぬいぐるみだ。
俺にはよく分からんが,名雪が自信ありげにもってくるんだから,結構可愛いんだろうな。
まぁ、動物好きの舞もこういうのだったら気に入ってくれるだろう。
 「値段は?」
そうだ,それが気になる。
いくらバイトで稼いでるからって,限度はある。
近寄って値札を見てみる。
・・・たぶん目の錯覚だろう。
もう一回見てみる。
・・・どうやら寝過ぎて目が悪くなったらしい。
 「名雪,見てくれ」
俺は名雪に確認を求めた。
 「・・・50万って書いてあるか?」
 「うん,0が5つ並んでる」
どうやら,見間違いでは無かったらしい。
こんな値段をつける,凄いヤツに一度あって見たいものだ。
 「名雪?」
 「何?」
 「それ,置いてこい」
 「どうしても?」
 「お前,それ買うのか?」
ちょっとした沈黙の後・・・
 「うん、もとあった場所に置いてくるよ」
そういった名雪の表情は複雑なものだった。


名雪がハム公のぬいぐるみをショーケースに戻してきた。
その時,ちょうど高校生のカップルが,
 「なっ、まだ無くなってないだろう?」
 「でも,値段も下がってません」
 「ほっとけば,そのうち8000円くらいになるだろう」
等々口々にいって,帰っていった。




一時間くらいあちこち見回って,
 「なぁ、名雪。こんなのはどうだ?」
俺はそういって自分の選んだものを名雪に見せてみる。
真っ白の雪ウサギのぬいぐるみだ。
 「・・・祐一がそれがいいと思うんだったら,それで良いと思うよ」
 「そうか・・・?」
 「そうだよ」
俺はその白い雪うさぎのぬいぐるみに決めて,可愛くラッピングして貰って店をでた。
そのころには辺りはすっかり暗くなっていた。
 「なぁ、名雪?」
 「何?」
 「イチゴサンデー,今度でもいいか?」
 「別に良いよ」

俺は名雪と別れて,2つ目のプレゼントを買いに走っていた。
駅前にあるちょっと洒落た感じのする,貴金属&装飾の専門店だ。

 「すいません,注文してた相沢ですけど・・・」
カウンターにいる店員に告げる。
 「はい、少々お待ち下さい」
今はその時間すらもったいなく感じる。
 「確認できました。こちらの商品でよろしいでしょうか?」
そういって店員は”あれ”を出してくれた。
ネックレスだ。
銀のチェーン,舞の誕生石であるちっちゃなガーネット,その周りに天使の羽をイメージした細工。
俺が舞のためにデザインした物だ。
(本当の事を言うと,ほとんどが店員のアドバイスの賜物だが・・・)
世界に一個しかないネックレス。
これほど,”プレゼント”らしい物もないだろう。

 「ありがとうございました」
店員の声を背中に受けて,自動ドアから外にでる。
ネックレスには大人しめの包装をして貰った。
これで準備は整った。
後は明日を待つだけだ。
軽い足取りで俺は家に帰っていった。



    1/29

目覚ましがなるより早く起きる。
不思議と朝から,何となく緊張している。
心に張りがあるというか・・・不思議な心境だ。

 「おはようございます」
食卓で秋子さんに挨拶をする
 「おはようございます,祐一さん」
いつもの通りの一日の始まりだ。
 「おはよう・・・お母さん」
名雪もやっと起きてくる。
これで全員が揃った。

 「秋子さん,俺,今日夕飯外で食べてきます」
とりあえず,保護者にゃちゃんと知らせとかないとな。
 「分かりました,あんまり遅くならないように,お願いしますね」

いつものように走りながら名雪と学校に行き,授業を受ける。
3年である俺達にとって今の時期の授業は余り身が入らない物だ。
しかし今日は違った。
気が張っている。

 「う〜ん,寝ないまま授業が全部終わってしまった」
思わずそう口走ってしまう。
 「それが普通なのよ」
隣にきていた香里がそう呟いて俺の前を通り抜けていった。
 「まぁ、それが普通だな」
お前には言われたくないぞ,北川!



名雪には悪いが今日は先に帰らせて貰った。
家につくなり,今日の準備を始める。
服装・・・・・・OK!
髪型・・・・・・OK!
プレゼント・・・・・・ばっちりOK!
財布の中身・・・・・・・ちょっと不安?
とりあえず準備は完了した。
後は待ち合わせの場所に時間通りにいくことだ。

家を出たのは6時。
辺りはすっかり日は落ちていて,そろそろ星が見えそうな感じだ。

 「んっ?」
白い物が急に視界に入ってきた。
・・・雪だ。
こっちで暮らしてもう一年たってそんなに珍しい物ではなかったが,ホワイトクリスマスのようにイベントの時に雪が
降ると何となく厳かな気分になってしまう。
並木通りを抜けて,噴水の公園に急ぐ。
待ち合わせの時間は7時だ。
まぁ、走らなくても大丈夫だろうが、待ち合わせの時間より早くいってもばちは当たらないからな。



時計を確認してみる
7時丁度だ。
まぁ,少しくらい遅れることだってあるだろう。




雪が少し強くなった。
・・・ちゃんと携帯の番号,教えとけば良かったかな?





並木通りが真っ白に染まっていく。
時計は・・・8:15
どうしたんだろうか?
頭に積もった雪を軽く払った






いい加減,不安になってきた。
何かしていないと落ち着けない。
とりあえず,辺りを探して見よう。



公園の中を探し回る。
それこそ本当に隅から隅まで探したと思う。
それでも,舞は見つからない。
俺は並木通りに出た。


・・・・・・そこに,舞はいた。



 「・・・祐一」
 「舞?」
 「・・・祐一」
そのまま,舞は泣き出してしまった。
 「どうしたんだよ,舞」
俺は訳が分からず,ただ泣いている舞を抱きしめる事しか出来なかった。

 「どうしたんだ,舞?」
 「祐一が・・・」
やっと舞が喋り出す。
 「俺が?」
俺はそれにこたえる。
 「昨日・・・」
 「昨日?」
 「別・・・のおん・・・なの子と,一緒にいた」
 「・・・・・・・・」
 「・・・私の事嫌いになったのかな、とか色々考えたら,祐一に会うのが怖くなって・・・」
俺はそこまで聞いて,舞のことをさらに強く抱きしめた。
 「どうしてそんなこと考えたんだ?」
 「・・・祐一が楽しそうにしてたから・・・」
 「そりゃ,舞へのプレゼントを選んでたんだから,楽しくないわけないだろう?」
 「・・・あの女の子は?」
やっぱり,舞もそれは気になるんだろう。
 「幼なじみ,前にも話したろ?親戚の家に下宿してるって」
 「・・・うん」
 「それに,俺が舞のこと,嫌いになったりするわけないだろう?」
 「・・・私は祐一の事が大好きだから・・・本当に・・・」
また泣いてしまいそうな舞に軽く口づけをした。
 「俺だって,舞のことは大好きだ」




 「舞?」
 「・・・?」
俺は,鞄からまず1つ目のプレゼントをだして,舞に手渡す。
 「・・・開けていい?」
俺は無言で頷いた。



 「雪ウサギさん?」
 「そ,雪ウサギ。可愛いだろ?」



 「舞,ちょっと目を瞑っててくれないか?」
これからが本題だ。
舞は何も言わずに目を閉じる。
大人しめの包装を剥いで,ネックレスを取り出す。
 「目,開けたらだめだからな」
念のためもう一度,念を押しておく。



 「いいぞ,舞」
そういって、俺が舞に与えた戒めをとく。



 「・・・祐一?」
舞は自分の首にかけられたネックレスを見るなり,一言呟いて,それきりネックレスに見入っていた。
 「知ってるか,その石,ガーネットっていってお前の誕生石なんだぞ」
 「誕生石?」
 「あぁ,不幸や病気から舞を守ってくれる良い石のことだよ」
 「・・・祐一,ありがとう・・・」
 「舞、泣くなよ」
本当に”剣を離したあたしは本当に弱いから”といったとおり,本当に弱いな。
でも,そこがまた可愛いというか。

 「舞,まだ俺と会うの怖いか?」
 「ううん,怖くない」
一つ,間をおいて・・・
 「祐一が私の事,大好きだって分かったから・・・」
改めて,言われると本当に恥ずかしいな。
 「祐一,顔赤い」
 「なぁ、舞,腹へらないか?」
 「お腹,すいた」
 「ラーメンでも食べにいくか?」
フルフル,舞が首を横に振る。
 「牛丼の方がいい」
 「お姫様がそういうんだったら仕方ないけど,普通誕生日に牛丼はないだろう?」
舞は,(どうして?)という表情で俺の事を見ている。

 「なぁ,舞?」
 「何?」
 「明後日,暇か?」
 「・・・暇」
 「・・・動物園,行くか?」
 「・・・動物園と,遊園地にも行きたい」
 「じゃあ、遊園地にも行くか?」
他愛もない会話だが,こんな他愛もない会話の中にこそ,本当の幸せを感じてるんだ。
俺も,舞も・・・
まだまだ,普通のカップルにも馴れない俺達だが,そんなに急ぐ必要もないだろう。
俺は舞の事が大好きだし,舞も俺も大好きだと思う。
俺と舞の時間はまだまだたっぷりあるのだから。


 「あっ、舞,言い忘れてた事があった」
 「何,祐一?」

「誕生日おめでとう,舞!」


  ■とりあえずあとがきなんかを書いてみました
同棲日記以外のKanonSSです。(同棲日記とは別のお話ですよ,これ)
舞SSと言っておきながら名雪の方の出番が長いというのはどういう了見でい!と言う方,
何度も言ってますが,剃刀、爆弾,忍者,スタンド使い等々,送らないで下さいね?
出てきた長さよりも,どれだけインパクトを出せたかだと思うんです(言い訳じゃないよ?
本当はもっと違ったストーリーもあったんですが,まとまらなくてこういうカタチになってしまいました。
このSSが少しでも皆さんに共感して頂ければ,幸いです

舞先輩の誕生日企画を掲示板で言ってみて,一番危ないのは自分だというものすごく危険な状態でした。
あと1時間寝ていたら,〆切に間に合わなかった所でした。
1月30日にはONEのみさき先輩のCDがでますし,5/5は佐祐理さんの誕生日です。
まだまだ、楽しい毎日が送れそうです。

まだまだSS職人としても未熟です。
書きたいことが書けなかったり,伝えたいことが伝わらなかったり,自分の文章に満足できなかったり・・・
まだまだ努力することはたくさんあります。
「つたえたいこと,いっぱいあるの」
まさに,それですね。
私は今年1年,演劇部に在籍していました。
本当にキモチを伝える方法がたくさんあることを知ったし,表現の幅が広がったと思います。
それがいつかSSに表れる事を願いつつ・・・今回は読んで戴いてありがとうございました。

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