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<こみっくライフ♪>
〜第4ページ〜



「し、死ぬ…」

塚本印刷へ原稿の印刷を依頼してきた帰り。

「これじゃあ体がいつまでもつか分からん…」

連日連夜の大騒ぎアンド大被害、そしてその他諸々。

毎日これで原稿を描けと言う方が無理だ。

足や腕を折ってまで描いたのだから少しは誉めて欲しいものだ。

   ガコッ

「ん?」

突然マンホールの蓋が開いたと思った瞬間。

「順調のようだな。マイブラザー!」

「わあぁぁ〜!!」

奴が現れた…

「やはり吾輩の目に狂いは無かったようだ。貴様なら同人の世界を制覇できる!」

「いい加減に奇妙な登場はやめろ!」

こいつは何が目的でこんな登場を…

「むっ、一体その傷はどうしたマイブラザー」

大志が頭に巻かれた包帯に気がついたようだ。

「ああ、これか…実は…」

昨日の夜、ちょっとしたドタバタで割れた茶碗が頭に刺さった傷だ。

因みに犯人は詠美。

やはりいつか死ぬな…

「そうか、どうやら『酒池肉林』の思いのようだな」

「いや、『四面楚歌』だろ」

思わず四字熟語で返してしまった。

「次の即売会も期待しているぞ」

「ああ、ありがとう…」

「それでは、さらばだ! とぉう!」

と言いながら走り去る大志。

う〜む、何と言うか…阿呆だな。

とりあえず帰ろう。

今日は何も起きませんように…

強く願った後に俺は帰る事にした。

      ・
      ・
      ・

「はっ、あれは!」

だが俺の願いは虚しく散った。

「ちょっとで良いからさぁ」

「そうそう、ほんの少しの間だけだから」

「え、あの…」

郁美ちゃんとそのお友達がナンパ野郎共に絡まれていたのだ。

「畜生、俺の(爆)郁美ちゃんを…」

などと冗談を言っている場合ではない。

「こういう時こそ男の価値が決まるというものだ」

さて、まずはどうしよう…

         ・・・

作戦その壱、明るく話し掛けてみる

  『よぉ、やってるね。皆さん』

         ・・・

(何でやねん!)

と、一人ツッコミをする。

『やってるね』は無いだろ!

いやいや、これでは駄目だ。

         ・・・

作戦その弐、一発ガツンと怒鳴ってやる

  『お前等ぁ、何やっとんじゃぁ!!』

  『なんだと、うるぁああ!!』

  『ひぇぇ〜!(泣)』

         ・・・

ぶるぶる…駄目だ…これでは駄目だ…

やはりこの場合は己の拳が頼みだ。

         ・・・

作戦その参、奇襲をかけて鉄拳を

  相手は三人。

  出来ない事は無い。

  『おりゃぁぁ!!』

    バキッ

  『何すんだこの野郎!!』

    ボコボコボコ

  『ぎゃぁぁ〜!!』

         ・・・

駄目だ〜!!

やはり駄目だ〜!!

やられる…間違いなくやられる…

くそぉ…どうしたものか…

「だから良いだろ」

「あの、困りますから…」

はっ!

こんな事をしている間にも郁美ちゃん達が危ない!

とにかく考えていないで助けなくては!

俺は思いきってダッシュした。

「おい、お前達!」

「あっ、一樹さん!」

「何だお前…」

野郎共が振り向いたその瞬間、俺の横を何かが通り過ぎる。

「どおりゃぁぁぁぁぁ〜!!」

  バキィ!

「郁美に手を出すなぁぁ〜!!」

一瞬だった。

ほんの一瞬の間に何かが野郎共を蹴散らしていた。

そして野郎共は天へと召されたのだ。

「あ、あれは…」

俺はあれを知っている。

その名は立川雄蔵!

郁美ちゃんの兄にして最強の戦士…そして最強のシスコン(笑)…。

「一樹さん、助けてくれたんですね!」

「ありがとうございます」

「助かりました」

「えっ?」

何故か俺は郁美ちゃん達に感謝されているらしい。

「いや、あれは俺じゃなくて…」

「流石一樹さんです」

見えなかったのか…あの夜叉の如き兄の姿を…

まぁ、悪い気はしないから今はこのままにしておこう。

「いやぁ、危なかったよ。郁美ちゃん達が奴等に絡まれている時はどうしようかと思った」

「助けてくれて、ありがとうございます」

「郁美、この人知ってるの?」

「うん、千堂一樹さん」

「どうも」

ぺこりと会釈をする。

「もしかして彼氏?」

「きゃぁ〜、郁美って年上好きだったの」

からかわれる俺達。

「ち、違うって俺は只の知り合いだ」

「そうだよ。私と一樹さんはまだそんな仲じゃないよ」

まだ?

「な〜んだ、つまらない」

まだって言わなかったか?

「私、てっきり彼氏かと思ってたのに…」

「あはは、残念。…でも、そのうち…」

「ん? 何か言った?」

「いいえ、何でも無いです」

ぶんぶんと首を横に振る郁美ちゃん。

「さてと、私達はさっさと帰りましょうかね」

「そうそう、二人の仲を邪魔しちゃ悪いから」

「だから俺達はそんな仲じゃ…」

「お元気で〜♪」

「バイバ〜イ♪」

言い終わらないうちに郁美ちゃんの友人はパタパタと走って行ってしまった。

「…最近の若者は元気だな」

しみじみと実感した。

「♪」

何故か郁美ちゃんはご機嫌だったりする。

「一先ず帰ろうか。郁美ちゃん」

「はい。…そうだ、一樹さん、途中で何処かに寄って行きませんか」

「別に構わないけど」

「私、カードマスターピーチのグッズで欲しい物があるんです」

「もしかして今日発売の限定カップ?」

「そうなんです。一樹さん良く知ってますね」

「ふふふ、だてに同人は描いてないぜ」

ふっと前髪を払ってみせる。

「となると、売り切れが心配だ。早く行こう」

「はい」

俺は郁美ちゃんの手を取って走り始めた。

その様子を遠くからストーカーの如く暖かく見つめる一人の人物。

立川雄蔵は妹を見守っていた。

      ☆

      ☆


「え〜と、例のカップは…」

「おおっ、マイベストフレンド!」

「って、ぎゃぁぁ〜!!」

いきなり天井から垂れ下がってきやがった!

「出たな、悪霊め!」

「むぅ、吾輩を悪霊呼ばわりするとはナイスな度胸だ」

「言われたく無かったら普通に登場しろ」

「それで今日は何の用かな?」

「即行で普通の会話に戻すな。…実はだな」

「カードマスターピーチの限定カップまだありますか」

「ほほう、あのカップか。あるにはある」

大志の指差す棚にはカップが一つあった。

「あ、良かった」

郁美ちゃんはほっと胸を撫で下ろす。

「さすがに人気グッズなだけあって売れるのが早いな」

「そうですね。もう一つしかないなんて」

「ふっふっふ、やはり吾輩のように二ヶ月前から予約するのが良い手だろう」

「何処からそんな情報を得てくるんだ。発売が決定したのは一ヶ月前だろ」

「ふははは、吾輩の情報網はその辺のマスメディアとは違うのだよ!」

相変わらず恐ろしい奴め…

「しかも保存用、観賞用、使用の為の三つもしっかりと買わねば駄目だ」

「郁美ちゃん、こんな奴は無視してカップを」

「あ、はい」

「むっ、吾輩を無視するとは…やるな、お主達」

郁美ちゃんがカップの棚に向かおうとしたその時。

「おおっ、一つだけ残っていたでござるよ!」

「ほ、本当なんだな。き、きっとあさひちゃんのご加護があるんだな」

例の二人組みが現れた。

「まったく、君が食事を早く終わらせればこんな事にはならなかったでござる!」

「し、仕方ないんだな。に、肉まんがおいしかったんだな」

「肉まんは君自身でござるよ」

アメリカンジョークもどきを言う二人。

「でもこうして限定カップを手に…」

そして今まさに二人の手がカップにかけられようとしていた。

「ああっ、限定カップが」

と、その瞬間!

「せいやぁぁぁぁ〜!!」

   バキィィッ!

何かが出てきたと思ったら二人が目の前から消えていた。

「い、今のはもしや…」

嫌な予感がする…

案の定、店の外では雄蔵さんが二人をゴミ箱行きにしていたところだった。

「な、何故…拙者達が…」

   ガクッ

「ぼ、僕達…いつもこんな役なんだな…」

   バタッ

「哀れ…オタクたて&よこ…」


「良かった。カップは無事みたいです♪」

嬉しそうにカップを取る郁美ちゃん。

「でも一体何が起きたんでしょう?」

「郁美ちゃん、本当に見えなかったの…?」

「え、何がですか?」

「何でも無い…」

知らない方が幸せかもしれん…

あの人はSPか?

いや、ストーカーの方が合ってるか。

とにかくこのままではこっちまで被害が及ぶかもしれん。

「郁美ちゃん、今度は喫茶店にでも行こうか」

「はい♪」

店を出た瞬間に郁美ちゃんの手を引っ張ってダッシュする。

「郁美ちゃん、走るんだ!」

「わっ、一樹さん!」

「早くしないと追い付かれる!」

「追い付かれる?」

   ドドドドド!

後ろからは何かが迫ってくる気配がしていた。

「くそっ、もう来たか!」

「か、一樹さん、一体何が!?」

こうして日が暮れるまで俺達の逃亡劇は続いた。

      ・
      ・
      ・

「ふぅ、今日も疲れた」

結局落ち着いていられたもんじゃなかった。

「疲れを取るには風呂が一番だな」

そして何と言っても風呂上りの牛乳は格別♪

「ごくごく…ぷはぁ♪」

牛乳を飲みながら自分の部屋のドアを開ける。

   ガチャ

「よぉ」

「ぶはぁっ! ゆ、雄蔵さん!?」

ドアを開けた瞬間にごつい人間が立っていると思ったらあの人だった。

「な、なんでここに!?」

思わず牛乳を噴き出してしまった…

「郁美の事が心配でな」

「だからって何故俺の部屋に」

「郁美はまだ中学生だ何かと危険が多いだろ」

「人の話を聞きなさい…」

「様子を見るには家からだと不便だ。と言うわけでこの部屋ならいつでも様子を見る事が出来る」

「ここには置かせませんよ」

「そこで、俺をこの部屋に置いてくれ……と言おうとしたのだが何故分かった!」

「分かります。いつもこういう展開ですから」

「お前には分からんのか! 兄が妹を思う気持ちが!」

そう言うと雄蔵さんは『郁美LOVE!』と書かれた旗を取り出す。

「はいはい、とにかく帰ってください」

「おい、何をする」

ぐいぐいと窓の方へ押しやる。

「うりゃ!」

「こらっ、そんなに押したら落ち…あ…」

落ちた。

   ヒュゥゥ…ゴィィィン!

石に何かが落ちたような音がしたが敢えて気にしないでおいた。

そして、その日の深夜。

外からは怪しげな声が聞こえてきた。

「郁美〜! 郁美〜!」

郁美ちゃんの部屋の外から聞こえてくる。

う〜む、奴は俺が葬ったはず…

「か、一樹さん! 何か怪しい声が外から!」

「まったく、本当のストーカーか…」

「?」

俺はそっと電話の受話器を取る。

「郁美〜! 郁美〜!」

その後、警察の手によって何者かが連れて行かれたのは言うまでも無い…






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