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「舞・・やはり行くのか?」

「・・・これは私にしか出来ないから」

「そうか・・分かった。でもこれだけは約束してくれ」

「・・・・・」

「かならず戻ってくるって・・俺もこいつも舞のことが好きなんだからな!」

「・・・・・分かってる、だから祐一・・・娘の傍に居てやってほしい」

   〜 Starting Over 〜
                               Write'd by セラくん



高校3年になり卒業も間近に迫ったある日・・親父が死んだ。
海外の赴任先で仕事先に向かう途中で交通事故に遭ったらしい・・・
だけど、その訃報を聞いた俺は意外と冷静だった。
悲しくなかったわけじゃない、ただ実感が無かったんだ。

元々、仕事で家にいることが少なかった上に俺がこっちへ転校して水瀬家へとお世話になり、更に海外へと転勤して行ってからは
「別に父親なんて居なくても不便じゃない」
・・・そんなことも思うようになっていた。

だけど、実家に帰り親父の亡骸を見たとき自然と涙があふれ、誰はばかることなく泣いた・・
やっぱり血を分けた家族でもあり、やはり父親の存在の大きさを遅くも知ったのがあったのかもしれない。
その俺を舞は優しく抱きしめていてくれた・・・

  ・・・

高校を卒業した舞は、水瀬家で暮らしていた。
俺と舞、そして佐祐理さんと一緒に住むと言う約束をしていた俺達3人だったが、
やはり在学中の自分の事と大学へと進学した佐祐理さん、
そして就職も進学も決まっていなかった舞との同居生活はやはり問題があるのだろう。
あの秋子さんがきっぱりと反対した。
その代わりに舞を家に迎えてくれる事と、更に知り合いの保育園のバイトまで紹介してくれた行為に対して、
俺は感謝する事はあっても、非難する事は無かった。

そして、父親を亡くし一人残った母親には、こっちで一緒に住もうと言う俺や秋子さんからの提案も、
「私は1人でも大丈夫、それにどうせなら嫁の1人でも連れて帰っておいで」
と言う言葉に苦笑しながらも甘える事にし、大学へ通う4年間を更に水瀬家で過ごす事にした。

  ・・・

それから4年、卒業した後に母親の住む東京の方に移り住むことを決めていた俺達は
就職も先も決まり、そして母方の姓を名乗る事を決めると共に、一生を過ごす伴侶を手に入れたんだ。
もちろんその相手は・・・舞。

身内と友達を集めただけのささやかな挙式だけだったが、一生忘れることの出来ない思い出となった。
最後に、幸せな顔(傍で見ると分からないが)を浮かべた舞が投げたブーケは自然と佐祐理さんの手に収まっていった・・・

  ・・・

舞と一緒になり母親の家に同居してから2年後に待望の娘が産まれた。
子供好きの舞は自分の娘ともなれば更に親バカにでもなると思いきや
結構しっかりとした子育てと教育をする姿を見て関心するとともに舞の幼い頃の母親の想いが今の舞にも見えてる気がしてならなかった。
すくすくと明るく元気に可愛く育っていく娘を見ていると自分の方が親バカと言う言葉が合っているほどだったかもしれないな。

舞も家事や子育てなどの手のあいた時には近くにある子供剣道教室の指導をしてたりする。
昔取った杵柄でも無いが、一度有段者の先生と試合をしたら勝ってしまったと言う逸話つきの腕前を持っていた。
元々の素質があったのか、高校のときに剣道部に所属していれば全国的に名を馳せていたかもしれない・・
いやまぁ、そうなったら俺と舞との出会いが無かっただろうからこれで良かったんだろう。

そう言う俺も、会社までの通勤や仕事の大変さに順風満帆の生活とは言えないながらも
それでも、家で待つ家族のことを思うと頑張ろういう気持ちになっていた。
愛する妻と娘の顔を見るだけで仕事の疲れなんかどっかへ飛んで行ってしまうしな。
まぁ、あとは家の前を通る女子高生の初々しさを見るのも元気の元にもなってるのだが・・
(一度、舞に見つかって後で怖い目にはあったので、ほどほどにしておかないとな)

  ・・・

娘も、家の向かいにある高校はよほど気に入っていたのだろう良く遊びに行っていたのは知っていた。
最初のうちは学校から連絡があり迎えに行ったり先生に追い出されてはいたみたいだが、
好奇心と強情さは誰に似たのか、何時の間にか学校内の名物娘として人気者になっていたらしい。
学校から帰ってきては校舎内を探検した事、お兄さんお姉さん達といろんな話をした事、
先生からはお菓子まで貰った事など帰って来ては楽しそうに話すのが夕食時の日課みたいになっていた。

  ・・・

だけど、幸せって言うのはいつまでも続くものでは無いのかもしれない・・・・
娘が小学6年生の時に今までの世界が動きを止めた・・・いや別の世界が始まったのかもしれない。

ある日、いつものように高校へ遊びに行った娘は不慮の事故により目が見えなくなったのだった。
頭への衝撃により脳の視神経が麻痺を起こし、眩しいほどに輝いていた瞳は光さえも感じない盲目へと一変してしまった。
まさに昨日まで見てきた記憶を永遠の瞳に映したまま・・・

心苦しいまでに「いつか治るときが来るから、それまで頑張ろう」と励ますのだが、
自分自身でも治らないと言うのが分かるのだろう、
病室のベットで何も映らない瞳を向けられた時の娘の姿からは絶望と言う形容が似合うぐらいだった。

ある時、部屋の窓から手すりに掴まり見えない夕焼けを眺めている娘を見たときは、
この世界から消えてしまいそうで思わず後ろから抱きしめ声を殺し泣いた事もあった。
そんな情けない俺に娘は、「ねぇお父さん・・あのドラマの最終回って・・・面白かった?」と冷たい瞳から涙を流しながら聞く問いに、
俺は答えることが出来なかった・・・

  ・・・

仲良くしてくれたと言う先生や生徒達がお見舞いと共に涙ながらに謝罪をしに来た時は学校側に対して多くの非難をぶつける事はしなかった。
確かに校内での事故は学校側に過失があるのだろう。
最初はこの気持ちをぶつける場所をそこに求めていたのも事実だが、
舞の「・・・怒らないで祐一、私や娘の事を大事に思うのだったら怒らないで」と言う言葉が俺を冷静に踏みとどめてくれた。

そして、あの一見以来、舞はずっと事あるごとに目の前の学校を見続けていた。
何気なくその表情を見たとき、あの舞と初めて会った深夜の校舎内での表情と同じだと言うのを今になって気がついた。
そう、魔物の気配を感じ取った時のような厳しい表情を・・・

  ・・・

そして10日後、病室で眠る娘を見ていた自分の元に舞は現れこう言った。

「あそこには何かがいる・・・そしてそれが娘から光を奪った原因・・」

「何かって・・・」

「昔、私と祐一が感じたもの・・・だけどそれ以上のもの・・」

「魔物・・・なの・・か?」

「・・・・・・」

「でも、あれはお前が作り出したものだし、それに・・・・もぅ終わったことじゃないか!」

「・・・どこかで何かが起きた・・・そして何かがあそこで起きようとしている。その何かに娘が・・・巻き込まれた」

「くっ!何てことだ!! ・・・舞!俺も行くぜ!」

「だめ、この気配はあの頃以上のもの・・・祐一にかなうものじゃない」

「舞だって俺の協力が無ければ魔物は倒せなかったかも知れないじゃないか!? ・・まぁ、俺は何の役にも立ててなかったかもしれないがな」

何も出来ないと言う気持ちが苛立ち、舞に背中を向ける・・・だが舞はそんな俺を後ろから優しく抱きしめ、

「剣を捨てた私は弱いから・・そんな私を守ってくれた祐一は強いから今日まで私でいられた・・・
 だけど、これだけは私がやらなければならない・・・今度は祐一だけじゃなく娘を守るために私は・・・もぅ一度・・・・・剣を取ります。・・だから」

優しく廻された手を取り舞のほうを振り向くと、その涙で濡れた頬に両手をあて

「舞・・やはり行くのか?」

「・・・これは私にしか出来ないから」

「そうか・・分かった。でもこれだけは約束してくれ」

「・・・・・」

「かならず戻ってくるって・・俺もこいつも舞のことが好きなんだからな!」

「・・・・・分かってる、だから祐一・・・娘の傍に居てやってほしい」

自然と重なる唇に舞の決意を感じ、俺は舞を送ることにした。
娘の傍に寄り母親の眼差しで、その頭を数回撫でると

「・・・・それじゃ祐一・・・・また」

「あぁ・・・またな」

静かに部屋を出て行く舞を扉が閉まった後もずっと眺めていた。
寝ている娘が「・・お母さん」と言う呟きが俺の耳に響いた・・・

  ・・・

家に帰り、押入れの一番奥から何も装飾の無い木の入れ物を出すと、
表面を優しく撫でると蓋を開け、中に収めてあった数々の物をを取り出した。
月明かりだけが射し込む部屋の中で、一糸まとわぬ姿になると取り出したものを身につけていく。
それは祐一と初めて会ったときに着ていた衣装・・・
今では少しばかりサイズが合わないところもあるがそれでも当時の印象を残す舞の姿がそこに現れた。
まるで、それこそが戦うための姿であるかのような気配を漂わせながら・・・

最後に箱の中から長物の袋を取り出すと封印のごとく絞めてある紐を解く
鞘から剣を抜き出すと正面に掲げる・・それは月光を浴び、舞の姿を映していた。
誰もいない家を出ると、ささやかな庭先を通り門を開ける。
門柱に埋め込まれた「川名」と言う表札に手を添え目をつむると・・
「それじゃ、行って来ます祐一」
と呟き深夜の校門をくぐっていった。

  ・・・

正門を通り、いつもは生徒達が通る玄関前へと進む。
今は硬く閉ざされた扉のガラス窓から中をうかがっていると

(ふふっ、早くおいでよ)

「!?」

子供のような声が頭の中に響いたと同時に入り口の扉が自然に開かれていった。

「・・・・・・」

警戒しながらも中へと進む。

「この気配は・・・はっ!?」

通りすぎようとしていた下駄箱のロッカーが音も無く倒れてくるのを察知した舞は、倒れてくるロッカーを避けるように瞬時に跳躍、
玄関のフロア内に受身を取りながら転がりでた。
派手な音を立てるロッカーに周りの家の様子を気にし外を見るが、あたりは深夜の住宅街の気配を漂わせるだけ・・・

「・・・・なるほど。あくまでも私達だけの世界と言うことなの」

(くすくすっ、だから早く遊ぼう。私を捕まえないとあの女の子は私が連れてっちゃうよ?えいえ・・)

 ガキッ!

右手で持った剣を横に払うと壁に当たり深い傷をつける。
うつむいていた顔を上げ、声のする方を睨み付けると

「・・・ゆるさない」

剣をかまえなおすと暗い廊下の奥に向かって掛け抜けて行った。


廊下を走り、階段を駆け登ると相手の気配を探し一つ目の教室に飛び込む。
中にいないのを察し、更に次の教室へ・・

(あははっ、こっちだよ)

声を聞き廊下へと踊り出す!

「!!」

そこには掃除ロッカーから出たホウキやモップ、それに雑巾やホースなどが宙に浮かび、舞へと向かってきた。

 キンッ! カンッ!!

剣で薙ぎ払いながらも前へと進む中、背後に気配を感じ振り向く!
いつの間にか背後から襲いくるホースに巻き付かれ倒れる舞!
更に生き物のように体から首へと進むと絞め始めた。

「ぐっ!・・かはぁ」

息苦しさに顔をゆがめる。

(ねぇ、苦しい?苦しいよね? 私はもっと苦しんだんだよ・・)

「・・・・!! ・・!!」

首を締め付け息の出来ない苦しさに意識が遠のく・・・
その時、月明かりに照らされた廊下の壁、目に付きにくい低い場所に何か絵のような文字のようなものが目に入った。
それは舞には見なれた筆跡で書かれた小さな相合傘と2人分の名前・・・
『お父さん』 『お母さん』 そして娘の名前・・

「・・・・くっ! うぅ・・ま、負けられない・・わ!」

無理な体勢の体を起こし、壁に寄りかかりながらも起き上がる舞、
そして動かせる右手に持った剣を床に刺すと渾身の力を体にこめると立て刺してある剣に背中から体を預けた。

 ザクッ!

ホースが切れると同時に舞の服も切り裂き背中から鮮血が飛ぶ。
それでも自由になった両手で首に巻いたホースをほどくと荒い息をしながら剣を抜き取った。

(あらら、残念・・・だけどまだまだこれからだよ)

遠く離れていく存在を追いかけようとする舞は、その場にスッと座ると先ほど目に留まった
幼い文字で書かれた相合傘を手でなぞりクスッと母親の表情を浮かべ微笑む。

「・・・ありがとう、お母さんはあなたのお陰で助かったわ」

新たなる決意と共に舞は廊下を駆けて行った。



(うふふっ、わたしはここだよ。早くおいでよ)

3階に上がると声のする図書室と書かれたプレートを見やり剣を構え扉を開けた。

「!?」

月明かりに照らされていた廊下や教室などと違い、そこには深い暗闇が広がっていた。
舞は高校時代に太陽光で本の色あせを防ぐために厚いカーテンを掛けていたのを思い出すと
中に入り壁際に手をはわせながら電灯のスイッチを探す。すると・・

「あっ!」

背後から突き飛ばされるように図書室の中へとよろけ入ると同時に入ってきた扉が閉まる。

「くっ・・・ど、どこなの?」

まさに真の暗闇・・・何も見えない図書室で剣を構えながらうろたえる。

 どかっ、ガシャーン!

何かにつまづき転ぶ舞、その拍子に剣を落としたことに気づき見えない床を這いずるように手を伸ばした。

(ふふふっ、何も見えないよね)

「う・・うぁ・・・」

(怖い? もしかしたら私が剣を持ってるかもしれないよ?)

「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・・」

(ほらっ)

 ガタガタッ

「うわぁ! ・・・い、いやぁぁぁぁぁ!!」

(あははっ、あはははははっ)

舞はその場に膝を抱えるように座り込む・・・心の中を見えない恐怖が渦巻いていた。

「わ、私は・・・私は・・・」

ただ自分の中から恐怖を払うように頭を左右に振るが、体の振るえは取れなかった。

(これが闇の世界・・今のあの子が見てる世界・・クスクス)

「!?・・・これが今あの娘が見てる世界・・」

その言葉を聞くとハッと顔を上げ何も見えない闇を見つめた。

「あの娘はこれから、この世界の中で生きていくの? ・・・そんなの・・・そんなの酷すぎる」

(そうだよね。これが永遠に続くんだよ。あの子はどこまで耐えられるかなぁ?)

「・・・・・」

(だから、もぅ終わりにしようよ。あなたも忘れちゃえばあの子は直ぐにでも私の世界にやって来れるの。
 ふふっ、あの子とは向こうでも友達になれそうだし・・・ねぇ早くここから逃げ・・・!?)

「冗談じゃないわっ!!」

最後まで言葉を聞かずに舞はその場に立ち上がる。そして、

「あの娘は負けないわ・・・私と祐一の子供だもの!! ・・・だから私が先に負けるわけには行かない!」

そう強く言うと、舞の周囲に張り詰めた気配を漂わせる。

「ゴメン祐一・・・あの力を、私の力を今・・・・使います」

締め切った部屋の中を一筋の風が吹く。そして暗闇の中に金色の双眼が光った。
舞は見えないはずの気配を見つめた・・・

「・・・そこにいるのね」

(な、何? 何なの!?)

「私の過去の忌まわしき力・・・母から受け継いだ能力(ちから)」

何かに近づくように1歩1歩と舞は歩みを進める。

「ピースの足りないパズルのように捨てられた母が・・謝罪しながら育ててくれた母が・・」

後ろで結んでいたリボンが自然と千切れ、揺ら揺らと長い黒髪を漂わせる。

「こんな力は嫌だった・・皆に嫌われ、逃げるように母と辿り着いた街・・そこでも」

歩いて来た舞は何かの側で立ち止まる。

「だけど、祐一は助けてくれた・・側に居てくれると言った・・ずっと居てくれると言った・・」

右手を横に掲げると、呼び寄せたかのように空中に現れた剣を握った。

「だから、私は守る! この不可視の力を使ってでも!!」

両手で握った剣を振りかぶるように上げると、目の前の気配に向かって振り下ろした。

 ドカッッ!!

床のタイルパネルが数枚砕け散ると同時に出入り口の扉が開く!

「・・・・逃がさない」

次の瞬間には廊下へと踊り出、何かを追うように月明かりの廊下を駆ける。
ふいに暗闇の向こうから何かが現れる!
それを駆ける速さを変えずに剣を振るい叩き落していく。
舞の通り過ぎた後には、二つに両断された定規やカッターナイフなどが転がった。
廊下の突き当たりまで進むと舞は足に力を込め滑るように止まる。
顔を上げ階段の見上げると一気に跳躍し踊り場まで飛ぶと更に上の階へと続く階段を見ると、
今度は空中を飛んできた数脚の椅子や机が舞に迫る!

「こんなもので・・・」

剣を持たない左手を横手に前へ出すと何か見えない障壁に当たったかのように椅子や机が弾かれた。

「私を倒せると思って・・・」

金色の瞳を輝かせながら舞は気配のする場所に向かう。



ザッ・・
舞の辿り着いた部屋の扉には「立ち入り禁止」と書かれたプレートが掛かる。

  −社会科資料室−

10日ほど前からココへは誰も入れないようになっていた。
その理由を知っている舞は持っていた剣を後ろでに持ち、立ち入り禁止の札と資料室のプレートを睨み付けると、

「うわぁぁぁっ!!」

思いっきり扉を蹴り壊した。

「はぁ・・はぁ・・・!」

息を落ち着かせ、破片が舞い散った資料室へと進む。

中にはロッカーや資料を置く整理棚などが整然と並べられ月夜の明かりを受け歴史を重ねてきた資料品が複雑な影を落としていた。
1歩1歩と部屋の奥に進んでいく。そして壁際まで進むと剣を上段に構える。
振り下ろす先には両肩が出たノースリープの白いワンピースに黄色いリボンを髪の両側に結んだ小さな女の子が居た。


「どうして・・私はお兄ちゃんと居たいだけなのに・・・ずっとお兄ちゃんだけと居たいだけなのに・・・
 お母さんはどこかへ居なくなっちゃって・・・それでも、いつも側に居てくれたのはお兄ちゃんだけ。
 私が最後の時だってお父さんのカッコをして私の手を握っていてくれて・・・どうして?ねぇなんで私だけこんな目に遭わなくちゃならないの!?」


「・・・もぅ終わりにしよう」

たどたどしくも思いのたけを話す少女に向け舞は静かにそれでも鋭く剣を振り下ろす。
全ての思いが断ち切れようとした瞬間・・・

 パンッ!

「!?」

舞の振るった剣は少女の上げた手で止められていた。

「だけどね、浩平お兄ちゃんは永遠を願った。 ・・・そして、あの人が永遠の盟約を私にくれたの」

「くっ・・・」

舞の視界が白い光に包まれていく、そして意識の中に入り込んできた・・・


  ・・・


 (公園の芝生に座る少女・・・ひきつった笑顔で涙を我慢するように)

 (高台の公園に不釣合いなドレスを着ている少女・・・木漏れ日を悲しそうに見上げながら)

 (両手一杯にハンバーガーを抱えている少女・・・誰かを探す目には不安を浮かべながら)

 (夜の学校の中庭で何かを見つめる少女・・・その瞳に涙をたたえながら)

 (雨の降り続く空き地で傘も差さずに泣き崩れる少女・・・目覚まし時計が雨に打たれながら)

そして、舞の見慣れた顔つき・・・今よりも大きく育った娘が誰も座っていないベンチに話し掛けている・・・

 「・・・冗談・・だよね?」


  ・・・

 パキンッ!

「はっ!?」

舞は剣の折れる音と共に意識は目覚め、そして次の瞬間何かに弾かれるように舞の体を弾き飛ばし廊下の壁へと打ちつけた。

(分かったでしょう。これはもぅ決められた事なんだよ。だって盟約だもん)

「かはっ・・・う・・・うぅ・・」

体に受けた衝撃で吐血し声も出せず、うめくだけの舞・・

(あなたのこの力でも何も変えられないの。 だから、こんな力・・・無くなっちゃえ!)

「い、いやぁぁぁぁぁ!!!」

舞の体を激痛が襲う。体の中から心の中から何かが出て行く感じ・・・それは、

「お、お母・・・・さ・・・・・ん」

その一言を呟き、舞の意識は深い闇へと落ちて行った。


  ・・・


明け方になっても帰ってこない舞を心配し学校へとやってきた俺は、気を失い廊下に倒れている舞を見つけた。
急いで病院へと担ぎ込むと打撲などの外傷や精神的なショックなどにより1ヶ月の入院となった。
ずっと意識の無いまま眠り込む舞だったが1週間経った頃、目が覚めるかのように目蓋を開ける舞・・

「・・・ゆういち・・・ごめんなさい。 ダメだった・・・私の力でもダメ・・・それにお母さんの力ももぅ・・」

「バカ野郎、そんな事なんでもぅどうでもいいさ。 なぁ言っただろ、ずっと一緒だって? もぅ俺を1人にするなよな」

「・・うん、ごめん・・・祐一」

舞の差し出した手を握り締めると、その手に幾度も落ちる涙の雫を作り上げていった。


深夜の学校内での出来事も、娘の怪我による咄嗟的な衝動として同情的な意見もあり警察沙汰にはならなかったのが不幸中の幸いだった。
色んな事が重なり起き、俺自身も精神的にも体力的にも疲れきっていたが妻と娘の事を考えると甘えた事も言ってられない。
事後の始末をいろいろと多忙していた時、
今は倉田家の有望な役員として働いている佐祐理さんが重要な仕事さえもキャンセルして見舞いに駆けつけてくれた。
それに名雪と秋子さん、そして北川と香里も見舞いに遠くから来てくれてもいた。


「舞、頑張ったね・・今日は一緒に居るよ」

「舞さん・・・ふぁいとっ、だよ♪」

「祐一さん、家のことは任せてください。ですから舞さんと娘さんの側に着いてやっててくださいね」

「祐一、大変だったみたいだな。何か俺に出来る事があったら遠慮なく言ってくれよ」

「俺、じゃなくて俺たちでしょう。私がいないと何も出来ないくせにね」

舞でさえも立ち向かえなかった何かに対しての不安も、そんな皆の気持ちに感謝すると共に和らぐ事が出来ていた。
部屋を出る名雪がお腹の中に宿した身重な体を大事にしながら、

「祐一、この子が産まれたら、いつか親子3人で見に来てね」

そう言うと「ふぁいとっ!だよ♪」とニッコリと笑う名雪に苦笑するだけだった。

そして、悪夢と衝撃のあの日から数年後・・・

  ・・・


  <12月3日>

「いってきまぁす」

「おぅ、気をつけるんだぞ」

「ほらほら、体操服忘れてるわよ」

「あははっ、ありがとうお母さん」

「いってらっしゃい」

そう言うと、見えない瞳に通いなれた玄関から学校までの道筋を映しながら学校へと向かい玄関を出て行く。
家の目の前にある高校へと向かう娘の後姿を目で追いながら軽く手を振る。
後から来た祐一が舞の肩に手を置き共に娘の姿を見る。
あの娘の憧れだった制服に袖を通して早3年・・・

「とうとうこの日が来たな。 舞が見たという未来・・・娘にとっても1つの大きな出会いと出来事の日・・」

「えぇ、力を無くした私にはもぅ何も出来ないかもしれないけど、あの娘なら大丈夫だと思う・・・だって」

「俺たちの娘だから・・・だろう?」

祐一の胸に頭をあずけながら

「えぇ、そうよ。あの娘にも私たちのような素晴らしい出会いと、そして乗り越える力を持って欲しい・・だから私達は暖かく見守っていきましょう」

朝日の眩しい青空を見上げる舞。
季節が変わるかのように冷たい風が吹く、次に始まる新しい季節に向かって。

  ・・・


いつもの学校の屋上・・
いつもの気持ちの良い風・・・
そして、いつもの夕焼けの日の暖かさ・・・

毎日の日課のように屋上で夕焼けを見えない瞳に映し、季節ごとに変わる風の変化を感じながら今日も私はここにいる。
何故だか判らないけど、この場所で私は誰かと出会う・・
そんな漠然として意味の無いようなことだけど、心の凄く奥隅にある小さな想い。
両親の愛情にも似たそんな暖かな気持ちを大事にしたまま・・

 ガチャ

「おっ良い夕焼けだなぁ。 これなら明日は、いい天気だな」

そんな、いつもの日々が今日から大きく変わる。

「そっか、今日は夕焼けなんだ」

お父さんとお母さんが、同じく学校で出会ったように、私も運命を変えるような大事な人と・・・

 「夕焼け、綺麗?」


   〜fin〜




  <あとがき>(言い訳とも言う・・)

これって、KanonのSSじゃないよね? (自爆)

っと言うわけで、セラくん初のKanon&舞先輩のSSです。
たぶん、誰もが気づいていると思いますが舞先輩と祐一との娘は、あの人です。(^^;
あえて名前を出さないのも意図するものですよ。

某サークルさんの、ONEの同人誌で目が見えなくなった原因は永遠の世界からの力によるもの・・
みたいなストーリーを見て、学校と不思議な力って魔物だよなぁ・・
だったらKanonとONEを繋げて、ついでにMOONの設定も使えるかも?
なんて思っていたら、こんなのが出来てしまいました。(笑)
いや、でもこう言うパラレルワールド的な話って好きなんですよ♪

でも、SSって難しいけど面白いですね!
自分だけのストーリーで、好きなキャラを自由に動かせるし、ハマりそうです。
あとは人様が読める内容と構成力、文才が欲しいですけど。(^^;

 <参考文献>
ムービーック刊「MOON」、「ONE〜輝く季節へ〜3巻」
サークルGP-KIDS「プライムタイムU」

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