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<我らたれ族・第3話>



 俺達三人は座っていた。
 え、どこにだって?
 それは、廊下の片隅さ。
「……祐一、お腹空いた」
 たれ舞が嘆いた。
「俺に言うな」
「ふぇ〜、本当にお腹空きましたね」
 たれ佐祐理さんも嘆いた。
「ああ……腹減った」
 そして俺も嘆いた。
 う〜ん、最後に食べたのはいつだったか……
「……誰のせいでこんな事に」
「お前だろ!!」
 まったく、あの時にあんな事しなければ。
    ・
    ・
    ・
「はぁ〜、あいつのせいで今日は嫌な一日になってしまった」
「……祐一」
「久瀬さんにも困りましたね」
「あいつの方こそ、この学校から出て行けば良いんだ」
「祐一さん、そんな事言ってはいけませんよ」
「でも……」
 昼休み、弁当を食べ終わった俺達が教室へ戻ろうとした時、奴に会った。
『やぁ、倉田さんに川澄さんに相沢君』
 思い出すだけでも腹が立つ久瀬だ。
 しょうもないただの世間話のつもりだった。
 しかし、やはりあいつといると腹が立つ。
 世間話からだんだん舞の退学の話へと向かってしまった。
 それで昼間から口論になったのだ。
「舞はこの場所を守ろうとしてただけだ」
「久瀬さんにも問題はありますね」
「だろ」
「でも久瀬さんはこの学校の為にと思って……」
「それでも許せないな」
 ふと、気がつくと舞がいなかった。
「あれ?舞は?」
「いないですね〜。舞、どこ〜?」
 少し廊下を戻ってみると舞が立っていた。
「舞、どうしたんだ?」
「……感じる」
「はぇ?何を?」
「この部屋から何かを……」
「この部屋って……」
 其処は生徒会室だった。
「……って、おい」
 舞が入ろうとしたので引き止めた。
「入ってみる」
「やめろ、久瀬が使う部屋なんて入らない方が良いぞ」
「でも……」
「祐一さん、舞、後二分で始まってしまいますよ」
「そういう事だ。あきらめろ」
「……うん」


 最後の授業が終わり、鞄を持って昇降口へ向かう途中二人に偶然会った。
「あ、祐一さん」
「よぉ、ちょうど良い、一緒に帰ろう」
「はい」
「(コクン)」
 そして生徒会室の前でまたしても舞が立ち止まった。
「またか」
「舞、どうしたの?」
「やっぱり感じる……」
 すると舞は部屋の中に入っていった。
「あ、おい」
 仕方なく俺達も中に入った。
「一体何があるんだよ」
「……これ」
「これ?」
 舞の指差す物を見る。
「舞、これ何?」
 それは壷のような物だった。
「わかった、梅干だ!!」
「違う」
 あ、やっぱり。
「この中から感じる……」
 舞が壷の蓋に手をかけた時。
「何をしている!」
「何だ、久瀬か」
「その壷の蓋を開けるのはよしたまえ!」
「何でだよ?」
「それを開けたら恐ろしい事が……」
「あの〜、久瀬さん……」
「何ですか、倉田さん?」
「もう、舞が開けちゃったんですけど……」
 見ると壷の蓋はしっかりと取れていた。
「な、何て事を〜!!!」

  カッ!

 その瞬間、壷の中から何かが飛び出したような感じと共にとてつもない衝撃が俺達を襲った。
「「わ〜!!」」
    ・
    ・
    ・
 一体、どれくらい気絶していただろうか。
 床の冷たい感触で気がついた。
「んん……一体何が起きたんだ?……そうだ、佐祐理さんに舞!」
 たれ佐祐理さんとたれ舞は俺のすぐ側に倒れていた。
「佐祐理さん、舞、起きてくれ」
 ゆさゆさと体を揺すると二人とも気がついた。
「あ、祐一さん。……一体何が起きたんですか?」
「さぁ、俺も分からない」
 久瀬も転がっていたが起こさないのも可哀想なのでとりあえず顔を引っ叩いた。
 パン、パン!!
「痛い……」
「おっ、気がついたか」
 くいっ、くいっ
「祐一、感じる」
 たれ舞が俺の袖を引っ張った。
「え、何を?」
「魔物の気配」
「何だって!?」
「ふぇ〜、なんだか大変みたいですね」
「ふっ、ふふふふ、はははは」
「どうした久瀬、おかしくなったのか?あっ、元からおかしいか」
「やっと……やっと出られた」
「はぁ?」
「壷の中は狭かった」
「祐一、あいつ久瀬じゃない」
「え!?」
「魔物……」
「ご名答。私は、昔壷の中に閉じ込められた魔物だよ」
「久瀬の体に憑いたのか!」
「ちょうど良いところに体があって助かったよ。とりあえず久瀬デビルとでも呼んでくれたまえ」
 なんだよその名前……
「そんな壷がどうしてここにあったんだよ」
「ここの校長がこいつに頼んで神社で供養するつもりだったらしいな」
「………」
 舞が久瀬デビルを睨みつけていた。
「君には感謝するよ。どうやら君と私は波長が合うらしい」
「だましたの……」
「少し開けてくれと念じただけで開けてくれるとはな」
 なんか大変な事になってきたな……
「と言うわけで川澄さんと倉田さんを渡してもらおう」
「って何が、と言うわけで、だ!!」
「封印が解けたばかりで力が足りないのさ。そこで川澄さんと倉田さんの力を奪わせてもらう」
 とりあえず……
「そして力が回復したら……って、逃げられた!!」
 俺達は昇降口へ向かってダッシュしていた。

 タッタッタッタ
「祐一さん、最後まで聞かなくていいんですか?」
「大体あの手の奴らが言う台詞は一緒だから分かる」
「待て〜!!」
「祐一」
「祐一さん!」
「くそっ、もう来やがった」
「二人を渡すんだ相沢君」
「やなこった」
「川澄さんの『力』と倉田さんの魔力さえあれば以前よりも強大な力が手に入るのだよ」
「だったらなおさら渡すわけにはいかないな」
 それにしても佐祐理さんの魔力って何?
「そっちがその気ならこっちにだって考えがある」
 すると久瀬デビルは右手を上げた。
「出でよ!!忠実なる我が部下達よ!!」
「部下がいたのか!?」
 すると異様な煙が周りに立ちこめた。
 ボワッ
「うわっ、なんだこの煙!!」
 しばらくすると段々と煙が消えてきた。
 煙越しに奴の部下があわられる。
「「我ら、久瀬デビル親衛隊!!」」
「………」
「………」
「………」
「ふっふっふ、どうだ、驚いて声も出まい」
「ある意味驚いたよ………何をしてるんだ、北川と、え〜と台詞もCGもない人」
「斉藤だ!!」
「俺達は久瀬デビル親衛隊だ!!」
「だからなんでお前達なんだよ」
「ちょっと洗脳させてもらったよ。私にとっては人間を洗脳する事など簡単なのさ」
「そいうわけだ、相沢」
「俺は出番がもらえれば何だって良いんだけど……」
「何か言ったか、斉藤?」
「いや、何も」
「よしっ、二人ともあの二人を連れ去るんだ」
「「了解」」
 ザッ
「どうするんだ、舞!?」
「佐祐理、剣を」
「わかった」
 佐祐理さんはステッキを取り出した。
「佐祐理さん、そのステッキは?」
「説明は後です!」
「は、はい」
「霊石よ、我が願いを叶えたまえ。剣を我の前に召喚せよ!」
 するとステッキの石が輝いて剣がその姿を現した。
「舞!」
「(コク)」
バシッ
 舞は剣を受け取ると北川と斉藤を切り付けた。
「せいっ」
ザシュゥゥ!!
「「はうっ!」」
 ドサッ
 弱い……
「弱い……これほどまでこの二人が弱いとは……」
「北川君、斉藤君、弱すぎるぞ」
「「す、すいません」」
「やはりこの私がやらなくてはならないか」
「舞、この程度だったら久瀬だって」
「そう簡単にはいかないよ」
 久瀬デビルが手を掲げる。
「はっ!!」
「うわっ!?」
 ドガッ
 ぐっ、一体なんだ!?
 何か見えない力で廊下の曲がり角の壁に叩きつけられた。
「祐一さん!」
「倉田さんもだ!!」
「きゃっ!!」
「危ない、佐祐理さん!!」
 ボゴッ
 俺はちゃんと佐祐理さんを受け止めたつもりだった。
「ぐあっ!!」
 き、利いた……
 ボディーにちょうど入った……
 佐祐理さんの体が俺のボディーに見事に入ったのだ。
「ふぇ〜、祐一さんすいません……」
「いや、いいんだ」
「はっはっは、どうだ私の力は」
「くそっ」
 その時、不意をついて舞が久瀬デビルに飛び付く。
「せいっ」
 ガキン
 しかし、剣はすんでのところで何かにぶつかったかのように空中で止まった。
「いや〜、危ないな川澄さん。こんな事をするから退学になるんですよ」
「くっ……」
 ギリギリギリ
「そんな事をする悪い生徒にはお仕置きをしなくては」
 やばい!!
「そらっ」
 いとも簡単に舞の体が吹き飛んだ。
「舞〜!!」
 ドカッ
「ぐはぁっ!!」
 今度は舞の体が顔面にヒットした。
「くっ……大丈夫か、舞!?」
「ありがとう、祐一……。祐一、鼻が赤い」
「そんな事は気にするな。さっさと逃げるぞ」
「そうはさせないよ」
「あっ、後ろに!!」
「何!?」
 久瀬デビルが後ろを向いた隙に二人を抱えて逃げ出した。
「はっ、こんな子供のような作戦に引っかかるとは!」
 やはり頭は久瀬並に単純だな。
 タッタッタ
「とにかく外に出よう」
 タッタッタ
 よしっ、昇降口が見えた!
 ガチャガチャガチャ
「あれ、開かない……」
「祐一、鍵は?」
「全部開いてるぞ」
「ふははは、無駄な事はやめるのだ」
 もう、来たのか!?
「この学校は結界で封印されている。しかもこの結界の中の時間は止まっているのさ」
「もしかして……」
「もちろんこの私がやった。ちなみにこの結界の中では寿命は減らないぞ」
 なんて都合の良い結界……
「祐一さん……」
「この状態だと逃げられないな……」
「観念して早く二人を渡すんだ。相沢君」
「祐一、佐祐理をお願い」
 ザッ
「舞、止めろ!」
 ガキンッ
「なんと可愛らしい攻撃だ。はっはっは」
 久瀬デビルが手を掲げた。
「この野郎!!」
 ガシッ
「相沢君、無駄な事を……ていっ」
「うわっ!」
 ドカッ
 俺達はまたもや見えない力で吹き飛ばされた。
「痛ててて、大丈夫か舞……」
「……なんとか」
「三人とも無駄な事はやめたまえ」
「くっ、奴が不可視の力を使う限り勝てないぞ」
「不可視の力と言うな!某宗教団体の力と一緒にしてもらっては困る」
「じゃあ、どこが違うんだよ?」
「えっと〜……う〜ん……あれ、どこだっけ……」
 やはり一緒じゃないか。
「ええ〜い、そんな事はどうでも良い!とにかく君達では私には勝てない!」
「うりゃ、足払い!」
 ガッ
「あっ……」
 ガンッ
「痛っ!頭打った〜!」
 久瀬デビルがもんどりうっている。
「今だ、舞!!」
 舞が懇親の力を込めて剣を振るった。
「この!君達では勝てないと言っただろう!!」
 ビリビリと体が震えるほどの威圧感を感じた。
「危ない、祐一離れて」
「そんな事をしても無駄だ〜!!」
 逃げられない。
 そんな考えが脳裏を過ったその時。
「テレポート!!」
 フッ
 佐祐理さんの声と共に俺達は久瀬デビルの前から姿を消した。
「テレポートで逃げたか……しかし、いつまで逃げられるかな」
    ・
    ・
    ・
 と、まぁ、そんな訳でここにいます。
「佐祐理さん、今何時?」
「お腹空いた……」
「時計は止まってるので分からないですけど多分夜が明ける頃だと思います」
「何日の?」
「お腹空いた……」
「あれから二日だと思いますけど……」
「そっか……」
「祐一、お腹空いた……」
「あ〜も〜!そんな事言うから余計にお腹が空くじゃないか!」
 ぐ〜
 駄目だ、もう怒る気力も失せた……
「佐祐理さん、いつまでこの結界の中にいれば良いのかな」
 今、俺達は佐祐理さんの出した結界の中にいるのでなんとか奴等の目から逃れている。
「さあ……」
 さあって……
「そうだ、佐祐理さんの魔法で何か食べ物出せないの?」
「まだそいう魔法は……」
「そっか……」
「祐一〜、お腹空いた〜」
 舞が駄々をこねてごろごろと転がっていた。
「だから、そんな事は言うな!」
「はははは、困っているようだな」
「北川!」
「腹が減ってるんだろ?可哀想だな〜」
「お前、どうしてここに!?」
「いや〜、探すのは大変だったぞ」
 すると北川はおにぎりを取り出した。
「さて、夜食でも食うか」
「ちょっと待った〜!!」
「なんだよ」
「それを一体何処から持ってきた」
「調理室だよ」
 はっ、その手があったか!
「北川、そのおにぎりをよこせ」
「そうはいかない。欲しければ取ってみろ」
「よっしゃ、舞、佐祐理さん、今すぐおにぎりを取ってきてやるからな」
「おっと、戦う方法は俺が決めさせてもらう」
「何だよ?」
「学食メニュー暗記対決」
「絶対駄目だ!」
「仕方ない、じゃあその二人を渡せば食わせてやるぞ」
「それも駄目に決まってるだろ!」
「ったく、わがままな子供だ」
「今だ!」
 ガシッ
 隙を見ておにぎりに飛び付いた。
「うわっ、何をする!放せ!」
「放すかよ!」
 もう俺はおにぎりしか見えていなかった。
「ええ〜い、放せ!」
 ブンッ
 無理矢理引き剥がす北川。
「がるるる!」
「……んじゃ、俺は帰るから」
 ダッ
 突然北川が逃げ出した。
「させるかよ!」
 ダッ
 すぐに俺は北川を追いかけた。
「おら〜!!」
「わぁぁ〜!!」
 ピンポンパンポ〜ン
  (自主規制)
    ・
    ・
    ・
「さてと、腹もふくれたし。これからどうしよう?」
「う〜ん……」
「……壷」
「え?何か言ったか、舞?」
「あの壷があればまた封印できるかも……」
「………」
「………」
「何で今まで気がつかなかったんだ〜!!」
「はぇ〜、そう言えばそんな手もありますね」
「よしっ、決まりだ。これからあの壷を取りに行ってそしてあいつをまた封印する」
「でもあの壷は?」
「……多分、生徒会室」
「えらいぞ、舞。よく壷に気がついた」
 ナデナデ
「………」
 たれ舞は真っ赤になりながら照れていた。
「じゃあ、行くか」
「はい」
 コク
  つ・づ・く
written by 砕

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