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<かえるの王子>



それは、むかしのおはなしです――


あるところに、ハンサムで
心の卑しい王子さまがおりました。

「う〜ん、ようやく名雪から解放されたぞー」

王子さまは、お姫さまをほったらかして
街に遊びに出かけました。

「へへ、ここんとこ、エロ本もろくに買えないかったからなー」

こずかいを握り締め
目指すは商店街の本屋さん

そこへ、みすぼらしいおじいさんが現れて
王子におねがいをしました。

「100円貸してくれよー」

王子はこれをきっぱりと無視。
かわいそうなおじいさんは、すがるように

「な?貸してくれよー」
「あっちいけ!」

なんということでしょう。
王子はおじいさんを殴るふりをして、おどしたのです。

「ひぃぃ!このあわれな年よりをいじめるとは…なんてやつじゃ」
「うるせー!なにが“貸してくれ”だ。返すアテなんてねーくせによー」

おじいさんは、泣く泣く逃げて行きました。

しばらく歩くと、
今度はよその国のお姫様が困った顔で、八百屋さんの前で立ちすくんでおりました。

「佐佑理さんじゃないか。どうしたの?」
「あ、祐一さん」

先ほどとは、態度も言葉使いも一変。
ニッコリと微笑みかけます。

「あの…実は…」
「なに?困った事があったら遠慮なく言ってよ。俺と佐佑理さんの仲じゃないか。な?」
「それでは遠慮なく」

お姫様は、お金が足りなくてお野菜が買えないというのです。

「なーんだ。それなら俺が立て替えといてやるよ」
「そんな、悪いですよー」
「いいって、いいって」

王子は笑って、お財布から虎の子の千円札を取り出しました。

「だめです。そんな大金…」
「お金持ちの佐佑理さんらしくないな。いいって、たかが千円――」

王子さまの言葉が終わらぬうちに
あら不思議
目の前にいたはずのお姫様の姿が、すっかり

「あれ?佐佑理さん?どこへ…」
「あははー!ここですよー!」

声の方を見上げて仰天
八百屋さんの屋根の上に立っているのは、魔女の衣装に身を包んだお姫様。

「さ、佐佑理さん!その格好は!」

お姫様――
いいえ、魔女はにっこりと笑って

「倉田佐佑理は世を忍仮の姿――佐佑理の真の姿は愛と正義の魔法使い“まじかる☆さゆりん”なんですよー」

バトンをくるんと一回転
びしっと決めポーズ

「祐一さん。うわべの姿に惑わされ、優しさを忘れた愚かな少年――佐佑理が天にかわっておしおきですよー」
「うわわ、俺がなにしたっていうんだー」

魔女はウィンクを1つ。
どろん、おじいさんに大変身

「あ、あんたは!」
「ほっほっほ。これで分かったかね。“たかが100円”すら貸してくれなかったおまえの心の卑しさが招いた罪じゃ。甘んじて受けるがよい」

再びもとの姿に戻ると
呪文を唱えて

「じゅげむ じゅげむ ごこうのもくじ〜♪」
「うわあああ!佐佑理さん助けてぇ〜」
「えい☆」

すると
きらきらと、王子を輝きの粒が取り囲み

「もし祐一さんが…そんな外見に囚われない真実の愛を知ったとき…その呪いは解けるはずです」

気がついたら、魔女も王子の姿もどこにもなく
そこには一匹のアマガエルがぴょんぴょんと

「ゲコ〜」(うわぁ〜、佐佑理さ〜ん)

雪の上で、物悲しそうに鳴いていました。


     ・
     ・
かえるになった王子は、必死に走りました。
小さな街も、かえるにとっては途方もなく大きな世界。
迷いながらも、記憶を頼りに
目指すはお城。

「ゲコ ゲコ」(名雪なら、名雪なら俺を…あ!)

なんという偶然でしょう。
向こうから、お姫様が侍女を従えて歩いてくるじゃ
ありませんか。

「ゲコォ〜!」

王子さまは、喜びのあまり
我を忘れて跳びつきました。



  ぶち



「ん?なにか踏んだみたい」
「あら、こんな時期にかえるなんてめずらしいわね」
「うう、靴が汚れちゃったよぉ」

お姫様は汚れを雪にこすり付けて払い落とすと
ひくひくと痙攣して死にかけたかえるを振り返ることもなく、いそいそと歩き出しました。

「あんた、かえる好きじゃなかった?」
「ふさふさのかえるがいいんだもん。ふさふさじゃないのきらい」
「…あんたって…」

薄れゆく意識のなかで
かえるの王子は、外見で物を判断しようとする人間の愚かさを憎みました。


やがて、雪が降り積もり
かえるもひとしく雪に埋もれ
その命のともし火も突きようとしていました。


「ゲ…コ…」


その時です。
周りがぱぁと明るくなって


「祐一さーん、生きてます?」
「…ゲゴ…」


魔女は箒から飛び降りると
魔法の明かりをともして、冷えたかえるを暖めました。


「これで分かりましたか?これからは誰に対しても平等に優しく接してあげてくださいねー」
「ゲコ」


それ以降、王子は誰にでも優しい
心の清い人間になったんだそうです。


   *

「きぃ〜、浮気なんて許さないっ!」
「う、うるせ、俺はみんな平等に愛を――うぎゃあ、よせっ、名雪!」


めでたし めでたし?


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こんにちは!雀バル雀です。
SSってほんと、すばらしいですねー。
それではみなさん
さよなら さよなら さよなら


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