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<診療所>
(注意)
AIR発売前に書いたSSです。あくまでも作者のフィクションですので、ゲーム本編とはいっさい関係ない事をご了承ください。
ドンドン!
「すいませぇーん! 誰かおりませんか!!」
夏の暑い日差しがきびしくも夏らしい暑さのいつもの日々・・
町からちょっと外れた場所にある1軒の診療所。
その扉を叩く人がいた。
「はいはぁ~い! ちょっとお待ちくださいねぇ」
カチャカチャ・・・ガラガラ
日曜の休診日という事もあって閉めていた扉のネジ鍵を外し横に開け放つ、
するとそれと共に右手に巻いた黄色のリボンが揺れる。
「わぁ! 大丈夫ですかぁ? 早くこちらへ入って入って! 聖お姉ちゃぁ~ん!!」
短めに刈られたショートの髪を揺らしながら訪問者を玄関に招きいれながら奥に向かって声をかける。
「どうしたの佳乃、そんなに大きな声を出し・・・」
佳乃と呼ばれた子と同じ色の髪、それを腰まで長くした髪を揺らしながら奥の部屋から現われると
額に汗をかき、背中に女の子を背負っていた男の子の姿を見る。
「あの・・・ここって診療所だと聞いて来たんですけども」
「・・・・・・」
そばに寄り背負った女の子の様子を切れ長の眼差しから眺める。
左手をあごに添えて何かを考えるかのような姿勢のまま一見すると、
「大丈夫よ、ちょっと日にあてられただけみたい。こっちに来て」
診療室に案内し、ベッドに寝かせると優しく声をかける。
「気分はどう? ちょっと気分が悪くなっただけだから、すぐ良くなるわよ」
「はぁ・・はぁ・・・ありがとうございます」
適切な処置を行っていくと女の子は表情を和らげニッコリと微笑む。
その間、心配そうに見ていた男の子の方は、触診するということで部屋の外の長椅子に座って待っていた。
「・・・・ふぅ~・・やっぱり無理して遠くまで旅行に連れ出したのがいけなかったかなぁ」
独り言のような呟きを同じく部屋の外にいた・・・佳乃と呼ばれた子が聞いていた。
「ねぇ、あの子ってキミの彼女?」
「えっ? あ・・・あぁそうだよ」
「可愛い子だね♪」
ニッコリとした自然な笑顔に、彼の方も表情を和らげ「ありがとう」と答える。
「ずっと長いこと重い病気だったんだ・・・」
彼女が休んでる間、彼は佳乃と話をはじめた。
佳乃の笑顔と穏やかな性格のせいか、自然といろんな話をするようになっていった。
「誕生日までは生きられない・・・その時は神も運命も呪ったよ。彼女・・栞が何かしたのか! ・・・とね」
「うんうん、それで彼女・・・えっと栞ちゃんと言うんだっけ? それでどうなったの? ・・まさか!?」
「・・・・おい」
軽いツッコミのチョップが佳乃の額に入る。
「あぅ~・・・って、あれ? ・・あははっ、ゴメンねぇ」
ペロッと舌を出すとペコリと頭を下げる。 それに苦笑しながら話を続ける。
「だけど奇跡が起きたんだ。 そして春を迎える頃には元気になれた・・今では同じ学校に通ってるのさ」
「ふぅ~ん・・・ドラマみたいだねぇ」
「あぁ、自分もそう思うよ。 栞の口癖だった「起きないから奇跡って言うんだ」と言うのも何だけど、奇跡を起こす事が出来たのも奇跡の力だと思うよ」
「奇跡かぁ・・・・わたしにも来るかなぁ?」
そう言い右手に巻かれたリボンが揺れる・・・
「んっ? キミのそのリボンは・・」
ガラガラッ
ガラス戸の扉が音を立てて開くと聖が診療室から現れた。
「もぅ大丈夫よ。薬とか渡すからこっちに来て頂戴」
「あっ、はい分かりました。 それと、ありがとうございます!」
聖に頭を下げ、他の部屋に一緒に向かった。
「・・・・・」
その後姿を見ていた佳乃は、「う~んと・・」と呟くと診療室に入っていった。
「あっ、祐一さ・・・・」
ベッドの上で上半身だけを起こし、扉の開く音に声をかけるが・・・
「ご、ごめんなさい。 私てっきり祐一さんだと思ったもので・・・」
「ううん、いいよいいよ! 元気になって良かったね」
ニッコリと微笑むとそれに合わせるかのように彼女もニッコリと笑顔を返した。
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど奇跡ってどうやって起こしたの?」
「えっ? ど、どうやって・・・と言われても・・・」
困ったかのように俯く。 そして、ふと気づいたかのように顔を上げると、
「私も良く分からないんですけど・・・ でも祐一さんと会わなければ今の私はいなかったかもしれないんです」
過去を思い返すように窓を通して遠くを見つめる。
「だから、祐一さんと出会えて・・そして好きになって、好きになってくれて・・・
佳乃の方に振り向き、
「それだけでも奇跡だと信じたいです」
しっかりとした声で言う。
「・・・・・・」
「あ、あの・・・変なこと言ってすいませんです」
恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にさせ俯く。
「ううん、すごくいい話だったよぉ! そうかぁ、信じる気持ちが大切なんだぁ・・・・うん、ありがとうね!」
そう言うと座っていた丸椅子からピョンと跳ねる。
「栞ちゃん! 彼・・えっと祐一くんだよね。いつまでも幸せにね♪」
パチッとウインクを送るとニッコリと笑いながら診療室を出て行った。
佳乃が診療所を出ると、それと入れ違いに彼が入っていく。
チラっと後ろ手に見ると、優しく抱きしめあう栞と祐一の姿が見える。 そして静かに扉を閉めた。
・
・
「お世話になりました」
「ありがとうございます。助かりましたよ」
お礼の挨拶をし、頭を下げると2人は町へと向かう道を手をつなぎ降りていった。
「良かったね、聖お姉ちゃん」
2人の姿が見えなくなるまで手を振っていた佳乃は隣に立つ姉に声をかけた。
「うん、そうね・・・」
そう呟くと1人、家に戻ろうと背中を見せる姉に
「お姉ちゃん・・・信じて待ってみようよ。そうすれば私達にも奇跡は起こせるよ」
佳乃は姉の方に振り向くと背中に声をかけた。
「・・・・・・」
玄関で立ち止まり、背中に妹の声を聞いていた聖は、何も言わずに靴を脱ぐと奥の部屋へと姿を消していった。
「どうして、お医者さんになったのか・・・・忘れてないよね、お姉ちゃん」
夏の暑さを和らげるように爽快な風が吹くと、佳乃の右手のリボンを揺らした・・・
・・・(if)END・・・
★ヘッポコな言い訳(^^;
っと言うわけで、某ゲームキャラを登場させてみました。(笑)
何となく季節が夏と言うことと、佳乃の家が診療所と言う設定から考えてみたんですけど・・・
また、サブキャラである姉の聖の設定も分からないので、医者になった理由とか勝手に解釈してみましたが・・
さてさて、姉妹の待つ奇跡って何でしょうねぇ? ・・・何も考えて無かったりして。(爆)