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<きゅぅぴっど舞☆活躍記>



何処の街でも変わらない朝の登校風景。

この雪の街でも同じ様に見る事が出来る。

「おはよう、お二人さん」

「あ、おはようございます、祐一さん」

「……おはよう」

いつものように一緒に登校する祐一と佐祐理と舞。

「祐一さん、昨日ですね…」

「ふ〜ん…」

楽しそうに話をする祐一と佐祐理を横目で見る舞。

実は舞は二人を結ばせようとする『恋のきゅぅぴっど』なのだ!

二人を結ばせる為、日夜舞は努力している。

ゆけ、舞!

頑張れ、キューピッド舞!!

だがその三人を遠くで監視する人物が居た。

「おのれ〜、憎き相沢君め。毎朝倉田さんと登校などしおって…」

二人の仲を邪魔しようとする久瀬だ。

「いい加減にストーカー紛いの行為はやめたらどうですか…」

「何を言う斉藤君! 僕は倉田さんが何か被害にあわないか様子を見ているだけだ」

「十分ストーカー行為ですよ」

「それで倉田さん応援委員会の会員かね」

「まぁ、そうですけど…」

「とにかく、このまま相沢君と一緒にいると倉田さんが被害にあってしまう、そうだ、きっとそうだ!」

「うわっ、物凄いコジつけ…」

「という訳で落とし穴作戦開始だ」

「はぁ…」







ピクッ

「…(殺気?)」

連中の行動を舞は見逃さなかった。

ザック ザック

「くっくっく、相沢君の動きを計算したところここに掘れば…」

「そんな事計算してないで学校の為になる事を考えなさい」

「相沢君の撲滅こそ学校の秩序の為」

「何を言ってるんだ、この人は…」

トントン

「何だね、斉藤君?」

「はっ? 何が?」

「さっき僕の肩を叩いただろう」

「ああ、それだったら後ろの……」

突然斉藤の血の気が引いた。

「後ろ?……わぁぁ!!」

何時の間にか二人の背後には舞が立っていた。

「か、川澄さん、何ですか!?」

「…何をしているの?」

「こ、これは…ただの趣味ですよ。あははは…」

「…さっき祐一を撲滅って言ってた…」

「はて、何の事ですかな?」

「…とぼけないで」

ジリジリと久瀬に歩み寄る舞。

「二人の愛を邪魔する極悪人は討つ」

チャキ

「わわっ、一体何処からそんな剣を!?」

「成敗」

ジリジリ

「ちょ、ちょっと待って下さい。僕はただ…」

「問答無用」

「さ、斉藤君!」

しかし、斉藤は既に脱兎の如く逃げ出していた。

「あ、あの脇役が〜!!」

(人の事は言えません)

「キューピッド・舞・アロー!」

手にしていた剣を投げ付ける。

グサァッ

「ぐはっ! 剣なのに何故アロー…」

ドサッ

「…成敗完了」

タタタッ

久瀬を残し、踵を返して舞は走り去った。

「あ、いたいた。舞、何処に行ってたんだ?」

「急に居なくなっちゃったからビックリしちゃった」

「…害虫駆除」

「害虫駆除?」

深々と降り続ける雪が久瀬の体を覆っていく。

 

 

その日の昼。

「はい、どうぞーっ」

目の前に豪勢な弁当が並べられる。

「いつも悪いな、佐祐理さん。ご馳走になってばっかりで…」

「良いんですよ、佐祐理は祐一さんに食べてもらえるだけで嬉しいですからーっ」

佐祐理は赤面しながら祐一に答えた。

「佐祐理さん…」

見詰め合う二人…

「…佐祐理、お腹空いた」

「あ、ごめーん、舞!」

結ばせるつもりが自分でぶち壊しているのは気のせいだろうか…

「とにかくさっさと食べよう」

「…卵焼き」

そしていつも通りの昼食が始まった。

「はい、祐一さん。これ、今日の自信作なんですよ」

「へ〜、どれどれ」

パクッ

「うん、美味い!!」

「あははーっ、ありがとうございます♪」

良い雰囲気だ。

舞は二人を優しく見ていた。

しかし、舞はそれだけでは満足しない。

佐祐理が祐一の事を敬語を使わずに話す時まで!

「…ちょっと行ってくる」

「あ、おい、舞!」

タタタッ

「はぇ〜、舞行っちゃった…」

階段を降りたところである物を取り出す。

「…この弓で二人を射れば恋の炎が萌えあがる…もとい、燃え上がる」

手に二本の矢を握り締めた。

実はこの矢には舞の『希望』の力が込められている。

「…(よし)」

ギリギリ

矢を持って弓を引き始めた。

「あははーっ、そんな事無いですよ…」

「え、そうか?…」

二人は楽しそうに談笑していた。

狙いを佐祐理に合わせて一気に矢を射る!

プスッ♪

「うっ……」

「どうしたんだ、佐祐理さん?」

「ゆ、祐一さん…急に胸が熱くなって…」

佐祐理が祐一との距離を縮めた。

「え、ちょっと、佐祐理さん」

「はぁ…祐一さん…」

「さ、佐祐理さん、どうしたんだよ…」

プスッ♪

「うっ!」

「…両方命中…(ニヤソ)」

「はぁはぁ…佐祐理さん…俺も胸が熱くなってきたよ…」

さらに良い感じ。

というより18禁モードに突入しそうなくらい良い感じだ。

「…これで祐一と佐祐理も晴れてラヴ街道まっしぐら…」

二人がX指定シーンに入ろうかというその時!

「「ちょっと待ちたまえ!!」」

「…?」

今朝、死んだはずの久瀬と究極脇役の斉藤だった。

「この清らかな学園で不埒な行為をしようとするなんてもってのほか!!」

「いくらなんでもここでやろうなんて間違ってる!」

「久瀬さん」

「不埒な行為?…って、わぁぁ!」

何時の間にか二人は抱き合っていた。

慌てて離れる二人。

どうやら矢の効力が久瀬の介入により解けてしまったらしい。

「ご、ごめん、佐祐理さん!」

「い、いえ、佐祐理の方こそすいません…」

「しかも倉田さんを暴行しようなどとは…相沢君、見損なったぞ!」

「俺はそんな事しようとした覚えは無い!」

「何を馬鹿な事を! 現に今していたではないか!」

「あ、あれは…」

「君はもう危険人物だ! このまま生徒会会議で審議にかけて退学処分にする!」

ついに久瀬は生徒会長と言う権利の濫用を始めようとしていた。

「だから俺は佐祐理さんにそんな事…」

「往生際が悪いぞ、相沢」

「ぐっ」

「待って下さい、祐一さんは本当にそんな気は無かったんです」

「いくら倉田さんの頼みでも無理です。相沢君は退…」

ドドドドド! ガシッ!!

「ぐわっ!」

「はうっ!」

その時、舞があっと言う間に久瀬と斉藤をかっさらっていった。

「何だったんでしょう?」

「さぁ…?」

タッタッタ

「もごもごもご…ぷはぁっ! 川澄さん、またあなたですか!?」

「放して下さい!」

久瀬と斉藤が舞の腕を振り解く。

「毎度毎度、僕の邪魔をして! あなたも退学になりたいんですか!」

「邪魔をしているのはあなた…」

ジリ…

「はっ…またこの展開…」

「嫌な光景が目に浮かぶ…」

「今度こそ消えて…」

「ちょ、ちょっと待って下さい! 話せば分かりますから…」

「そ、そうですよ」

「魔物が来るよ…」

パキッ

あの音が聞こえた。

「「うわぁぁぁぁ!!」」

 

しばらくお待ち下さい

 

「…ただいま」

「舞、何処に行ってたの?」

「…ちょっと」

「便秘でもしたのか?」

ポカッ

「痛てっ、わかったわかった」

その頃、久瀬アンド斉藤は…

ピクピク

見えない『何か』に殴られ気絶していた。

 

 

その日の放課後。

祐一達三人は一緒に帰宅途中だった。

「う〜む、昼の記憶が一部無い…」

「佐祐理も覚えてないところが…」

「…(今度こそ)」

舞は新たな作戦を考え中だった。

さっきは邪魔者の介入によって苛まれてしまったので今度こそ完璧な作戦を立てていた。

と…

「うなぁ」

「…猫さん」

舞の目の前に猫が現れたのだ。

「うなぁ」

タッ

「猫さん、待って…」

スタタタ

舞は猫を追って横道へと消えていった。

「あ、しまった!」

「ふぇ、どうしたんですか?」

「教室に財布忘れてきたみたいだ」

「はぇ〜、大変ですね」

「取って来るからここでさよならだな」

「佐祐理はここで待ってますよ」

「良いのか?」

「はい」

「ありがとう佐祐理さん。じゃあ、ちょっと行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」

タタタタ

祐一も道の奥へと姿を消した。

「くっくっく、成功だな」

「一応…」

「邪魔者は消えた。次の作戦に移るぞ、斉藤君」

猫を放したのも祐一の財布を教室に置いてきたのも全てこの二人の仕業だった。

「今度の作戦は完璧だよ」

「そんな事言って今まで失敗してきたんじゃないか…」

「黙って聞きたまえ」

久瀬は図が描かれたボードを取り出した。

「その1、悪党の斉藤が倉田さんを襲う」

「ちょっと待て! なんで俺なんだ!」

「話は最後まで聞くものだよ。その2、正義の味方『久瀬』が現れ倉田さんの危機を救う」

「やはりこういう展開か…」

「その3、倉田さんは久瀬の姿に惚れそのまま二人はゴールイン」

「なんてベタな作戦だ」

「ふっふっふ、最高な作戦だよ」

「俺は悪役なんてやらん!」

「それはいけない、君は悪役をやらなくてはしょうがないのだ」

「ふん、どこにそんな根拠が」

ピトッ

斉藤の首筋にナイフが当てられた。

「やらさせて頂きます!」

「うむ、結構」

久瀬達がそんな作戦を立てている頃、舞というと…

「うなぁ」

ハシッ

「猫さん、捕まえた」

「うなぁ、うなぁ」

良く見るとその猫は継ぎはぎだらけの偽物だった。

「…騙された…」

ヒュォォォォ!

何処からともなく冷たい風が吹いてくる。

「…佐祐理、祐一」

罠だと気付いた舞はすぐに道を引き返した。







「倉田さん」

「はい?」

ザッ

悪役に扮した斉藤が佐祐理の前に立ちはだかる。

「少し付き合ってもらいましょう!」

ガシッ

斉藤が佐祐理の腕を掴んだ。

「佐祐理は待ってる人がいるんですけど」

「そんな事は良いですから」

「ふぇ〜…困ります…」

「そろそろだな…」

角から久瀬がタイミングを見計らっていた。

「…許さないから」

首筋に冷たい物が当った。

「か、川澄さん…」

振り向けない。

「佐祐理を悲しませたら許さないから」

「まだ悲しませてませんよ…」

「………」

ズバシュゥゥッ!

「ぐわぁ!! む、無言で斬らないで…」

ドサッ

「こら〜!!」

バキッ!

祐一の回し蹴りが斉藤の後頭部にヒットした。

「はぅっ!!」

ドサッ

「佐祐理さんに何をする!」

「そんな…俺の出番もう終わり…」

「はいはい、通行の邪魔だからどいてなさい」

ポイッ

「大丈夫か、佐祐理さん?」

「ええ、佐祐理は大丈夫です」

「ふぅ、靴紐が切れたからもしやと思って来てみたらこれだ」

「はぇ〜、祐一さん、予知が出来るなんて凄いです」

「佐祐理さんの為ならこれくらいどうって事無いさ」

「祐一さん…」

また見詰め合う二人。

「…私の苦労は…」

頑張れ、舞!

二人が結ばれるその時まで!




    『後書き』

ふぅ、久しぶりに短編を書いてみました。
今回は舞さんが主役です。
主役でもこんな扱いって良いんでしょうか…(^^;)
え? 久瀬の出番が多い?
言わないで下さい、そんな事!(υTДT)ノ

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