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Wild Eleven

夜は人の心を騒がすのかもしれない。暗い静寂の広がる世界でありながら、人は騒ぎ出す血を押さえ切れないでいる。
それは魔物も同じなのか。

ICH(イチ)「よぉ、セラ・・・本当にここなのか?セラの言っていた例の街というのは?」

そこは石造りの家が建ち並ぶ古い街だった。白い石無造作に積み上げたような建物は夜の闇に浮かび上がっているように見える。

セラ「あぁ、そうらしい・・・。 ん?あれは!?」

ICH「?・・・・!!」

同じく石を敷き詰めて作られた街道には無数の人が倒れていた。生死の程は遠くてまだ分からない。

ICH「行くぞ!セラ!」

2人は街の中心地へ向かって走り出すと手近に横たわる人の脈をとった。

ICH「大丈夫、死んではいないようだ。・・・・・しかしこの数は一体?」

ICHは倒れている人の数の多さに呆れてた様な表情を浮かべた。

セラ「モンスターが現れたというウワサは本当みたいだな・・・」

セラはクールな表情を変えずに呟いた・・・

その2人の男は黒の丈夫そうなロングコートに身を包んでいた。

ICHと呼ばれた男は、ツバの大きな黒のカウボーイハットを目深に被りまるで鉄で出来ているかのような光沢を放つ分厚い皮のコートを着ている。

セラと呼ばれた男は、髪は短めで同じく皮の黒いロングコートを着ているが、こちらのコートはさながらマントの様なしなやかさを見せていた。

しかし帽子の男程でないにしろ、簡単に切れたりはしないだろう。大きなポケットの様な口が両側についていた。

2人はその下にも黒の衣服を見に着けているらしく、既に日が沈んだこの街の空気に溶け込んでいるように見えた。

カウボーイハットを被った男(ICH)は、脈をとった人の手を地面に降ろすとゆっくりと立ち上がった。

ICH「もし本当なら、かなりやっかいな相手だな。これだけの数の人間を一度に仮死状態にする能力とは・・・」

帽子の男は倒れている人達に争った跡が無い事から全員一度に、しかも一瞬の内に襲われた事を見抜いていた。

セラ「とりあえず朝になるのを待って・・・」

「ぎゃあああああああっ!!」

セラICH「!!」

漆黒の重苦しい空気を切り裂いた叫び声に2人は素早く反応し、一瞬の内にその場から姿を消した。行く先は叫び声の主のもとだ。

2人が到着した時には既に叫び声の主は虚ろな目をしたまま地面に伏していた。

ICH「くそっ!間に合わなかったか! どうだセラ、何か分かったか?」

セラ「この人にも争ったような形跡は無いみたいだな。」

そう言いながらセラはロングコートの大きなポケットから銀色の板のような物を取り出すと、それを本の様に開いた。

表紙の部分には赤い目の様な模様が描かれていて、中にはキーボードと画面がある。

セラ「特に空気中の成分に異常はみられないな。熱反応も無し・・・・・ん・・・?」

ICH「ん?どうした?」

セラ「いや、この人に帯電している電気量が通常の値より異常に多いのが気になってな。」

ICH「そういえばセラ・・・、倒れているのはみんな・・・」

セラ「・・・・・子供」

じゃり・・・2人はその小さな足音を逃さなかった。

ICH「誰だ!」
「ぴぃ〜〜〜〜〜〜・・・・・」
その瞬間その謎の声の主から光の束が発せられ、2人を直撃した。いや、正確に言えば2人のいた場所だ。

2人は既に数メートルも跳躍し、離れた場所に舞い降りた。

セラ「あれは、「キイロデンキネズミ」だな。」

セラはそう言いながら手にしていたモバイルをポケットの中に大事そうに仕舞い込んだ。

ICH「だな・・・。う〜ん、ちょっと電撃系はまずいなぁ。」

セラ「ICH・・・ 逃げるかい?」

ICH「な〜に、あれぐらい楽勝楽勝! OK!、俺に任せろって!」

そう言いながらICHは跳躍し黄色ネズミの前に着地した。そしてネズミに対して左肩を前に向けて立つと腰を落す。

左手は手刀の形を作ると地面と水平にして顔の前に持ってきた。右手は拳を作り手の甲を下側にして腰の辺りに引いている。
ICH壱式絶対防衛術 凛虞(リング)の構え!
そう叫んだICHの瞳には、明かに今までとは違う熱がこもっている。

セラ「・・・・熱血モードに入ったようだな。・・・後はICHにまかせて」

そう言うとセラは近くの建物の影に入り再びモバイルを取り出して操作し始めた。

セラ「キイロデンキネズミの相場は・・・」

セラが一人でつぶやいている時、ICHは全身の気を左手の手刀に溜めきっていた。 

ICH「そこを動くなよ!ネズ公! いくぞ!」

そう言うやいなやICHのいた場所の石畳が爆発を起こした。と、同時にICHは弾丸の様なスピードでネズミに突進していく。

ネズミはそれを回避すべく横へ飛んだ。そのまま壁や地面を蹴りつつ、相手を翻弄するように周囲を回り始める。

ICH「フッ・・・。電光石火か・・・。」

ICHは不敵な笑みを浮かべつつネズミの描く円の中心で悠然と立ち止まった。

間髪入れずに電撃が放たれる。

電撃の隙間を縫うように小刻みに移動しつつICHはその場から殆ど動く事無くその電撃を躱していた。

ICH「無駄だな!お前のレベルでは俺には勝てん!」

その言葉を理解したのか、ネズミはICHの目の前に降り立った。

ネズミ「ぴぃかぁ〜〜〜〜〜〜・・・・」

ICH「無駄だと言って・・・・・・?!」

次の瞬間あたりは七色の光に包まれた。

セラ「!? あれは・・・データに無い攻撃? ICH!よけろ!!」

明らかに通常の電撃とは異なる光が建物に反射しているのに気づいたセラは、モバイルを収納すると建物の影から飛び出した。

そこには地面に伏したICHの他に誰の姿もなかった。セラは急いで駆け寄るとICHを揺り起こす。しかし返事は無い。

セラ「くっ!これは他の子供達と同じだ・・・。壱式絶対防衛術のICHがやられるなんて・・・」

辺りは先ほどの喧騒が嘘の様に静まりかえっていた。

 
ICH「ちくしょぉおおおお! ヤツめ、次は殺す!」

ICHは窓を開けると、今昇ってきたばかりの太陽に向かって誓っていた。その形相は険しい。

セラ「殺したら金が貰えないだろICH・・・。ふぅ、電撃でもない。熱線でもない・・・・か」

おさまりの効かないICHを、横目に苦笑しながらセラは言葉をかけた。

 

ネズミを完全に見失ってしまったのと、ICHが倒された事もありセラはとりあえず捜索を打ち切って宿をとっていた。

あれから程なくして、ICHは目を醒まし、そして街の子供達も徐々に回復し始めた。

しかし中には入院しなければならないほどに様態の悪い子供もいたらしい。

セラ「ドクターの話によると、自律神経の異常が原因ではないか?とは言ってたが・・・」

ICH「しかしそんな攻撃パターンが、あのネズ公にあったか?よぉ、セラ?」

ICHはかなり頭に来ているようだ。顔に不機嫌さが滲み出ている。

セラ「知ってる限りでは、そんな攻撃は過去のデータには無いよ」

ICH「おいおい・・ セラでも分からない事があるっていうのか?」

セラ「まぁ俺にもわからない事があるってことさ。たとえばキミの年令とかね? 本当はいくつ何だい?」

ICH「うっ・・・ そ、そんなことよりあのネズ公の事だろ、今話し合っているのはよ!」

セラは苦笑しながら、ポケットからモバイルを取り出した。

セラ「そうだな・・・推測だけどあの様々な色の発光パターンが人間の神経を狂わせるのかも・・・」

ディスプレイには昨日の発光のシーンが繰返し映し出されている。

セラ「直接、しかも近距離で見なければ問題はない筈だ」

そう言って画面を見詰めるセラには、確かに異常は起きていない。

ICH「言われてみれば、あの時は視界全てが光りに包まれたような感じで・・そして急に意識が・・・」

ICHは腕を組んで目をつぶると頭の中でそのシーンを回想していた。

セラ「俺の推測通りなら対応策はある・・・ ふっ、久しぶりに楽しませてくれそうだな・・。ICH、今度は俺も出るぞ」

セラは口元に笑みを浮かべ。ICHに声をかけた。ICHは右手の平に左手の拳を打ち付けると、

ICH「よぉ〜し、みてろよキイロネズミめ!今度は仕留める!!」 と言い放ってニヤリと笑った。

ICH「出てきやがったな・・・」

夜の帳が完全に下りきった静寂の街でICHはセラに囁いた。2人はネズミの背後の物陰に身を潜めている。ネズミの方は全く気づく様子は無い。

セラ「OK。じゃ手筈通りに。」

ICH「了解。」

小声で確認をし終えると、ICHは音も無く風のようにその場から移動して行った。

セラはその場に膝をつきモバイルを取り出すと、殆ど指先が見えない程のスピードでキーボードを叩くとディスプレイの文字が滝のように流れていく。

程なくしてディスプレイ上に魔法陣のような模様が現れた。

セラ「これで・・・良し。 あとは任せたぞ、ICH・・・」

 

当たりを伺うように歩くキイロネズミの前に一瞬、風が唸るとその中に人影が現れた。

ICH「よう。久しぶりだな。」

いつの間にかICHはネズミの目の前に立っていた。

ネズミ「!」

ネズミは暗闇に突然響いたその声に体をビクッと震わせた。

ICH「さぁ、行こうか。」

ICHはそう言ってニヤリと笑うとゆっくりとネズミに向けて歩を進めていく。と、突然ICHの姿が消えた。

同時にネズミの横の石畳が砕け散る。ネズミのすぐ横にはICHがいた。

ネズミ「ぴかぴか〜〜!」

ネズミは狂ったように周囲を飛び回り始めた。

ICH「セラ!今だ!!」

ICHの呼びかけと同時にセラはモバイルのエンターKeyを押す。

するとスピーカーからテープを早回しした時に出る様な奇妙な音が一瞬鳴るとネズミが何も無い空間で壁に当たったかの様に弾かれて地面に落ちた。

セラ「ふっ・・見事、成功したみたいだな。ICHさん・・後は、お好きなように・・・」

セラはモバイルをコートのポケットにしまい、すっと立ち上がると眼鏡を人差し指で直した。

ICHはバタバタと地面に転がっているネズミに歩み寄ると、横たわったネズミに向かって右手の中指を立てた。

ICH「けっ!どうだい結界の中はよぉ!もう逃げられねーぞ。」

そう言うとICHは腰を落して例の構えを見せた。
ICH壱式絶対防衛術 凛虞(リング)の構え!
ネズミは起き上がると観念したのか、その場を動かない。しかし力をため込んでいる様な動きを見せている。

そして、ICHが動こうとした次の瞬間! キイロネズミとICHの辺りを七色の光が包み始めた。

ICH「バカめ! 俺様に同じ技は二度通用せん!」

ICHは被っていた帽子を片手ですっと目深にした。前が見えなくなる程に・・・

そして、七色の光が治まった後。そこには地面に転がったネズミとそれを見下ろして立っているICHの姿があった。

オヤジ「はいよ。このピカチュウは2000ゼニーだ。」

カウンターの上に袋の入った金貨がドサッと置かれた。

セラ「毎度どうも。」

セラはそれを掴むとポケットへと閉まった。

手にモンスターをかかえている者、賞金リストを熱心に眺めている者。金を数えながらニヤついている者など様々な風体の男達が見える。

ここは捕獲したモンスターを金銭や物品と交換してくれる取引所だ。交換されたモンスターは食用や鑑賞用、ペットなどとして更に売られていく。

金を受け取ったセラとICHが取引所を出ようとした時、取引所のオヤジが声を掛けた。

オヤジ「あんたら新種のピカチュウを捕らえるとは中々の腕だな。良かったら他に大口の仕事を紹介するが、どうだ? あんたら捕獲者(ハンター)なんだろ?」

その問いに、ICHはニヤリと笑い、セラは鼻で「ふっ」と笑った。

ICHはオヤジの方に向きなおすと、かぶった帽子のツバを指で上げ、答えた。

ICH「オヤジ、よぉ〜く覚えとけよ。・・・俺達は冒険屋だ!」 セラ「でもネジは食わないぜ! だろ?」

2人は笑いながら取引所を出ていった。

to be continue?


ICHさんオリジナル小説「Waild Eleven」いかがでしたか? なんと自分まで登場している所が嬉しいですね。
所々にある、色んなゲームやアニメのパロディに思わず「クスッ」と笑ってしまいますよ。ICHさんナイス!

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