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< スピードクイーン秋子・・? >


朝日が部屋の中を照らす。
カーテンで弱められたとはいえ、その光を全身に受けると体自体が起きようと細胞を活性化させていった。

「・・・ん・・朝か」

白い世界が徐々に色のある世界に変わっていく・・・いつもの見慣れた景色がそこに・・

「って、どこだここ!?」

頭を上げるとそこは自分の部屋と違った愛らしい雰囲気と数多くの目覚まし時計・・
横を見ると同じようにテーブルに突っ伏し、普段と同じ可愛らしい寝顔を見せる名雪の姿が。

「・・・・・」

そっと静かに名雪の柔らかなホッぺを手にとるとビヨーンと引っ張る。

「うくぅ〜、けろぴ〜・・・・・く〜・・すぅ〜・・」

「うぷぷっ面白いやつ・・・・・・はっ!!」

ついでにホッぺにキスでもしてやろうと思った瞬間、大事な事に気づく。
反射的に時計・・・(数が多すぎて逆にどれを見てよいか迷うが)・・・の時刻を確認する。

「・・・・・・」

貴重な10秒間を使い思考を安定させる。そして・・・

「しまったぁ!! 寝過ごしたぁ!!」

先ほどの気持ちの良いまどろみなどどこ行った風に立ち上がると、

「名雪!! おい起きろっ!! 大学試験の時間に間に合わないぞっ!!」

一斉に鳴る目覚まし以上に大声を上げる祐一。
そう、今日は大事な大学入試試験日・・・今までの成果が試される日なのである。


高校3年になり名雪と一緒に同じ大学に入れるよう勉学に励む日々・・
勉強は苦手な祐一だが、元来器用な性格なので教え方さえ良ければ少しずつでも成果を挙げられたのだった。
それに彼には学年TOPの成績を誇る香里大先生と、香里に相応しい男になろうと頑張っていた北川に、
落ち込んだ時の心の栄養分でもある名雪の笑顔に助けられ、徐々に成績を上げ今では見違えるような成績優秀者・・
とまでは行かないがソコソコに合格圏内に入るほどになっていたのだった。

そしてセンター試験や1次試験をも何とかクリアし、
本番とも言える今日に備え前日夜に最終的確認の為に名雪の部屋で勉強をしてたはずなのだが・・
なのに数多くの時計が指し示す時間は、試験開始時間に対して絶望的な時を刻んでいた。

「名雪! おい起きろって!! あ〜、もぅ!!」

 パパパパッ!!

もぅ慣れた手つき(?)で名雪のパジャマを脱がし、見慣れた(?)身体に制服を着せていく。

「うなぁ〜・・祐一エッチだお〜」

ネコなで声で寝言を言う名雪の襟首を「ひょいっ」と掴み持ち上げながら部屋を飛び出すと、階下へと階段を駆け下りる。

「おはようございます秋子さん! ちょっとこいつの髪とか直しておいてくれませんか、俺はカバンとか持ってきますんで!」

いつもの食卓のイスに名雪を下ろすと、隣の台所から姿を現した秋子さんへと声をかけた。
あの騒ぎようでは、どんな事が起こってるか分かっているはずだがいつもの笑顔を見せてくる。

「おはようございます祐一さん。確か今日は試験日だったはずなんですが・・・大丈夫ですか?」

「あ〜、かなりヤバイかもしれないです・・・と、とりあえず駅まで行ってから考えますよ」

そう言ってはみたものの、ココから駅に走って行き、そして都合よく電車の時間があってもギリギリ・・・
いや、もぅダメかもしれない・・・とにかく、今は1分1秒が惜しいと言う切羽詰った状況だった。

「そんなわけなので、名雪のほうをお願いします!」

そう言い放ち、部屋に戻ろうとした祐一に秋子さんが声を声をかけた。

「あの・・・もしよろしければ私が試験会場まで送りましょうか?」

「へっ? あ、あの・・・それってどう言う・・・」

予想外の言葉に動きが止まり間抜けな顔を、いつものように頬に手を当て笑顔で微笑む秋子さんに向けと、

「私、これでもクルマの免許を持ってるんですよ。 あんまり上手ではありませんけどね」

そう遠慮がちに言ってきた。

「免許を・・・って事はクルマもあるんですか?」

「はい、ちょっと訳あって最近は使ってないんですが・・・」

「はぁ・・・」

水瀬家に引っ越してきてから1年以上経つのだが、クルマを置けるガレージなど見たことも無いし、
名雪からもそんな事は一言も聞いてなかったので俄かに信じがたいことだが、この際にはそんな事など全て些細なこと!
渡りに船っと言うわけで、断る理由もない。

「それなら助かります。すみませんけど、お願いできますか?」

「はい、よろこんで。 それでは支度してきますので、祐一さんの方も忘れ物無いようにしてくださいね」

名雪の髪を梳かしていたブラシをテーブルに置くと、奥の自分の部屋へと入っていった。

「ふぅ、これで上手くいけば間に合うかもしれないな。うぅ・・とにかく香里に何か言われなくて済みそうだ・・・」

ふと脳裏に会場前で冷たい視線を見せる香里の姿が浮かんだのを頭を振って払いのける。

「そう言えば、久しぶりの運転だって言ってたけど・・・・・・ま、まぁ秋子さんだし大丈夫だよな」

数々の不安を抱きながらも、自分と名雪のカバンを取りに部屋へと階段を駆け上がって行った。


2人のカバンを持ち、受験票を確認し、相変わらず食卓で「く〜・・けろぴー・・」な名雪を背負って玄関に出ると
家の前に1台のクルマが図太い排気音をさせながらアイドリングしていた。
そして、そのクルマの運転席に座るのは紛れも無く秋子さんだった。

「お待たせしました祐一さん。さぁ、急いでください」

「あ、秋子さん・・・クルマってこれですか?」

「はい、若い頃に乗っていたのですからもぅ古いクルマなので恥ずかしいですけど・・」

「はぁ・・・でもこれって・・」

白と黒のツートンのカラーリング。
四角張ったフロントから運転席を通り流れるように後方へと続くルーフラインはトランクに繋がる。
ドアは運転席と助手席の2つだけだが、狭いながらもちゃんと後席は存在しており、どこをどう見ても2ドアスポーツクーペにしか見えなかった。

「確かこれってAE86レビンとか言うクルマですよね?」

「あら、祐一さん良くご存知ですね。私の・・と言うか夫の持ち物だったんですけど訳あって今は私が譲り受けたものなんです」

「旦那さんの・・ですか? う〜んそれならちょっと納得ですね。 秋子さんがこんな走り屋向けのクルマなんて似合いませんですしね」

「そうなんですよね。 このクルマってなかなか運転が難しくて大変でしたので、しばらく使ってなかったんですけど、こう言う時にお役に立てれば幸いですし」

「ははっ、とりあえずお願いします秋子さん」

秋子さんならば軽自動車か小さなコンパクトカーが似合ってそうだと思っていた祐一は予想外の事に驚きつつ、
(それにしても秋子さんの旦那さんも若い頃は元気だったんだなぁ・・)
そう思いながら、未だに眠りこける名雪を後席に座らせシートベルトを締める。
自分は助手席に座るとしっかりとシートベルトを装着しながら、準備が出来たことを伝えようと秋子さんの方を向くと何やら自分の座席とは違った装いの運転席が目に付く。

「・・・あの、その椅子って何か形が違いますね。それにシートベルトも・・・」

「はい、これはバケットシートとか言うんですよ。 ベルトも4点式なんですけど、普通のと違ってちょっと胸を締め付けるのが苦しくて・・」

例のごとく頬に手を当てて、さらりと赤面するような事を言う。
その頬に当てた手には何やら普通では見かけないようなドライビンググローブなるものが装着されてるのも、また気になる部分ではあるが・・

「それでは行きますね。 えっと、ここから隣町まで行くとなると県道を通って峠越えですね」

「そうですね、ちょっと山越えが大変ですけど・・・大丈夫ですか秋子さん?」

(秋子さんの事だから安全運転だと思うけど、ちょっと急いでもらわないと辛いかな・・)
そんな不安が伝わったのだろうか、秋子さんは「大丈夫ですよ・・」と言いながらクラッチを踏みギアを1速に入れると

「だって、昔よく走った峠ですから」

いつもの様な口調で言うと、アクセルを踏むと同じに高まる回転数とエンジン音を響かせながらクラッチミート!

 ギュギュギュッー!!
 フォーーーーンッ・・プシューッ・・

軽いタイヤスリップ痕と、エンジン音にブローオフの抜ける音、そして・・

「ちょ、ちょっと! あ、あああぁぁ・・・あ、秋子さぁーーーーんっ!!!!」

猛烈な加速Gを全身に受ける祐一の絶叫を残し、3人を乗せたハチロクは峠に向かい姿を消していったのだった。


   ・・・・


路肩に残った雪が走り去った車を追いかけるかのように巻き上がる、そんな冬の季節が残る走りなれた峠・・
いつものように、代わり映えの無いような毎日のお勤めを過ごし走り抜ける1台のクルマ・・・
ただ、いつもとは違っていたのは1人ではなかった事だろうか。
いや、1人ならこんな事にはなってなかったはずだ・・・と運転する年若い男は思った。

「うぃ、なんだなんだその気の抜けた運転はぁ・・1人分重くなったぐらいでそんな事でどうする! 俺の若い頃は・・」

「あぁ、もぅ誰のせいでこんな目に遭ってると思ってんだよ。 ったく、オヤジが仕入先の会合に行くのは良いけど動けなくなるほど飲むことはないだろ」

「ひっく・・あぁん、そうは言ってもなぁ、あんな高級そうな酒なんぞ、いつもの飲み屋になんて置いてないぞ! 
 飲むときには飲む! それが漢ってもんじゃねぇか、えぇ判ってんのかぁ?」

「あかん・・・こうなったら何を言ってもダメだ。 とにかく俺だって今日は学校があるんだからな。
 今から飛ばしてけば2時間目までには間に合うし・・・オヤジ飛ばすからな!」

「ふっ、いつものようにコップの水をこぼさないような走りで頼むぞ・・・今回は水じゃなくて俺様のゲロかもしれないがな・・」

「うわっ、それだけは勘弁してくれよっ!」

こいつならマヂでやりかねん・・
そんな背筋が凍るような悪い予感を振り払い、山頂の料金所後を通り過ぎるとブレーキング!
踵でアクセルを踏み込み回転を合わせたままギアをシフトダウン。
急減速でフロントに荷重が加わりグリップの効いたままコーナーに併せてステアすると逆にグリップの抜けたリアタイヤが外へと車体を引っ張り始める。

「よっと・・」

そのままではスピンに陥るマシンを的確なカウンターステア操作とトルクバンドにエンジン回転を捕らえたままのアクセル調節で、
危なげなく軽やかにAE86トレノをブレーキングドリフトへと移行しコーナーを駆け抜ける!

「うし、オヤジを乗せてても絶好調だな」

自分の腕に自信をみせ、次のコーナーへのアプローチを作っていく。
これも毎日行っている成果なのだが、彼自身にはそれが競い合い勝つための手段では無く、ただ単に早く仕事を終える為だけの運転としか自覚はないのだが・・

 パシッパシッ!

「んっ! 何だ?! 何時の間に後ろに張り付かれたんだ!!」

バックミラーに姿を映す1台のクルマ、ヘッドライトがパッシングを繰り返し反射する。

「ちっ! どけってか・・こっちだって急いでんだ。悪いが先に行かせるわけには行かないんでね!」

アクセルにフルスロットルをくれると加速し駆け下るハチロクトレノ。
それに合わせるかのように後ろに着いたハチロクレビンも加速をかけた。

 ギャギャギャギャーッ!!

緩いカーブではステア操作だけで慣性ドリフトに持ち込み、キツイカーブではブレーキングドリフトでクリアしていき、
ガードレールぎりぎりまで使い脱出速度を稼ぐための的確なコーナリング、
タイヤのグリップとエンジンのパワーを存分に生かした走りを見せるハチロクトレノ。
彼にとっても今までで1番のドライビングだと自負できるほどの走りを魅せる。
しかし・・・

「くっ、何なんだよアイツは!? この俺の走りに着いてこれるってのか? 何者だよ!!」

そんな彼の走りに負けずどころか、時折左右に揺さぶりをかけパスするかのような動きまで見せる相手・・
彼にとってもクルマ同時で競い合う事すら初めてと言う状況で混乱をみせていく。

「こうなったらアレを使うぜ! 付いてこれるか!!」

5連ヘアピンの最初に猛スピードで突っ込んでいくハチロクトレノ。

 フォンフォン!
 ギュァーーーッ!!

シフトダウンとブレーキングを使っているにも関わらず、その侵入速度は誰が見てもオーバースピードに見える速度で突入!インに飛び込む!

 ドンッ!!

奇妙な音と共にオーバーステアからスピンしそうなハチロクトレノが、まるで何かに吸い込まれるかのように限界速度以上でイン側をクリアする!
コーナーをクリアすると同時にアクセルオン! 脱出速度さえも稼いだまま駆け抜けていく。

「どうだっ! この溝走りに付いてこれる奴なんてオヤジ以外にはいない・・・!!」

自信良くバックミラーを見ると・・・

「!? おぃマヂかよっ!!」

ミラー一杯に写り込む相手のハチロク。 相手のとの距離は先ほどと全然変わらずにいた。
2台連なったまま2つ目のヘアピンへと突入していくハチロク。

ドンッ! ドンッ!!

先ほどと同じく溝にタイヤを引っ掛け高速でクリアしていく・・・まったく同じ溝走りをみせるレビン。

「あいつも溝走りを!? 俺とオヤジ以外にも出来る奴がいるだなんて・・くそっ!!」

3つ目もクリアし、次のヘアピンまでの少しばかりの直線に入る。

 グォーー!!

脱出速度が少しばかり速かったレビンがトレノの右側にノーズ半分ほど入れ込み2台はアクセルをベタ踏みで加速競争を開始。

 プシュッ!! ヒューンッ!!

ブローオフとタービン音を響かせターボのトルクで引っ張り上げたレビンはトレノと並ぶ。

「ちっ! 横に並んできやがった! だけど次のコーナーでは俺が内側だ、まだ行ける!!」

併走したまま次のヘアピンへのアプローチを開始! フルブレーキングを始めるトレノ。
タイヤがブレーキングによりたわみ悲鳴をあげながらトレノを急減速させる。
しかし、それを横目に飛び出すかのようにコーナーに飛び込むレビン!

「バカな! ブレーキがイかれたのか!!」

そう思った瞬間・・

レビンが目の前で被せるかのように横を向きそのまま直ドリのまま進んだかと思うと、溝にフロントイン側を引っ掛け・・

 グワァーーッ!! ギュアアアーーーッ!!!

CPを軸にしたかのようにパワースライドさせ一気にクルマの進行方向を脱出ラインに乗せ弾かれるように飛び出していく。

「なっ・・!!??」

彼は見た・・鮮やかにインを付き駆け上がる相手のドライバーの顔を・・・
頬に手をあてがい『お先に失礼します』と言っているかのような柔らかな表情を浮かべた女性と、
茫然自失で助手席にヘタリ込む制服を着た少年と、後部座席で何事も無いような安らかな寝顔を浮かべる少女を・・・

「そんなバカなぁー!!」

 ギャギャギャーーー!!

彼もドリフトでクリアした時には既に次のコーナーにも変わらぬ速度で飛び込み、
彼が同じコーナーをクリアした時には更に距離を離されている相手の背後は、あっと言う間にその姿を遠ざけていった・・・

 ギュァーーーー!!!

2つほどコーナーをクリアした時、アクセルから足を離し逆にブレーキペダルを踏み込み、路肩にクルマを止めると

「何だったんだ、アレは・・・おばさん、いやまだ若いお姉さんみたいな人に抜かれたのか、俺・・」

今まで築き上げてきた自分のテクニックをアッサリと砕かれた気持ちになり呆然とした体をシートに沈みこませた。

「・・・・ふっ」

そんな息子の姿を助手席に座ったままの父親が少し嬉しそうに微笑したのさえ気付かずに・・


   ・・・・


「もぅ残り10分前よ、何してんのよ名雪と相沢くんは!」

ウェーブのかかった髪を手で掻き揚げながら試験会場前で腕時計をにらみながら文句を言う女の子。

「ま、まぁあと少しだけ待ってみようよ。電車を1本遅らせただけかもしれないしさ」

その子の剣幕を抑えるかのように、言う男の子。

「北川くん、この後の到着電車だと時間過ぎて到着なのよ。判ってんの?」

「・・・すみません香里」

傍で見ても上下関係がはっきりしてるかのような2人。
だけど、自分達の時間が押してきているのも意に問わず待ち続ける、友達思いの大きな2人でもあった。

 フォーーン・・・

「んっ?」

遠くの方から聴こえる音・・・徐々に音量を上げながら聴こえる音は、つまりこちらに向かってきている事にもなる。

「もしかして相沢君達!!」

そう言った途端、目の前の交差点に横向きのままドリフトで現れる1台のクルマ!!
そのまま交差点を曲がってくると香里達のいる会場前に止まる。

 フォンフォンッ!!

「・・・・・・」

アフターアイドルをしながら運転席から降りたのは秋子さん。

「お待たせしました香里さん、北川さん。時間には間に合ったようですね」

ニッコリと微笑むと香里たちに挨拶する。

「・・・・はっ! お、おはようございます秋子さん、ところで相沢君と名雪は!?」

「ちゃんとこちらに」

そう指差すと助手席では、

「秋子さん、はやいはやいです・・あぁカーブがカーブがぁ! 崖が崖がぁ! 横向いて走ってます・・あ、あぁぁ〜止めてぇ〜!!」

と何やら独り言をブツブツと話す祐一・・・そして後席では、

「くー・・けろぴ〜・・私イチゴサンデーもぅ食べられないだぉ〜」

と相変わらず夢心地の名雪・・・

「あ、あんた達は・・・・目を覚ませぇーっ!!!」

「「わっ!!」」

香里の一喝の声に我に返る2人・・・兎にも角にも時間に間に合った事だけは確かだった。


「それでは秋子さんありがとうございました。 さぁ行くわよ名雪!」

「あぁん待ってよぉ〜香里ぃ〜」

香里の後をパタパタと追いかけていく名雪。

「俺らも行くぞ相沢」

「おぅ、悪いな待たせちまって」

「いいってことさ」

親友の優しさに触れ、祐一は少しばかり心が嬉しい気持ちになった。

「あ、祐一さん」

「は、はぃ何でしょうか・・」

運転席から降りてきた秋子さんが声をかけると、ビクリと硬直した祐一が恐る恐る振り返りる。

「えっと、試験が終わったら帰りはどうするのかと・・・迎えに来ましょ・・」

「だ、大丈夫です! 帰りはちゃんと電車で帰りますから! はぃ、本当に遠慮じゃなくて、

最後まで言い切らないうちに、ガクガクブルブルと顔面蒼白にして震えながら答える。

「そうですか・・・残念です。では試験頑張ってくださいね」

「は・・はぃ、あ、ありがとうございますぅ〜」

そうお礼を言うと急ぎ会場内に待つ皆も所へと駆けて行ったのだった。


「ふぅ・・祐一さん顔色悪かったようですけど・・・やっぱり朝ごはんちゃんと食べなかったからかしら・・?」

少し困った顔をしながらドアを開け乗り込む、すると・・

 Piririririr・・

携帯の着信音が車内に響いた。

「ピッ、はい水瀬です。あぁあなたですかお久しぶりです」

『よぉ、元気そうでなによりだ。こっちこそ秋子の走りを久しぶりに拝ませてもらったぜ』

「あら、やだ。あの時に隣に座っていた人って、やっぱりあなただったんですね、恥ずかしいわ」

そんなに恥ずかしかったのか頬を少し赤くして頬に手を当てる。

『いやいや、全然腕は落ちてなかったぜ、見ていて当時の事を思い出しちまったしな』

「これも、あなたからいろいろと教えてもらったお陰です」

『まぁ何にしろ、最近調子こいてたウチのバカ息子の目を覚まさせてもらったのもあるし、礼を言っとくぜ』

「そんな・・・後ろから見ていても父親譲りの凄い腕をお持ちですよ。何だか息子さんに悪いことをしてしまった気が・・」

『ふっ、いいってこった。まだ俺の足元にも及ばねぇひよっ子だしな。だがあいつもいつかは俺を越える時が来るのかもしれんなぁ・・』

「ふふっ、好きなんですね息子さんが」

『よせやい気色悪い。秋子のところの娘さんみたいに可愛ければ好きにもなるがな。ところで助手席で白目むいてたアイツ・・名雪ちゃんのコレかい?』

「うふふっ、私もそろそろお婆ちゃんになる時がくるのかもしれませんね」

そんな風に少しの間、昔の思い出話や世間話に花を咲かせ、電話を切ると。

「さて、今日の受験合格祈願のご馳走を用意しなくちゃね。あ、香里さんや北川さん達も来るかもしれませんし、ちょっと多めに材料を買わないと」

そう、主婦の顔に戻った秋子さんだったが、

「買い物にも行かなくちゃいけないし、さっそく急いで帰らなくちゃ、では・・」

キーを回し、エンジンを掛け、ステアを握るとキリっと絞まった表情をみせる。

そう、あの当時に榛名山最速のドライバーと評された頃のオーラを纏い、ハチロクをスピンターンさせ、昔懐かしい峠へと向かっていく。

「あ、ついでですから当時のコースレコードを破れるかしら。試してみるのも良いかもしれませんね」

そんな独り言が唸るエンジン音の車内に聞こえた。



   Fin


  ★あとがき★

バトルギア3面白いですよ〜! (^^/
そんなわけで久しぶりに普通の(笑)SS書いてみました。
っと言ってもずっと前に書いたのをアップするのを忘れてただけなんですけどね。(w

しかしクルマを題材にしたSSは難しいですねぇ
自分自身、普通に街中を走る程度しかしないので、峠などを攻めるクルマの動きとかテクなんてサッパリ判らないです。
ほとんどマンガとかの受け売り・・・
まぁ、秋子さんなら凄まじいテクニックを魅せてくれるのではないかと勝手に想像しただけなんですが。(^^;
トレノに乗った彼は誰なんでしょうねぇ、勝手に想像してくださいです。(マテ
しかし、KANONの舞台って東北とか北海道のような気もするけど、関東近県も冬には雪が降るしね。(言い訳)



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