〜back〜
この作品の時代設定は『幕末』です。
しかし作者が未熟のため、現代風な表現があります。(^_^;)
どうか広い心で見てください。
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『時代劇華音!闇を斬る!』
時代は幕末。
京都では新撰組が剣を振るっている。
その京都の近くの町へと向かう一人の若い剣士が居る。
「…まだか」
その剣士の名は『相沢 祐一郎』。
日々修行に励む祐一郎だが、親が仕事の都合で出稼ぎに出ている間は旅に出ている。
そしてその旅の途中に久々に親戚の家族の元へ行こうと思い立ったのだ。
「結構遠いんだな…」
しかし親戚の元へ行くのは他に理由があった。
「その前に夕暮れまでにはあの町に行かなくては」
既に日は傾き始めていた。
祐一郎は足を速めその町へと急いだ。
その町は人が多いとは言えないが活気に満ちている。
店が並ぶその通りに親戚の家はあった。
『水瀬屋』と書かれた看板のある薬屋がその家だ。
「あの〜、すいません…」
暖簾をくぐると薬の匂いが鼻につく。
「はい、いらっしゃいませ」
店の奥から元気の良い声がして少女が出てきた。
七年も会っていなかったが祐一郎にはそれが誰だか一目で分かった。
「よぉ、名雪」
従妹の水瀬名雪だ。
「……え?」
「久しぶり。七年ぶりか」
「…え? え?」
「どうしたんだ、名雪?」
「あの…どなた…ですか?」
「俺だ、俺。相沢祐一郎だ」
「…祐一郎…」
「ああ」
「…祐一郎…なの」
「そうだよ。さっきから言ってるだろ」
「祐一郎〜!!」
「わ〜!」
突然名雪が抱き着いてきた。
「祐一郎!」
「おい、やめろ!」
・
・
・
「すいません、突然お邪魔してしまって…」
「良いんですよ。私と名雪はいつでも大歓迎ですから」
「ありがとうございます。秋子さん」
今、目の前に居る人物は名雪の親、つまり祐一郎の叔母である水瀬秋子だ。
この水瀬屋の女主人をやっている。
「さぁ、遠慮しないで食べて下さい」
祐一郎の前にご馳走が並べられる。
今までは旅の途中だったので質素な料理ばかりだった。
こんなに豪華な料理は久しぶりだろう。
「それでは遠慮無くいただきます」
パクッ
「うん、美味い!」
「ふふっ、ありがとうございます」
「それにしても突然訪ねてきてどうしたの? 七年間何も連絡が無かったのに」
名雪や秋子とは七年前に会った時が最後だった。
「ああ、親が出稼ぎに出てるからその間だけ旅に出てるんだけどちょっと近くまで寄ったものだから」
「伯母さん達、出稼ぎに出てるんだ」
「まあ遅かれ早かれ京都に行くつもりだったからな」
「祐一郎さん、京都へ行くんですか?」
「ええ、ちょっと新撰組にね…」
「祐一郎、新撰組に入りたいの!?」
「う〜ん、どうかな。俺は新撰組に憧れているだけだから…」
「どうして新鮮組なの?」
「俺には尊皇攘夷も幕府も関係無い。ただ新撰組の強さに憧れているんだ。特に沖田総司さんの!」
「それで新撰組に憧れているんですか」
「まあ京都へ行ってもどうしようもないけど、一目だけでも見たいと思って」
「そうなんだ…」
話を続けながら祐一郎は目の前の料理をどんどん腹に収めていく。
「それでしばらくの間、この家で厄介になっても良いですか?」
「ええ、さっきも言いましたように私も名雪も大賛成ですから」
「うん、賛成だよ」
「ありがとう…」
「新しい家族が増えて嬉しいわ♪」
「そうだ、名雪」
「なに?」
「明日、この町を案内してくれないか?」
「うん、良いよ。祐一郎はこの町に詳しくなかったからね」
「そう言う事だ」
☆
次の日、朝食を食べ終えると祐一郎は名雪の案内で町を回った。
「ここがこの町で有名な呉服屋だよ」
「へぇ〜、『倉田呉服』か…結構大きいな…」
「うん、ここのお店はこの辺りでも一番大きいからね」
「そうか…」
「あ、そうだ。祐一郎に良いところ教えてあげる」
「何だ?」
「それは着いてからの秘密だよ」
「あ、おい!」
そう言うと名雪はとことこと先を歩き始めた。
「ったく、一体何だって言うんだ」
「祐一郎の夢が叶うようにね」
「夢が叶う?」
「うん、夢が叶うように願掛けをするんだよ」
二人が着いた場所は町から少し離れた場所にある神社だった。
「ここの神社の裏には願いが叶うと言われている『雪池』があるの」
「ふぅん…」
「その池に一人で行って叶えたい事を三回想いを込めながら願うとその夢が叶うらしいよ」
「へぇ〜」
「それじゃあ、私は先に帰ってるからね」
「って、おい、名雪!」
祐一郎の言葉も聞かずに名雪は走って行ってしまった。
「まだ行くとは言ってないんだが…」
取り残されたまましばらく考える。
「とりあえず行くだけ行ってみるか」
神社の階段を上り始めた。
「さてと…池は…」
広い。
下で見た時とは違い、上がってみると境内は広かった。
「どうするか……おっ…」
境内を見回していると箒で落ち葉を掃いている巫女を見つけた。
「ちょっとすまないが…」
「?」
巫女が声に反応して後ろを振り返る。
それと同時に長い黒髪がふわりと舞って祐一郎を見惚れさせた。
歳は祐一郎と同じか少し上のようだ。
「…何?」
「あ、いや、その…」
その巫女の言葉でふと我に返る。
「ここに願いが叶うと言う池があると聞いたのだが…」
「…雪池…」
「そうだ、それ。その池の場所を知りたい」
スッ
巫女は何も言わずに指だけで方向を示した。
「あっちか?」
「(コクッ)」
すると巫女はまた箒で地面を掃き始める。
祐一郎にはまったく興味無しといった感じだ。
何か話をしようと思ったのだが仕方なく祐一郎はその池へと向かう事にした。
「…これか…?」
その池は何処にでもあるような小さい池だった。
「さて、さっさと終わらせて帰るか…」
『沖田総司のような強さが欲しい』
池にはそう願っておいた。
「さてと、そろそろ昼になるし…帰るか…」
祐一郎が池から戻ってくると先ほどの巫女は未だ掃除をしていた。
その姿を見ているとどうしても話をしたいという気持ちが祐一郎にわいてくる。
話をして、普通の会話をさせてやろうという使命感のようなものだ。
「まだ掃除か?」
「………」
巫女は祐一郎の方を見たがすぐに掃き掃除へと戻る。
「こんなに広い境内を掃除するのは大変だろう」
「………」
「大変じゃないのか?」
「…大変…」
「そうか、大変だよな!」
巫女が喋ってくれたのが祐一郎にはたまらなく嬉しかった。
「それじゃあ、俺も手伝ってやろう」
そう言って手を差し出す。
「…?」
「箒だよ。箒。俺が手伝うから」
「………」
しかし巫女は箒を渡そうとしない。
「はぁ…お前はこの境内の掃除は大変じゃないのか?」
「…大変」
「じゃあ、貸してくれ」
そう言って巫女の手から箒をとった。
「人の好意は素直に受けるものだぞ」
「………」
こうして箒を手にとってみると改めて境内が広いという事が実感できた。
「そう言えばまだ名前を聞いてなかったな」
「…名前?」
「俺は相沢祐一郎。お前の名前は?」
「…舞」
「舞?」
「川澄舞…」
「舞か…よろしくな」
舞は小さくお辞儀をすると小屋の方へ行ってしまった。
「あ、おい」
しばらくすると一本の箒を持って戻ってくる。
「どうしたんだ?」
「…掃除、手伝うと言った…」
「え? ああ、そうだったな」
元はと言えばそれは舞と話す為の口実だったのだが。
「じゃあ、俺はこっちをやるから舞はそっちをやってくれ」
「…わかった」
・
・
・
「ふぅ…大体終わったか…」
数十分後、なんとか掃除は終わったようだ。
「…ありがとう」
「なに、礼を言われるほど役に立ってないさ」
舞は箒を受け取ると小屋の方へ片しに行く。
「そう言えばお前は昼飯はどうするんだ?」
「……?」
「もし良かったら俺と…」
とその時。
「舞〜」
舞を呼ぶ声。
石段の下から誰かが舞を呼んでいた。
「舞、お待たせ…って、あれ?」
石段の下から現れたのはどうやら舞の友人のようだった。
質素でいて綺麗な感じのする着物を着た女性だ。
「ふぇ? 舞のお友達ですか?」
祐一郎と舞の関係が分からないらしい。
「ああ、許婚(いいなずけ)だ」
「………」
「………」
「はぇ〜」
「こら! 否定しないと冗談じゃなくなる!」
「…違う」
「遅いって…」
「それじゃあ舞の何なんですか?」
「友人だ。たった今親友になったところでね」
「あははーっ、そうなんですか。それでは一緒にお昼など如何ですか」
「え?」
「佐祐理達、これから昼食なんです。ですから…」
と言いながら包みを見せた。
家に帰れば二人が昼食を作って待っているが、祐一郎はもっとこの二人と話をしてみたいと思った。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
三人は社へと続く石段の上に座る。
「そう言えば、佐祐理の自己紹介がまだでしたね」
「俺は相沢祐一郎だ」
「佐祐理は倉田佐祐理といいます」
「倉田…?」
何処かで聞いたような名だった。
「どうしました?」
「いや…何でも無い…」
「それじゃあ食べましょうか」
佐祐理は包みを広げると重箱を並べ始める。
「これって…もしかして佐祐理さんが…?」
「はい、佐祐理の手作りです」
「へぇ、佐祐理さんって料理が上手いんだ」
「あははーっ、佐祐理はそんなに上手じゃありませんよ」
ふと舞を見ると既にパクパクと食べ始めていた。
「もう食べてる…」
「舞、おいしい?」
「…(コクッ)」
「良かった。祐一郎さんもどうぞ食べて下さい」
「じゃあ…」
おかずを一つ取り、口へと運ぶ。
パクッ
「うっ!」
「祐一郎さん?」
「う〜……美味い!!」
「はぇ?」
「いやぁ、こんなに美味い物食べたのは初めてだ」
「あははーっ、佐祐理の作った物がそんなに美味しかったら世界中の食べ物が美味ですね」
「そんな事ないよ。佐祐理さんが作ったから美味しいんだ」
「あはは…ありがとうございます」
佐祐理は薄く頬を赤らめた。
「祐一郎さん、もし良かったら明日も一緒に昼食を食べましょう」
「ああ、俺は大賛成だ」
「舞も祐一郎さんが来た方が良いよね」
「………」
「舞?」
「…構わない」
楽しい二人だと祐一郎は感じた。
この二人は自分にとって大事な何かだとも感じる…
「お帰りなさい、祐一郎さん」
「ただいま帰りました…って、うっ!」
家に帰った祐一郎の目の前に山ほどの料理が並べられている。
「遅いよ、祐一郎」
「さぁ、お昼まだですよね。食べて下さい」
「いや…俺は…」
「食べないんですか?」
「…いえ…頂きます」
こうして祐一郎は腹が破裂しそうなほど食べる羽目になった。
☆
ある日、祐一郎は思い立った。
「…京都へ行くか」
新撰組がいる街をどうしてもその目で見たくなったのだ。
「俺、京都へ行ってきます」
「京都?」
「祐一郎、京都へ何しに行くの?」
「ちょっと京都の街が見たくなってね」
「ここからだと結構遠いよ」
「大丈夫、俺の足にとっては近い距離だ」
「そう?」
「夜には戻ってきますから」
「気を付けて行って下さいね」
名雪と秋子に見送られて祐一郎は京都へと向かった。
その途中、呉服屋の前で偶然にも佐祐理と会う。
「あ、祐一郎さんだ」
「おう、祐一郎さんだぞ」
見ると佐祐理は店の手伝いをしているようだ。
「佐祐理さん、ここで働いてるのか?」
「いいえ、佐祐理は家業の手伝いです」
「え!? もしかして佐祐理さんってここの…」
「はい、ここの家の者です」
「知らなかった…佐祐理さんが金持ちの子だったなんて…」
「あははーっ、佐祐理はお金持ちじゃありませんよ」
お金持ちではないと言ってもこの店の大きさを見れば実感するだろう。
「祐一郎さんはこれからお出かけですか?」
「ああ、ちょっと京都にね」
「京都…ですか?」
「ただの見物さ。あ、そうそう、それで今日は昼飯は一緒に食べれないと舞に言っておいてくれないかな」
「あははーっ、それなら心配ありませんよ」
「え?」
「舞も今日は京都に用事があると言って出掛けていきましたから」
「舞が? 一体あいつにどんな用事があるって言うんだ…」
「なんでも重要な用事とか言ってましたよ」
「重要な用事か…」
「舞に会えると良いですね」
「広い街だからそう簡単に会う事なんて出来ないよ」
「祐一郎さん、気を付けて行ってきて下さいね」
「ああ、分かったよ」
「それでは」
「じゃあ」
祐一郎は佐祐理と分かれると夜には帰れるように足を速めた。
・
・
・
「良い街だ…」
京都の街…
祐一郎はこの街をゆっくりと歩いて周っていた。
「こんな街で血を流す事があるなんて信じられないな」
昼飯を食べる事も忘れて祐一郎は見物を楽しんだ。
気が付くと既に日は傾きつつある。
「そろそろ行くか…」
祐一郎が帰ろうとしたその時。
「聞いたか」
「新撰組の事だろ」
その話を聞いて祐一郎は立ち止まった。
「今日の夜、あそこに押し入るって話」
「聞いたぞ。遂に今夜か…」
「おい、それは本当か?」
思わず祐一郎は口を開いた。
「ん? ああ、京都の街はその話で持ち切りだぜ」
「その場所は何処だか分かるか?」
「分かるが…まさかあんた行くつもりなのか?」
「ああ」
「変わった奴だな。あんな血に染まる場所を見に行くなんてよ」
「とにかく場所を教えてくれ」
「ああ、場所は…」
早速祐一郎はその場所へと向かった。
日は沈み、辺りは暗闇に包まれるころ到着した。
「俺は何をやっているんだ…」
この場所に来れば新撰組が見られるというわけでもない。
だが祐一郎の体が自然と行動を起こしたのだ。
「何処だ…何処に居る…」
あれからかなり時間が経っている。
もう新撰組は引いてしまった後かもしれない。
「!」
そんな考えを打ち破るかのように祐一郎の目の前にある集団が現れた。
「新撰…組…」
一目で分かる。
漂わせている雰囲気がビリビリと祐一郎を振るわせる。
「ん…何だ、お前は?」
新撰組の一人が祐一郎に気づく。
「こんな所にいると危険だぞ」
「あ…あの、俺を新撰組に入れてください!」
「?」
何を言っているのか祐一郎自身にも分からなかった。
勝手に自分の口が言っている。
「俺を入れてください!」
「お前、何を言っているんだ?」
新撰組の一同から笑いが漏れた。
と、その時。
「まぁまぁ、頼もしい事じゃないですか」
「沖田さん」
「沖田?」
「こんな少年でも私達の力になってくれると言ってくれているのだ。それを笑う事はいけませんよ」
「ふふ、沖田さんは相変わらずお優しい」
沖田。
その名が祐一郎の頭に響く。
「沖田…総司…」
「そう、沖田総司だ。君の名は?」
「相沢祐一郎」
「祐一郎君か…よろしく」
総司と握手を交わす。
「君の言葉は嬉しいがまだ君は強くなれる。もっと強くなったら来ると良い」
「は、はい!」
「私達はもう行く。君も頑張ってくれ」
「ありがとうございます!」
総司に会えた事で祐一郎はひどく興奮していた。
「では、行くぞ!」
「「はい!!」」
新撰組が例の店に入ろうとしたその時。
ザッ
月明かりを何かがふさいだ。
「あれは…?」
誰か一人の剣士が屋根の上に居る。
「沖田さん」
「ああ、分かっている」
「誰だ、お前は!」
ザッ
その剣士が屋根から跳躍する。
ザシュゥッ!
「ぐあぁっ!」
「!?」
着地と同時に一人がやられた。
死んではいない。
どうやら峰打ちのようだ。
「何をする!」
だがその言葉に聞く耳を持たずに突進してくる。
「止めろ、そいつを止めるんだ!」
次々と剣が抜かれる。
「でぇぇい!!」
スッ
全ての太刀筋が紙一重でよけられた。
「新撰組が歯に立たない…」
祐一郎は足が震え始める。
「止めるんだ!」
「駄目だ、止められない!」
ザンッ!
「があぁぁっ!」
「はぁはぁ…」
呼吸を整えて祐一郎は剣を抜く。
「相沢祐一郎、参る!!」
ガシィィン!
謎の人物の剣を受け止めたと同時に剣から火花が散る。
「ぐっ、くっ…お前…やるな」
「どいて…怪我をするだけ」
「ふん、そう簡単にやられて…」
言い掛けたその時、月明かりによってその人物の顔が鮮明に見えた。
「お、お前は!?」
長い髪を後ろで束ね、相手を見る冷たい目。
祐一郎にはどうしても忘れられない人物。
「舞…」
「祐一郎…?」
舞も相手が祐一郎だと気が付いたようだ。
「舞、お前…」
「………」
ザッ
舞は祐一郎の剣を振り払うとまた屋根の上に飛び乗った。
「沖田さん!」
誰かが叫ぶ。
「わかっていますよ。そう簡単にはやられません」
「…沖田総司…勝負」
「良かろう、来い!」
突然、総司は反対に向いて走り始めた。
舞もそれを追い屋根を上を疾走する。
「くそっ!」
祐一郎もそれを追いかける。
「二人ともなんて速さだ」
足に自信がある祐一郎にもついていくのが精一杯だった。
しばらく走り、少し開けた場所に出ると二人は対峙する。
「…勝負」
「少しは出来るみたいですね」
総司も剣を抜いた。
「参る!!」
ガキィィン!
こうして二人の戦いの火蓋は切って落とされた。
「はぁ!」
ヒュン!
「せいっ!」
キィィン!
息をつく間も無い二人の連撃。
祐一郎は何も出来ずに只見ているだけだった。
「…これが…強さ…」
「ほぉ、なかなか…」
総司の攻撃を紙一重で避ける舞。
「…正体を現せ」
ギィン!
「くっ! では、これならどうだ!」
総司は間合いを取ると剣を一気に突く!
ガキィン! キィン! ギィィン!
「私の三段突きを受け止めるとは…」
上段、中断、下段に向けて目にも止まらない速さで放たれた剣を受け止める舞。
「強い…」
思わず嘆く祐一郎。
「ふ、ふふふ、はははは! やるな、久しぶりに血が騒ぐ!」
その時、祐一郎は自分の目を疑う。
「あ、あれは!?」
総司の持っている剣に目があるのだ。
「この村正、数十年ぶりに血が滾る戦いが出来る!」
「…正体を…現せ」
『村正』
祐一郎もその名を一度は聞いた事がある。
どんな剣士でも必ず耳にする伝説。
妖刀『村正』の伝説を。
持った者に力を与えるという徳川家に伝わる妖刀だ。
「勝負!」
総司の剣の形がだんだんと変わっていく。
「あれは総司さんじゃない…」
明らかに操られている。
「…この時を待っていた…」
舞はゆっくりと剣を構えた。
「血を我に!」
総司の声は自身の物ではない。
「川澄流奥義…」
「舞!」
「魔即斬!」
ザシュゥゥゥッ!!
「がああぁぁっ!!」
一体何が起きたのだろうか。
目の前から舞が消えたと思った途端、一瞬の閃光と共に総司の体が弾き飛ばされた。
ドサッ
離れた場所に総司の体が落ちる。
「舞、大丈夫か!?」
「…私は心配ない…」
「そうか、良かった…でも…」
総司と彼の剣を見る。
「この剣…村正は…」
「祐一郎、避けて」
「え?」
突然、村正の形状が蜘蛛のように変わって祐一郎を襲った。
「うわっ!」
鋼の足が胸をかすめる。
「シャァァ!」
「くっ、こいつ!!」
ガキィィン!
祐一郎の剣は村正の体を通さない。
「シャァァ!」
「くっ!」
バキッ!
村正の足が祐一郎の体を殴り飛ばす。
ドカッ
家の壁に叩きつけられた。
「うっ!…化け物め…」
「…祐一郎…後は私が」
「大丈夫だ、こんな奴は俺一人で…」
「キシャァァ!」
「!」
ドスッ
村正の足を直前に避けた。
「…はは、少しきついかもな」
剣を後ろに引く。
「この野郎!!」
ガシィィン!
精一杯の力を込めて村正に剣を突き刺す。
「なんて硬さだ、こいつめ!」
ギリギリギリ
「祐一郎…そのまま押さえて」
「舞?」
舞は高く跳躍した。
「せいっ!」
バキィィィッ!
足の一本が折れ飛ぶ。
「ギィィィッ!」
村正は悲鳴を上げながら闇の向こうへと逃げていった。
「あ、待て!」
「大丈夫…手負いにした…」
見ると折れた村正の足が剣の欠片へと姿を変えた。
「あれが…妖刀か…」
祐一郎は戦いで感じた痛みを思い出す。
「あいつは…私が倒す…」
「舞、お前は一体…」
「私は…」
その姿は月夜が良く似合った。
「私は魔物を討つ者だから」
〜幕〜
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