〜back〜
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・・・「死」は1番の解決方法・・・そして1番の逃避・・・
〜ターニングポイント〜
「あぅ! ・・・うわぁぁぁ!!」
私の胸に刺さった剣がそのまま身体を貫く・・・
真っ赤な・・・たぶん人の血と同じ赤い血が噴出していく様を見ながら暗い闇に落ちる。
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「や、やめて・・・やめてぇぇ!!」
今日は腕と足を切られたうえに大鎌で首を落とされた。
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「嫌っ! もぅ嫌ぁぁ!! な、なんで私がこんな目に遭わな・・・・ぐふっ」
体中を銃痕で真っ赤にしながら・・・陽光な朝日を浴びながら・・・私の頭に突きつけられた拳銃が吼えた。
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(ごぼぉ・・・息が・・でき・・・く、くるし・・・・だ・・誰か・・・・たす・・・け・・・・)
月夜の綺麗な夜には、手足を縛られ重石を付けられたまま水槽に沈められた・・
暗い闇に落ちる瞬間・・・水槽のガラス越しの向こうに笑う人たちが見えた。
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それでもわたしは夢を見る・・・あの楽しかった普通の日々を・・・昨日も今日も明日も・・
そして・・・そして太陽の光が小窓から射す石牢の中でわたしは目を覚ます。
「・・・・何で・・・どうして」
考えるのはそんなことばかり・・・そして思い出す、あの暗い闇に落ちていく感覚・・・
「うっ! げぇ・・・ごほっ! ごほっ!!」
あの感覚だけにはとても慣れない・・・気持ち悪いんじゃない・・・怖い・・怖い・・・・
心の深層に刻まれた死の恐怖などとてもじゃないけど慣れるものじゃない。
食べるものなど無く、胃の中身なんかまったく無いのに胃液を吐き出す・・・嗚咽と涙だけがわたしから流れた。
カツン・・カツン・・・・・
静かだった部屋に音が響く・・・
「ひっ! やぁ・・・・やぁーーだぁ・・・・」
頭を抱えうずくまる。目は闇の恐怖におびえ閉じることも出来ず涙だけを溢れさせた。
カツン・・・・ガチャ・・キィー
扉の前で止まった音が扉を開ける音へと変わる・・・そして、この後に待つものは・・
「もぅ生き返るのは嫌ぁぁぁ!! お願い死なせてぇぇぇ!!!」
それが今の私の願いだった・・・そう、心からの願い・・・
・・・お父さん
・・・お母さん
・・・わたしは二人に逢うことが出来ますか?
「・・・・・綺麗・・・今日は満月なのね」
いつもの小窓から空に浮かぶ金色の大きな月を眺めた。
その満月の光が蒼い瞳に映り、私に降り注ぐと不思議と心が冷静に落ち着く・・
あの時・・・赤い瞳に金色の髪をした白い彼女に殺されて3年・・・
そして14日前に目覚めた私・・・
助かったのかと思ったのも束の間、私は毎日・・・ううん、1日に何回も殺された。
もぅ何十回・・・・・あははっ、百回ぐらいは死んだよね。
殺されてる最中は凄く苦しくて・・痛くて・・・・死にそうなほど痛くて・・・そして死んじゃう。
「・・・・・・・」
なのに気が付くと生き返っちゃう・・・・
どうして・・・どうして? 私は人間じゃないから? ・・・あの時に人間じゃなくなったから?
酷く苦しくて・・・世界が醜くて・・・・人が憎くて・・・・
そして歯止めが効かなくなった時にわたしは・・・・
「・・・・・・」
あっ・・・
そうか・・・そうだ・・・・これは罰なんだ
お父さんを、お母さんを・・・
そして仲良しだったお友達の・・・
優しくしてくれた向かいのお爺さんの・・・
片思いをしていた近所のお兄さんの・・・そして・・・そして・・・
・・・ワタシがコロシテしまった街のヒトタチの・・・・
わたしの犯してしまった罪を償うための罰・・・だからわたしは街の人たちの数だけ死ななければならない。
「・・・・・・ふふ」
そう思ったら、ふっと楽になれた・・・
わたしの心臓を貫かれた罰は、お父さんへの償い
わたしの首が落とされた罪は、お母さんへの償い
わたしの身体が炎に焼かれた罪は、クラスメイトのマリーちゃんへの償い
わたしの頭を銃で打ち砕かれた罪は、大好きだったお兄さんの恋人への償い
わたしの・・・・・・
わたしの・・・・・
わたし・・・・
わた・・・
わ・・
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そして・・・わたしの償いが終わったとき、わたしはやっと・・・・やっと死ねるんだ。
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30日目・・・
「・・・・起きなさい・・・・・起きなさいシエル」
久しぶりに聞く優しい声・・・
わたしを嫌悪し憎悪したような声と違った声・・・
「んっ・・・・誰・・」
「シエル・・・もぅ良いんですよ。あなたは酷い目に遭わなくても良いんです。 あなたの身体のことが分かったから」
何? この人は何を言ってるの?
「わたしの身体のこと? もぅ殺されなくてすむ?
・・・違うっ! だって・・・・だってわたしはまだ生きてる・・・まだお父さんやお母さん・・・そして街の人たちへの償いが終わってない!
わたしは生きてるから!! わたしが生きてる時はまだ許されてないから!! 私が・・私が死なないと罪が償えないからぁ!!」
膝をつき、わたしの顔を正面から見つめていた彼女に向けて戸惑いの瞳を向け、まるで許しを乞うかのように叫んだ。
そんな私を胸に抱き寄せ優しい声を紡ぐ・・・
「あなたは罪を償える娘なのですね。 世の中には罪を起こさない人は私も含めて誰もいないのです・・・
だけど罪を償おうとすることは誰にもできるはず、そして罪を忘れないために自分自身に罰を課せる・・・
償おうとすればするほど自分自身への罪を大きくして・・・」
「ひっく・・・だから・・だから私は死なないといけない・・・だから今日も殺してくださぁい・・・」
これがわたしの罰だから・・・償いだから・・・そう思ってた。
パシッ!
急に頬を両手で叩かれ、伏し目がちだった顔を上げさせられると彼女の瞳に酷い顔をしたわたしが映って見えた。
「あなたは自分が死ぬことで罪が許されると思ってるの、そんな軽率なことを思わないで。
どうしてあなたが生き返ったのか、どうして死なない身体になったのか・・・そして何をするべきか、それを考えなさい」
わたしを見つめる瞳、そして叩かれた頬が熱い・・・
わたしが殺されたときとは違った生きてるという痛み・・・
「シエルが自分自身を許さないというなら、私が代わりに許します。
シエルが死にたがってるのなら、そのまえにあなたにしか出来ないことをしなさい。
自分の生き方を他人に委ねた生き方や死に方は今までの自分自身を否定してることにもなるのよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・それでも、わ・・わたしは許せないかもしれない・・・だってわたしはお父さんやお母さんを・・皆を殺した・・・」
「自分自身を騙せない嘘は他人を不快にさせるものよ。
・・・私はあなたに何もしてあげないわ、ただシエルが何かをしようとする為の背中を押すことは出来ると思うの。
もしもシエルにその気があるなら私の手を取りなさい・・・いい? あなたが決めるのよ」
そうやって立ち上がった彼女はわたしに向けて手を差し出した。
「・・・・うん」
そう・・・わたしがやらなければならないこと!
部屋を出るとわたしを殺していた人達の残骸が散らばっていた・・・
何となく(この人たちは死ねて良いなぁ・・)なんて思ってしまうわたしが嫌になった。
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あれから5年の歳月が経った・・・
多くの殺し殺されがあった・・・
ふと気が付くと、今のわたしは埋葬機関の7位という存在にまでなった・・・
わたしは追いかける、わたしの罪と罰を終わらせるモノの為に・・・
そして目の前にはわたしの今の運命と終わりが立つ
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夜の校舎、目の前には運命の終わりを持つモノが見える・
第七聖典の狙いを定め引き金を引けば終わり・・・だけど・・・・だけ・・ど・・・
「どうしてあなたは眼鏡を取らないんですか?」
「やっぱりシエル先輩のことが好きだから・・・かな?」
「・・・バカ」
そう・・・この人と出会ってから違う運命が始まるかもしれない。
背中を押してくれたのは彼・・・
そしてそれを選ぶのは私自身・・・
「・・・・・・うん」
そう心で呟いたわたしの選んだ道・・・・それは・・
〜ターニングポイント〜 fin
★あとがき★
はぃ、セラくん初の『月姫』SSです。
いや、もぅ何ていうか面白いですわ月姫は! とても同人ソフトとは思えないシナリオのボリュームと内容!!
複線の張り方と、自然と解ける謎の数々、そして魅力的で個性的なキャラクター達など人気が出るのもうなずけます。(^^/
そんなヒロインの中でも気に入ったのがシエル先輩♪
いや、他のキャラも優劣を決められないぐらいなんですけどネ。 (^^;
とても人懐っこいと言うか、こんな先輩がいたら嬉しいぜ! という思いを持たせてくれる先輩ですけど、
その過去を知ると切なくて悲しくて苦しいものなんですよね・・・
そんな中でも自分的に凄く印象に残ったのが1ヶ月もの間、殺されまくるシーンを話す部分・・・
それでも自分の『死』を追い求めるために戦う強い心と意志なんかを感じちゃいます。 ・・・意味合いちょっち違うけどね。
SSの方はもうちょっと暗いイメージにしようと思ったけど無理でした・・・っと言うか自分が暗くなってしまいました。(^^;
ゲームをプレイしてないと意味もわからないし、深いところまで感じ取れないかもしれないですから
この機会に是非ともプレイするのをお薦めしますよ♪
・・・・ゲーム本編はこんなにヘッポコSSみたいな文章ではないのでご安心を。(笑)
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