戦艦ベハーゲンとは!?

 先日、私が資料整理をしていたところ、偶然にも次の様な文章が目にとまった。


『戦艦ベハーゲン。
 欧州大戦で連合国側に立って参戦したケルンテン海軍が、英国より戦時貸与された旧式戦艦である。
 英海軍時代の艦名ライオネス。イギリスのヴィッカース社バロー・イン・ファーネス造船所にて1905年に竣工。
 常備排水量12,400トン、全長124メートル、30センチ砲を連装砲塔2基に納め装甲は最大200ミリのハーヴェイ鋼。石炭の燃焼によって生み出される熱は高圧の蒸気となって18,000馬力を発揮し、時速20ノット(約37キロ)で大海原を走りまわる。
 戦後はそのままケルンテン海軍に艦籍を委譲され、現在は港に繋留されたまま海軍総司令部、兵員宿舎、海軍博物館として利用されている。』(硅嵐典海軍博物館パンフレット ヨリ)
(本当は 遊演体ネットゲーム95「鋼鉄の虹」11月期リアクション 行動処理No.066 ENT_「行くぞ! 硅嵐典海軍」 ヨリ)

 当研究所ではイギリス戦艦を参考にケルンテンで建造された、もしくはイギリスに発注して建造された艦だとしていたが、何と正真正銘のイギリス戦艦であったのである。考えてみれば、1905年当時はまだマインファルケン条約(*1)時代であり、ケルンテンが戦艦を保有する事など不可能である。

 今までベハーゲンはケルンテンの独特な戦艦であるため類例はあまり存在せず、したがって資料もあまり存在しないものと思われていた。しかし、以前にイギリス海軍で就役していた戦艦であるからには、イギリス海軍の戦艦について調べてみるとライオネス(ベハーゲン)についての記述を見つける事ができるかもしれない。
 そこで今回はライオネス(ベハーゲン)がどの様な戦艦なのか検証してみたい。

 まずは直接、戦艦ライオネスを探してみたい。

イギリス海軍前ド級戦艦一覧表
名称 竣工 建造場所
ロイヤル・サブリン級      
  ロイヤル・サブリン 1892 ポーツマス工廠
  エンプレス・オブ・インディア 1893 ペンブローク工廠
  ラミリーズ 1893 トムソンズ社
  レパルス 1894 ペンブローク工廠
  レゾリューション 1893 パルマー社
  リヴェンジ 1894 パルマー社
  ロイヤル・オーク 1894 キャメル・レアード社
バーフラー級      
  バーフラー 1894 チャタム工廠
  センチュリオン 1894 ポーツマス工廠
(バーフラー改級)      
  リナウン 1897 ペンブローク工廠
マジェスティック級      
  マジェスティック 1895 ポーツマス工廠
  マグニフィセント 1895 チャタム工廠
  ハンニバル 1898 ペンブローク工廠
  プリンス・ジョージ 1896 ポーツマス工廠
  ヴィクトリアス 1896 チャタム工廠
  ジュピター 1897 トムソンズ社
  マース 1897 キャメル・レアード社
  シーザー 1898 ポーツマス工廠
  イラストリアス 1898 チャタム工廠
カノーパス級      
  カノーパス 1899 ポーツマス工廠
  グローリー 1900 キャメル・レアード社
  アルビオン 1901 テームズ鉄工所
  ゴライアス 1900 チャタム工廠
  オーシャン 1915 デヴォンポート工廠
  ヴェンジャンス 1902 ヴィッカーズ社
フォーミダブル級      
  フォーミダブル 1901 ポーツマス工廠
  イリジスティブル 1902 チャタム工廠
  インプラカブル 1901 デヴォンポート工廠
ロンドン級      
  ロンドン 1902 ポーツマス工廠
  ブルワーク 1902 デヴォンポート工廠
  ヴェネラブル 1902 チャタム工廠
  クィーン 1904 デヴォンポート工廠
  プリンス・オブ・ウェールズ 1904 チャタム工廠
ダンカン級      
  ダンカン 1903 テームズ鉄工所
  コーンウォーリス 1904 テームズ鉄工所
  エクスマス 1903 キャメル・レアード社
  ラッセル 1903 パルマー社
  アルベマール 1903 チャタム工廠
  モンターギュ 1903 デヴォンポート工廠
スイフトシュア級      
  スイフトシュア(コンスティテゥシオン) 1904 アームストロング社
  トライアンフ(リベルター) 1904 ヴィッカーズ社
キング・エドワード7世級      
  キング・エドワード7世 1905 デヴォンポート工廠
  ドミニオン 1905 ヴィッカーズ社
  コモンウェルス 1905 フェアフィールド社
  ヒンドゥスタン 1905 ジョン・ブラウン社
  ニュージーランド 1905 ポーツマス工廠
  アフリカ 1906 チャタム工廠
  ブリタニア 1906 ポーツマス工廠
  ハイバニア 1907 デヴォンポート工廠

 上記の表はイギリス海軍に就役した前ド級戦艦(一部、準ド級戦艦)の一覧表である。残念ながら、この表からは1905年に竣工したライオネスと言う戦艦を見つける事はできない。この中でキング・エドワード7世級ドミニオンは、ヴィッカース社で建造され1905年に竣工していると言う点で一致しているが、一時的にせよ『ライオネス』と言う艦名を使用したと言う記録は発見できなかった。

 次にベハーゲンの性能諸元から類似する戦艦を探してみたい。

イギリス海軍就役前ド級戦艦の性能
名称 竣工 排水量 全長 全幅 装甲材質 装甲 出力 速力 燃料 煙突 主砲 副砲 乗員
ベハーゲン 1905 12,400 124 22 ハーヴェイ鋼 200 18,000 20 石炭 直列2本 30.5cm連装砲塔2基 15.2cm砲8門 721
ロイヤル・サブリン級 1892 14,150 125 22.9 ニッケル鋼 457 11,000 16.5 石炭 並列2本 34.3cm連装砲塔2基 15.2cm砲10門 712
バーフラー級 1894 10,500 109.5 21.3 ニッケル鋼 305 13,000 18.5 石炭 並列2本 25.4cm連装砲塔2基 12cm砲10門 620
マジェスティック級 1895 14,560 128.3 22.9 ハーヴェイ鋼 229 12,000 17 石炭 並列2本 30.5cm連装砲塔2基 15.2cm砲12門 672
レナウン(バーフラー改級) 1897 12,350 124.4 22 ハーヴェイ鋼 203 12,000 18 石炭 並列2本 25.4cm連装砲塔2基 15.2cm砲12門 674
カノーパス級 1899 13,150 128.5 22.6 クルップ鋼 152 13,500 18 石炭 直列2本 30.5cm連装砲塔2基 15.2cm砲12門 682
フォーミダブル級 1901 14,500 131.6 22.9 クルップ鋼 229 15,000 18 石炭 直列2本 30.5cm連装砲塔2基 15.2cm砲12門 780
ロンドン級 1902 14,500 131.6 22.9 クルップ鋼 229 15,000 18 石炭 直列2本 30.5cm連装砲塔2基 15.2cm砲12門 714
ダンカン級 1903 13,270 131.7 23 クルップ鋼 178 18,000 19 石炭 直列2本 30.5cm連装砲塔2基 15.2cm砲12門 720
スイフトシュア級 1904 11,800 146.2 21.6 クルップ鋼 178 12,500 19 石炭 直列2本 25.4cm連装砲塔2基 19cm砲14門 800
キング・エドワード7世級 1905 15,585 138.3 23.8 クルップ鋼 229 18,000 18.5 石炭、重油 直列2本 30.5cm連装砲塔2基 25.4cm砲4門
15.2cm砲10門
777

 上記の表は主なイギリス海軍前ド級戦艦の諸元を竣工順に並べたものである。なお、1行目は参考のためライオネス(ベハーゲン)を記述してある。
 この表からライオネス(ベハーゲン)と類似する艦を探してみたい。船体を見てみると寸法や装甲からレナウンとほぼ同一である事がわかる。機関部に関しては煙突形状や出力、そして使用燃料などを見てもダンカン級と近い物が搭載されているだろう。主砲に関してはマジェスティック級以降の艦と同一性が見られる(実際は砲身長などが異なるが、ベハーゲン主砲の砲身長はデータが存在しないため、不明である)。
 以上から、ライオネス(ベハーゲン)はレナウン級の船体に当時最新の機関と兵装を搭載した戦艦である考えられる。

 しかし、ここで疑問が出てくる。ライオネス(ベハーゲン)は1905年竣工であるにもかかわらず、1897年に竣工したレナウンと同一という古い船体を使用している事だ。たかだか8年の差と思われるかもしれないが、この表からもわかるように当時のイギリス戦艦は猛烈な早さで進化しており、最新鋭のキング・エドワード7世級から見てレナウンは4世代も前の設計になる。 更に、ハーヴェイ鋼が使用されている点も気になる。ライオネス(ベハーゲン)の起工は不明であるが、多くの例で起工から竣工まで2〜4年かかっている事を考えると、工事中断などが発生していないと仮定すれば1901〜1903年の間に起工したものと考えられる。1900年代にもなってわざわざ古く性能の劣るハーヴェイ鋼を製造するとも思えない。これは一体何故であろうか?

 最後に、ライオネス(ベハーゲン)の建造を行った造船所および竣工年月から見てみよう。

ヴィッカーズ社バロー・イン・ファーネス造船所における前ド級戦艦建造実績

 上記の表は、ヴィッカーズ社バロー・イン・ファーネス造船所での前ド級戦艦建造実績を竣工順に並べたものである。
 この表から、バロー・イン・ファーネス造船所では2隻の戦艦を同時に建造できた事がわかる。では3隻となると、どうであろうか?
 まずはドックの数を考えてみたい。これは憶測でしかないのだが、もしバロー・イン・ファーネス造船所に戦艦用ドックが3つあるならば、当時の海軍状勢から考えて1900〜1901年の間にもう1隻(ロンドン級あたりか?)起工していたであろう。やはりバロー・イン・ファーネス造船所の戦艦用ドッグは2つと考えるべきであろう。
 次に実際の建造能力について考えてみたい。

1902年上半期建造実績

 この表は1902年上半期の進捗を月単位で示したものである。これを見ると、2月から3月にかけてヴェンジャンス、三笠、リベルター3隻の作業が平行して行われていた事がわかる。これは、ヴェンジャンス、三笠の艤装作業も終盤であり、既にドック以外での作業を行うことが可能な状況であったためだと考えられる。
 これらの例からバロー・イン・ファーネス造船所の戦艦建造能力は、
『戦艦2隻を同時建造可能。ただしドックを使用しない艤装作業などを含めると、3隻まで同時に作業を行う事も可能。』
であったと推測される。

 以上全ての面を満たそうとすると
『ライオネス(ベハーゲン)はレナウンと同時期(1987年)に起工、1898年頃に進水したものの、何らかの理由で艤装が行われずドック以外の場所に繋留、1904年頃に艤装が再開されるとと共に機関も最新のものに換装され、1905年に竣工した』
と考えざるを得ない。1897年当時、まだヴィッカース社には戦艦の建造実績が無かったため、習作として建造されたのであろうか?
 以上の推測を加味したものが下表である。

ヴィッカーズ社バロー・イン・ファーネス造船所における前ド級戦艦建造実績(補正)

 これらから戦艦ベハーゲンの正体を考えると、
『何らかの事情により余っていたレナウン同型艦の船体に、ダンカン級から更に進化した機関と兵装を搭載した、レナウン改級とも呼ぶべき戦艦』
であり
『同型艦は存在しない』
となる。

 しかしながら、1889年の時点で既に「二国標準(*2)」論が発表されている事を考えると、建造途中で戦艦を遊ばせると言うのは非常に考えづらい。
 また、同型艦が存在しないと言うのは、艦隊行動などを考えた場合に不利である。初代ド級戦艦ドレッドノートの様な革新的な艦ならいざ知らず、ライオネス(ベハーゲン)程度の戦艦をイギリスが単独で建造するのは、やはり不可解である。
 これらの謎を解明するため、今後も可能な限り調査を行う所存である。

注釈

*1:
マインファルケン条約とは、1870年にオーストリア・ハンガリー帝国、プロイセン帝国、ケルンテン公国との間に結ばれた条約。この条約によってケルンテンはオーストリア・ハンガリーから独立したが、その代わりとして軍備に大幅な制限を受ける事となった。特に、ケルンテンが海軍国となる事を防ぐと言う思惑があったため、沿岸警備を越える規模の海軍力を保有することは不可能となっていた。
*2:
二国標準とは、大英帝国の安定を確保するために、フランス、ロシア両国と同時戦争を行っても勝利できる様、二国分の海軍力を保有しなければならないとする理論。当時のイギリスはこの理論に基づき、19世紀末から20世紀初頭にかけて大量の戦艦を建造してた。




参考資料




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