偶数気筒星形発動機の世界



 硅緑内戦中のケルンテンでは、航空機用発動機として12気筒星形という非常に珍しい型式の物を運用していた。あまりにも珍しいためか「5+7の複合型なのでは?」とする意見や、さらには「実在しなかったのでは?」などという過激な意見も存在する。これら意見の根拠は「単列あたり偶数気筒の星形は回らないから」である。
 たしかに星形発動機の基本は2回転中に1爆発を実現するために、単列あたり奇数(5,7,9,11)とし、これらを1つ飛ばしに爆発させている。
 しかし偶数気筒の星形は本当に回らないものであろうか?そう思い発動機史を見てみると、意外にも偶数気筒星形が存在している。
 そこで今回は、これら偶数気筒発動機を紹介してみたい。この事によって、ケルンテン製発動機研究の一助になれば幸いである。



3気筒

 偶数気筒星形を紹介すると書いておきながら何であるが、まずは3気筒型を紹介したい。3気筒型は奇数気筒であるため通常型の条件を満たすが240度回転ごとに1爆発という、あまり稼働に都合の良い型式とは言えないものである。
 この型式は意外に古く、何と1894年にアメリカのバルツァーという人物が自動車用として開発していた。その後はしばらく間が空くが、1910年代から20年代にかけてフランスのアンザニ社やポテ社で製造されていた。気筒数が少ないため非力であったが、部品数が少なく安く製造できるため、小型機用発動機用やプロペラ式自動車用として運用されていた様だ。また3気筒を複列化した6気筒型も製造されていた。こちらは1300回転で45馬力と言う出力であった。
 他に、イギリスのコスモス社でもルシファーという3気筒星形を製造していた。これは元々9気筒であったものを3気筒にまで減らしたものであり、1700回転で130馬力を発揮した。またチェコスロバキアのワルター社でも1920年代に3気筒星形が製造されていた。
 これら3気筒型を4列化すれば、(非常に複雑であろうが)12気筒星形を造る事も可能である。


4気筒

 4気筒星形(X型の90度角)も複数存在するが、いずれも二次大戦後の開発であるので割愛させていただく。ロシア、ドイツなどで開発され、ドイツでは今も開発が続いているそうだ。


6気筒

 3気筒の所で複列化した6気筒を紹介したが、単列6気筒と言うものも存在していた。まず、ロシアのADU−4と言う発動機がある。開発時期は不明であるが、まだ帝政の頃なので欧州大戦前あたりだろう。この発動機は60馬力を発揮したが、どの様にして稼働していたのかは不明である。
 そして1925年、アメリカのブラウン氏が開発した自動車「ジュリアン」には固定式6気筒が搭載されていた。冷却ファンを搭載するなどの工夫が凝らされていたが、試作の1両のみの製造で終わった。この発動機も60馬力を発揮したが、やはりどの様にして稼働していたのかは不明である。


8気筒

 1935年のイタリア・グランプリ参加車に、8気筒星形を搭載したモナコ・トロッシがいた。6000回転で250馬力を発揮したが、レースの成績は今一つであったらしい。


12気筒

 いよいよケルンテン製と同じ12気筒型の紹介である。1926年にアメリカのカーチス社がH−1640”チーフテン”と言う発動機を開発した。この発動機は単列あたり6気筒であったが、通常の複列星形とは異なり前列気筒の真後ろに後列気筒が存在していた。この発動機はXP−11とXP−13に搭載され600馬力の出力を発揮した。しかし機体に問題があったのか、それとも発動機に問題があったのか(多分、両方であろうが……)これらの機体および発動機は実用化されなかった。
 稼働方法を示した資料を発見できなかったが、前列気筒の真後ろに後列気筒が並ぶという配置からして、まず1回転目は前列気筒が順次爆発を行い(この間、後列は空転)、2回転目で後列が順次爆発(前列は空転)していたものと思われる。
 なお、星形であるのに「R」ではなく「H」となっている理由は不明である。


16気筒

 1930年代前半にイギリスのブリストル社が開発したハイドラは複列16気筒の星形であった。単列あたり8気筒で、これがH−1640と同じく前・後列が同じ角度で配置されていた。この発動機にはスリーブバルブでかつストロークの短いシリンダーが採用されていた。1933年にはホーカ・ハンターに搭載され3620回転で870馬力を発揮した。しかし当時、すでに9気筒型でもこの出力を発揮できており、その割に部品点数が多かったこともあって実用化されなかった。
 稼働方法に関しては、憶測であるがH−1640と同一であろう。


24気筒

 列系発動機メーカーとして有名なユンカース社も1939年から星形発動機の開発を行っていた。それがJumo222である。これは通常の星形と違って、4本の液例シリンダブロックを放射状に6個配置した様な外見であった。このJumo222は初期型で2500馬力(3200回転)、E型で3000馬力を発揮したが、結局実用化されなかった。
 もう一つ、イギリスのロールス・ロイス社も24気筒星形を生産していた。これはいわゆるX型であったが、90度のバンク角で放射状に配されたあったため星形に分類されることもある。この星形発動機はイクスと言う名で1935年に開発された。当初は920馬力であったが1200馬力にまで強化された。イクスは唯一実用化された偶数気筒星形であり、1943年まで連絡機の発動機として運用された。


32気筒

 1888年という古い時期にフランスのフォレスト氏が4列32気筒を製作している。しかしながら、回転数や出力は一切不明である。


参考文献


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