宇宙

再び地底へ


  【われ、古代アトランティスにつき語らん。蔭の者らの時代につきて語らん。蔭の子らの来ることにつきて語らん。彼らは地球人の智恵により大深淵より呼び出されたり。偉大なる力を得んとて呼ばれたり。
アトランティスの存せし以前のはるかなる昔、暗黒を詮索する者らありて暗黒魔術を使い、我らの下なる大深淵より存在者を呼びおりき。彼らは異なる振動の形なき者にして、地球人の子らには見えずして存せり。血によりてのみ、彼らは形ある者となりうるなり。人間を通してのみ、彼らはこの世に生きうるなり。

 彼らは古き昔に聖師たちにより、彼らの来たりし下方にと追い戻され征服されたり。されど人々の知らざる諸区域諸空間に、隠れ残りし者ら若干ありき。彼らはアトランティスに蔭として住みぬ。されど時には人々のうちに現れぬ。しかり、血の献ぜられし時、人々の間にて住まんといで来たりしなり。
 彼らは人の形もてわれらの間にて活動せるも、視覚においてのみ人の如く見えたるなり。彼らは魔術の解かれし時は蛇頭なるも、人々の間にては人の如くあらわれたりき。彼らは人々に似たる形をとりて諸会議に忍び入りぬ。彼らの術策によりて国々の首長らを殺し、彼らの姿をとりて人々を支配せり。彼らは魔術によりてのみ、音によりてのみ発見し得るなり。彼らは蔭の国より人々を滅し、その代わりに支配せんと求めおりしなり。

 されど聖師たちの魔術強大にして、蛇人らのベールを取り去り得、彼らの元の場所にと戻し得しことを汝知れ。聖師たちは人々のところに来たりて、人間のみが発音し得る語の秘密を教えたりき。それより人々は、すみやかに蛇人よりベールを取り去りて、人々の間に示し地位より追放しぬ。(タブレット八より) 】


 嵐の夜、ジーン・ウールの部屋に、人影がありました。
懐かしい人です。帽子をかぶった小さな人です。ずいぶんこの小さな人には会っていませんね。
ジーン・ウールは、まだ夢の中です。
「ジーン・ウール起きてくれ」「・・zzzzz」 「ジーン・ウール出発の時間だ」
寝ぼけ眼のジーン・ウールが飛び起きたのは言うまでもありませんが、こんな嵐の夜にいったいどこに行くというのでしょう。

 昔々のその昔、古代の人々は蛇をたいそう恐れていました。それは蛇頭人が、蛇を神の如く敬うように人々をそそのかしていたからでした。蛇頭人は目には見えません。しかし人々の間を歩き回り、蛇族の好む嫉妬や悪意が住むところには、必ずやってきました。そして耳のそばで囁くのでした。
「お前は神のようになり、善と悪を支配するのだ」

この魔物は血を好みました。そして人間の血と悪意のあるところで、その悪意のある人間にとりつき、魂を食い尽くしその体に入って、入れ替わってしまうことが出来ました。
しかし、本当の恐ろしい秘密は、とりつかれた人間の魂は転生輪廻の輪の外にいて、終生魔物の食べ物としての役割だけが与えらるということです。
そしてこの魔物達は人間にすりかわり、霊力でもって次第にアトランティス人を支配し始めていきました。
この者達は火星から生まれ変わってきた者たちと、霊力はあるが物質的なものに惹かれ、上位サイクルに行くことが出来ず、取り残された者達でした。
そして、魔物たちが闇の支配者となりました。
魔物達は、血の犠牲を求めました。そして人々が憎しみあい殺し合う姿を見て、大層喜びました。
それは兄が弟と争い、隣人が隣人を訴え、苦しみと嘆きが地を覆うまでつづきました。

ジーン・ウールが、この恐怖に支配された社会を変えなければならないのだと、サトは言うのです。

「サト・・申し訳ないけど、とても私に出来るとは思えないわ」
「ね。わかった?・・あなたは、誤解しているわよ・・・社会を変えるですって?]

外は風も弱まり、雨足も次第におとなしくなってきました。
サトが遠くを見つめて何か話しています。「・・・・・☆・・・・」・・それはとても不思議な光景でした。
「・・・?・・サト・・あなたは誰と話をしているの?」
サトは重い口を開けました。「あなただと信じた・・私たちは、あなただと信じたのだよ。」
「私たちって、地底のお仲間さん達のことなの?・・どうして。何を根拠に言えるのでしょうね!」

実は、サトは口には出さなかったけれど、一人の女性のことを思っていました。
不思議な伝説の女性です。
(その女性は、そう・・西暦二千年の今もこの世のどこかにいるはずなのです。五百万年も生き続けているという伝説の女性の話は、不思議なことに今では誰も聞くことがありません。
その女性のことが書かれた書物は、確かに存在するはずなのに・・なにかの意志で隠されてしまったように、目にすることができないのです)


 昔、アトランティスは霧の中でした。地上の植物は霧の中で生長しました。シダ植物はまるで樹木のように大きく、あらゆる生物が巨大でした。空を飛ぶ鳥でさえ今よりずっと大きかったのです。
当時のアトランティス人は、植物の種子を焼き種子が放つ生命エネルギーを、浮上する飛行船や工業に利用していました。初期のアトランティスの大気は重く濃密で、水は今よりもずっと軽く希薄でした。まだ大気の中に水分が含まれていて、今では考えられないような自然環境だったのです。
時が経過した後、水が密度を増して重たくなってきたとき、初めて空に虹が架かりました。そして、太陽の光が地上まで届きました。
それから植物も動物も小さくなっていきました。自然界はいともたやすく、環境に順応していきます。
そして環境の変化に順応できなかったものは、静かに消えていきました。
消えはしましたが、ご心配には及びません。精神は種子として残り、新しい肉体やら形態を持って生まれ変わっていったのですから。
そして太陽が地上を照らすようになると、飛行船に取り付けた小さなピラミッドが、飛行船の主エネルギーになりました。ピラミッドの先端が太陽エネルギーを取り込んでいたのです。

 初期のアトランティス人の音声は、特別な力を持っていました。
言葉には治癒力があり、植物の成長を早め、動物の凶暴性を静めました。また言葉は、自然の力を操作することもできました。雨を降らせたり、火山を静めたりもできたのです。
このような力は、間違って使われると破滅を招きました。
そしてアトランティス人の子孫たちは、次第にそうした力を失っていきました。
そして初期のアトランティス人の音声の響きを、再現出来る者もいなくなりました。
高位の神官だけが、一子相伝で伝えていましたが、誰も正しい音の響きを再現する事が出来なくなっていったのです。
ラの音階の羽音が蚊の雌を呼び寄せるように、自然界には不思議な決め事が、今も生き続いています。

 地底人のサトは、どうしてジーン・ウールでなければ出来ない仕事だと言ったのでしょうか。
それには実は、とても深い秘密がかくされていたのでした。
ジーン・ウールの可愛い友達の名前は、アンタレスと言いますが、アンタレスは古い星の名前でもあります。この星は不思議な伝説の星なのです。
古代の伝説では、アンタレス星のあるところが天国の位置だったのだそうです。

そして、「ジーン・ウール」という神々から特別に恵まれた名前を持つ娘は、どんなネガティブの中に置かれても、その魂は常に自由でした。決して恐怖に束縛されることなどなかったのです。
ジーン・ウールは、本当に特別な娘なのです。

 覚えていますか。
「さまよえる魂」 の夢の中で、アンタレスに噛まれたとき、ジーン・ウールの流した血が消えてしまったこと。あのとき流れたジーン・ウールの血は、どこへ消えてしまったのでしょうか。
その答えは、サトがもっていました。
「あなただと信じた・・私たちは、あなただと信じたのだよ」

実は、ジーン・ウールによく似たもう一人のジーン・ウールが存在しました。
その女性は、ジーン・ウールとは反対の世界に属していました。 しかし、ジーン・ウールのDNAを持って生まれました。アンタレスに噛まれた時に流した血を奪われたということは、本来ならばジーン・ウールが闇の力に支配されても仕方のないほどの出来事でした。
血にはジーン・ウールのすべてが含まれていました。 しかし、闇は聖を支配することは出来なかったのです。
失われた血から生まれた、もう一人のジーン・ウールは、リリスと呼ばれました。カバラでは、リリスがアダムの最初の妻であり、アダムとリリスの間から悪魔や悪霊が生まれたとあります。
子守歌の「ララバイ」には「リリスよ去れ」の意味があるそうです。

ジーン・ウールが、自分のそうした能力や特質に気づこうが気づくまいが、事態は悪化していました。
そしてジーン・ウールとよく似たリリスの存在が、その後の世界に大きな影響を及ぼしていきました。


 丘に立っている乙女は誰でしょう。
柔らかい茜色の雲を下に見て、長い髪を吹き上げてくる風にそよがせています。乙女の白い衣も茜色に染まっています。
時間はこんなにもゆっくりと進むものでしょうか。
丘から見上げる南の空は、静かに暮れていきます。
夏の宵、南の空に見える蠍座の心臓部分にある真っ赤な星は、アンタレス星と言います。ギリシャ語で「火星の対抗者」の意味のある「アンタレス」。
この星は宇宙の創造の最初の時、アルルの門から逆流して入ってきたネガティブの流れを強い力で防いだことにより、「火星の対抗者」と名付けられました。

ジーン・ウールの肩に、小さな「火星の対抗者」が立って乗っています。茶色の小さな地リスです。
気がつくと、アンタレスはいつでもジーン・ウールと一緒でした。
このいたずら者は、いたるところを囓りまくっています。時々いなくなってジーン・ウールを心配させるのですが、知らん顔をしているとそのうち地面から顔を出しました。きっと地面の中の方が居心地が良いのでしょうね。
ジーン・ウールは、あたりが暗くなるまで草の上に座っていました。
やがて、空に星がまたたき始めると、大地の中からもそれに呼応するように、一定のリズムを持った音が聞こえ始めました。

 この時代に、自然界の法則を動かす知識にたけていた、ある種の祭司階級が存在していました。
この人たちは、精密にカットされた大クリスタルを使って、人々の心を操ることが出来ました。この大クリスタルは、途方もない周波数を帯びた電磁エネルギーを発生することが出来たのです。
この祭司階級の者たちは、大クリスタルにマイナスの思念を封じ込め、人々の集まったところでクリスタルからマイナスの波長を浴びせ続けたのです。そして、多くの悪が生み出されました。しかし、科学技術は今以上に進歩していきました。また同様なクリスタルをレーザー・ビームとして使うことによって、医学や外科学の技術も発展しました。
古代には、自然界の鉱物、宝石が今以上に利用され、その特性を役立たせていたのです。
これらのクリスタル光線を使って、難しかった病も簡単に治療することが出来ました。
特にジーン・ウールは優れた治療者でした。なぜなら、ジーン・ウールはいつでも鉱物や宝石の声が聞こえていたからでした。


 地面の底から響いてくる音は、まるで音楽のようでした。ベースの低いリズムに、時々別の音が重なって不思議なオーケストラのようです。
ジーン・ウールは石の狩人でした。地の底の鉱物の発する音を聞き分け、必要とする石や鉱物を探し出すことが出来ました。
今ジーン・ウールを頼って来た若者の母親は、末期のガン患者でした。
「ジーン・ウール様、どうぞ母を救って下さい」
若者の願いを叶えるため、ジーン・ウールはこの場所に来ました。ここは誰も来られない秘密の場所なのです。

 若者の母親の癌を治すのに、マラカイトとアジュライトが必要でした。マラカイトは孔雀石とも言いますね。この銅を含んだ緑色の宝石は、「地」と「水」の元素に調和しています。そしてやはり銅を含む純藍色のアジュライトは「カルマの王」である土星に所属し、天の王国をとく鍵がその属性に含まれていました。そして正しく用いられれば、病んだ組織の上にアイソトープとよく似た作用をして、不要な組織を焼き払うのです。
この二つの鉱物が融合すると、超音速の力の場、放射能を生み出します。この放射能は人体には無害であり、体の臓器もこの力に耐えられるのです。
そして正しく用いられた場合に、そのエッセンスが損傷を受けた部分を活性化し、失われた元素、失われた和音を供給する事が出来ました。

 古代文明期には、今の癌のような破壊的病気が、この石によって治療されました。ミネラルの結びつきが、癌の異常な細胞増殖を妨げる事の出来る性質を、これらの石に与えているのです。
そして将来これら銅鉱の宝石の持つ未知の力が、ある秘められた目的で使用されることになります。
マラカイトとアジュライトの薬の療法とは、この2種類のミネラルを粉末にし同量を合わせ、水晶製のプリズムを通した直射日光に当てて充電した後に、アルコールを加えました。これを琥珀色の瓶に移し暗所に保存して、必要とする期間を経た後に処方されました。

ジーン・ウールは、琥珀の瓶を秘密の場所から持ち帰りました。
そして若者の母親に会うために、ある宮殿に出かけていきました。その宮殿とは・・・


 
 この地球上には、何カ所か特別な場所があるようです。
チベットのチャン・タン高地には、今なお未探検の領域があって、巨大な山脈の連なりをいくつとなく越え、深い峡谷をいくつとなく渡り、希望が失望と絶望に変わった頃、厳寒のなか白い霧の壁が見えてきて、その霧の壁を抜けると、今まで歩いてきた氷ではない石ころの大地が現れ、大気にはかげろうが立ち、大地は湯気を吹き、足下の流れは大地からブクブク湧き出て小川となっている。周囲には緑の草が生え、なお歩いていくと霧の壁から5キロ先には樹木が生えている。この不思議な熱帯の土地では、花は咲き乱れ、鳥が歌い、珍しい薬草が生えているというのです。
このチャン・タン高地には、化石がたくさんあり、巨大な色鮮やかな貝類、石の海綿、珊瑚の枝、そして金の固まりも、小石のように簡単に拾うことが出来、大地から湧き出る水は、熱い蒸気から冷たい氷まで、あらゆる温度を 備えているそうです。

 同じような特別な場所として知られているのが、プラトンの伝えるクリティアスのなかのアトランティスです。
プラトンが、「クリティアス」で語ったアトランティス文明に関する記述では、最初の数時代に神々はお互いに大地を分割し、おのおのの地位に従って配分した。各神は自分の取り分の固有の神になり、そこに自分を祀る神殿を建て、神官職を制定し、犠牲制度を設けた。ポセイドンへは海とアトランティス大陸が与えられました。
アトランティス大陸のある島には美しい平野と、平野のなかにそれほど高くない山がありました。
島の中央には土より生まれた3人の原始人  エウェノル、彼の妻レウキッパ、その一人娘クレイト が住んでいました。乙女は大変美しく、クレイトの両親の急死後にポセイドンに求愛され、男子が2人づつ5度生まれました。
一番最初に生まれた子にはアトラスと名前をつけました。アトラスのすぐ後に生まれたもう一人の子には、ガデイロスという名をつけました。この兄弟は最初に生まれた双子でした。
2番目に生まれた双子のうち、一人をアンペレス、もう一人をエウアイモンと名付けました。
3度目に生まれた双子のうち、最初の子にはムネセウス、後に生まれた子にはアウトクトンと名付けました。
4度目に生まれた双子のうち、最初の子にはエラシッポス、次の子にはメストルと名付けました。
5度目に生まれた双子のうち、最初の子にはアザエス、後に生まれた子にはディアプレペスと名付けました。

 ポセイドンは大陸をこの10人に配分し、長男アトラスを他の9人の上に君臨する大王にしました。さらに、ポセイドンはアトラスを称えて国をアトランティス、周辺の海をアトランティック(大西洋)と呼びました。
10人の息子の誕生以前に、ポセイドンは大陸と沿岸の海を同心円をなす陸地帯と水地帯に分割しました。それらの地帯はまるで旋盤にかけたように完璧でした。そして2本の陸地帯と3本の水地帯が中央の島を取り囲み、ポセイドンはその島を2つの泉、1つは温泉、1つは冷泉 によって灌漑するようにさせました。海岸から島の中央部にかけて平野があり、それは世界中のどの平野よりも美しく、たいへん地味の肥えた土地だったから、大地にありとあらゆる作物を豊富に実らせました。この島はポセイディア島と呼ばれました。
また、この島ではあらゆる硬・軟両質の地下資源が採掘されました。当時オレイカルコスという金につぐ非常に貴重な金属は、島内のいたるところで採掘が可能でした。本当に小石のように簡単に拾うことが出来たに違いありません。

 こうしてこれらの兄弟とその子孫達は、何代にもわたってこの島に住み、エジプトやチュレニアに及ぶ地中海世界の人々をも支配していました。
アトラスの一族には優れた人物が数多く出ました。常に最年長のものが王として君臨し、いつの場合にも最年長の子に王位を譲りながら、何代にもわたって王権を維持していました。
そして、アトラスの子孫たちはアトランティスの支配者として続き、賢明な統治と勤勉によって国を無比の高い位へ上げました。
しかし、何代もの長い歳月が過ぎると、神との掟を守ることを軽んずるようになってきたのです。

 若者の妹は、それは美しい娘でした。結婚を誓った恋人もおりました。母さまも娘も嫁ぐ日を夢見て指折り数えて待っていました。しかし春の宴に王に見初められ、泣く泣く王に召されることになりました。結婚を誓った恋人は、酒宴の席の王の面前の対抗試合で無惨に敗れて死にました。
なにもかもが悪夢のようでした。それで母さまは病気になってしまわれたのです。
ジーン・ウールが母親のベッドに近づくと、やつれた母さまが休んでおいででした。でも、もう死神が近くまで来ていました。
ジーン・ウールは若者に言いました。
「ポセイドンの杜の泉の水をグラスに満たし、この瓶の液を7滴、3日毎に飲ませて下さい。それを八週間続けて下さいね。」
それから、ジーン・ウールは宮殿の中庭に咲く花畑を温室に移しました。そして病気の母さまを花の香りでいっぱいの温室に移しました。花の香りは、心地よく母さまの胸に染み込んでいきました。
母さまの病気は心の病だったので、心の苦しみが和らげば、薄皮をはぐように病は消えていったのでした。
なによりも良いことは、死神がなぜかこの温室に入れないことでした。
ジーン・ウールは、死神の苦手なことをよく知っていたのです。

 八週間がたったある日、ジーン・ウールが若者の宮殿を訪ねました。
「ハンナさまのお加減はいかがですか」
若者のお母さまのお名前は「ハンナ」と申されました。
「はい、ジーン・ウールさまのお陰で日に日に元気になって参りました。ありがとうございます。お礼の申し上げようもありません。」ポファタンが深く頭を下げました。
若者は「ポファタン」と名乗られました。
姉のエクセルシアが、アラート王に望まれて王の后達に加わったとき、ハンナは我が子の嘆きを知りながら何も出来ない我が身を悲しく思いました。

 この世は、苦しみの海。この葦を手にしたかと見るや、また風が奪い去っていく。心の平安を取り戻したかと思えば、また別の苦しみが襲ってくる。まるで霧の中を手探りで歩いているような、そこはかとない寂しさが大きく心を占めていた。自分で運命を変えることなど出来はしない、いつも何かに従って生きて行くしかなかった。
そんなハンナの心に、香しい花の香りが届きました。ほんの少しだけ、ハンナの心が広がりました。
 懐かしい幼いときの思い出が心に浮かびました。父の背におぶわれて広い野原を歩いています。そばには優しい母が白い帽子をかぶって「ハンナちゃんにお花を摘んであげましょう」とスミレの花を摘んでくれました。優しい香りをかぎました。ふいと涙が流れました。涙が流れると、流れた分だけ心の中が暖かくなってきました。
周りを見回すと、息子のポファタンがいました。ポファタンは母さまが心配でそばに付き添っていてくれたのです。ハンナは自分の不幸を悲しんでばかりいて、ポファタンの心配を思いやる心の余裕がなかったことに気づきました。もうこなったら大丈夫。病は心の影ですから、ハンナの病はもう治ったも同然ですね。

 ある日、ジーン・ウールは地底人のサトと共に再び地底の国を訪ねることになりました。
この青い皮膚をした地底人は、一体どのような人々なのでしょうか。実はこの青色地底人には見霊能力がありました。この種族すべてに見霊能力がありました。人間は血統からいえば、人種、民族、家族の一員として、祖先から遺伝されたものを血のなかに保っています。
古代人は自分の内部に前代の意識をも持っていましたので、自分を親代々と同じ名前で呼びました。先祖から子孫にまで、家系を継ぐ者のすべてを貫いて生きている共通のものが、一つの名前で呼ばれました。これは神秘学にとってある重要な歴史的事実によっているのです。
 歴史を遡っていくと、地上のどの民族の場合にも、正確にそれと指摘することの出来る、ある決定的な時点が存在するのだそうです。それは、古い伝統が生命を失い、家系の血を通して生きてきた古い叡智が消え、民族が外の世界に目を向けるようになった時点です。
その時、「われわれ」と感じていたものが、「わたし」と感じられました。
 それ以前、部族達は閉鎖的に生きてきました。同じ血族同士で結婚することが当然でした。この慣習はどの人種、民族のなかにも見られました。人類にとって決定的な時点とは、この原則が破れ、同じ人種民族でなく同族婚が異族婚に移行した時点なのです。
同族婚は家系の血を保持し、代々、部族、民族のなかに流れてきた同じ血を、個々の成員のなかに伝えます。しかし異族婚による新しい血の混入は、種族のこれまでの生活原則を崩壊させました。
この異族婚による混血の始まりこそが、実は理性や知性の誕生を人類にもたらした時点なのだそうです。(『血はまったく特製なジュースだ』シュタイナーより)

 太古の時代に太陽系第10番目の惑星に住んでいた人々が、地球人を奴隷状態で支配していたとき、光の子の大聖者(マスター)達が彼らを捕らえ地球中心部に幽閉しました。青色地底人はその幽閉の看守者として生きていくために、純粋に血を保たねばなりませんでした。そのために青色人種のすべての人たちが地底で生きることになりました。だから、今も青色地底人の血には、祖先達の善への傾向や、生き方の結果が引き継がれ流れているのです。
民族伝統の権力は、血に作用することが出来なくなったとき、外からの血の混入によって、新しい血が祖先達の権力を受け継ぐことが出来なくなったとき、消えて行くしかなかったからです。
これは、最初の王族の子孫たちが先祖の賢明さや勤勉さを失っていった理由でもありました。
 王族の子孫たちの結婚は、神々に縁のある人々のなかから花嫁を選んで婚礼が行われねばならなかったのですが、こればかりは思うようにならなかったようです。そして大多数の王族は、神々の直系を外れてただの人間になっていきました。

 地底の国は、以前訪れたときと同じように金色の光で包まれていました。
ジーン・ウールは、小さな部屋に通されました。

ジーン・ウールが部屋の中にはいると、部屋の中に小さな暖炉がありました。オレンジ色の炎がチロチロと燃えています。部屋の中には薪の燃える良い香りが漂っていました。
暖炉のそばには、月桂樹の小枝が束ねられていました。良い香りの正体は、月桂樹でした。月桂樹の葉を燃やすと、それはそれは良い香りでいっぱいになりました。

「ジーン・ウール、蛇頭人がアラート王の側近になったんだよ。それ以来アラート王の治世がおかしくなりはじめた。」サトが言いました。
「そうではないかと思っていました。」ジーン・ウールが頷きました。
「エクセルシア后を、巫女の祭壇に捧げようとしている」
「なんですって。。エクセルシアさまはお后ではありませんか!」
「あの方は、食事もとらず亡くなった許婚に殉じて死ぬお覚悟なのです」
「それで巫女の祭壇なのですか?・・アラート王が?・・信じられません・・」
「アラート王は変わられました。もうすでにご自分を蛇頭人に奪われているかも知れない・・しかし、まだ間に合うかも知れない」
「ジーン・ウール、あなたにしか出来ない仕事です。アラート王の面前で側近の正体を暴いて下さい」
「私に出来ることなら何でもするわ。でも、一体どうしたらいいんでしょう。」
「蛇頭人の発音出来ない言葉があるのです」
「・・・・」
「その言葉は『キニニゲン』」
「キニニゲン?・・どうしてこの言葉が言えないの?」
「彼らは爬虫類なので表情筋が発達していないので、この言葉を発音する事が出来ないんだ。」
「するとどうなるの?」
「もう人間の姿でいることが出来なくなるんだ。この方法でしか正体を暴くことは出来ない。」
「わかった。」ジーン・ウールが頷きました。
これから、作戦会議です。そして、作戦は入念に立てられました。
失敗は許されません。

 遠い古代の遙かな昔、蛇人らがいました。この蛇人は太陽系第10番目惑星に住んでいた住人と人間との間に生まれた人たちだと言う伝説があります。それは誰も信じられないほど古い伝説です。
彼らは秘密に国の支配者を殺し、その支配者の姿になって彼らと彼らを呼んだ人間がその国の支配を引き継いでいきました。しかし彼らには発音出来ない語が一つだけあったのです。この語の秘密が聖師たちにより人間に教えられました。それ以後公職についている者はすべて各太陰月毎に人々の前でこの語を発音しなくてはならない規則となりました。そしてもし発音に失敗すると殺されたのです。こうして蛇人が人々の間から消えていきました。そして儀式そのものも人々の記憶から消えていったのです。これはエメラルド・タブレットに書かれていましたが、少し恐ろしすぎますね。

 ジーン・ウールと青色地底人が古代の霧の中で出会った時代は、どの辺りなのでしょうか。
私たちが通常知ることが出来る歴史的記録は、わずか2,3千年間を照らし出しているに過ぎません。しかし、時間の流れにさかのぼり、永遠というものの源に近づくと、私たちが知ることの出来ない文字で記されたアーカーシャの記録というものがあると言います。グノーシスや神智学では、アーカーシャ年代記とよんでいます。そのアーカーシャの記録を読むことの出来る人はわずか数人しかいないのだそうです。遠くは「ヨハネの黙示録」を書いたヨハネ、スウェデンボルグ、近くはルドルフ・シュタイナー、そしてそのアーカーシャの記録を管理している方がアガシャーと呼ばれた9次元界の存在でした。そのアガシャーの名前にちなんでアーカーシャの記録と言われているのです。
アトランティスという名前は、ポセイドンの双子の長男アトラスの名前にちなんだという説が有力ですが、「輝ける黄金のシャチ」という別の意味も持っています。

 アトランティス文明は、今から1万2千年前にエメラルド・タブレットを書いたトートという指導者を得て最盛期を迎えました。トートは後代にトート神ともトス神とも呼ばれました。
アトランティス人は出現順に7大亜族に分かれています。アトランティスの先の時代はレムリアと言いますが、このレムリア民族の一亜族がルモアハルス族といいます。このルモアハルス族を筆頭に、トラヴァトリ族、先トルテカ族、初期トゥラン族、原セム族、先アッカド族、先モンゴル族の七亜族です。
アトランティス時代の黄金期といえるのは、先トルテカ族の時代でした。当時の人類は超能力に恵まれていて、首都を「黄金の門の都」に定め賢者聖人が帝王の位につきました。この賢者聖人の先トルテカ族支配の黄金時代には、人口も20億を数えたそうです。

 第一亜族のルモアハルス人の言葉は、力を持っていました。ルモアハルス人がある言葉を発音すると、その言葉はそれが指し示す対象の持つ力に似た力を発揮しました。このため言葉は治癒力を持ち、植物の生育を早め、動物の凶暴性を静めました。日本のさるかに合戦で「早く芽を出せ、柿の種。出さんとはさみでちょんぎるぞ」と言えば、みるみる柿の木の芽が伸びてきたと言うようなものでしょう。

 第2亜族のトラヴァトリ族には、ルモアハルス族の知ることのなかった資質、自分個人の価値「名誉心」というものが芽生えるようになりました。そして力強い人間が社会集団を作っていきました。
やがて第3亜族の先トルテカ族が初めてアトランティスの統一大帝国を築きました。超能力と科学技術によって自然法則の解明が進んでいった一方で、アトランティス人の自然を制する力はやがて個人の利己主義の望むままにされてゆきました。そして自然の理法に従う「正法」派と、利己主義な「邪法」派の2つに分裂していったのです。その後、初期トゥラン族が出現し、原セム族、先アッカド族が出現しました。これらの時代に力を持っていたのは、邪法王朝でした。

 一方、正法の理想を守る王や聖職者も少数ながら絶えることはありませんでした。
今から1万4百年くらい前、アトランティスの首都ポンティスには代々王族が住んでおりました。
この王族の名前はアマンダ族といいました。このアマンダ族にアモンという王子が生まれました。




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