ギルガメシュとエンキドゥ

 シュタイナーの「世界史の秘密」には、アレキサンダー大王をさかのぼっていくと、ギルガメシュに至り、アリストテレスをさかのぼると、エンキドゥに至るという記述がある。アレキサンダー大王の前世はギルガメシュであり、アリストテレスの前世はエンキドゥということです。

 ウルクの町はアルル神に救いを乞い、アルル神は一人の英雄を救済者として大地から出現させます。神はエンキドゥを出現させました。エンキドゥは、ギルガメシュに比べると低次の人間に見えます。エンキドゥは毛だらけで、野蛮人のようだった、と神話は伝えています。けれども、まさにこの野生をとおしてエンキドゥには太古の霊視力、霊智、高次の認識が生きていた・・とシュタイナーは語ります。

 エンキドゥの若い魂と、ギルガメシュの古い魂は出合います。そして神話にウルクの守護女神イシュタルとして記されている力へとさかのぼっていきます。
この女神が隣の町に盗まれ、ギルガメシュとエンキドゥは隣の町の王と戦って勝ち、イシュタルを取り戻します。イシュタル掠奪の背後には、トロヤの王子パリスによるスパルタの王女ヘレネの掠奪の背後にあるものと類似したものが隠されているそうです。

 ギルガメシュの魂は、いわばエンキドゥの霊視力に感染したことによって、自分の前世を見ることが出来るようになりました。彼は神話のなかで町の守護女神として象徴されているものの本質を体験できました。けれども、ギルガメシュが見た自分の前世の多くは、彼の気に入らないものでした。神話には、嫉妬深いギルガメシュが女神の交友関係を非難した、と記されています。ギルガメシュは自分の魂の地平を見たのです・・ギルガメシュがイシュタルに投げかけた非難は、彼の魂の奥底で生じたことを物語るものです・・たとえば、イシュタルとイシュランという男との交友関係を非難するのは、前世において自分の主人の庭師だった男との交際が気に入らないものであったことを意味しているそうですよ。

 
  

ウルクは堅固な城壁に囲まれた、古代メソポタミア最古の町です。
この町の女たちが、偉大なアルルに叫びました。

「アルルよ。あなたは多くの人間を造られた。さあ、造りたまえ、力強きものを。ギルガメシュの荒ぶる心に立ち向かえるように。彼らが互いに闘い、ウルクが安息を得るように」

ギルガメシュの3分の2は神、3分の1は人間。
その姿は完璧。彼は頭を高く掲げ、野牛のように自分の勢力を誇示する。武器を取れば、彼に並ぶものはいない。彼がプックを打ち鳴らすと、ウルクの若者は立ち上がる。昼も夜もギルガメシュは眠らない。ウルクの若者は、昼も夜も荒ぶる彼に従わざるを得ない。ギルガメシュこそ彼らの牧者。
また、ギルガメシュは乙女を恋人のもとに行かせない。たとえ勇士の娘でも、たとえ若者の花嫁で、その夜が婚礼の初夜の晩であってもだ。

ウルクの女たちの訴えを神々はしばしば聞いた。そこでアヌはアルルに命じた。
アルルはアヌが命じたところを、心に描きました。そして自分の手を洗い、粘土をつまんで荒野に投げ、荒野で英雄エンキドゥを造りました。

その全身は毛に覆われ、女のような毛髪で装われ、その毛髪は麦のようにふさふさと伸びていました。彼は裸で、カモシカたちと一緒に草を食べ、動物たちと一緒に水場に押し寄せ、野獣たちと一緒に水で心を和ませていました。そこに狩人がやってきたのですが、狩人は仕事が出来ません。
狩人は父親に水場で出会った男の事を語ります。その男が、どんなに力に満ちているか。彼は狩人が掘った穴を埋め、狩人が広げた網を破り、荒野の生き物、動物を狩人の手から逃れさせ、荒野の仕事をさせてくれないと。
父親は語ります。「ウルクにはギルガメシュが住んでいる、かの男の暴挙を彼に告げよ。また娼婦シャムハトを連れて行き、荒野の男が水場で動物たちに水を飲ませるとき、彼女にその服を脱がせよ。彼は女に近づくだろう。かの未開の男に女の業を行え」

シャムハトはためらわず、彼の息を捕らえました。6日と7晩たち、男がその顔を彼の獣たちに向けると、カモシカたちは逃げまどい、荒野の動物たちは彼から遠ざかりました。
彼はシャムハトの顔をまじまじと眺めました。シャムハトは彼、エンキドゥに語ります。
「エンキドゥよ、いまやあなたは賢く神のようになった。なぜ、動物たちと一緒になって荒野をさまようのです。さあ、囲いの町ウルクにあなたをお連れしましょう。清い神殿、アヌとイシュタルの住まいへと。そこには勢い全きギルガメシュがおり、野牛のように人々に権力をふるっています」

エンキドゥは言う。
「さあ、シャムハト、私を招待しておくれ。清く聖なる神殿、アヌとイシュタルの住まいに。勢い全きギルガメシュがおり、野牛のように人々に権力をふるっている場所に。ウルクで私は誇ろう。私こそ最強の者と。私は町に入って行き、その運命を変えてしまおう。荒野で生まれた者には、力と勢いがある」

「エンキドゥよ。人生を未だ知らない方よ。あなたに喜びと嘆きの人、ギルガメシュを紹介いたしましょう。彼を見、その顔を眺めなさい。彼は男らしく、活力があります。その全身は豊かな魅力に装われ、あなた以上の力と勢いがあり、彼は夜も昼も眠ることがないのです。エンキドゥよあなたの不作法をお棄てなさい。ギルガメシュは太陽神シャマシュに愛され、アヌ、エンリル、そしてエマが大いに彼を賢くされました。あなたが山からやってくる前に、ギルガメシュはウルクであなたの夢を見るでしょう」

ギルガメシュは、夢を見ました。その夢を解くために彼の母に語りました。
「母よ。わが夜に一つの夢を見ました。天の星が現れてきました。するとアヌの結び目のようなものが、わが上に落ちてきたのです。それを持ち上げようとしても、わたしには強すぎました。それを移そうとしても、持ち上げられませんでした。ウルクの国人がその前に立っていました。ウルクの国人がその前に集まってきました。人々は彼と会いまみえ、乳飲み子に接するように彼の足に接吻していました。女のようにわたしはそれを抱き、それに愛を注ぎました。わたしはそれをあなたの足下に置きました。あなたはそれをわたしの対抗者とされたのです」

「友を助ける勇敢な仲間があなたのところにやって来るのです。彼は山で最強の力と勢いを持つ存在です。アヌの結び目のように、彼の力は強いのです。女に対するように、あなたはそれを抱き、それに愛を注ぎましょう。彼はつねにあなたを援けるでしょう」ギルガメシュの母は語りました。

「ならば、偉大な助言者エンリルの命により、彼が落ちてくるように。助言をしてくれる一人の友人を、わたしは得たいもの。」こうして彼の夢は解かれました。

シャムハトは、ギルガメシュの夢を聞いて、エンキドゥにそれを告げました。

さて、ウルクの町で、国人がエンキドゥの回りに集まりました。そして乳飲み子にするように彼の足に接吻をしました。美しい男ギルガメシュが、今宵の婚礼のしとねに到着する前に、エンキドゥは花嫁の舅の家の前で待った。エンキドゥは彼に足止めを食らわし、ギルガメシュを入らせなかった。彼らは舅の家の門で掴みあいました。彼らは通りで、国の広場で格闘しました。敷居が震え、壁が揺れました。勇者と勇者は闘い疲れ、やがて互いに手を取り合いました。そして彼らは抱き合いました。まるで恋人同士のように。
勇者は勇者を認めた。ギルガメシュとエンキドゥは、誇れる友を得た。二人はどんなに嬉しかったことだろう。


ある時、ギルガメシュが太陽神シャマシュの嫌う<全悪>を滅ぼすと宣言します。

フンババ。
香柏の森を守るために、エンリルはフンババを人々の恐れの的と定めました。
フンババ、その声は洪水、その口は火、その息は死。彼はどんな遠くからでも森に入る物音を聞きつける。誰が森に入って行けようか。その森に入ることの出来るものは、アダトがその一人、フンババがもう一人、それだけだ。イギギの神々のなかでさえ、誰がフンババに対抗できるだろう。香柏の森を保全するために、エンリルがフンババを人々の恐れと定めたのだ。
荒野を知るエンキドゥが、ウルクの長老たちに求めました。
「ウルクの男たちの知者たちよ。ギルガメシュに言え。彼は香柏の森に行ってはならない。かの道を行くことは出来ない。人間はフンババを見ることが出来ないと」

しかし、ギルガメシュは長老たちを説得しました。そしてエンキドゥの反対の甲斐もなく、二人は「香柏の森」に遠征することになりました。
2002/8/15

 香柏の森。レバノンの「香り高き杉の山」と呼ばれたもの。
その昔、かのソロモン王がモリヤ山に神殿を建てたとき、使われた木材はレバノンの「香り高き杉の山」から切り出されたものだった。ソロモン治世第4年の2月に神殿の建設が始まった。「宮の大きさは、長さ60キュピト、幅20キュピト、高さ30キュピト」その宮の内装は「宮の床から天井の垂木まで香柏の板で張った。また、糸杉の板をもって宮の床を張った」(列王記より)。ソロモンは13年かけて自分の家を建て、香柏で「レバノンの森の家」や「審判をするための玉座の広間」を作った。

あなたはその大いなること、だれに似ているか。
見よわたしはあなたを
レバノンの香柏のようにする。
麗しき枝と森の陰があり、たけが高く
その頂きは雲の中にある。
水はこれを育て
大水がこれを高くする
その枝葉に空のすべての鳥が巣をつくり
その枝の下に野のすべての獣は子を生み
その陰にもろもろの国民は住む。
神の国の香柏もこれと競うことは出来ない
もみの木もその枝葉に及ばない・・  
(エゼキエル書)

香柏の森、それは銀色に輝いていたが、いまやレバノン山脈にはあとかたもない。神聖な森は神聖であるがゆえに、宮殿や神殿や権力のある人間の棺やミイラ作りの油をとるために伐採され、長い時間の中でレバノンの香柏の森は消えていった。

ギルガメシュが、香柏の森の番人「フンババ」の首を切り落としてからのことだが、そこで一体どんなことが起こったのだろう。
2002/11/22

粘土板第三の書簡

ギルガメシュとエンキドゥは「香柏の森」に遠征することになった。
「ギルガメシュよ。自分の力を過信なさるいますな。前を行くものが仲間を救います。荒野の住人エンキドゥは、香柏の森に通じる道を知っています。エンキドゥがあなたの前を行くように。彼は戦いを見通し、戦闘の仕方を示してくれるでしょう。エンキドゥが友を援け、花嫁達の元に連れ戻すように。われらは集会で、王としてあなたを信頼しました。あなたは戻って、王としてわれらをも信頼して欲しい」長老達がギルガメシュを祝福しました。

ギルガメシュはエンキドゥに言います。
「さあ、友よ。エ・ガル・マハ神殿に行こう。偉大な女王ニンスンの前に。すべてに通暁するニンスンは、我らに最良の道を備えて下さるだろう」

エ・ガル・マハ神殿の偉大な女王ニンスンの前に立って、ギルガメシュは請います。
「わたしが行って戻る日まで、香柏の森に到達するまで、恐るべきフンババを撃ち殺すまで、そしてシャマシュが嫌う全悪を国から滅ぼすまで、わがためにシャマシュに願ってください。わたしがフンババを撃ち倒し、彼の香柏を伐り倒せるように。そして、国全体に平和があるように。勝利のしるしをあなたの前に得られますように。」

ニンスンは、彼女の息子ギルガメシュの言葉を不安な面もちで聞いた。彼女はトゥラル草(シャボン草)で身をきよめ、衣服をまとい、胸に飾りをつけ、腰帯を締め王冠をかぶり、浄めの水をまき屋上に上って、太陽神シャマシュの前に薫香を供えました。

ニンスンはシャマシュに語ります。
「なぜあなたは我が子ギルガメシュに不安な言葉を植え付けるのです。いまやあなたは彼の心を動かし、彼は行こうとしているのです。フンババの住む遠き道に。彼は未知の戦闘に向かおうとしています。彼が行って戻る日まで、香柏の森に到達するまで、恐るべきフンババを撃ち殺すまで、そしてあなたが嫌う全悪を国から滅ぼすまで、あなたがギルガメシュと共におられる日々、花嫁アヤがあなたを恐れず、あなたを思い起こすように、彼を夜の守りに託して下さい。」
それからシュメールの粘土板は欠損がつづく・・アヌンナキ・・道・・触れよ・・街道・・そして・・ギルガメシュが・・するまで・・であるように・・天・・。

彼女ニンスンは薫香を消した。そして、エンキドゥを呼び決定を知らせた。
「強きエンキドゥ、あなたはわが胎から出た者ではないが、いまやわたしはあなたのことを話し合った。ギルガメシュのための請願者たち、ウグバブトゥ祭司たち、カディシュトゥ祭司たち、クルマシートゥ祭司たちと」彼女はエンキドゥの首に護符をかけてやった。
そして・・欠損・・。

20ベール(1ベールは約10km)行って、彼らはパンを割いた。30ベール行って夕べの休息をとった。まる1日で彼らは50ベールを進んだ。1ヶ月と15日の道のりもわずか3日で、彼らはレバノン山に近づいた。

彼らは太陽神シャマシュの前で井戸を掘り、身体を浄めた。それから山に登りシャマシュに焼き粉を献げた。ギルガメシュは祈った。
「山よ。私に夢を、良き言葉をもたらせたまえ」夜も昼も眠ることのないギルガメシュが言葉を唱えると、みるまに嵐がおこり風が吹き荒れた。山でエンキドゥはギルガメシュのために夢見の床をしつらえる。やがて嵐は過ぎゆき、エンキドゥは輪のなかに彼を横たわらせた。ギルガメシュは太股の中に顎をうずめた。ふたたび人間の休息である眠りが彼の上に落ちた。が、途中でギルガメシュは眠りを終わらせた。ギルガメシュは立ち上がってエンキドゥに語ります。

「友よ、私を呼ばなかったか。なぜ、わたしは目覚めてしまったのだ。わたしに触れなかったか。なぜ、わたしは当惑しているのだ。一人の神が通り過ぎなかったか。なぜ、わたしの筋肉は萎えているのだ。友よ、わたしは三度目の夢を見た。わたしが見た夢は全くもって混乱していた。天が叫び、地が吠え猛っていた。昼は静寂になり、暗闇が出現した。稲妻が光り、火が燃え上がった。火焔はますます高く上がり、死が雨と降り注いだ。火焔は消え失せ火は消えた。山の奥深いところで、山がわが上に落ちてきたのだ。荒野で生まれた人よ。われらはよく考えよう」
そして、ギルガメシュはまた4度目の夢を語り、なおギルガメシュの怖れは止まない。

エンキドゥがその友に向かって言う。
「友よ、あなたの夢は素晴らしい。その夢は貴重だ。あなたが夢で見た山は、フンババのことだ。われらはフンババを捕らえ殺害し、その屍を深淵へ投げ込もう。朝にはシャマシュの良き言葉があるだろう」

朝になりギルガメシュは山の上に登り、シャマシュに焼き粉を献げて涙して祈った。

ギルガメシュがエンキドゥに言います。
「もしわたしが森に下って行ったなら、わたしは入り口を開けようとして、わが腕は萎えるだろう」
「なぜ、友よ、我らは不安にかられて行かねばならないのか。すべての山々をわれらは越え行こう。友よ、戦いを熟知する者よ、百戦錬磨の強者よ、何度も薬草を塗ったからには、あなたは死をも恐れなくて良いのだ。リリッス太鼓のように、あなたの声を高めよ。あなたの腕の萎えを去らせ、膝の衰弱を立て直すように。友よ、さあ、出立し、われらは一つになって出かけよう。戦いがあなたの心を燃やすように。死をものともせず、生を生きよ」エンキドゥがギルガメシュを励まします。

脇を見張り、注意深い者こそ、前を進み友の身を守り、彼を安らがせる人。 彼らは遠く後代まで名をあげるのだ、と粘土板は語る。

こうして、2人は長い旅の後に香柏の森に到着した。彼らは立ちつくし森を見つめた。
フンババが行き来する場所には、歩みの跡がつけられ、道が整えられ、小道は素晴らしかった。彼らは香柏の山、神々の住まい、イシュタルの聖所に見入った。山の前面には香柏の緑が映えていた。その木陰は心地よく、歓喜に満ちていた。下草は繁茂し、森を覆っていた。香柏は天に届くほど高く、その枝は1ベール(10km)も広げていた。

ギルガメシュは山の上に登り、シャマシュに焼き粉を献げて祈り決断した。そして斧を手に掴み香柏を伐採した。香柏は大きく唸りをあげて大地に倒れ、その騒音が天にまで届いた。
「誰がやってきたのだ。誰が山々の中で大きく育ったわしの香柏を伐採したのか!」フンババが一度叫ぶと、恐怖が満ちた。森の守護者はなおも叫ぶ。

2002/11/23

シュメールの粘土板を読むと、神々のランクというものが存在するらしい。神々と人類の系譜を描いたシュメールの「王名表」と名付けられた粘土板文書によれば、12名のアヌンナキによって構成される評議会が、最高の意思決定機関だ。
その12名の最高評議会は、誰かが昇格すれば誰かが降格される。シュメールの神々は角のついた帽子をかぶった姿で描かれているが、帽子の角が神々のランクを数値で示している。左右一対の角は「10」を示していて、数値が大きいほどランクも高くなる。

古代シュメールにおいては、神々のランクについての知識は秘中の秘とされていた。ニネヴァで発見されたKー170号粘土板文書には「神々の秘数を衆生に知らせてはならない」と記されているのだという。

ギルガメシュの時代、最高ランクはニビル王アヌの「60」、アヌと異母妹アントゥムの間に生まれた後継者エンリルは「50」、アヌとその側室イドとの間に生まれた長子エンキは「40」、エンリルの息子ナンナルは「30」、エンリルの孫のウトゥは「20」だ。ウトゥはギルガメシュに出てくる太陽神シャマシュと同一神のようだ。
(この後、シャマシュはギルガメシュやエンキドゥと一緒にフンババを倒すのです。だから、神々の秘数を知っていたりすると、物語が面白くなると言うわけです)
エンリルの傍流の息子アダドは「10」で、既婚女性のアヌンナキは夫のランクから「5」を減じた数が妻のランクだ。アヌの妻アントゥムは「55」、エンリルの妻ニンリルは「45」、エンキの妻ニンキは「35」、ナンナルの妻ニンガルは「25」だ。ニビル王アヌの未婚の娘ニンハルサグは「5」で、エンリルの孫娘イナンナ別名イシュタルは「15」だ。理由は分からないけど、本来はニンハルサグが「15」でイシュタルが「5」らしかったが、何らかの理由でニンハルサグが「5」に降格し、イシュタルが「15」 に昇格したらしい。これがアヌンナキ最高評議会 の神々だ。だけど、ウトゥ(太陽神、アッカド語で(シャマシュ)が、本当にエンリルの孫であったかどうかは神のみぞ知る。アヌンナキは天から地に降り来たったものという意味だ。この物語では、このイシュタル神が、この後ギルガメシュにも出てくる神で、イシュタルはアルルの王子の母親エレシュキガルの妹だ。エレシュキガルは、黄泉の国アルルを支配 している。
2002/11/25

フンババは激昂し叫ぶ。「わしの香柏を切り倒す者たちよ! お前たちを天上まで持ち上げてしまうぞ! それから冥界へたたき落としてくれる!」
フンババはギルガメシュとエンキドゥをその目に捉えました。

「ギルガメシュよ、愚か者と無骨者とで相談してみよ。お前は子わっぱだから、わしはお前を相手にしない。わしがお前を殺したところで、何の足しになると言うのだ」
「エンキドゥよ、なぜお前はギルガメシュをわしの前まで連れてきたのだ。粘土から生まれたお前は、わしと同類ではないか、お前はよそ者である敵と共に立つのか」
「ギルガメシュよ、わしはお前の喉笛とうなじを噛み砕こうぞ! お前たちの肉をアンズーに喰わせるぞ!」

フンババの顔がみるみる怖ろしいものに変わっていきました。その顔は、悪意そのもの。世の中のすべての厭わしいものも、この顔には及ばない。カッと見開いたフンババのまっ暗な目から、まっ暗な口から、ゆっくりと暗闇が流れ出た。その暗闇は、千里眼の目であっても見通せない暗闇だ。暗闇の中からは、その暗闇を見つめる者が心に描く恐怖が形をなして現れた。ギルガメシュが心に描いた最大の恐怖が、彼に襲いかかった。

エンキドゥが忠告したように、イマジネーション豊かな人間は、誰もフンババを見ることが出来ないのです。イギギの神々でさえ、天候神アダドでさえ、火神ギラでさえ、戦神シャラでさえ尻込みしてしまうのだ。
ギルガメシュは天を見上げ天の太陽神シャマシュに叫んだ。ギルガメシュの目から涙が運河のように流れ出た。
シャマシュは、ウルクのはえぬきの言葉を聞いた。ただちに天から警告がギルガメシュに響いた。

「急いで彼に立ち向かえ。彼が森に入らぬようにせよ。彼が森に下って行かぬようにせよ。隠れぬようにせよ。彼はまだ7枚の鎧着を身につけてはいない。1枚だけ身につけ。6枚は脱いでいるのだ」

天の太陽神は、ギルガメシュの祈願を聞き届けた。シャマシュが大きな風を吹き上げた。南風、北風、東風、西風、唸々風、寒風、旋風、悪風。八風がフンババに対して吹き上がった。風は目を繰り返し打つ。フンババは進むことも退くことも出来ない。一瞬闇が晴れた。その瞬間、ギルガメシュは鍛え上げた大斧を振り上げ、フンババの頭を撃った。彼らの足の踵で大地は裂け、彼らが跳びまわると、シララとレバノンは裂けた。白雲は黒くなり、死が霧のように彼らの上に降り注いだ。フンババは6枚の鎧着を身につけていないため、暗闇の中に身を隠すことが出来なかった。
血を流しつつ、フンババは戦うことを止めた。そしてギルガメシュに言った。

「わしを離してくれ、ギルガメシュよ! お前がわしの主人になれ! わしはお前の僕になろう。そして、わしが山で大きく育てた頑丈なプルプリをお前のために伐採しよう。お前が諸宮殿を建てられるようにだ」
ギルガメシュはエンキドゥを振り返る。エンキドウはギルガメシュに言った。
「フンババの言う言葉を聞いてはいけない。その嘆願に耳を貸すな」

フンババは口を開いて、エンキドゥに言う。
「お前はわしの森の定め、住まいの定めを知っている。そのすべての決まりを知っている。わしはお前を持ち上げ、森の分かれ道でお前を撃ち殺し、お前の肉をアンズーに喰わせたかった。さあ、エンキドゥよ、お前のそばにお前の愛するものがいる。そのギルガメシュに言って、わしの命を救ってくれ」

エンキドゥが首を振る。
「ギルガメシュよ、フンババを生かしておくな! 彼は香柏の守り手だ。彼を粉々にして抹殺しろ。神々の第一人者エンリルがそれを聞く前に。偉大な神々は我らに対する憤激に満ちるだろう。ニップルにエンリルが、シッパルにシャマシュがいる。全悪を滅ぼすのだ。ギルガメシュがいかにフンババを倒したか、永続する偉大な記念碑を建てよ」

フンババは、なおも言う。
「わしは50の神の命によりこの森を守っているのだ。お前たちはわしを殺してはならない。わしを殺すとお前たちは永遠の命を失うからだ。エンキドゥよ、お前はその友ギルガメシュよりも高齢を得てはならないのだ」

迷うギルガメシュをエンキドゥは説得し、その首を刎ねる。ふたたび生き返らぬように内臓を肺まで取り除く。フンババの首は、なおも跳ね飛び出す。エンキドゥはフンババの頭を掴み金桶に押し込めた。

それから、彼らは高く聳える香柏を伐り倒した。そして、その香柏で筏を組み、ニップルに向けて流した。エンキドゥが棹をさし、ギルガメシュがフンババの頭を運んだ。
                                             (粘土板は、月本昭男訳)
    
太古の時代、姿を持たず強いネガティブの極性を持つエーテルの怪物がいました。この怪物は長さが500kmもあり、神々でさえ怪物の持つ深いネガティブに捕らえられ暗黒に堕落してしまうことさえありました。しかし、光の大聖者たちが彼らを捕らえ地球中心部に幽閉した時、地底では青色地底人が幽閉の看守者となりました。そして地上においては、清冽な神々の森が必要だったに違いありません。
シャマシュの嫌った全悪とは、香柏の森に隠されていた扉に秘密があるようだ。ギルガメシュは香柏を伐採し、エンキドゥは木株を探した。荒野で生まれた野人エンキドゥは、香柏の森の定め、すべての決まりを知っているからだ。香柏の森の木株のどこかに深淵に下る道があった。

この怪物は、何度か地上に現れることを許され、何らかの理由で地上にネガティブをまき散らす。その結果疫病が流行り、戦争が起こり、地上の人口は常に一定のラインを超えることはなかった。神の創られた世界は、優しい天使ばかりの世界ではないようだ。黒いマントをかぶり罪を裁く、荒ぶる天使もいる。粘土板には、エンリルが洪水をおこし疫病を流行らせ、太陽神シャマシュが人類を救う手だてを考えたとある。エンリルは、宇宙船に乗って地球に飛来し、現在のペルシャ湾に着水した。そして現在のイラクの海岸に上陸し、そこにエリドゥと言う名の都市を築いた。イスラムの神アラーは、このエンリルなのです。

神々の世界で、エンリルと太陽神シャマシュ(ウトゥ)の長い対立の歴史が、ここから始まったように見える。シャマシュは、前2千年紀の後もパンテオンで最高神であったことはなかったが、「正義の神シャマシュ」「生命を守る神シャマシュ」「ト占の神シャマシュ」として広く長く、多くの人々に崇拝された。

香柏の森は、イシュタルの聖所だという。
それはイシュタルが、誰も戻ることの出来ない場所から戻ってきたからだ。その場所は、アルル。アルルの女王エレシュキガルの支配する冥界から、イシュタルは戻ってきたのだ。



 


宇宙