プロローグ


 遠い昔、あなたが知っている時代より、もっと古い時代のお話です。
ジーン・ウールという光の娘がいました。
彼女は好奇心という誘惑に負けて、禁止されていたマントラムを使い、宇宙の上位サイクルまで来てしまったのです。
やがて障壁を守る番人の犬たちが、宇宙の彼方から恐ろしいうなり声をあげてジーン・ウールを追いかけてきました。障壁に臨む魂は、時間の彼方の犬によって虜とされ、この宇宙サイクルの完了するまでとどめられるのです。そして、ジーン・ウールは六次元のある場所に閉じこめられていました。
誰もいないひとりぼっちは、どんなに寂しいことでしょう。ジーン・ウールは、毎日毎日夢を見ました。それが夢か幻か分からなくなってきました。

 私たちは、右に行くべきか左に行くべきか悩み、どちらかを選択せざるを得ない状況に立たされることがあります。そして、どちらかを選択しなければ次の展開がはじまらない、ということに気がつきます。
まるで、そこには目に見えない不思議な扉があって、そこまでたどり着く努力をしたものにだけ、新しい風景を見せてくれるかのようです。


 風が吹き始めた。風は冷たく鋭かった。白いものが舞い降りてきた。その白いものは、綿のように軽く静かに降り積もり、緑の大地を覆い始めた。それは、春からいきなり冬に入っていったようなもの。ジーン・ウールが大地の割れ目から地の底に降りていったのは、ごく自然な成り行きだった。

大地の割れ目から降りたそこは、冷たい風からジーン・ウールを守った。空気はひんやりしていたが、寒いと言うほどでもなかった。地の底は、以前ここに来たことがあるとしか思えないほど、懐かしかった。ジーン・ウールには、何も考えないでも行く道筋が見えていたに違いない。ジーン・ウールは、地の底に通じる道を探るため壁を調べ始めた。そして、まるで当たり前のように入り口を見いだした。暗い壁からぽっかりと開いたその入り口から入ると、その先はまるで通路のように奥にと続いていた。

 気がつくと洞窟と思われたところは広い空間で、柔らかな淡い光に満たされていました。
洞窟の奥に進むと美しい回廊に出ました。その回廊の、最初の扉はラピスラズリで出来ていました。なぜか心惹かれる扉だったのです。扉を開けると、そこには見たことのない風景が広がっていました。

チグリスとユーフラテスの二つの河の間に城壁で囲まれた町がありました。住居の屋根は粘土で固められ、町の真ん中に高い塔が建っていました。そして塔の周りの木立は、新緑に輝いていました。