葉

プラトンのアトランティス

プラトンのアトランティス文明に関する記述の要約
(ピエール・テルミエ・1912年海洋学研究所で
アトランティスの仮説の講演にて)
 

 プラトンが、「クリティアス」で語ったアトランティス文明に関する記述は、次のように要約できよう。最初の数時代に神々はお互いに大地を分割し、おのおのの地位に従って配分した。各神は自分の取り分の固有の神になり、そこに自分を祀る神殿を建て、神官職を制定し、犠牲制度を設けた。ポセイドンへは海とアトランティス大陸が与えられた。
島の中央には土より生まれた三人の原始人  エウェノル、彼の妻レウキッパ、その一人娘クレイト  の住居たる山があった。乙女は大変美しく、両親の急死後にポセイドンに求愛され、男子が二人づつ五度生まれた。ポセイドンは大陸をこの十人に配分し、長男アトラスを他の九人の上に君臨する大王にした。さらに、ポセイドンはアトラスを称えて国をアトランティス、周辺の海をアトランティック(大西洋)と呼んだ。
十人の息子の誕生以前に、ポセイドンは大陸と沿岸の海を同心円をなす陸地帯と水地帯に分割し、それらの地帯はまるで旋盤にかけたように完璧だった。二本の陸地帯と三本の水地帯が中央の島を取り囲み、ポセイドンはその島を二つの泉  一つは温泉、一つは冷泉によって灌漑するようにさせた。

 アトラスの子孫たちはアトランティスの支配者として続き、賢明な統治と勤勉によって国を無比の高い位へ上げた。アトランティスの自然資源は一見すると無限に思われた。
貴金属類は採掘され、野生の動物たちは飼育され、香水は芳香を発する花々から抽出された。亜熱帯の土地特有の豊かな自然を享受する一方で、アトランティス人は、また、宮殿、神殿、埠頭の建設にも従事した。彼らは海水地帯に橋を架け、その後、外洋と中央の島を連絡するために深い運河を掘ったが、その島にはポセイドンの宮殿と神殿がたち、壮麗なことで他のあらゆる建築物をしのいだ。王国の各地を統一するために網の目のように橋と運河がアトランティス人により作られた。

 それから、プラトンは、彼らが大陸の地下から切り出し、公共の建物の埠頭の建設に用いた白と黒と赤の石材のことを記述している。彼らは各陸地帯の周囲を壁で囲み、外壁は真鍮、中壁は錫、城を取り巻く内壁は亜鉛の多い黄銅オリカルクがかぶせられた。中央の島の城郭のなかには、宮殿、神殿、その他公共の建物があった。金の壁で囲まれた中心部にはクレイトとポセイドンを祀る聖域があった。ここで島の最初の十人の王子が生まれ、ここへ毎年彼らの子孫が供物を持ってきた。また、ポセイドン自身の神殿も外面に銀をかぶせ、小尖塔には金をかぶせ、城郭の内部に立っていた。神殿内は柱や床に至るまで象牙、金、銀、オリカルクで造られていた。神殿には六頭の翼のある馬の引く戦車に立っているポセイドンの巨像があり、彼の周囲には百人の海の精 ネレイスたちがイルカに乗っていた。建物の外側には最初の十人の国王夫妻の黄金像が配列されて、小さな森と庭園には温泉と冷泉があった。さまざまな神々を祀る多数の神殿、人間と野獣の運動場、公衆浴場、競馬用の大競争路があった。陸地帯 各地の戦略上有利な地点には要塞があり、大きな港へ全海運国の船がやってきた。同地帯は非常に人口密度が高く、人声がいつも絶えなかった。

 アトランティスのうち海に面する地域は高くそびえ、危険だと記述されたが、中央の都の周囲にはその大きさと数とで有名な山々に守られる平原があった。その平原は一年二毛作で、冬は雨により、夏は無数の灌漑用運河によりうるおい、運河は、また、輸送用にも使われた。平原は地区に分割され、戦時は各地区が割り当て数の戦士と戦車を補給した。

 戦時の要件に関する詳細については十国の政体にそれぞれ差があった。アトランティスの各王は自分の王国を完全に統治できたが、しかし、彼らの相互関係はポセイドンの神殿に立つオリカルクの円柱に最初の十王が刻み込んだ法典により左右された。五年 、次は六年と交互に間を置いて、次の数年間も等しく栄光を授けられるようにと、この神殿へ巡礼がなされた。ここで適当な犠牲でもって各王は神聖な銘文に対し忠誠をあらためて誓った。また、ここで王たちは青衣を身に着け、審理した。夜明けに彼らは金の平板に判決文を書き記し、礼服ともどもかたみとして納めた。アトランティス王の王たる法律とは、お互いに相手に対し武器を手にとってはならないこと、そして、攻撃を受けたいかなる王のもとへも援助に行かねばならないことだった。戦争や重大問題の最終決定はアトラス家直系の子孫たちにまかせられた王はひとりとして十人のうちの過半数の同意がないと、身内の生死を決める力を持ち合わせなかった。

 ギリシアの国々を攻撃したのはこの大帝国だった、と断言してプラトンは記述を結んでいる。しかしながらこのようなことが起こったのは、アトランティスの王たちが権力と栄光に誘惑され、智恵と美徳の細道をはずれてしまったあとのことだったのである。
不正な野心にみちて、アトランティスの支配者たちは全世界を征服する決断を下した。
ゼウスはアトランティス人の邪心を見て取り、神聖な宮居へ神々を召集して話しかけた。
ここでプラトンの記述は急に終わりとなっているが、それは「クリティアス」が未完だったからである。「ティマエオス」にはアトランティスの記述がさらにあり、あるエジプトの神官がソロンに述べたものと仮定されているが、それは次のように結論されている。

 「しかし、その後、猛烈な地震と洪水が発生し、たった一昼夜の雨で勇武の人たちが皆一体となって地下に沈んでいき、アトランティス島も同じようにして消え、海面下に沈没しました。そして、そのようなわけで、あの地方の海は通過できず、入り込むこともできないが、それは実に多量の浅い泥が邪魔なためです。これは島の沈下に起因したのです。」

とりあえずはここまで。

1999/9/26






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