『ある午後のこと』


 前々から不思議には思っていたのだけれど…ふいに聞いてしまった。

「なあ、コンラッド… ヴォルフって今まで…いや、おれの他に誰か付き合ってたやついるの?」
 いつもなら、絶対に口にしないような問いかけに、ヴォルフラムの兄であり、おれの名付け親でもある彼は
不思議そうな顔をして、それから穏やかに答えた。

「はい、いますよ」
「…ふ〜ん、男?女?」
 さりげなく…を装ってみるものの、少し声が上ずっている。
「女性が三人…ですかね、あいつも交際してたって認めそうなのは…」
「ふ〜ん…、以外に少ないんだな〜」
なんとなくほっとして、書き掛けのサインにペンを走らせる。
魔王の仕事、いまだにサインが主流。 おれ芸能人になれそうです。

「急にどうしたんですか? 陛下」
らしくないおれの質問に、身内への過保護っぷりは定評のコンラッドが聞いてきた。
こいつに恋愛がらみのことで隠し事したって、どうせすぐばれてしまうので、素直に答えることにしてる。
「…いや、ずっと気になってたから…その…。 あれだけの容姿でよく今まで無事だったな〜…と……」
「…無事……?」
あ、左の眉がひくひくしてますよ、お兄ちゃん。 
「いやその…、あの責任は取りますんで…! ってゆーか、おれもびっくりしたんだけど…」
もごもご……
 だって、そうだよな。あの母譲りの容姿で、王子様で。しかも、この国の…

「あいつは、似すぎてるんですよ」
「え…」
まるでおれの疑問を読み取ったかのように、コンラッドがつぶやいた。
「そうそう口に出して言うものもいませんけれどね。眞王陛下にそっくりでしょう?」
ああ、あんたと、おれぐらいだよな〜…と思いつつ、頷く。

「…やっぱ、それってまずいんだ?」
「……」
ため息ひとつついて、わずかに頷く。
なんとなくそうなのかな〜…とは思ってたけど。やっぱり。
「ヴォルフラムは、あのとうりの容姿ですからね。 幼少の

頃から縁談は数え切れないくらいあります。でも…」
「…でも?」
 コンラッドは、サイド机のイスから立ち上がって、風が強く吹き込んでくる窓を少し閉めながら続ける。
「あいつの容姿は、時に武器となりますからね」
「……武器って、え? ツェリ様みたいな…じゃないよな」
「それもあるかもしれませんが、違います。外交政治上の問題ですよ。陛下」
「外交上って、政略結婚とか?そういうこと?」
「まあそんな感じです」

 コンラッドはそれから、ぽつぽつと昔を語ってくれた。
「眞魔国の王族で、しかも眞王そっくりの容姿のものを娶ろうとするものは、今でも国内外に多くいる筈です。
 男女を問わず。特に外交的に、眞魔国を従属させようとしているものには」
だから、幼いときから縁談はひっきりなしにあったという。
「もちろん、あいつが本気で好きになった女性もいましたよ」
「え?」

 以外だった。あまり想像してなかった答えだ。

「でも、たとえヴォルフラムがどんなに本気でも、あいつの容姿と、国と、時代…が許しませんでした」
少しだけあいている窓から、風が入ってくる。 カーテンがふわりと舞った。
「だからユーリ、あなたで本当に良かった…」
「…うん、おれも」

 それきり、言葉は出てこなかった。
コンラッドや、グウェンや、ツェリ様の思いを想像すると、旨が熱くなる。
おれが生きてきた、日本とは違う世界。 いや、日本にも同じように、自分気持ちのままに誰かと愛し合う
事が、許されない人たちがいるのかも知れないけど…
 もしもおれが魔王でなかったら、もしもあの時、あの席でヴォルフに求婚していなければ…今頃はどうなって
いたんだろう?

 出会えてよかった。 心からそう思った。







    おわりー。
 なんか中途半端ですみません ;